九十三話
消えた?
先程、一瞬ではあるが店の少し離れたベンチに座っていた二人の前に誰か現れたのが見えた。
もう一人の従業員の子と交代して、今日の仕事を終えた私は悠馬君とユリナ王女のもとに行こうとしていた。しかし、流れる人の影から姿を現したその人が見えるも他の人の背後に隠れてしまい、もう一度目にしようとした時には二人はベンチから消えていた。
そうたったその刹那の瞬間、私は彼らを視界から逃したのだ。
一先ず、そこに向かうもやはり二人はいない。
先程まで人が避けていたかのように不自然と空いた空間に私は疑念を抱かざるを得ない。
どういうこと?
「おや、美麗ちゃんではないか?」
幸の薄そうな顔で私の本当の真名を呼んだ人物に目を向ける。
いつもとは違って祭りの格好をしたこの街の領主であるカタギリさんが内輪で仰ぎながら見物していた。
「カタギリさん、こんばんわ。見回りですか?」
「そうですね。問題はないと思いますが一応……」
「あの、悠馬君を見ませんでしたか?」
「はるま……君?それって……」
「あぁ、私は彼と前世での知り合いでして。昼間に会っていたのですよ」
「お~それはまた機運ですね。でしたら、ユリナ姫殿下の事も……」
「はい。大体の事情は存じています」
なるほど、それなら話は早いと納得してくれたカタギリさんはあまり大きな声ではなく、この騒ぎでギリギリ私に届く声で話した。
「おそらくですが、お二人がいないという事は始まったのでしょう」
何がとは聞き返さなかった。
今後起こるだろう、この街での出来事を事前に聞いていた話を併合させる。
「悪魔が仕掛けて……」
「はい。先程、提灯に仕込んだユリナ様の魔法陣が発動し、この辺り一帯は隔離空間となりました。この際に即し、私は街の外へ誰一人とも行かせないように命を承っております」
「だから、見回りを?」
「この事実を民衆は知りません。出来るだけ、事後処理をし易いように務めますが、上手くいく保障はありません。これも全て悠馬殿に掛かっているとしか……」
それを聞いた私は無礼であると分かっていながらも、何も言わずに通りを駆けていた。
自分も彼らの戦いに参加する意志は示していたものの、いざ始まると蚊帳の外に置かれてしまった。
そんな焦りが私を搔き立てると兎に角、行動に移していた。
どうすればこの隔離された空間から出て、悠馬君と雄二がいるであろう元の空間に戻れるかは分からない。しかし、先程カタギリさんが行っていた街の外に人を出させないという言葉。
あれがもしも外に出るための鍵だとすれば向かう先はただ一つ。
街と外を繋ぐあの関所。
そこを越えれば二人がいる場所へと行けるかもしれない。その微かな希望を胸に全力で駆ける。
「あれ、ジグルドのやつどこいった?」
「おいおい、あのゴリラ……じゃなかった、あの人いないと山車が担げなくなるぞ」
「誰かぁ!手の空いているやつは前の方を持ってくれ!」
和楽器の鳴り響く音でしっかりは聞こえないが山車に何かしらのトラブルが発生したらしい。
山車とは反対側にいた私は遠目で事態を把握するも、今は別の方に向かわないといけないで気にも留めずそのまま駆ける。
そんな彼女を止まった山車の上からリスフェルトは目撃する。
「始まったみたいだね」
魔法が発動したと街の誰もが気付かないくらい精密な魔法陣が覆われている。
外からの干渉は一切受けないが、内から外に出るのは可能である欠点はある。その補填として、警備員を配置して民衆には穏便に済ませたいというのがお姫様の狙いなのだろう。
しかし、この措置が絶対に安全である保障はない。
怨恨炎で街が消滅すれば、結果を張る為の点と点を繋ぐ魔法鏡面が維持出来なくなり、この別空間から永久に隔離される恐れもある。
この戦い、あれを放たれてしまえば敗北は確定。
「そうなる前に……止めないとね」
私の能力の中には先の未来を見通す千里眼がある。
そこに映るのはあくまでも予想であり、現実に起こり得る可能性は半分。
半分は予想通りで、半分は違う未来を迎える。
見える光景は曖昧で且つ、ネタバレを嫌う私には鬱陶しい呪いでしかないのだが……その反面、未来がどうなるは本当に分からないという意味で心を搔き立てられる。
そして、現実私の目に映る光景は悲劇か喜劇かと問われれば前者。
最悪。それ以上の表現をしようがない程の光景が瞳の奥に広がる。




