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2 ブンブン振っときゃなんとかなる

 臭ってきそうな、毛だらけの山賊コスプレ集団に囲まれている。

 本当にイヤイヤだがこっちも剣を構え応戦する。


「うりゃゃー」


 ハゲAが叫び声を上げ此方に迫ってくる。


 身が竦み、剣を持つ手に力が入る。

 しかし、ヒビっていても始まらない。


 よしっ!見えると呟き、振り下ろされた剣を弾き、手か足を狙い、戦闘不能に持っていく算段だった。


「よしっ!見える」剣が振り下ろされる。

 ここまでは良かった

 しかし、振り下ろされた剣をはじ…………相手の剣が折れるとかは聞いてない。

 色々空気呼んで欲しい……ってか手入れしようよ。


「ヤロウっっ!」


 イヤイヤ俺は悪くない。


 次こそはと、同じ様にはじ…………何これ?

 お父さん、更にパニックだよ。


 今持っている剣を確認する、日本ではまず見ないゲームの中の剣って感じだ。

 思っていたより艶がなく、刀身がくすんでいる様に見える。

 これ伝説的な剣っ!とは思わないが色々おかしい。

 嫌な空気が流れている。これは、お客様からのクレーム処理に失敗した時のどんよりとした雰囲気だ。

 この空気苦手なんだよなー。


「手前、何やりやがったっ!」

 一際でかいハゲが喚く。


 しかしそのくだりは前回やった。

 何でもそうだが、同じくだりをやると場が白ける、覚えておいて欲しい。


「お前ら、二人でいけっ!」

 でかいハゲが促すが眉無しと耳デカは怖じ気付いたのか来る気配がない。

 これはチャンスだと、スッと体育で習った剣道の構えをとる。


「はあぁぁぁーっ!!チェェー!」


 剣道の試合でよく見る雄叫びを上げながら決して俺からは攻めない。


 ゆらゆらと剣先を揺らしながらコスプレ山賊を牽制する。

 この作った時間を、誰か有効に使って欲しい。

 倒れている誰かが復活しないか、援軍は来ないかと一生懸命声あげた。


「チェェーイ、んんっ、ゴホッ」


 流石にこれ以上は無理だ喉が限界だ。


 とりあえず、眉無しと耳デカはなんとかなった。後は、親玉のでかいハゲだけだ。


 5対1から1対1なら、なんとかなる気がするだろう。


 よしっ!このハゲはちゃんと戦う、娘よお父さんの勇姿、見ておきなさい。


 これでもさっき、この娘さんから勇者様と言われたんだ、きっと何かの能力があるに違いない。


「よしっ!かかってこいっ!」


 ハゲの親分に対峙する。しかし、親分の得物が馬鹿デカイ斧だとは聞いていない。

 流石にそれは反則だろうと思うが、相手は待ってくれない。


「グチャグチャにしてやるぜっ!」


 迫ってくるのはいいが、どうもさっきから違和感が凄い。

 全体的に山賊達のスピードが遅いのだ。

 だって、親分が声を上げてから、こんなにも無駄な事を考えられる。

 てか、まだイケるし。ちょっと笑えてきた。


 これチートじゃね。頭によぎるが油断はしない。


 とりあえず、さっきの剣の様に受け止める事はできない、重量が違い過ぎる。

 この速さなら避けて足に一撃で大丈夫だろう。


 今回のプランは親分の斧を躱し、利き足であろう右足を斬りつける。これでいこう。

 おそらく、何も習っていない剣技では、1回では致命傷を与える事は無理だろうが、2回、3回と傷つければ多少は効いてくるだろう。


 俺はそう考え、うおぉぉぉーときた親分が、振る斧の軌道を確認し、左に躱し、右足に向けて剣を振り落とした。



 ◇



 予想以上というか予想の斜め上に斬れた、めっちゃ斬れた。

 だって、親分足無いんだもん。

 流石にこれは無理、平和ボケしてる日本人には相当無理。吐くっ!これは絶対吐く。


 酸っぱい物をひたすら飲み込み、残りの山賊に対峙する。


 しかし、足元には片足を失って、止めどなく血を撒き散らしてる親分、剣をパッキリ折られた山賊×2、戦意喪失の山賊×2、顔面に蹴りを喰らって気絶してる山賊しかいなかった。


 まだ危機を脱していない…………ことはなかった。とりあえず1回吐いとこ!ォェェェ……



 ◇



 戦闘は終わった。多分…………終わったのはいいが、今からどうすればいいのかも問題だ。


 とりあえず第一目標の娘の安全は当面確保した。

 後はこの子か……勇者様って事はこの子が俺達呼んだのか?

 この状況に同情はするけど、流石にちょっと許せないぞ。


 まあ現状把握しようか。


「えーと…………お嬢さん大丈夫ですか?」


 とりあえず社交辞令からだな。これ社会人の基本ね。


「ああっ!!お父様……………」

 娘さんは去っていった……あれぇー?


 ああ、でもお父様って言ってたから親父さんが危ないんだろう。


 しかし、ここの残状がヤバイな。

 血の海地獄、本当に気持ち悪い。


 娘が気絶してるのが唯一良かった事だな。



 ◇



 さっきの娘さんショックを乗り切った俺は、このままじゃ怖いと山賊一家を拘束した。

 その時、馬車の荷車からロープを拝借したのは必要な事で泥棒ではない。


 馬車にはロープだけじゃなく、さっきの娘さんもいた。傍に父親らしき人が倒れている。

 意識はギリギリありそうだが、もうそろそろ駄目だろうと素人にもわかる。

 彼の身体の下は真っ赤で濃い血の匂いがしたからだ。


「ごめんな。親父さんが大変なのはわかるが先に何か縛る物ないかな?あいつ等だけでも拘束しておきたいんだ」

 自分の娘と同じ位の子供に酷な事だとは思ったが、俺は自分の娘が1番大事だ。

 あんな山賊達を野放しには出来ない。


 彼女は気丈にもロープを用意してくれた、後は俺の仕事でいいだろう。



 とりあえず山賊一家は1箇所に固め荷物用のロープで縛っておいた。

 結構な力で縛り多少血が滲んでいたから解ける事は無いだろう。


 山賊を拘束し、一息つくと娘を馬車の脇に移動させる。

 ここなら意識が戻っても、あの酷い状況を見る事は無い。


 結局、親分はあのまま出血多量でお亡くなりになった。そりゃ片足無くなってるんだから処置しないと死ぬわな。

 仕方がなかったとはいえ結構堪えた。


 こっからが最悪だった。


 俺はあの子の事が気になり馬車に足を向ける。

 身内が目の前で亡くなるというのは心に来るものがあるからせめて一緒に居てやろうと思ったのだ。

 馬車に近付くと先程と状況は変わらず親父さんは死の淵にいると思われた。

 娘さんは俺の姿を見ると

「勇者様っ、お父様、お父様を助けては頂けませんか」と懇願する。


 こっちは平和ボケした日本人だ。

 医者でもない俺が出来る事はない。


「すまないが、俺には何もできない、君が言う勇者なんかじゃないんだ」

「でも、わたくしの助けに応えてくれました。お願いですっ。わたくし何でも致します。どうか、どうか、お父様を……………」


 そんな事言われても、俺には手の施しようがない………

 仕方なく親父さんに近付き、傷の状態だけでも確認する。


 あぁ……腹刺されたのか……自分で必死に圧迫止血してるから、まだ生きてるだけで、こんなの救急病院行かないと無理だろ。


 後ろでは女の子が泣いてる、そりゃそうだ。


 俺に回復チートがあるなら発現しろよ、今でしょっ!


 はぁーー駄目元で知ってるやつ片っ端からいくか。


「えぇーーヒール!ヒーリング!リカバー!リカバリー!ライフ!キュア!えーとあと何かあったかな……あっファーストエイド!」


 どうこれ、結構な数いったでしょ。


 親父さんを見ても治ってない、そりゃそうだよな、そんな都合よくいくかよ。


「あぁーもう、こんなんで治るわけねーだろ。もういいよ、痛いの痛いの飛んでいけーって昔真希によくやった……………………」


 おいっ!誰だよこの世界作ったやつ、お前この世界舐めてるぞ。


 この日、俺の回復魔法は痛いの痛いの飛んでいけーに決定した。


 今日を終れば早々使う事もないだろうな……こんな恥ずかしい魔法。



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