表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/137

九十話 祭

祭り。この世界における経験した祭りは色々ある。

凱旋パレードや国家生誕祭といった国を挙げての大きなイベントはいくつか経験したことがあった。

そのどれもが俺の知らない魔法を駆使したパフォーマンスがあったりと、新鮮で真新しい光景が多々あった。祭りは見るだけではなく、自分から率先して参加して楽しむもの。

その隣に笑い合える友人や一緒に楽しむことが出来る人がいればより一層楽しむことが出来る。

そんな記憶を基に俺はアドバイスされた通り、無理矢理ユリナを連れて外に出て来たのはいいものの、ここ数十分間ずっと目を合わせず黙って街の風景を見てばかりいらっしゃった。


「あのぉ、何か体調が優れないのでしょうか……」


腰を低くして、なるべく反感を買わずに話掛ける。

しかし、腰を低くして話掛けた事が気に入らなかったのか、珍しくムッとした顔を見せる。

おぉ新鮮だ。

自分でも思わず感心しているとユリナはビッと指で何かを示す。


「え、あれ食べたいの?」

「そうです。買ってください」


ユリナの示したもの、それは祭りと言えば定番の商品。

子供達が好んでフワフワとした砂糖を挙って食べるアレ。

そう、わたあめ。

一国の王女とあろう者が、もう大人と呼べる年でもあろう彼女が庶民の味を堪能したいという。

無論、買ってあげますとも。

こんなので機嫌が治る一貫となるなら、喜んでお買い上げます。


「はい」


そう言って割り箸に巻かれたフワフワの砂糖菓子を手渡す。少し頬を赤くして「ありがとうございます」と礼を述べると可愛らしく食べる。

俺の視線が気になったのか、反対側を向いて黙々とわたがしを口にする。

普段は絶対に人前では見せない素直な一面に俺は二度心を打たれた。

少しは許してくれただろうか。

昼間、俺はしばらくあのまま美麗さんのお店で時間を潰していた。

新たな美食を求めた聖剣の横暴に魔王とセリンは付き合わされ、鯛焼きを全て食べ終えた三人はまた何処かに行ってしまった。その後は、美麗さんとこの世界であった出来事を二人で話し合っていた。それ以外に関わる話は全て兄貴が関連する。お互いに今はその話題を口にしないように配慮してのことだろうか。でも、それだけでも会話は弾んだ。

その中にユリナの話も出て来た。

俺が持ち掛けた訳ではなく、自然と美麗さんから尋ねられた。

『ねぇ、悠馬君は第三王女のユリナ様とご婚約を結んでいるって本当?』と。

この話は王宮や俺の屋敷だけに止まらず、王国の辺境地であるこの一帯まで聞き及んでいた。

別段否定する理由もなければ、寧ろ事実なので俺はあっさりと肯定した。

俺にとって美麗さんとは兄貴の友人であると共に、近所に住むお姉さん……まぁ、実の姉みたくも一時は感じていた。だからか、その事実を打ち明けるにあたって少しむず痒かった。

美麗さんは転生しても変わっておらず、俺の姉みたく嬉しそうに祝ってくれた。

この世界において家族と呼べる者はいるけど……厳密に言えばいない。

しかし、俺はこの時、美麗さんを本当の家族の様に思えた。

血は繋がっていない赤の他人だけれども、お互いによく知っている仲であるからか。

余計に近く感じていた。

そしてその後、この地に来た説明をし、ユリナと喧嘩?したことを伝えると……

『駄目だよ!それはユリナ様も怒るよ!』と怒られてしまった。

今まで、こうして怒られることはなく。兄貴と喧嘩した時でも俺はいつだって美麗さんに味方してもらって励まされた。その後はいつだって、二人の仲を戻すべく真剣に考えてくれる。

それは今回も同じ。

という流れで俺はお祭りデート=仲直り作戦を実行しているのである。

幸いな事に俺が部屋に戻ると何故かユリナは自身のピンク色の髪に沿った花柄の浴衣を身に纏って外の光景を眺めていた。

兼ねてから考えていた誘いの台詞を口にするまでもなく、いつもより不機嫌そうな顔を浮かべて俺を見たユリナによって連れ出されていた。

許してくれたのかな……そんな希望を持ちながらデートをしているがさっきから一向に目を合わせてくれないどころか、口すらまともに利いてくれない。

『面倒な女を好きになったな』

昼間、魔王が言った言葉が直接返って来た気がしてならない。


「あの……そろそろ機嫌を直して頂けませんか……」

「私は初めから怒ってなどいません」

「じゃあ何でさっきから拗ねているんだよ」

「拗ねてません」

「……」


はっきり言おう。打つ手なし!

女心が理解出来ない俺にどう対処しろと!

仕方ない。ここは当初の予定通り、美麗さんに言われたアドバイスを実行しよう。

『先ずは一つ、今日の装いに注目すること』


「ユリナ、その浴衣似合っているな」

「……今更ですか?」


今更かと言われれば認めざるを得ないな。

しかし、先程とは違って照れながらも少し目を合わせてくれる。


「言うタイミングを考えてたんだよ」

「なら部屋で見た時に言って欲しかったです。似合ってない……かと思ってました」

「いや、それはないだろ。誰がどう見ても美しいと思うだろ」


現に行き交う人々の目がちょくちょくユリナに向けられているのが見てわかる。

これくらい注目されれば誰だって王女だと分かると思うが、不思議な事に誰も噂を流さない。

一瞬だけ目が止まった人物を注視すると次には何も見なかったかのように素通りしていく。


「ユリナ、何か魔法でも展開している?」

「はい。認識阻害の魔法をこの浴衣に付与しています。私に気付いた者や意識した人々の認識から自然と消えるように仕掛けてますので、この中では空気みたいなものですね」


うん。もはや何でもアリだな。

気配を消すのではなく、認識を消すという発想ときたか。


「魔力は戻ったのか?」

「いいえ。まだ半分も戻っていませんね。依然として私の魔力は吸われ続けています」

「辛くはないか?」

「体力は回復しましたから問題ありません。心配は無用です」

「無用って言われてもな……」


ユリナに置かれている状況は然して変わらない。

あの呪印(カースシール)なる魔法が他にどういった効果を持っているのかは分からない。

これに関しては本人しか解けない魔法だと魔王は言っていた。

だからか、余計に俺は気になってしまう。


「視線がいやらしいです」


少し太股辺りを見詰め過ぎた事を指摘され、慌てて顔を上げる。

ユリナは少し溜息をついて呆れた顔を見せるも先程より険しさは消えて、表情に柔らかさが宿っていた。


「お昼に、悠馬様は何をしていたのですか?」

「え、お昼?お茶していたかな」

「お一人で?」

「いや……まぁ、知り合いと」

「知り合い?この地に友人か、誰かがいらっしゃるのですか?」

「うん。俺の元居た世界の知り合いって言うべきかな」

「それって……」

「その人は転生者。まさか、この世界に来て再会するとは思っていなかったけどな」

「そうですか。凄い巡り合わせもあるんですね」

「まぁな」


これに関しては偶然の運命とは言い難い。

俺が美麗さんに出会ったのはあくまでも偶然。しかし、裏を返せば必然的に再会を果たしたとも思える。

そこで考える事を止め、じぃっと細目で睨み付けるユリナに目を向ける。


「やはりまだ何か隠していますね」

「諦めが悪いな」


危なかった、あのまま下手に考えていたらユリナに思考を読まれていた。

自分で自分を追い込むのは得意だが、それは意味が違う。袋の鼠という意味だ。

要するに俺は自滅し易いということ。

それを狙ってユリナは俺にカマをかけた。


「むぅぅ、やっぱり気になります!……ですが、それも時間の内でしょう」


近いうちに奴らは再び仕掛けてくる。

今度こそ、確実にユリナを含めた脅威を排除しにやってくる。

おそらくその時にあの仮面の下を拝見することも叶うと考えているのだろう。

その点については俺も同意見。

そうなれば隠す必要もなくなる訳だが……現実的にそれが確実になるとも限らない。

下手な事を告げて勝手に動かれるより、このままお互いに正体を知らない謎の敵と位置付けて警戒していた方が得策。

分かってくれたのなら結構、これで俺達の仲を取り巻く不要な要因を取り除けるってもんだ。

よしこれで問題は解決した。

こっからは親密度を回復するため、美麗さんのアドバイスその二である『さり気なく手を繋ぐ』をしよう手を取ろうとするも、突如街に鳴り響く和太鼓や笛の音に混じって、威勢のいい男共の猛々しい熱声が響く。次第に通りの中央から人が退き始め、奥の方から金色に輝く山車(ダシ)を担いだ宿場組合の男達がふんどし姿で汗水を身体中から流して現れた。

その一番先頭で太い丸太を担いで歩くジグルドに気付く。あちらも俺の事に気付いたのか、親指をグッと立てて何か合図を送る。

上?

山車の上辺りを見ると『祭』と記載された法被に身を包んだ聖剣、いやリスフェルトが民衆に向けて小さな花火を頭上に放つパフォーマンスで魅力する。


「あの、あれは何ですか?」

「あれは山車(ダシ)って言って……多分、精霊を祀る儀式みたいなもんだな」


この世界における山車はそうなのだろう。本来は神様をもてなす目的で人を乗せるみたいな意味があったと思うがこれでは精霊の威光を示すみたくなっている。

現にリスフェルトはこの世界の神みたいなもんだ。

精霊を祀る儀式、これを見れば誰だってその意味で山車を捉えるだろう。その方が都合もいい。

リスフェルト自身も楽しそうに祭を盛り上げている。

大衆からすれば山車の上にいる不思議なオーラを纏った小さな少女とぐらいしか思われていないようだが。


「これも悠馬様の世界の文化なんですよね」

「そうだな。祭りと言えばこんな感じか」

「……中々に酔狂な…いえ、趣深いですね」


酔狂なって……まぁ、分からなくもないな。

ふんどし姿のほぼ半裸の男達が皆で山車担いで騒ぐ光景はユリナからしてみれば有り得ないこと。

俺もあの輪の中に入るのは遠慮したく思う。

そんな風に横目で通り過ぎていくのを見届けると空いた道が再び徐々に塞がっていく。

人の数が増え始め、俺達は川側の端によって歩いて避けようとするも、知らず知らずのうちにお互いの距離が離れていった。それを見兼ねたユリナが手を掴む。

左手に温かな感触に包まれた俺は振り返る。


「すいません。この下駄というものが慣れなくて……」

「あぁ、悪い。速かったよな」

「いえ。ですが、こうやって手を繋がせて下さい」


そう言って、先程は叶わなかった手を繋ぐ事を成し得た俺はユリナの手を掴んで同じ速さで歩く。

うん。これはまさしくデートと言える。

日本にいた時も叶わなかったお祭りデート。嬉しくて涙が出そうだ。

途中、昼間に居た美麗さんのお店の前を通ると夜はかなり繫盛した様子で忙しい風に見えた。

垂幕を外しているから中を覗き見ると俺の視線に気付いたのか、美麗さんと偶然にも目が合う。

俺達の関係を見て、『頑張ってね』と口の動きで伝えてニコッと笑みを浮かべた。

俺も軽く会釈してそのまま通り過ぎていく。


「誰に相槌を送っているのですか?あの店主の方ですか?」


鋭いな。チラッと見ただけなのだが直ぐにバレた。

少し機嫌を損ねました。と言わんばかりに声のトーンを下げる。


「あの人はさっき言った元の世界の知り合いだよ」

「あの方が……ですか?」


どうみても女の方ですよね?説明してください。と求められた俺は美麗さんについて少し話した。

俺と美麗さんとの関係や以前の交友など。

大体、血の繋がりのない姉と弟という認識を持ってもらうように話した。


「そう言うことでしたか」

「分かってもらえて何よりだよ」


火が大きくなる前に消火出来て良かった。


「悠馬様は美麗さんのことが好きだったのですか?」

「いや、俺じゃなくて兄貴がね」


ん……あ、やべ。

兄貴というワードに初耳だったユリナは少しキョトンとした顔で聞き返す。


「お兄さんがいたのですね」

「まぁね」


うん。これ以上はなるべく触れさせないようにしよう。

うっかりして情報を漏らしてはこれまでの苦労が水の泡だ。

しかし、俺は気付かなかった。兄に関する話を露骨に避けようとしたと、ユリナの目には映ってしまった事に。


「何か他に回りたいとことかある?」

「そうですね。美麗さんに挨拶をしたいところですが……今は忙しそうですし」


え、挨拶?何で?


「取り敢えず、少しそこで休みませんか?」


慣れない下駄や格好で歩き続けたせいか、少し疲れているみたいだった。加えて、まだユリナは本調子ではない。徐々に魔力を奪われいる分、普段と同じように歩くだけでも疲れは感じるのだろう。

その提案を受けた俺は等間隔に配置された長椅子に案内して、お互いに座る。

一息を入れた俺は何か会話でもしようと話題を探していると、ふとこう問われる。


「悠馬様はいつ敵が仕掛けてくると思いますか?」

「……なんか、前もこんな風な事なかったか?」

「そうでしたっけ?」


自分で言っといてなんだが詳しくは覚えていない。しかし、ユリナが決まってそう尋ねてくると何かしら感じているということに繋がる。


「敵が近くにいるのか?」

「今は何も感じませんが、先程どこからか視線を感じたのであるいはと……」

「どうだろうな。魔王の見立てでは今日か明日のうちとは予想していた」


だが、俺の考えは違う。


「俺は襲ってくるなら、今だと思う」

「今ですか?」

「人が多く、俺達が油断している今なら先手を打ちやすいからな」


少なからず、相手に余裕がないうちはそう仕掛けてくると考えていた。特にこんな祭りを行っている最中で仕掛ければ、俺達側の混乱は確実。多くの人々が巻き込まれる事に大きなハンデを背負わなければいけないこの場面で仕掛けて来ない方がおかしい。

だから、俺はその可能性も考慮に入れた上で魔剣を帯刀している。

いつ、如何なる場面で現れようと対応出来るように。


「理解しているのなら、今すぐにこの祭りを止めるべきじゃないか?」

「え……?」


そう発したのユリナではない。

俺の耳に届いた声はもっと低く棘のある声。

だが、その声を聞くのは初めてではない。

記憶の中にあるある人物の声が完全に重なる。

それに気付きゆっくりと顔を上げ、俺達の前に立った黒い仮面を付けた人物に目を見開く。

遅れて心臓の鼓動が速くなり、額から汗が流れていることさえ気付かないままその人物に目を釘付けにされる。

そいつはゆっくりと自分の手で仮面を外して、その裏に映る顔を見せた。

呼吸も自然と速くなり、無意識に片手で胸の辺りを強く掴む。

そして、俺は一言……発した。


「兄貴……!」


赤く染まった魔の瞳が俺の発した言葉を否定するように狭めた。


九十話、ご愛読頂きありがとうございました。

いよいよ三章もラストスパートに入りました。二章のラストで悠馬に兄貴がいるの?後付けだろ、と思った方がいると思います(あれは後付けです)

初期構想ではない設定でしたが、こうなれば面白くなるかな……と思い、後付けしました!(確信犯)

この先、二人がどうなるかは展開次第ですが……続きを読んで頂けると幸いです。いえ、読んで下さい!

このまま一気に書き進めようと思いますので、なるべく更新が早くなる予定です。(誤字脱字が多くなるかもしれないで予め宣告しておきます)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ