第2話
どうやら、お隣さんーー月岡さんに拐われると思ったのは僕の勘違いだったらしい。
月岡さんの家に母さんが頭を下げに行った事や僕が警察の人に注意をされたりと色々あった。
今日は本当にツイてない。
こう云う時にはネットででも、この事を書いとかなきゃな。
ヤクザに襲われたと思ったら、勘違いだった件とか書いたら、少しは炎上とかするだろうか?
そんな事を書こうとしているとドアを誰かがノックする。
母さんだろうからシカトして置こう。
どうせ、お隣さんと揉め事があった事に対して文句でも言いに来たに違いない。
「あー。ちょっと良いかな?」
その声に僕はビクリと肩を震わせた。
え?え?え?
なんで、月岡さんが来るの?
まさか、僕が勘違いした事に対して何か言いに来たのかな?
それとも、落とし前って奴をつけに来たのか?
どうしよう。どちらにしろ、顔を合わせにくいのだが・・・。
なんで、母さんは月岡さんを家に上げたんだ?
まさか、脅されたとか?
・・・どうしよう?
ネットで助けを呼んだ方が良いんだろうか?
とりあえず、出なきゃ何をされるか解らない。
僕は恐る恐る扉を開け、月岡さんと対峙する。
月岡さんはジッと僕の顔を見詰めるとおもむろに右拳を差し出して来る。
え?なんだろう?
一瞬、理解出来なかったが、月岡さんが拳を開いた手のひらを見て、僕は納得する。
そこには僕が落とした家の鍵があった。
「君のお母さんに渡しても良かったんだが、君と話しがしたくてね」
「あの、話しって?」
「大した事ではないんだが、最近、滅多に顔を合わせないんで、お母さんが心配してたみたいだが?」
まさかのお節介か・・・聞きたくもない事だな。
「月岡さんには関係ありません」
「そうでもないさ。君は世間を知らないーーでなければ、ここまで大事にはならなかっただろう」
確かにそうだが、それがなんだって言うんだ?
「言いたい事が解りません」
「たまにで良いから、お母さんと話す事だ。いつまでも傍で見守ってくれるとは限らない。
どうしても話せないなら、ここに相談してみると良い」
そう言って月岡さんはなんらかのカードを鍵と一緒に僕に渡す。
そのカードがなんなのかを確認すると相談センターと書かれていた。
どうやら、月岡さんはとんでもないくらいにお節介なのかも知れない。
けれど、ここまで僕を気に掛けてくれる人もいなかったのは確かだ。
一応、お礼だけはして置こう。
「・・・どうも」
僕はそれだけ言うと部屋の扉を閉めた。
お節介な人だが、本当にヤクザなんだろうか?
役場とかの関係者のような気がして来た。
本当に解らない人だな、月岡さんは・・・。
僕はそう思いながら机の上にカードと鍵を置くとパソコンで今日の出来事を書く。
ただ、この話しは「ウソ乙」とか「作り話でしょ?」などと信用がほとんどされなかった。
まあ、反応があるだけマシだろう。
ネット内では少しだけ話題になりそうだったが、結局、すぐに別の話題になった。
こう言うの事実は小説より奇なりだっけ?
折角だし、ネットの話題にする為にも、お隣の月岡さんとお喋りでもして見るかな?
そんな事を考えつつ、僕はいつものようにネットにのめり込んで行くのだった。
ーーー
ーー
ー
「・・・あの、どうでしたか?」
拓己の母親にそう尋ねられ、修次はオブラートに包んで答える事にした。
「心を開くのには時間が掛かるでしょうが、今のところは大丈夫そうですよ」
「そうですか・・・」
拓己の母親は修次の言葉に少しだけホッとする。
「念の為に忠告して置きますが、今の彼から何かを取り上げるのは逆効果です」
「では、どうしたら?」
「少しずつ、対話して行ってみては如何ですか?
ドア越しにでも彼の興味を誘う言葉を掛けて見るとか、やりようは幾らでもありますよ。
それにネットではなく、実際に触れて見る事も重要です」
「あの、それでもしも、逆効果になってしまったら?」
「その時は先程、お渡しした相談センターに悩みを相談して見て下さい。
自分の案はあくまでも一人の親としての提案ですからね」
修次はそれだけ告げると玄関で靴を履く。
「それではまた何かあれば」
「息子に代わり、お礼させて頂きます。
無くした鍵を探して頂きまして、ありがとうございます。
それと先日は大変ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
「此方としてはお隣同士ですし、仲良く出来れば、幸いです。
気兼ねなく、相談しに来て下さい」
そう言うと修次は一礼して杉下宅を後にするのであった。