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1話「神様は7日ほど休みたい。」

作者:水瀬ヨウ

 今からざっと千五百年前、この国のあちこちを得体の知れない大怪火が襲いました。

 突然燃え出し、消すことすらかなわない。国中がこの災禍に惑っていました。そんな最中に一匹の美しい白狼がどこからともなく現れ、駆ける早さで大風を起こし、大火をたちまち消したのです。

 人々は大いに喜び、その白狼を速真神(ハヤマガミ)と呼んで各々が白狼が走り去った方角を向き、感謝を口にして穀物などを捧げたそうです。これが現代に伝わるお白様伝承です。


 カタカタ。


 そののちに当時の権力者の使いであるカナツチとその付き人が上からの命で白狼が駆け去ったという山の方へと向かい、しばらく山道を登ると突然藪が開け、ぽっかりと空いた空間に大きすぎるほどの岩があったのです。

 カナツチはその場所と岩をしばらく調べたのち、その場所が不自然に開けていること、岩が並ではない硬さを持っていてかつ、金属のような部分があることからここが白狼の聖なる場所で間違いないと言い、その岩を『マガミカネ』、白狼を『大禍御選主(オオカミスグリノ)逸矢真神(ハヤマガミ)』(大禍御撰主逸矢眞神)という名でそれぞれ呼び、その地を『大眞上(おおまがみ)の塚』と呼びました。これが現在の御久上(おくがみ)神社となりました。


 カタカタ。


「……と、やれやれ、俺は神だぞ、何が悲しくて自分の祀られてる神社のパンフ作らねぇといけねぇんだよ」

 俺はそのオオカミ何とかとかいう長い名前の白狼の本人?だ。訳あって今は尻尾も隠して人間に近い姿で過ごしている。


「……築年数はと……んー……確かこの前気まぐれで能力(チカラ)使って建て直したんだったっけな……つっても三十年は経ってんのか。外見は補修こそしても千数百年前から見た目は変わらずボロいからな……神社でもなけりゃもっとオシャレにしたいモンだぜ」


 なぜ俺が人間になってまで自分の神社のパンフなんぞを作っているかというと素直に言うと金欠と人手不足だ。それとただ単に眠れなくて暇つぶしも兼ねている。確か奴に頼んで掛け布団を変えてもらったのはもう二か月近く前の事であって決して最近のことではないはずなんだが未だに身体が慣れやしないのか中々寝付けない。悪いときは二日三日眠れない日が続く。だからパンフでも作って暇潰しをしているのである。

「どうせこんなもの作っても来たやつにしか渡せねぇんだから意味ねぇよ……」


 そして今日も案の定眠れないまま朝になった、そのせいで奴がふすまを開けて小さな声で話し掛けようとしてきた時に布団の上に座ってぼうっとしていた。

(きゅう)、朝ご飯……できたよ」

 久、それが奴から貰った名前だ。

 

「ん……(ゆう)、おはようさん」

「また眠れなかったの?」

「ん、まぁな……暇潰しにパンフレット作ってた、朝食だろ、行くよ」

 こいつがその奴、奏田 悠(かなた ゆう)、この神社の唯一の人間の住人でここの管理をしている。

 そこら辺で捨てられていたのを適当に拾ってきた。

 誘拐だのそういった面倒な法律はいい感じにパスした、神なら何でもできるんだよ、まぁ詳しそうな人間にいい感じに丸投げしたんだがな。


 眠たくもない目をこすりながらヨタヨタと立ち上がってリビングへと向かう。悠はその間、何かあったのかなどと心配そうに聞いてくる。別に何もない、多分身体と布団が嫌い合っているだけだ。


「「いただきます」」

 半熟に焼かれた目玉焼きの黄身を崩す。今日もいい焼き加減だ。

「ん、うめぇ」

「ゆっくり食べてね」

「こんなうまいものゆっくり食えねえよ、あぁ悠、ピーナッツバターくれ」

「はいどうぞ、ところで久、前から気になってたんだけど」

「おう、何だ」

「久って長く生きている神様なのにパソコンも使えるし今もリビングでトーストをかじっているって面白いね」

「ん……千五百年近くも酒と米ばっかり供えられて飽きねぇ方がおかしいっての、依存症か中毒になるわ、離れに家建ててリビング作ったのもその理論だよ、ずっと畳の部屋で寝てたら固い床にも興味も湧くぜ」

 そう言い返しながらピーナッツバターを塗ったトーストをかじる。このピーナッツバターってヤツは人類の食糧史において二番目くらいには偉大な発明だと思う。あぁ、一位はコーンフレークだ。異論は認めない。


「でも眠れてないよね……久、無理しないでね」

「ん……まぁな、せいぜい気を付けるさ」

「素直じゃないなぁ」

「うるせぇ、冷めちまうからさっさと食わせろ」

「ゆっくり食べなって、ほらすぐ咳き込むんだから」


ーーーーーーーーーー


 神社っていうものはかなり退屈でやろうと思えば一日中寝ていられる。そもそもご神体が働くことなんてそれこそ災害くらいのものだ。

「ふわぁ……悠、何かやることないか、暇だ」

「んーと、久にできることなら……境内の掃除くらいかな」

「また掃除か……毎日葉っぱ掃くだけなんて飽きるぜ」

「わがまま言わないでよ、他の事やらせたら物壊しちゃうでしょ」

「人間の道具が脆いんだよ、仕方ねぇな、行ってくるよ」


 全くよ、真神を何だと思ってるんだよ、そこら辺の番犬じゃねぇんだぞ、神話にも書かれるくらいには高名なオオカミの神様だぞ。

 ぶつくさ言いながら境内を乱暴に掃く、人が来ないのに掃く意味あるのか。

「……と言ってたら来たな」

「真神はんお久しぶりどすなぁ」

 近くにある清風稲荷の住人、イナリ。いい歳してるくせに若い姿に化けている白狐だ。

「何の用だイナリ、うちには油揚げはねぇぞ」

「あら、そないな事言わんとこんなべっぴんさんが来はったんや、お茶の一つくらいスッと出すこととかできはらへんの」

「お前のどこがべっぴんだよ化け狐が、稲荷神社の主は狼なんかとは仲良くしないって知ってんだよ、その面に水掛けられて厚化粧落とされる前に帰れ」

「……ふふ、あんさんはほんにうちを歓迎するのが上手いんやから」

「お褒めにあずかり光栄だぜ、それで何の用だよ、喧嘩売るためだけじゃねぇだろ」


 俺が若干苛立ちながらそう言うと奴は胸元から一枚の便箋を取り出して俺に差し出す。


「……恋文か、どうせ胸元で人肌に暖めてくれるなら燗酒がいいんだがな」

「うちがあんさんを()ってしまう前に読んどいた方がええんとちゃうか?」


 やれやれ、冗談も通じないのか、そうがっかりしながら俺は言われるがままに便箋を開いて読みはじめる。


ーーーーーーーーーー

御久上神社 大禍御選主逸矢真神様へ

お久しぶりです、清風稲荷の(こん)と申します。いつもうちのイナリ様がお世話になっております。

急なお話で申し訳ないのですが最近隣町の長橋(ながはし)神社付近の様子がおかしいようなのです。何かご存知ないでしょうか?

確認に行けるなら私が行きたいのですが社務で手が離せないのでもしよろしければ確認に行ってもらえると幸いです。


追伸

もしもイナリ様が向こうの神様と喧嘩してしまったら止めてくださいね

ーーーーーーーーーー


「……」

「そういうことや、真神はん、うちと一緒に長橋に向かっておくれやす♪」

「神様をアゴで使ってんじゃねぇよ!」


 ……勢いそのままに便箋をイナリの足元に向かって叩きつけた。

 しかし俺の怒りも無視してイナリは「良かったわぁ、こんな時に暇な神様が近くにおって」などとほざいている。

「全くお前らは……いつもいつも手土産もなしにこんな面倒事を持ち込んで人の心ってものがねぇのかよ」

「そう言われてもうちはキツネや」

「……そうだったな」

 それに俺も狼の類いだった。

「チクショウ、今度何か持ってこさせるからな、おーい、悠」

「ん、久、呼んだ?」

「散歩行こうぜ、掃除なんて中止だ、そこのバアさんも同伴だけどな」

「えー、久はいつも急だから困るな」

「あんさんこそ人の心がないんとちゃう?さすがにうちも傷ついたわぁ」


 オオカ何とかマガミこと俺、神様として生きて千五百年と十数年目、未だに威厳というものが分からない。

どうも、1話作者&原案担当の水瀬ヨウです、なんと新連載です。今いくつか別で連載中だろとか言わないで。

しかも私にとっては久々のリレー小説です。

この物語は元々は私一人で連載しようとしていたんですけど色んな事情と友人であるみいちよ氏(Twitter:c0_sy4c4e_oh)にも書かせたら面白いんじゃなかろうかという悪魔的ひらめきによってリレー小説となりました。

ちなみに設定資料というものを久々にまともに書きました。いつもは基本脳内で全て整理してあるので。

あまりにも設定資料が適当すぎてみいちよ氏に怒られないか心配ではありますがとりあえずはこれでバトンを渡す事とします。


なお最後に一言。

この話の長さがどれくらいになるか私も分からないのでみいちよさん頑張ってください。

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