四十四話 強者への一歩
「ったく、ここはどこだよ」
ヒカルゴケの灯りを頼りに精霊殿内の調査を進めているも所在が分からなければ、進む道も分からないせいで完全に道に迷っている。
魔力探知に敏感なセルフィは侵入者の対処に当たり、何処かに行ってしまった。
「ケンイ、何か分かったか?」
魔力量の多いケンイに戒言の捜索を一任し、先頭に立って歩いてもらっている。
「薄っすらとだけど、この先の奥に何かありそうだよ」
「分かった。そのまま進んで……」
突然、獰猛な魔獣の叫び声が遺跡内を反響させ、耳を刺激させられ、反射的に耳を手で覆って塞ぐ。
「五月蠅い」
「なんか凄い声しましたよ」
全身の毛が逆立つ様な音響に四人は驚く。
フィオは先程、海で出くわしたリヴァイアサンにトラウマを覚えてしまったせいか足を小刻みに震わせながら俺の腰を強く掴む。
「大丈夫か?」
「は、ひゃい!」
これはちょっと不味いな。
こんな危険な探索になるのであれば連れては来なかったが、ここまで来たからには最後まで付き合ってもらう他ない。
「ケンイ、交代だ。ここからは俺が前に出る」
フィオの手を腰から外すとこちらに来たケンイの手を取って繋げる。
「二人は後ろから後方支援を頼むよ。俺とアイラちゃんで前に立つ」
目で相槌を送るとこくりと頷いて了承を得る。
いつでも戦闘が出来るよう魔剣を抜いたまま前に進む。
大きな音を立てないよう出来るだけ静かに歩く。
「あれは……」
少し開けたルームに出ると大きな一本角を生やした一つ目の巨躯な魔獣がギョロりとした目でこちらを見据えていた。
三メートル近くある分厚い筋肉に覆われた身体。
手元には1m半程の大斧が握られている。
「何だこいつ……」
「あれはキュクロプスです。普通の魔獣とは違って遥かに知性を兼ね備える特徴があります」
見た目に反して賢さが売りの厄介な敵か。
加えて、全身に鎧でも纏っているのかと思う程の隆起した筋肉。簡単に刃が通らなそうな印象しかない。
「弱点は?」
「全身に分厚い装甲を纏っていると考えて下さい。狙うとすれば、両腕、両足の健です」
やはり弱点はその部位か。
それに気になるのはあの大きな一つ目。
奴は俺達がここに来る以前からあの目でこちらを見ていた様に思える。
先程の咆哮は『掛かって来い』という意図を持ったものなら、気付かずに奴の縄張り(テリトリー)に土足で入ってしまった訳だ。
「ケンイ、フィオ。二人は後方で支援魔法を頼む。ケンイは少し離れた位置から側面に攻撃を、フィオは
回復と付与を」
「はいよ」
「分かりました」
まだ戦士としては幼い彼等に支援を任せるのは少し心許ないが、セルフィの指導を受けた二人の実力も知っておきたい。
この四人で戦う場面が増えれば恐らく、この先の戦いの参考にもなる。
「アイラちゃんは俺と前で敵を引き付ける。正面からの戦いはなるべく避けて」
「了解です」
俺はキュクロプスから少しも目を離さずに全員に動き方を伝達した。
逃げようと思えば、逃げられる筈。
だが、今こいつから目を離せばこの中の誰かが死ぬ。
それ程の実力者だと、俺の身体が…本能が奴の醸し出す殺気に反応している。
取り敢えずの作戦はこうだ。
出来るだけコイツの攻撃を俺が受けて横からアイラちゃんとケンイでジワジワとダメージを入れる。至ってシンプルで且つ、自身にだけ滅茶苦茶厳しい要求。
身体に鞭を打つ覚悟を決める。
「行くぞ」
合図と共に二人でキュクロプスへと距離を詰める。
奴の目を離さずに見て、どちらに来るかを予想する。
右か、左か。
左右に目が素早く動くと身体が左へと動く。
「アイラちゃん!」
やはりそっちか。
獣の直感か、あるいはスピード的に判断したのか、動きが速い俺ではなくアイラの方に狙いを絞った。
図体に似合わない速度で距離を詰めて来ると大斧を高く掲げ、真下に思い切り振り抜く。
タイミングを見極めたアイラはステップで軽やかに回避するも、打ち付けた衝撃の余波に身体のバランスが崩される。
「しまっ……」
地面から舞う砂埃で若干視界が奪われる。
すると真下から伸びてくる黄褐色の豪脚が途轍もない速さでアイラに放たれる。
クソ間に合え。
脚部に魔力を流し、身体能力を強化、加速。
身体一つ分の隙間にギリギリ入り込み、蹴りからアイラを守る。
「ぐうぅぅっ!」
ドデカイ鉄球に打ち付けられた感覚が両手を襲い、ビリビリとした刺激と共に腕ごと弾かれた。
その間にアイラは退避し、追撃がないタイミングを見計らって俺も退く。
「すみません、狙われました」
「いや、仕方ない。それより……あの一撃を回避出来た事を褒めるよ」
回避のタイミングは完璧だった。冷静に状況を分析し、動きを見極めていたのは素晴らしいの一言だ。だが、それ以上にあのパワーが規格外過ぎた。
大きく回避しなければ衝撃の余波に足を取られ、距離を詰めて攻撃を図る。
悔しいが、初手の戦法において一枚上手だったのはあちらだと認めよう。
「あの魔獣、中々に戦い慣れているな」
「キュクロプスは知的な個体もいると聞きます。あの個体は恐らく自身の長所を戦いに上手く反映できるかもしれません」
その正確な分析には、頷かざるを得ない。
たかが魔獣だと侮って戦えば、先程みたく痛い目に遭う可能性も高い。
特に三人を守りながらだとしたら、慎重に且つ相手の気をなるべく俺に集中させる必要がある。
そうなれば接近戦での戦いが望ましいかもしれないが……懸念すべきはあの身体だ。
黄褐色の肌から際立つ隆起した鋼の如し硬さを有するであろう筋肉。あれを傷付けるにはかなり骨が折れるのが目に見える。
「こりゃ、久しぶりに身体を張るしか無さそうだな」
多少攻撃を受けてでも無理矢理刃を通すしかない。
あの図体の特性上、小回りが効くような身体では無い。なるべく離れずにギリギリの距離を保ちながら戦うのがベターか。
頭の中で即席の作戦を立てていく。
「フィオ、俺達に防御魔法の付与を頼む。出来るだけ持続して掛けて欲しい」
「わ、分かりました」
白い魔法陣が三人の足元に浮かび上がると魔力の硬化な膜が身体を覆う。
強度と厚みの調和が良い魔法だ。
これなら四、五発受けても耐えられる。
「多少攻撃を受ける覚悟で敵と距離を詰める」
恐怖に駆られるかもしれない。
身の危険を冒す以上、あまりこういう命令はしたくないが手段を選ぶ余裕はない。
「攻撃は俺がなるべく受ける。アイラちゃんは気にせず、敵の弱点を狙ってくれ」
「はい!」
「よし……ん?」
アイラの意志を聞き、行動に移そうとする直前、奴の大きな瞳が後方を捉えた。
「不味い」
新たなターゲットを捉えたキュクロプスが大きく高さのあるこの広いルームの半分以上まで高く跳んだ。
「ちっ」
早々に作成の変更を迫られたことに軽く舌打つ。
軽々と跳んだ巨体が頭上を越し、その遥か後ろにいるフィオに目掛けて大斧を投擲。
「しまった」
カバーが間に合わない。
旋回する大斧を前に、立ち尽くし怯んだフィオは一歩も動けずにいた。
だが、それが返って好都合でもあった。
「爆ぜろ」
魔力が乗せられる声が発っせられた直後、空を轟く爆炎が大斧を強襲。その衝撃波によって軌道が大きく逸れていくと、フィオの少し横に大斧が流れ、背後の地面に突き刺さった。
「ナイスだ、ケンイ!」
間一髪とも言えるフォローを讃え、即座に流れを切り替える。
武器を失いただ落下するだけの筋肉達磨と化した隙を見逃さない。俺は負けず劣らずの跳躍を披露し、キュクロプスの腕に刃を叩き込む。
ガキィンという甲高い音が鳴り響くも、鋼の如し硬質な筋肉に全く刃が通らない。
「くそ、せめて肉を断てれば……」
「後ろ!」
咄嗟の気配に振り向いてガードをしようとするも俺はキュクロプスの蹴りを直撃で受ける。たった一撃で防御が割れる音が鳴り響くと同時に地面に盛大に叩きつけられた。
「ア゛ア゛ッ」
魔法で直接の衝撃は緩和されるが地面に叩き付けられた衝撃が背中を襲う。
多少痛みを感じ取るも直ぐに意識を戻して起き上がると続け様に攻撃を行うキュクロプスの踏み付けを回避する。
「やべっ」
振り上げた豪脚が大木の如く振り払われた。
「させません!」
間に入ったアイラちゃんがカバーする形で受け止めるも圧倒的な力に差を前に押し負ける。
「あぁっ」
言葉にならない叫びが俺の横を通り過ぎて背後に飛ばされる。反射的に身体を受け止めて、衝撃を和らげる事も出来た。しかし、身をもって作ってくれた折角の機会を無駄にはしない。
「お返しだ」
大きく足を開いて身体を横に一回転し、背後を取ると俺の腰辺りにある脹ら脛の付け根を狙って一閃を放つ。
綺麗に肉を断ち、骨まで傷付けるも右足丸ごと一本もらい、とはいかなかった。
だが……
「勝負アリだ」
自壊。この能力が発動すれば魔剣の中にいる精霊が相手の魔力を食らい尽くし、敵の肉体を構成する細胞を死滅させる……筈。
キュクロプスには全くと言っていいほど変化がない。
むしろ、自己再生能力を保有しているのか傷が徐々に塞がっていく。
「なんでだよ」
敵を倒す算段が瓦解し、かなり焦る。
ここ、魔力が湧き出る程豊富だからもう要らないわ。というは眠たげな声が俺の脳内で告げた。
「おい、じゃあどうしろと」
常に腹ペコで魔力不足な精霊だと、クロードは言っていた筈だがここ最近は能力を使うことが少なかったせいもあり、かなり満腹なご様子。
足が動けるくらいまで回復したキュクロプスは大きな目をこちらから一切離さず、怒りの形相でこちらを睨む。
好都合だ。
理性があろうとも、怒りで我を忘れ、冷静でなくなれば多少は………
そう思ったのも束の間、先程よりも何倍も速い動きで真正面に立つと強烈なブローを下から上に振るう。
先程の反動で身体が動きが鈍い。避ける判断を捨て、防御へと徹するも……まるで鉄球に殴られたかのような感覚が襲う。身体と意識がものすごい勢いで後方に飛ばされた。その瞬間、自身の身体を絶対に壊れない魔剣だと思い込ませて魔法を行使する。
遺跡内部の壁面に思い切り衝突し、壁にめり込むも衝撃によるダメージは無い。
「くそ、間に合わなかった」
『不懐』の概念を聡明にイメージすることで一時的に自身を絶対に破壊されない身体へと昇華させるとっておきの魔法。しかし、受けた直後に行使したため、両腕の骨にひびが入る程の損傷を受けた。
この状態はもって三分といったところ。
それが過ぎれば受けたダメージが痛みとなって全身に返ってくる諸刃の剣。
この魔法を使った以上……
「後には引けない!」
更に追い討ちをかけてくるキュクロプスの拳を全身全霊の一撃を込めた拳で交わす。
不壊に合わせた自壊の能力で身体の制限を一時解除。常人を外れた規格外のパワーを返した俺は奥歯を強く嚙み締め、思い切り腕を振り抜く。
足場となる地面に大きく亀裂が入るも、純粋な力比べで俺は制した。
「フガァ!」
衝撃に腕だけでなく、全身弾かれると怪物らしく呻き声をあげる。
キュクロプスの巨体が後ろへと逸れ、崩れ落ちる最中、俺は魔剣を抜いて魔力を刀身に帯びさせた。
「うおおおおおおお!」
端から作戦なんてものはない。『好機は逃さず叩く』という自論に従い動く。
大きく揺れ動く感情に自身の雄叫びを交えると俺は本能のままに跳んだ。
体勢を崩したキュクロプスの身体を目にも止まらぬ高速で斬り結ぶ。
たった三秒。その間、周囲に足場となる障壁を同時に複数個設置し、連続で跳び続けた。
傷口から吹き出る大量の血がスプリンクラーの如く舞う。
受け身が取れないまま落下し、地面に叩き付けられるも直ぐに起き上がる根性を見せた。
足を止めない俺は背後に回る。大きな背中に付けた傷の中で、回復の早い箇所を瞬時に見抜く。
「そこか」
魔獣の心臓でもある魔核。
その一点に目掛けて地面を強く踏み込み、その勢いで圧砕させる。
蹴り上げた直後、旋風の如く自身の身体を一つの槍として敵を穿つ。
「魔槍の一撃!」
鋼の硬さを誇る高密度の筋繊維を強引に突き刺す。
貫通した剣先が胸から突き出て量側面からおびただしい量の血が吹き出る。
しかし……
「外したか」
狙って突き刺した部位とは少し位置がずれた所に魔核があった。
剝き出しとなった脈打つ紫紺の心臓を破壊しろと本能が訴えかける。
残り僅かの魔力を練り上げ、魔核を吹き飛ばそうとするも運悪く魔力が尽きた。
「タイミング……」
魔法の代償としてその間に自分が味わう筈だった痛みが瞬間的に凝縮されて返ってきた。
クソ、まだだ。まだ…終わってない。
意識を強く保とうと暗示をかける。
しかし、直後に激痛が全身を襲い、俺の意識は半ば強制的に暗闇へと沈められた。
「あとは……たの…」
薄れた瞳に映った少女へと微かなメッセージを残し、俺は倒れた。
△
「悠馬さん……」
悠馬が気を失う前まで、あまりの速さに付いていけない三人は傍観していた。
目の前で行われる異次元の戦闘が自分達との力量を明確に示した。
手を伸ばそうとも決して直ぐには至らない高み。
力無き者を一人たりとも寄せ付けない強者の境地。
一歩踏み出すだけで恐怖に駆られ、自信を問われる。
そこにお前は必要か
行けば足を引っ張るだけではないか
並べる覚悟はあるのか
と三人にそれぞれ問われる。
その問いが彼女達の足を、手を、目を止め、頭まで静かにしてただ傍観者へと誘った。
しかし、それを許せない自分も微かにいた。
強くなると心に決め、厳しい師の元で修行を積んだ記憶。
守りたい人を傷つけた時の悲しみ。
自身が愛した兄に追い付きたい自分。
各々の深い傷が前に進めと疼いく。
無意識に剣を鞘へと納めてしまった自分にもう一度発破を掛け、弱い自分を一蹴する為に叫ぶ。
「悠馬さんが作ったこの機を無駄にしない!いくよ」
似合わない台詞を吐き捨てると思いに答えた二人は瞳に戦意を戻す。
作戦は言わない。
この数週間、各々が経験した練習、鍛錬をここで披露するだけ。
先ず、真っ先に動いたのはフィオ。
恐怖から一番遠く、近づくことの出来ない彼女は二人が前に進む為の力を付与する。
「【力ある者よ 立ち上がれ 】」
詠唱。
自分には敵を害する力がない、その代わりに味方を強化、守護する魔法がある。
その力の本流を唄として発現させる。
「【旋風の脚 精強な腕 頑強な体】」
足元に拡がる白い魔法陣が徐々に浮かび上がる。
「【力を与える 力無き者に代わり 強者と成れ】」
白く輝く二本の線が二人の足元に延びていく。
「【強者の矜持(デア・リンセント】!」
詠唱の終わりと同時に二人の足元に小さな魔法陣が同様に浮かぶ。
「力が溢れる」
「これならいける」
強者になれない自分の代わりに強者になる為の力を他者へと与える。
高みへと昇華させる事で背中を押す役割。
弱腰でもいい、前に出なくてもいい。
その代わり、自分が出来る最大限の力を二人に!
魔法の持続時間は自身の魔力が通じる間。数秒しか持たない付け焼き刃の力でもないよりマシ。
「ケンイ、悠馬さんの剣に向けて魔法を」
悠馬が気を失って僅か数秒、その間に膝を付いて自己再生に専念しているキュクロプスは目だけをこちらに向けて警戒を行う。すると今まで、一番目に映らなかった人物に目を釘付けにされる。
思考がはっきりとし、やるべき事が明確に見えたケンイは集中力を高め、魔力を練り上げる。
イメージするのは先程の悠馬の放った一撃。
それを自身の記憶の闇にある映像と重ねる。
知りもしない記憶。自分ではない誰かが暗闇の中で光る映像を座って見ている光景を顔も分からない誰かの後ろで見詰める。
「こうだよな」
弓を構えるポーズを取り、そこに炎で造られた弓と矢を再現する。
紅蓮に燃える矢の周りに周囲の風を操作して纏わす。収束された炎は一本の剣へと形を変える。
何度も見た光景。
異能なき自分には再現不可能な魔法。
それを今、ここで体現する。
「カラドボルグ」
狙いを定め、引いた弓から手を離すと烈火の炎を纏いし、一振りの弓撃が躱すことの出来ないキュクロプスの胸を射抜く。直撃と同時に激しい延焼が周囲もろとも襲う。
「やったか」
激しい炎が周囲に小さな火花を散らすと胸に大きな風穴を開けた怪物が炎から現れる。
千切れ、溶けた肉の間からは魔獣が生存する為の魔核がボロボロに欠けながらも辛うじて原形を保っている。
既に虫の息であるキュクロプスはまだ抗おうと重く鈍い身体を必死に動かす。
魔獣としての、怪物としての矜持が死に体であろうともそうさせる。
破壊と絶望を与える。
恐怖せよ、臆せよ。我はここで終わらん。
「guooooooooooo!」
死の淵際に立つキュクロプスはそう言わんばかりの雄叫びを轟せる。
反響する轟音は三人の耳を震わせ、全身に恐怖を駆り立てさせるものだが彼らはもう臆さない。
後退は即ち死。
死に体の敵に圧倒的に有利な自分達が負けるわけにいかない。
「お願いアイラさん!」
「いけ、姉ちゃん!
二人の声援に背中を押されたアイラは緊張する身体を一呼吸で解く。
身体を屈め、最初の一歩を切り出す。
「ごめんなさい」
決して、憎い訳でもない。
恨みを持っている訳でもない。
しかし、襲ってくる以上戦わなければどちらかが死ぬ。
怪物に対する妙な感傷に浸りながらも燃え行く道の中をアイラは突き進む。
全身に込めたあらゆる力を脱力させ、その反動で内側から一気に外に向かって力を引き出す。
『あまりオススメはしないけど、いざという時にアイラちゃんが使える技を教えておくよ』
そう以前、教わった技を今ここで切り札として使う。
「限界突破」
旋風と化したアイラは素早い剣技でコアを覆い隠す両腕を切り落とす。
肩を蹴り、頭上へと上がると自分の敬愛する師匠に習って障壁を展開。
剣を鞘に納め、数十倍に鋭くなった感覚を刹那で研ぎ澄ます。
「裂空」
そう一言放つと閃光の速さで魔核を真っ二つに斬り割く。
硬い水晶の様な音で弾け飛ぶと要を失ったキュクロプスの身体は灰と化す。
意図して起きた静寂に三人は勝利した事実を嚙み締める。
「よっしゃー!」
「勝ったの……」
「ええ、美味しい所を持っていきました」
三人の喜ぶ声を灰の近くで横たわる悠馬に全て届いていた。
美味しい所を持っていった。アイラちゃんのその発言の通りかもしれない。
でも、これだけは誇っていい。
「強くなった」
力はあるものの、自信が持てない三人。
何か一つのきっかけで変わる自信が彼らには欲しかった。
それが如何に大事であるかを理解していたセルフィは敢えて、この敵を俺たちに戦わせたに違いない。
試練にしては少々やり過ぎと思えるがな。
ぼんやりとした意識の中、重く怠い身体に鞭打って立ち上がらせると俺は魔剣を拾って鞘に納める。
すると、目の前に見知らぬ少女……もとい掌サイズの小さな精霊が現れた。
「この馬鹿ちんがああああああああ!」
突如怒鳴り散らされると、耳に響く大きな声で満身創痍の身体は限界を迎えた。
明暗を繰り返す俺の意識は再び闇へと沈む。




