幕間 ①休暇(サボり)
王都に戻って三週間が経とうとしていた頃。
新たな居住地であるユリナの祖父の邸宅及び領地を国王から請け負った俺は毎日の様に机と背後に広がる綺麗な海を眺めながら終わりの来ない書類作成や承認に嫌気が指す程追われていた。
貴族になってしまった以上、こういった仕事があるのも分かっていた。
何なら少し憧れていたのも事実。
だってこういう仕事、特別感するし、傍から見るとカッコイイと考えていた自分を馬鹿だと嘲笑う。
しかし、もうそんな風に思うのもとっくに止めた。来て早々、積み上げられた紙の束と五時間以上も拘 束されたことで如何にしてこの場から脱出するかという思考にシフトされた。
因みに俺は既に一度、脱出を試みた。
ユリナが幸いこの邸宅ではなく、王宮の自室で生活していたため、すんなりと領地から出る事は出来た。しかし、反省するのはその後の行動だった。
王都に戻ってから、いやそもそも俺はこの世界に来てからまともに休暇を貰った記憶が無かった。王都内に広がる城下町も俺はあまり出歩いた事がなかったせいか、興味本位に城下町へと足を運んだ。
城下町の中央には王都有数の商業施設やレストランが立ち並び、日々多くの内外の客が賑わいを見せていた。魔法が生活の原動力となるこの世界では様々な目新しい物や食べ物が見られる。
俺は時間や所在地の感覚すら忘れて城下町を色々見て回っていた事である事を失念していた。
それがその時の反省点であった。
その日の午後に俺はユリナと会う予定でいた。
結論を言えば、約束をすっぽかして観光を楽しんでいた事に腹を立てたユリナに町で捕まり、邸宅に強制連行された挙句、仕事が終わるまで魔法で監禁された。それだけでは収まらず、溜まりに溜まった不満を漏らすかの様に二時間程の説教を受けた。
これを見たセルフィは隣でケラケラ笑い、怖がって遠目から伺っていたアイラちゃんは目が合うと『すいません』と会釈して立ち去った。
その事を深く反省し、もう二度としないと誓った筈なのに……どうしてだろうか。
「どっか気晴らしに外へ出たい気分になっている」
「駄目ですよ。ユリナ様に言われたその書類を整理しないとまた怒られますよ」
秘書兼監督役のアイラちゃんは横目で注意を促す。
彼女自身も客用のソファに座って大理石の机の上に広がる領地の入居者希望者の一覧表に目を通す。
「もうずっと同じことの繰り返し。俺だって休みが欲しいよ」
「駄々を捏ねないで下さい。悠馬さんは貴族になって浅いですからこういった仕事が増えるのも仕方ありません」
「そうだけど……少しくらいは……」
「なんじゃ、また抜け出そうと画策しておるのかお主は?」
そこに程よい汗を流した翡翠の髪の幼女がバテてへとへとの少年少女を魔法で空に浮かせながらこの冷房設備が整った快適な温度の部屋へと涼みに来る。
魔法修行に励んでいたのだろうか、床に置かれた二人の服は砂まみれになっている。
「ふぅ、この部屋は涼しいのぉ」
セルフィが部屋に入って来るとアイラちゃんは冷蔵庫から冷えたジュースとコップを取り出して三人分注ぎ入れる。
「どうぞ」
「すまんのぉ」
ばっと顔を挙げた二人はコップに手を掴むと勢いよく飲み干す。
『おかわり!』
無邪気な子供っぽくコップを前に出すと追加分を注ぐ。
「子供じゃのぉ」
と言いながら優雅にジュースを楽しむセルフィにツッコミたくなるも黙っておく。
「それで、お主はまた逃げようと企んでおるのか?」
「出来ると思うか?」
「いや、無理じゃな。ユリナとお主がそのリングで繋がっている以上、今もお主のサボり癖を感覚的に読み取っておるに違いない」
「だよなぁ。ならいっそのことユリナを誘ってみるとか」
「今日は公務で王都の外に出ている筈ですからそれは無理かと……」
「ほうほう。それは良いタイミングではないか?」
「チャンスだな」
「あっ!」
アイラちゃんは自分の失言に気づくと慌てて口を抑える。
ばっと立ち上がった二人はもう遅いと言わんばかりの顔で宣言する。
「この時間を以て、俺は……いや俺達は……」
「休暇として街に出掛けるのじゃ」
そう言い放った二人を止める術をもたないユリナは『申し訳ございません。ユリナ様』と心の中で謝罪し、自身も久し振りの休暇が欲しかった感情に身を委ねる。
「お買い物ですか?」
「休めるなら休み……たい」
城下町に憧れを抱く田舎娘のフィオは目を輝かせるも、日々のセルフィの厳しい修行に体力と精神を消耗し切ったケンイは『休み』という単語のみに反応するも「行くよ。早く起きて!」と急かすフィオに連れられて自室へと向かう。
「では、早々に支度を済ませるとしようか」
「私はともかく、セルフィード様と悠馬さんは顔が知られていてはまともに王都内を出歩くのは不味いと思いますが」
「まぁ、以前は少し大きめのフードで顔を隠したけど、大勢で行ったら怪しまれるか……」
「お主、ここがどういった世界か忘れたか?」
その言葉に俺は『なるほど』と早合点する。
「変身魔法を頼むよ」
「いや、これは私自身にしか掛けられんぞ」
「え、じゃあどうしよ……」
こういった時、俺は直ぐに知恵を働かせて案を出す。
「え、本気ですか?」
「あぁ、こうすればバレない……筈」
少し乗り気ではないアイラちゃんに無理矢理頼んだ俺は早速、準備を始めた。
五十話、ここまでご愛読いただきありがとうございました。
今回は本編をお休み(サボり)して番外編を書かせていただきます。
これからも本編はまだまだ続きますので宜しくお願い致します。




