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四十九話 精霊の帰還

「悠馬さん、アイラさん大丈夫かな?」

「多分ね。メアリが付いている限りは平気だって俺の精霊は言ってるし」

「あの五月蠅い精霊って強いの?」

「さぁ。詳しい事は俺も……」

「なら、僕が説明するよ」


 当然、俺の真横に現れた端正な顔立ちの美少年。神秘的な雰囲気に包まれた白髪の少年は眠たげな表情を浮かべながら隣を歩く。


「精霊か……」

「やぁ。こうして顔を合わせるのは久し振りだねマスター


 そうかもしれない。

 一度、顔を合わせた時は精神の空間だが、こうして意識して顔を見るのは始めてか。


「精霊……さん?」

「そうだよ。初めまして、人間の少女と少年」


 握手を求めよう手を出すこの精霊はメアリとは違いやたらと友好的に振る舞う。


「よ、よろしくお願いいたします」


 おどおどしながらも握手に応じようとするフィオの手をケンイが間に入って制す。


「おや、嫌われたかな?」

「あんたからは嫌な予感がする」

「………へぇ。いい感してるね、君」


 二人の会話を横目に見ていた俺は精霊の頭をポカンと殴り、止めさせる。


「二人に変なことするなよ」

「しないさ。ただ、彼らの魔力の味見をしたくてね」

「それをするなって事だ」

「分かったよ。ごめんね、脅かして」

「ビビってない」

「そういう事にしておくよ」

「なぁ、一つ聞いていい?」

「なんだい?」

「精霊っておかしいやつしかいないの?」

「否定はしないかな。僕らは存在して何百年と経つから、感性が狂って君らには理解出来ない感覚を持っているから。その点ではおかしいという表現には当てはまるかな」


 ケンイの言い分は理解出来なくもない。

 精霊の感性は言わば、何百年も生きる悪魔と似ている。

 彼らの半生のその半分にも満たない俺達には決して分からない。

 特に彼らの感性は誰に非難、揶揄されようとも決して曲げることもないし、改めることもない。

 下手をすればその方向性の違いで対立関係にもならなくもない。


「安心して欲しい。僕は精霊として君らに力を与える側として存在する、彼とは違ってね」

「無理」

「ちょっと……」


 先程、何かされそうになった二人にとって説得力のある言葉ではない。


「それで、精霊……いや、お前は……」」


 個体名がないとどうにもしっくりとこない。

 

「なぁ、デュランダルってのはお前の名前ではないのか?」

「それはあくまでも僕が憑依する為の器の名だ。まぁ、そう呼びたければ呼んでいいよ」

「分かった。じゃあ、デュランで」


 安易な名前だが、この精霊にとって意味を込めた名前は不要。

 自分という個体を認識できる名称さえあれば十分なのだろう。

 しかし、脳裏に過るのは先程の言葉。


(遠慮しとくよ。僕は彼女みたく人に対して私情を残したくないし。付け加えるなら、マスターがよく知っている精霊も同じくね)


 私情。

 デュランはそう言っていたが、心の底ではまだクロードを……


「聞こえてるよ」

「そうだったな。心を読めるお前には筒抜けか」

「別に常に聞いている訳ではないよ。ただ、マスターは顔に出やすいから」


 その指摘には耳が痛い。

 セルフィにも常日頃から『お主は考えている時の顔は分かりやすい』と言われる。

 ユリナにもそれはお見通しなんだろうが、悟られないよう敢えて黙っている気がしてならない。

 まぁ、この事はさておき。

 流石に鈍い俺でもデュランのこの反応を見て核心に触れた。


「意外にも人情味があるんだな」

「僕もそう思っているとこさ」

「なぁ、精霊ってお喋りな好き性格の奴しかいないの?」

「いい質問だね、少年」

「ケンイだ」

「ではケンイ、君は会話は好きかい?」

「普通」

「捻くれているね。そういう年頃なのは分かるけど」

「あ?」


 デュランの言い回しに気に触れられると睨み付けるも、フィオに『止めない』と頭をポンと叩かれる。


「そうそう、僕らは君たち感情豊かな種族と話すのが好きなのさ。メアリは特に」

「だからといって、子供をおちょくるなよ」

「すまないね、ケンイ」

「……別に」


 そう話をしながら歩いているとまた少し景色が変わる。

 ヒカルコケの耀きが暗いこの回廊の先から眩い光が差し込む。


「見えてきたね」


 俺はこの遺跡内が何であったか暫く忘れていた。

 セルフィの管轄下にあるこの精霊殿は人と亜人らが住む世界『アスフェルト』と精霊のみが住まう『精霊界』を結ぶ通路。そこには当然、どちらにも繋がるリングがある。

 導かれる様に足を運んだ俺達は今までに感じたことのない経験をする。

 濃密な可視化された魔力が深い緑の螺旋の渦を形成し、その中から先に行くリングとして存在する。

 手で触れれば身体や意識共々別次元、別空間に吸い込まれる気がしてならない。


「おやおや、珍しい。ニンゲンが居るよ」

「え、ニンゲン?」

「ここに来たって事はあの怪物が居なくなったってことじゃ……」


 リングだけでなく、辺りをよく見渡すとケンイやフィオよりも一回り小さいサイズの小人、もとい精霊達が各々の住まうミニチャアハウスからひょこひょこと顔を出す。

 興味本位でこちらを伺う者やここいらを支配していたキュクロプスの脅威から解放され歓喜する者もいる。

 だが、彼らが抱いているのはそれだけでない。


「ねぇねぇ~、お兄さん、これを読んでみて」

「ん?」


 ズボンの裾を引っ張られると精霊が一枚の紙を俺に渡してくる。


『誓約書 汝は我 精霊と契約を結ぶ事を承諾する』


 そう記された紙を一瞥すると俺は直ぐに返す。

 にっこりと笑った精霊は「触りましたね」と言うと悪い表情を見せる。

 紙を介して自身の魔力を流そうとするも、誓約書が突然燃え出し始める。


「嗚呼!何するんだよ」

「それはこちらの台詞さ。彼は今、僕のマスターだよ」


 自慢気な顔で横に立つデュランに多くの精霊が不満な顔で異を唱える。


「古参風情の精霊が!」

「暴食、惰眠の駄目精霊なくせに!」

「自由奔放が!」


 様々なヤジが飛び交うも涼しい顔で受け入れる。

 彼らの言い分はデュランも自覚しているし、それをある種の美徳だと変換している。


「お前、プライドとかないの?」

「無駄なプライドは捨てたよ。僕は僕だしね」


 何を言っても無駄だと判断した精霊は舌打ちをして引き下がる。


「お前がこうして出て来たのはこの為か?」

「そうそう。マスターは精霊からしてみれば超絶魅力的な物件だからね。僕がこうして妨害しないと悪徳勧誘に走ってきた彼らを止める術はないから」


 悪徳勧誘って……まぁ、やり口に関してはそうかもしれないな。


「でも、何で俺なんだ?異世界人だからか?」


 メアリもそうだったが、やたらと俺との契約に拘りを見せていた。

 その理由が何の関係かは知りたかった。ケンイみたく魔力が多い者と契約を結べば、精霊自身が持つ魔法を存分に振る舞える筈なのに。


「それもあるよ。並外れた身体能力に、異世界の知識、僕らにとっては退屈させない良い物件だと思っているんじゃない」

「人を高級マンション扱いか……」

「争いに巻き込まれ体質なのは誇っていいよ」

「嬉しくねぇ~」

「その点ならケンイも当てはまると思うが」


 俺と同様、数名の精霊に興味を示されているフィオに対してケンイには誰一人として興味を抱いていないかの様に感じる。むしろ、怖がられている。


「彼は僕らにとって扱いずらいんだ。魔力が多過ぎるあまり中に入れない」


 そう言えば、ユリナも精霊とは契約していなかったな。

 二人に当てはまる共通点と言えばそれくらいだろうか。


「さて、そろそろ本題へと移ろうか」

「本題?見たところ、戒言は何処にもないが」

「あれはメアリに任せよう。彼女がマスターをこちらに寄越した本当の目的」


 デュランはリングの前で魔法陣を構築すると特殊な波動を送る。

 合図を送る信号の如く、繰り返し知らせる。


「この先には行かせられないから、敢えて呼ぶことにしたよ」


 誰を、とは聞かなかった。

 デュランの顔には少しばかり余裕のない様子が伺えた。

 周囲にいる精霊達が少しばかり嫌そうな顔で整列し始める。

 まるで、高貴な存在を迎えるかの様に。


「僕らの王をね」

次回から三話程、幕間を掲載します。

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