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五十三話 魔獣再誕

 己の五つある感覚器官の中でも目と耳を研ぎ澄まし、繰り出されるであろう次なる攻撃を的確に捉える。

 槍術の如し速さと鋭さを兼ね備えた拳が眼前へと迫る。

 生を繋ぐため、刀を素早く入れて拳を逸らす。

 だが、直ぐにもう片方の腕が同様に迫り、同様に防ぐ。

 これを途方もなく繰り返すこと早五分。

 息継く暇もないこの状況に、強化されたアイラの身体は徐々にキレが落ちていた。


「どうした、初めと比べて動きが鈍い」

「お互い様でしょ」


 指摘と同時に微かな隙を見つけたアイラは刀を縦に振り払い、呼吸を繋ぐための時間を得た。

 しかし、その間が身体に凝縮された疲労を気付かせた。

 「はぁはぁ」と激しく肩を上下に動かすアイラの額に大きな汗が滲む。

 今にも片膝を着きそうにもなるが、歯を食いしばり、意志を強く持って目の前の強敵から目を背けない。

 一方のライウェルは塞がらない傷に違和感抱いた。

 悪魔である故に、傷の治癒速度は元来の数十倍に高まっている筈……だが、血が全く止まらない。


「手抜きが過ぎたか」


 血を流し過ぎたせいか、先程よりも手の……身体の感覚が薄い。

 いくら悪魔と言えども、身体が修復されず、血を流したままでは活動を維持すのは不可能。

 目の前に立つ娘の命を今に至るまで刈り取れないなら、戦いの続行は厳しい。

 だが……


【殺しておけ、奴は脅威だ】


 虚空から放たれる魔の声にライウェルは深い溜息を吐く。

 命令(オーダー)が入った以上、退くことは許されない。


「悪い。気が変わった」


 殺気。

 鋭く研ぎ澄まされた濃厚の殺意がアイラの心を萎縮させる。

 相手の目を合わせていたのは不運にも、二人の精神を支配した。

 しまっ……

 コンマ数秒

 たった一瞬、意識が乖離した事で与えてはいけない隙が生じた。

 棒立ちに伏すアイラの側面へ回られ、強力な一撃が腹部に放たれる。


「かはっ?!」


 途轍もない痛みと同時に身体が後ろの木に叩きつけられると肺の空気と一緒に大量の血が一斉に吐き出される。意識を失うと身に纏っている和洋折衷の取れた魔装が消え、元の服に戻る。


同調シンクロが解けたか」


 倒れたアイラの首元を掴む。


「惜しい逸材だったが……運が悪かったな」


 殺すことに躊躇いを示しながらも、自慢の剛腕を振り上げる。

 意識なく、眠れる少女の顔を目掛け、腕を振り抜かんとした直後……


「あぁ、てめぇもな」


 いつの間にか、背後へと差し迫っていた人物の声が届き、慌てて掴んだ手を離す。

 即座に振り返り、迎撃に出るのも遅し。

 眼前へと迫った銀槍がオレンジ色に淡く煌めく。


【爆ぜろ】


 怒りを混ぜた声に乗せた爆炎がライウェル諸共森の一部を焼く。

 その隙にアイラを抱えた猫人(キャットピープル)の男は両手で抱えると後ろに下がった。

 闇の森中で首から上が燃えるライウェルを遠目で見詰めるも、苦い表情で嚙み締める。


「化物が」


 爆炎が晴れると大きな怪我はないものの煤まみれな顔で見上げる。


「獣人……ここに居るという事はザビーダは上手くやったようだな」

「てめぇもあの悪魔と知り合いか」

「まぁな」


 お互いに睨み合っていると隣に金髪の猫人(キャットピープル)が降り立つ。


「兄者、その娘は?」

「知らん。ナルシャこいつを頼んだ」


 腕の中で静かに眠るアイラを無理矢理押し付けると血だらけの口周りを見て驚く。


「この娘、怪我して……」

「持ってそこにいろ。あの野郎は俺が殺す」


 銀槍を大きく構えるとライウェルと同じ目線に並び立つ。

 相手と自身の間合いを見極め、徐々に近づいて顔をよく見詰める。


魔晄四獣グレムリンの生き残りかと思ったが、知らねぇ顔だな。雑魚か」

「生憎と俺は国を捨てて尻尾巻いて逃げた猫を相手に取る暇はない。失せろ」


 眼中にないと暗に示すその口調に猫人(キャットピープル)の男はイラつきを露にする。


「舐めやがって」


 姿勢をやや斜め前に傾けると倒れる前に足を出す。

 たった一歩の跳躍で間合いを完全に詰めるとライウェルも呼応して拳を突き出す。

 互いの武器が衝突し合うと凄まじい衝撃と共に甲高い音が森中に響き渡る。


「穿て」


 銀槍の矛先が半分に展開されると中心に埋め込まれた赤い魔石が露出する。

 互いの力がぶつかり合い、僅かな反動に駆られる。

 二段構えか。

 魔石が再び赤く輝くとライウェルの視界が眩い光に覆われる。

 事前に察知し、目を閉じると態勢を横へと流し倒れる様に避ける。

 銀槍から放たれた魔力砲が首筋を掠ると地面に着く前に片手で身体を支えるとそのまま旋風脚を見舞う。


「ぐっ!」


 足を駆られて地面に伏せるも予断を許さないライウェルの拳を慌てて身体を反転させ、銀槍で受け止めるも途轍もない力の前に背中ごと地面にめり込む。


「なんつー、馬鹿力だ」


 視界を奪いはしたが気配で完全に位置を把握し、正確に打撃を打ち込む。

 この時点で力の差は歴然であると悟る。


「そこまでにしてもらおう」


 その声を聞いたライウェルは顔を挙げて目を開く。

 再び暗闇に目が慣れていくと次第に輪郭を捉える。


「ジュウド……貴様か」

「やはり貴方でしたか、ライウェル殿」

「驚きはしないのか?」

「貴方がオーガの里を滅ぼしたのはご存知の上です」

「そうか。それで俺を殺しに来たか?」


 隣に立つ悠馬に目が止まると鋭い形相で睨む。

 そして、その下に居る猫人(キャットピープル)の男も早く助けろと言わんばかりの顔で睨みつける。

 あの馬鹿猫は後だ。

 それよりも色黒のムキムキ悪魔。あいつから感じる魔王に似た魔力は脅威だ。

 ジュウドさんの言葉次第で俺達の生死が決まりかねない。


「言え、これ以上は望みません。素直に退いてくださるのなら」


 力を緩めると見計らって攻撃を仕掛けようと動く猫人(キャットピープル)を「邪魔だと」言い放ち、腹 部を蹴り飛ばす。木に打ち付けられると悶絶して呻く。


「良いだろう。だが……」


 再度、悠馬に目を送ると右手に紫色の結晶体の欠片を出す。

 すると青緑色の魔法陣が魔核(ベリアルコア)を中心に展開。


「コイツに勝てたならな」


 嫌な予感がする……

 敵の狙いに薄々気付き始めた悠馬は魔剣を抜いて阻止しようとするも


「遅い」


 次第に光が大きく輝き始め、暗闇の樹海から天に向かってかって光柱が昇る。

 その柱は大陸中の至る所で目撃された。

 エルフの里近隣に位置するラフォルト王国でも同様な事象が映った。


「こ、国王様。エルフの里近くから謎の光がっ!」

「分かっている」


 自室の窓越しから国王はそれをながめていた。

 そして、王宮内のテラスに立つユリナも自分が把握出来ない事態と魔法にただ眺めていた。


「あそこに悠馬様が……」


 あの場所に悠馬がいるという確証は無い。けど、自身の直感がそう伝える。


「やはり、ただの遺跡調査では終わりませんでしたか」


 ここ最近、どうしてか自分が騒動の中心にいない事に憂いを抱いていた。

 ずっと悠馬様の隣で戦い続けていたせいで妙な安心に慣れていたのも事実。

 その反動もあるのか、自分が知らな場所で悠馬様が危険な目に遭っている事に落ち着かない。特に聖剣を所持していない悠馬様の力ははっきりと言ってしまえば私よりも劣る。聖剣の加護なしで凶悪な悪魔と対峙するのはあまりにも不安で仕方ない。


「随分と落ち着いていますね」

「お母様」

「ユリナ、あの魔法が何か分かりますか?」

「いえ。ですが、あの魔力……あれは古代(エンシェント)魔法(マジック)かと思われます」

「……そうですか。大事にならなけばいいいですが」


 大陸中から見られる光柱の下。

 徐々に光が弱まると中から黄褐色の皮膚が現れる。

 忘れもしない先刻、死力を尽くして全員でたたみかけてやっと討伐した怪力の魔獣。

 一つ目に一角。

 ギョロリと大きな一つ目が開かれると真っ先に悠馬を捉える。


「Guoooooooooo!]


 一度敗北した相手が再び現れた事に感情が昂ると闇夜の樹海に激しい怒号が口から発せられる。

 耳を紡ぐ様な咆哮(ハウル)に森が酷くざわめく。

 防響魔法でこの場にいる全員を覆う。


「勇者、あれは報告に挙がっていたキュクロプスか?」

「あぁ、俺達が討伐した筈だが……正真正銘、蘇ったみたいだ」

「蘇った?」

「どういった魔法かは分からないですが、確かにあのキュクロプスは一度死んでいるという事です」


 何よりもあのキュクロプスは俺に向けて叫んでいる。

【貴様を殺す】と。


「初めて行ったが、成功したな」


 その背後から現れたライウェルは何も無い空間から既視感のある大斧ハルバードを取り出すと軽々と投げ渡す。


「使え。奴ら相手に丸腰は厳しいかろう」


 言語を理解したのか、小さく頷く。


「これは戦う他ないみたいだな」

「ハルマ!」


 咆哮が止むとアイラを抱えた猫人(キャットピープル)の少女、ナルシャが背後に降り立つ。


「ナルシャ、何でここに?」

「話は後だ。来るぞ」


 猛り狂ったキュクロプスは巨躯な足を地面に叩き付ける様に走る。

 魔剣を両腕で掴み力を入れると鋭い痛みが脳に伝わる。


「くっ、まだ腕が……」


 ジュウドは数歩前に出ると片手を前に突き出す。


鉄壁(ハード・プロテクト)


 厚い魔法の障壁が巨躯の身体を持つキュクロプスの体当たりを抑える。しかし、衝突と同時に表面が薄く割れる。

 地面を圧砕させる程の力に正面からぶつかり合うも、ジュウドは涼しい顔で受け止める。


「ふんっ!」


 僅か一瞬、障壁の力を緩めるともう片方の腕で障壁を勢いよく前に押し出す。

 前のめりになって態勢を崩すと押し出した障壁に呑まれ、後方の木々を投げ倒しながら流されていく光景に悠馬は啞然としていた。

 百人力の力士が放つ張り手の如し。いや、それ以上か。


身体強化(ブースト)無しであの威力……彼は本当にエルフかい?』


 デュランの言葉に自信なく「多分」と返事をした。

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