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九十一話

山車(ダシ)を担ぐ上で精霊王の威を借りたいというジグルドの申し出に快く受け入れた俺は嫌そうな顔でこちらを見るリスフェルトの意を無視して放り出した。

面倒な精霊から解放され、やっと落ち着いた足取りで(セリン)と共に祭りを回っていたが、うじゃうじゃと行き交う人気に充てられた俺は街と外の入り口を担う関所の辺りにいた。この辺りは人が少ない。

しかし、何か重装備を付けた警備員らしき者達が陰に配置されている。

あれで守備を勤めているつもりだろうか。あれでは紙切れまでに等しい防御と言よう。

それに人間達はいつ敵の襲来を受けるのかすら知らず、無防備なまでに祭りを楽しんでいる光景には阿保なのではないかと疑ってしまうことさえ覚える。

これではまるで襲って来て下さいと言っているようなものだ。

悪魔が活発化する夜を迎え、数時間が経とうとしていた時……


「この気配……」


妙な魔力を感じた。

不意に突然、そこに現れた俺と同系等の魔力を持つ者。

それ即ち、悪魔に他ならない。


「やはりこのタイミングか」


思ったよりも速かった。

いや、こちらがタイミングを早めさせたといっても過言ではない。

この機を逃せば、王女殺害の成功は低くなると踏んで早めに仕掛けてきた。

そして、あの男がいる地点にプリンセスと勇者がいるのだろう。


「最悪なタイミングか?これは……」


まだ何も騒ぎが起きていない。

民衆は自分らが危機に陥っている事に何も気付かずに祭りを楽しんでいる。

事と次第によっては手遅れになりかねない。

人間の命を沢山奪った俺が思うのもなんだが、これも勇者と結んだ契約の範疇。

早めの対処へと出るべきか。


「こんばんわ、魔王様」


背後からそう挨拶を投げられ、振り返ると昨晩とは違って漆黒のドレスではなく、多少フリルを付けたりとアレンジを加えた漆黒の浴衣を纏ったザラがりんご飴なる砂糖菓子を持っていた。

完全に祭りを堪能していると思えるくらい溶け込んでいた格好。


「お前達も祭に参加しに来たのか?」

「参加という点では合っていますね。ですが、私達にとってのお祭なるものは別の意味ですけど」

「……俺を止めに来たのか?」

「いえいえ、私は魔王様の戒言を狙って来た訳じゃありません。純粋に今宵のお祭を楽しみに来ました。差し当たっては、一緒に静観しませんか?」


要するに手は出すな、ということか。


「お前はそれでいいのか?」

「はい。元々、私個人にそこまでの戦闘力はないのはご存知でしょう」

「まぁな。この場でお前を捻り潰すのは容易だ」

「それは私も困りますので、私は一切手出ししません。別に魔王様は行っても構いませんよ」


そう不敵な笑みを見せながらりんご飴をぺろりとと舐める。

それを美味しそうに見詰めるセリンにストックの二本目を差し出す。

セリンはこちらを仰ぎ見ると俺は「程々にな」と注意を促して、許可する。

別段、あのりんご飴に何か仕掛けをしている訳でもない。それに俺はザラの性格をよく知っている。

こいつは勝てない戦は絶対にしない主義。だから、この場で俺の反感を買うことは絶対にしない。


「お前はどうしてここにいる?」

「どうしてでしょう……私は兄と違って傍観主義ですから、この戦いに注目したいだけなのかもしれません」

「お前だけではなく、兄も気になるだろうな」

「それはそうでしょう。何せ今から起こる事は兄上が一番楽しみにしている光景が見れるかもしれませんから」


ザビーダか。確かに奴ならこの一戦を是が非でも観戦したいだろう。

あるいはその両方を敵に回してでも参戦する。


「それを予感していたのか分からないですが、案の定兄上は遥か遠方の獣王国に遠ざけられましたし」


それは不幸中の幸いだったな。


「ですので、私は何もしません。今宵の主役は沢山いますし」

「俺もその内の一人か?」

「どうでしょう、私個人の意見では違うと思います。私は大体の事を知っているのでかなり面白くなると踏んでいますが……あっ、でもネタバレはしませんよ」


ザラの指摘通り、俺はあの中で言えば主役(メイン)ではなくただの脇役(モブ)かもしれんな。

だが、脇役(モブ)脇役(モブ)でもそれなりの役目はある。


「悪いが俺は参加する」

「そうですか、むしろそうしてくれた方が助かりますが……彼の反感を買ってしまうかもしれません」

「……奴を止めろと?」

「端的に言えばそうです。今宵の主役(メイン)は彼ではない。脇役(モブ)脇役(モブ)同士でどうぞ」


酷い言われようだが、実際はその通りになるだろう。

そして、そうするのがこちらとしても最善であるとされる。


「では、(セリン)を頼む」

「いってらっしゃいませ……親愛なる魔王様」


深く礼を示し、魔王との間に結んだ契約を受けたザラは彼に聞こえぬ声で呟く。

ザラとの会話で多少時間は経ったものの、未だに何も始まってはいない。

今すぐにでも起きておかしくないこの一触即発の事態に周囲の民衆も知らずただ楽しい時を過ごす。

この異様な光景に違和感を覚えているとある仕掛けに気付く。

いつ仕掛けたのか分からない魔法がある者達を対象に街全体を覆っていた。


「なるほど、流石はプリンセスだ」


その魔法と思惑を見破った俺はその仕掛けを解除し、街の中から姿を消した。


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