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六十二話

「ここまでが私の知る雄二の最期じゃった」

「我々はそのまま里に戻り、これ以上の捜索を断念した」


 二人の話に俺は何も言えなかった。

 今投げかけるのは気の利いた言葉とかそういうのじゃない。


「ありがとう」


 何故か分からない。

 けど、俺は感謝したくなった。


「兄貴の為にそこまでしてくれてありがとう」

「当然のことじゃ。私は私の為に行動したまでじゃった……しかし、あと少し手が届かなかったばかりか、この様な結果を招いてしまったのは悔み切れん」

「嘆いても仕方ないことだ。それより対策を……って、どうした?」

「お主の割には冷静じゃな」

「嘆けないんだよ。それにまだ、実感が湧かない」

「無理もないわ。私らとてまだ本人の顔を拝んでいないで話を進めているからな、ユリナとサレンは顔を見たようじゃがな」

「……え?」


 軽くであるが、セルフィは俺達が王国からいない間にあった出来事を教えてくれた。

 これは全て王国から報告を受けたサラさんの話なのだが、旧王国のある墓所へ単独で立ち寄った兄貴、こと魔王はそこに偶然居合わせたサレンさんと何事もなく会話していたそうだ。一方、妙な魔力に感づいたユリナが慌てて墓所に向かって、後に戦闘が起きたものの見事ユリナが撃退したらしい。

 俺の婚約者は兄貴……魔王よりも強い魔法士だった事には滅茶苦茶驚いた。そして、もう金輪際下手に刺激させて怒らせまいと誓った。


「それでこの話はもうユリナ達に?」

「いや、確証はないから言ってはおらん」

「確証も何も、もう断言していたじゃないか」

「まぁ予想通りではあると思うがな」

「なら……」

「お主はそれで良いのか?身内が魔王だなんて、明かすのは無謀過ぎる。これに付け込んでお主を裏切り者に仕立て上げようとする人物が王国内いないとも限らん!」

「……っ!」


 兄貴の二の舞は踏まない。

 恐らく、セルフィはまだ心の底から人間という種族を信用してはいないのだろう。

 わざわざ王国の会議まで出席して、他貴族の言動に注視していたのも全ては俺を守る為。

 彼女の発した言葉と行動が兄貴の話を聞いてしまったからか、そう繋がって見えてしまう。


「例え、お主が最も信頼を置いている婚約者(ユリナ)であろうともな」

「それは言い過ぎだ。ユリナは俺を裏切ることは……」

「ないじゃろう。だが、考えみい。ユリナ一人が知ってしまえば、先の展開を読んで単独で先走るに違いない。お主の兄が相手であろうとユリナはたった一人で全てを終わらせに動くぞ」


 セルフィはユリナが裏切るとは一言も言っていない。むしろ、その逆の事を指していた。


「自分の感情を持て余す小娘は何をするか分からぬからな」

「……一理ある」


 心の中で今一度納得した俺はこの事を胸の内に秘めておくことにする。


「まぁ、お主の場合時間の問題じゃろうがな」

「何で?」

婚約紋章(エンゲージリング)。あれの前でユリナに隠し事を出来るとは思わん」

「確かに」

「出来るだけ、考えないことじゃ。お主の精霊に頼めばギリギリかもしれんが」


 『ン~、無理かな』


「無理だそうだ」

「対処は受け持たんからのぉ」


 呆れた顔を浮かべて指を空でフリックさせると俺の部屋のドアが開くとドアに耳を当てて盗み聞きを試みていた二人の女の子が重なって倒れる。


「イタタ……」

「急にドアが開くなんて……」

「お主ら……」


 その声にビクッと身体を硬直させると並んで起立する。あまりに同じタイミングの出来事だったからか、 彼女達は仲が良いのかと思ってしまう。


「アイラちゃんとえっと……」

「アリーゼと言います。勇者様」


 セルフィと同じ翡翠の長い髪に何処か彼女を成長した姿の面影を持つ少女。

 

「えっと彼女は……?」

「私の末娘じゃ」

「なるほど」

「えぇぇぇぇぇぇっ?!」

「なんじゃ、アイラよ。そんな素っ頓狂な声をあげて」

「いえ、ごめんなさい。私、知らずに無礼な態度を……」

「いいんです。私は立場的には低いですし」

「ですが……」

「お願いします。どうかこれまで通り友達として接してください」

「わ、分かった」

「ありがとう、アイラ」

「と言っても、まだ一日半の関係だけどね」

「確かに」


 彼女達の新たな友情が芽生えた談笑に俺とジュウドさんは微笑ましく眺めていると、セルフィがコホンとわざとらしく咳を払うと二人は再びビクッと身体を震わせて前を向く。


「それで何故ここに?」

「私が勇者様に改めてお礼申し上げる為に参りました」

「だそうじゃが……」

「いいよ。助けてもらったのはお互い様みたいだし。そんな律儀には……」

「いえ、二度も命を救われた事には感謝のしようがありません」

「二度?」

「はい。魔界領域侵攻作戦の際に、私は勇者様に一度救われた事をお忘れですか?」

「……そう言えば、あったかも」


 何分、戦場で助けた人数は数知らず。

 遭遇して助けたエルフの女の子も今思い返せば何人かはいた。特にエルフという種族は純潔を尊ぶ事もあってか、皆同じ様な髪色に美形な顔立ちのせいでパッと見て話しただけでは深く印象に残りにくい。単に、俺が女性の顔を覚えるのが苦手というのもあるかもしれないが。


「なので、今一度お礼を、瀬戸悠馬様」

「どういたしまして……」


 でいいのか。

 返事に迷った俺はぎこちなく返すと黙っていたセルフィが話を進める。


「丁度いい。お主らも集まったなら、今後の話を進めたいと思う」

「おい。いいのか、二人は盗み聞きしたんじゃ」


 俺はてっきりセルフィが盗み聞きして二人が事実を知ってしまった事を問いただすのではないかと思っていたが、予想外の流れに困惑しひそひそと訳を聞く。


「誰にも聞こえない様に結界を張っておいたから問題はない」

「……先にそれを言ってくれ」


 すまんのぉ、と言わんばかりの顔で相槌を取ると改めて向き直る。その会話が終わるのを待っていたジュウドさんは見計らった後に話を進める。


「今後の方針だが、昨日の時点で既に決まっているのは勇者以外承知のことだろう」


 それに二人は頷くと俺は自分が寝ていた事にいたたまれない気持ちになった。


「現在、我々とラフォルト王国は同盟関係であるが、これは今後も継続していくことを取り決めた。これで四種族協定から我々は抜けた事を意味する」

「四種族協定を魔王討伐期に作られたものじゃが、今となって意味がないからな」

「変わりはないんじゃ?」

「いや、獣王国が魔王の手に堕ちた事でもはや機能はせん」

「なっ!?」

「まだ話しておらぬかったな。つまり、ナルシャらがあの場にいたのはそういう事じゃ」

「じゃあ、獣人達も(オーガの里と同じく……」

「いや、魔王の手に堕ちたとはつまり……国が乗っ取られたということじゃ」


 驚きの連発に頭が痛くなる。


「ナルシャの話によると公務からの帰還後、獣王国民ら全員が敵対行動を取ってきたようじゃ。そして、なんとか王城へ着いたあの兄妹は王の間にいた悪魔と戦うも敗走し、こちらに助力を願いに来たと言っておった」

「国民全員が敵対……」


 俺はその状況に何か違和感を覚えた。

 国民全員が襲って来たとなると恐らく魔法で操られているに違いない。かつて一度、俺はあの憎き悪魔にその方法で苦しい戦いを強いられた記憶がある。


傀儡(マリオネット)

「うむ。敵の黒幕はザビーダと睨んでよいじゃろう。そして、奴の性格で考えればこれはお主とナルシャを誘き出す罠であり、殺す為の兵士」

「……相変わらず、嫌な奴だ」


 あの時、シャーベルマン大橋の下を流れる川でしっかりと殺しておくべきだったと後悔する。いや、それを言うならもっと前だろうか。

 クロードを殺された恨みを果たすべく、怨讐に駆られた俺は怒り狂うままに剣を振った結果、瀕死でもうじき死ぬ奴に情をかけて見過ごした俺の責任と言えよう。

 今度会えば、恐らく『あの時、しっかりと僕を殺さないからこうなっちゃったねぇ』と言われそうで腹が立つ。


「ともあれ、我々は悪魔だけではなく、獣王国も相手にしなければいかなくなった。完全な傀儡国家と化した以上、争いか術者本人を討ち取らない限りは解決の糸口は掴めない」

「避けられない戦争か……」

「交渉の余地がない以上、戦う方針で解決策を設ける必要がある」

「その辺は王国側と協議して進める他ないじゃろう」

「直ぐに攻めてくるって事はないの?」

「総指揮権を握るのはザビーダではなく、魔王であろう。奴の動き次第としか言えん」

「ですが、ナルシャの話なら獣王国側も準備に時間がかかる見通しのとのことです」

「数字的には?」

「約二か月と言ったとこでしょう」


 二か月か。

 戦闘狂でなりふり構わず襲撃を行うザビーダなら、急ピッチで戦争準備を進めるとも限らない。だが、戦いを激化させて楽しむという点を考慮に入れれば念入りに仕掛ける可能性もある。

 どちらにせよ、敵の動きが読めない事は事実。


「暫くは様子見をするしかないのが現状じゃ」

「分かった。で、俺は何をしろと?」

「特に指令はせん。お主は王国に属する子爵位の貴族。我々がお主にああしろ、こうしろとは言えんが……一つ頼み事がある」

「頼み?」

「そこにいるアリーゼ、及びナルシャを含めた獣王国の兵士らの事を頼みたいのじゃ」

「……要は面倒を見ろってこと?」

「そうじゃ」

「こればかりは済まない。既に王国側が彼らを客品扱いとして君にさせるようだ」


 ジュウドさんの話からするともはやお願いではなく、任せたと言われたに等しい気がしてならない。

 まぁ子爵の地位を与えられて割と広い領地を与えられたものの、領民はかなり少ないため土地の活用が全く成されないことに少し懸念を覚えていた。加えて、この件に関しては俺に一任する方が一番ベストな解決策と言える。

 自分を納得させるための言葉を一通り並べ立てた俺はもう一人について聞く。


「アリーゼ……さんは何で俺のとこに?」

「同盟関係を結んだ以上、お互い連絡役を駐在させる必要がある。アリーゼにはそれを一任するということだ」

「本人たっての希望じゃがな。アリーゼはお主にホの字らしいからのぉ」

「お、お母様!」


 見た目では全く母親には見えないセルフィだが、これでも三児の母親である事実をここで伝えよう。

長女と長男の二人には何回か顔を合わせた事があるが、次女のアリーゼとは全く面識はなかった。

 セルフィは初恋をした娘を弄ぶ様に意地悪く言うとアリーゼは顔を赤くして叫ぶ。改めて、こちらに向き直ると一歩前に出て意思を伝える。


「瀬戸悠馬様、暫くの間お世話になることをお許しください」

「こちらこそよろしく。アリーゼさん」

「さんは不要です。アリーゼとお申ください」

「分かった。よろしく、アリーゼ」


 俺は自分の流儀に則って握手を求めると彼女は嬉しそうな笑みを浮かべて手を取った。

 その光景を隣で眺めていたアイラの頬が少しばかり膨らんでいたのに気付いたセルフィはやれやれとした表情で息をついた。


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