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四十六話 報告と依頼

「なに、悠馬君達が戻って来ないだと」


 王国内の侵入者を撃退し、厳戒態勢を解いた国王らは無事に帰還したユリナから情報を聞き取り、敵についての情報を纏めると共に今後の方針について改めて話し合いを行っていた。そんな中、急ぎ王宮へと出仕したカイルは国王の前に膝を着いて報告する。


「はい。二時間経っても戻って来ませんでしたので遺跡のある海域も捜索しました。そこで……」


 その場で目にした光景を声を震わせながら伝える。


「そこで我々は伝説の魔獣、リヴァイアサンを確認しました」


 その報告に耳を傾けていた会議の参加者一同がざわめく。

 近くで聞いていたユリナを含め、国王も依然とした態度では居られなかった。


「申し訳ございません。私も部下の命を秤にかけ、探索を中止し、戻ってきた次第です」

「いや、懸命な判断と言えよう。リヴァイアサンを見て、生きて帰った者はいないと言われる。其方らはよく無事に帰還してみせた」

「有難きお言葉……」

「それでカイルさん。悠馬様達は一体どこに」


 ユリナの質問にカイは一度目を背けるもちゃんと目を合わせて答える。


「分かりません。遺跡に何があるのかは私には検討もつかないので詳しいことは……」

「ふむ。ユリナ、賢者様は何と言っていた」

「遺跡が精霊殿であるのではないかと、憶測は立てていました」

「精霊殿……か。それなら、我々では何も出来ぬな」

「はい。あそこは先生……いえ、セルフィード様が治める場所です。エルフの里にすら土足で入ることは出来ませんのでここはあちらにいる姉様に連絡を入れた方が良いと考えます」

「それが最善か……」


 ユリナの提案に頷いた国王は直ぐに遠隔連絡用の魔具を近くで控える従者の翁に用意させる。


「スタットフェルト卿、報告ご苦労であった。下がってよいぞ」


「失礼致します」と一言発すると礼をして会議室から出る。

 

 迷宮とも言える広大な王宮内から出ようと歩きながら今は無き片腕を擦っていると不意に声を掛けられる。


「まだ痛みますか?」


 先程まで聞いていた声に直ぐに反応すると足を止めて振り返る。


「いえ、それ程は……」


 じりじりと疼く身体の痛みを誤魔化すかの様な笑みを浮かべた。

 自身には似合わない上っ面な表情。


「やはりまだ痛む様ですね」


 見透かした顔で言うとカイは弱々しく「はい」と答えた。


「少し話しませんか。貴方と顔を合わせるのは久し振りですし」


 「いいえ」という拒否権は無い。

 この国で彼女に対して「いいえ」と言えるのは友人の悠馬だけであろう。

 そう考えながら、ユリナに導かれるままに歩むと王宮の傍にある庭園へと出る。

 色とりどりの鮮やかな花に包まれた庭園の中央に一際目立つテラス席が備わっていた。

 向かい合う形でお互いに座ると予め準備していた従者がティーセットを机に置き、紅茶を入れて持て成す。

 よく分からない待遇にカイは戸惑いつつも紅茶を頂く。


「緊張していますか?」

「はい、勿論ございます」

「二人の時はもっとフランクで良いですよ」

「そうはいきません。私にも今は立場というものがあります」

「悠馬様と居る時はそうではないでしょう?」

「アイツは何といいますか、一応戦友ですから。ユリナ様と違って敬意とかないですし」


 その返事に薄く笑う。


「一応、そういった気遣いはなくていいと言われてますし」

「そうでしょう。悠馬様にはこの世界で気を許せる友人はカイルさん以外にいませんから」

「………」

「私を含め、悠馬様と深く関わりのある人物はこの世界ではもう生きていません。かく言う、私もカイルさんも同じ様に失っています」

「そうでしょう。私は剣士学校を卒業した同期のほとんどを先の大戦で失いました。特にクロードを失った事には私も悠馬も一生癒えぬ深い傷が残っています」

「そうですね。つい一か月程前、悠馬様が元の世界に帰ろうとしていた際、その事で深く悩んでいた事を思い出せます」


 元の世界で大切な仲間を失う事を知らなかった人間が、この世界に来て悲劇な死を迎えた仲間の死を目にした彼は絶望に満ちた顔で骸を抱いていた。

 初めて目にした溢れんばかりの涙。

 殺された事の憎しみや悲しみではなく、ただもう二度と話せない事を知った時の彼の顔はあまりにも悲痛で孤独に染まっていた。

 心から笑いあい、馬鹿をして、瀬戸悠馬という人間性を出し切って相手に出来る人はもう二度と目を開けて話す事の出来ない彼だけなのだと私は知った。

 そして、気付いた。

 悠馬様が本気で笑える世界はもうここにはない、と。


「俺はアイツとクロード程の深い関わりはありません。まだ一年とそこらの付き合いですし。何よりも、悠馬はクロードみたく肩を並べて共に戦うことは出来ない。こうして、アイツの下に付いたものの、あげれるものと言えば、オレンジジュースくらいです」


 いつの間にか口調がいつも通りになっている事に気づかぬまま話を進める。


「受けてばかりの俺はそれくらいしか返せないし、与えられない。これからも俺はスタットフェルトの長として、領主として向き合うからには本当の意味で仲を深めるのは厳しいでしょう」


 対等ではいられない。

 悠馬に対する甘さとして享受してしまうから。

 それは領主となった今は酷く意識してしまう。


「でも、アイツは否定するでしょう。優しいアイツは重荷なんて気にも留めず」


 その光景を何となく予想出来るユリナは心の中で頷く。


「ユリナ様はどうして悠馬を帰らせなかったんですか?」


 話の流れからして単純に、素朴にふと頭に過ぎった質問を投げかける。

 その返事は直ぐには返って来なかった。


「申し訳ございません。答えづらいですよね」


 自分の不躾な言葉に謝罪を入れ、慌てて話を切り替えようとするも


「私はずるい女です」


 音を鳴らせずにカップを皿の上に置く。


「悠馬様の人生を狂わせ、自分の感情を優先して無理矢理、この世界に留めました」


 王女の口から語られる本音にただ黙って聞く。


「私は多分、悠馬様と居られるこの時が一番幸せで、楽しくて、放し難い時間なんだと思います。これからも二人で並んで、未来を掴みたい。そう悩んでいた時期もありました」

「ユリナ様は間違いだとお考えですか?アイツがこの世界に残したこと……」


 結果的に、打算的に見れば悠馬を残した事はこの世界にとっては良かった。新たな魔王の誕生に対抗しうる存在は瀬戸悠馬ただ一人である。

 しかし、本当ならばそれは間違いだ。

 約定を違え、己の私利私欲で縛ってしまった以上、そこには後ろめたさが憑き纏う。

 けど……


「後悔はしません。私は悠馬様に告白された時に決心しましたから、責任を取ってもらうと」

「責任ですか?」

「はい。悠馬様は以前、こう言いました『もし、俺がユリナを傷付けたら……その時は責任をもって何でも言う事を聞く』と」


アイツそんな気障な台詞をユリナ様に言ったのか。


「だから、決めたのです。想いだけ伝え、私に傷つけるくらいならしっかりと責任を果たしてもらおうと」

「………」


 何も言えなかった。

ユリナ様は悠馬の事となると少しお馬鹿になるというか、予想を斜め行く様な行動を取ってしまう事がよく分かった。

 まぁ、これに関しては変にしこりを残させた悠馬の落ち度でもある。

 今更、元の世界に帰れなくなって同情する余地さえも消え失せた。


「はぁ、それで話の前置きはここで終わりにしましょう。俺を…いえ、私に話という本命は他にありましょう」


 カイルの言葉にこくりと頷くと傍に控えていたメイドを呼び出し、机の上に書類を置く。


「これは?」

「ラフォント家の出自記録と家系名簿です」


 書類を覗こうとはしない。

 これは一度でも触れてしまうと厄介な事に首を突っ込む事になるから。だが、置いた意味は分かる。


「私にラフォント家の動向を探れと?」

「端的に申せばそうです。貴方に適した仕事ですし」

「過信です。影の連中の方が余程有能ですよ」

「いえ、貴方の精霊の方が今件に関しては適正かと」


 否定はしない。

 内情を探るという点では影の連中は向かないだろう。

 暗殺と偵察を得意とする彼らより、場に溶けこんで一体化する能力の方が情報を集めるに適している。

 そして、カイルはこれに断る事は出来ない。


「派閥になった以上、これくらいの仕事を請け負わなければ対等とはいかない……か」

「こちらも全力でバックアップは致します。ですので………」


 それ以上は言わせない。

 不可能でない以上、出来る限りの事をしようと決めた。


「承知致しました。スタットフェルトの名に懸けて」


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