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九十五話 兄弟喧嘩②

爆心地から数キロ離れた温泉街の東側付近。大きな爆風で屋根の瓦が剝され、その一部の破片がかなりの飛距離を弾丸の如く走り、あちこちの家屋の壁や窓を突き破り修復不能な痕になる。

しかし、それはまだマシな現状である。

中心地に近づくにつれ多くの建物が原形を留めずに倒壊していた。

そんな崩れた家屋が並ぶ一つに俺はぶっ飛ばされていた。

どれくらいの間、意識を失っていたかは分からない。

直近の記憶では兄貴に背後を取られ、黒炎の業火を放たれたという所まで。

その際に一瞬、死を覚悟したものの身体の五感があり、手足の感覚が隅々まであることからどうにか五体満足で生き長らえたみたいだ。

しかし、上半身を消し飛ばさんとして放たれたあの魔法に俺は直撃した。

一切の魔法防御や何の策も講じる暇がなかった。

普通の人間……いや、どんな生命体であろうともあれを生身で受けて生き延びる者はいない。

それこそ正真正銘の化物。

だが、俺がこうして生き延びたのは理由がある。

先程まで着ていた魔法礼装が右半分のみを残し、跡形もなく繊維が消し飛んだという事実から踏まえ、どうやら俺が受けた魔法を礼装が防いでくれたみたいだった。

つい最近買ったばかりでもう壊してしまったがお陰様で命拾いした。

いやぁ本当に心から感謝を。と、言いたい所だが俺が不利な状況に変わりない。

兄貴の実力は俺の予想を遥か上へと至っている。

俺も出し惜しみなく戦わなければこの戦いには勝てない。


「お前の力、使うぞ」


倒壊した家屋の隙間で眠っていた俺は近くに落ちていた魔剣を手に取る。


『今日は僕も本気で力を貸すよ。類を見ないご馳走と言いたいけど、その余裕はないし』


ご馳走って……まぁいい。

やる気を出してくれるなら文句はない。


「第二ラウンドといくか」


爆心地より少し離れた何処かの旅館の屋根上から一戦を眺めていた魔王と白鬼。

今宵の戦いの主役(メイン)はあくまでもあの二人。

脇役(モブ)に徹すると決めた魔王はあれに邪魔が入らないように白鬼を足止めするつもりだったが、お互いに戦意もなければ戦う理由もない。

どちらかが邪魔に入ろうと動かない限り、休戦して観戦に努めるという暗黙の了解を得た彼らは無情にも先の爆発に至るまでの流れを眺めていた。


「怨恨の(スルト)の応用か。最小にしてあの威力は脅威だな」


冷静沈着に分析を行うものの、内心では先の爆発に巻き込まれた悠馬の安否に魔力感知で躍起になって探す。

一面に広がるは抉られた地面と燃え広がる倒壊した家屋の残骸。

見覚えのある光景が一部となって甦る。


「やはり厳しいか……」


今の勇者では瀬戸雄二を止めるには至らない。

それは予想していたことではあるが、現実はかなり遥か上をいっていた。

奴があの日、反転(フォールアウト)して姿を消して以来からつい最近に至るまでの長い時の中でどれ程力を付けたのかは不明。

実力の度合いで言えば、聖剣を有した際の勇者とほぼ同格。

故にこの戦いにおいて勝利の鍵を握るはあの馬鹿で間違いなのだが……奴はプリンセスが民衆を隔離した別空間にいる。

無論、自力で脱出は可能なのだが来たくない理由があるのだろう。

今から無理矢理でも首根っこを掴んで勇者の前に放り出したい気分だ。しかし、それは叶わない。

あの隔離魔法は外部からの干渉を一切受けないが、内部からの抜け出すには容易。故に俺が戻って連れ出すのは不可能だということ。


「プリンセスの魔法を上手い具合に利用されたか」


近くに居ても居なくても奴に頭を悩まされる。

だが、それはさておきだ。

リスフェルト自身がこのまま動かないとは限らない。

あの店主の女といい何かしらの策を講じている筈。

それ次第で俺も出方を考えなければならないが、今は見守るほかない。


「目覚めたか」


爆心地より東側。その辺りから急激に膨れ上がった魔力が高速で移動しているのを感知する。

姿や形は視界に映らないが魔力で本人だと特定するも少し違和感を覚える。

勇者の魔力だけではない。これは恐らく奴の中にいる精霊の力も合わさっている。

人と精霊が交わり、精霊の持つ力の本流を一時的に顕現させる力。

それを纏って現れた男が再び戦場へと立つ。

負けを恐れない威風堂々した振舞いに魔王はある言葉を心から言い渡す。

かつて自分を倒し、世界を救った男の姿。

何度傷付き、倒れ、挫けようともあの男は立ち上がる。

それを勇気ある者と掛けるなら俺は改めてこう称賛しよう。

不屈の勇者。

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