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四十一話

 王国の首都である城下町から北西に位置する旧王国の町が存在した遺跡群。

 その外れの位置にある深い森の中に一人、可憐な美少女がお供の一人も連れずに歩いていた。

 手元に添えられた大きな花束を抱え、いつもの足取りで彼女はある場所へと向かう。

 薄暗い森を抜けると円形に切り取られた広場へと出る。

 その中心に彼女の目的があった。

 百年以上前に建てられた名も知らないある王女の墓。

 現在の新王国時代を迎える前、二代目勇者と共に戦いその果てに命を失ったとされる旧王国の王女。

 その存在自体、王国の歴史が塗り替えられると同時に歴史から消え去られ、故に名前すら分からない。

 しかし、彼女はこの墓を見つけて以来、自身の祖先に対する敬意を払う為にも度々王宮の目を盗んでは花を手向けにやって来る。

 墓に近づいて行くと、誰かが墓の前に立っていた。

 彼女の足音に気付いて振り向く。


「こんにちは、あなたもお墓参りですか?」

「さぁな。たまたま立ち寄っただけだ」

「そうですか……」


 墓の前に並び、そっと花束を手向け慰霊を込めた礼をする。


「あなたはこの方をご存知ですか?」


 その問いに男は何も言わない。

 反応に気になり、下から覗くように顔を伺う。


「邪推でしたね。すみません、百年以上前の人の事を人間であるあなたが知りもしないですよね」

「俺が人間?そう言ったのか……」

「えぇ、何処からどう見てもあなたは人間ですよね?」

「昔はそうだった。だが、今は違う」


その言葉の意味を深く詮索するつもりはない様子で立ち上がると顔をよく見詰める。


「……悲しそうですね」


 その最もと言える男の内面を写し出した指摘に男は言う。


「否定はしない」

「お話でも聞きましょうか」

「要らぬ世話だ」


 即答で返される。

 彼女はムッとした表情を見せる。


「好意を適当にあしらうのはどうかと思います」

「向けて欲しいと思っていない」

「では、何でそんな顔をなさるのです?」


 今度は即答されなかった。

 返ってくるのは静かな静寂。

 少し困った顔を見せると彼女はクスリと笑む。

 

「何がおかしい」

「いえ、言葉とは裏腹に意外とお顔に出やすいので」

「よく言われる。だから仮面を付けている」

「仮面ですか?」

「あぁ」


 これ以上顔を見られるのに嫌気が差したのか、何も無い所から仮面を取り出すと直ぐに付ける。

 妙な雰囲気に包まれた二人はお互いに初対面でありながらも少し気を許した関係で話し合っていた。

 しかし、そんな流れも束の間……


「そこまでにしましょう、姉様」


 森の中から現れたユリナが戦闘体勢時に着用する白を基調としたバトルドレスを纏い、片手に小さな(ロッド)を携える。

 警戒心を強めながら一歩ずつ近づく。


「最悪なタイミングです、狙いは何ですか?」

 

 その問いを仮面の男に投げ付ける。


「特に無い。今日の所はな……」

「そうですか。ですが、こちらにはあります」


 空間魔法を使って姉であるサレンの居る空間を置換させ、こちらに避難させる。


「姉様、無事ですか?」

「私は無事よ。それよりユリナ、これはどういう事?」

「事情は後で説明します。今はこの場から離れて下さい」


 森の中で待機していた二人の侍女がサレンの元にいくと手を取って森の中に引き下がる。


「二人とも、全速力で王宮に戻ってください。お父様には騎士団を展開して待機するように、と」

「ですが、ユリナ様お一人で………」

「すみません。私が本気を出せば三人を巻き込み兼ねませんから」


 言葉の真意を察した二人はユリナの指示に従って森に止めていた馬で王宮へと帰路に発つ。


「俺と殺るつもりか?」

「そのつもりです」


 仮面の奥に見える瞳が赤く輝く。


「高い魔力を持っているようだな。その力、人間にしておくには惜しい」


 自身の内に抑えていた黒い魔力を解放させる。

 魔の瘴気に当たり草木が枯れ、天気も急に曇り空と辺りの雰囲気も薄暗く変容する。


「やはり、あなたが新たな魔王でしたか」


 約三ヶ月程前に相対した魔王とは魔力の質も全く違う。

 だが、この男から感じる禍々しい魔力はそれに準ずるもの。


「魔王か……俺はそういった存在ではない」

「では、なんでしょう」

「この世界を再編する者」

「再編?」

「そうだ。俺は俺が失ったモノを取り戻す為に世界をやり直す」


 男は偽りなく自身の本心を語る。

 失ったモノ。その言葉の真意は分からないが、ユリナは心を落ち着かせる訳にはいかなかった。

 脳裏に過ぎるのはかつての仲間達。

 彼らを生き返らせる魔法があるのなら、その力を何としてでも手に入れたい。しかし、現実にはそんな魔法は存在しない。

 辛うじて近いとされるのは闇魔法の秘術、死霊術(ネクロマンス)くらいだ。その魔法自体に蘇生の概念はない。あるのは死者の魂を無理矢理現世に留め、魔法を通じて術者が操るだけ。

 おそらくこの男が言う、世界の再編とは死者を生き返らせることでは無い。

端的に言えば、時間の遡行。


「仮にもそのような魔法があるのだとしたら、何故あなたはこの国を襲うのです?」

「単純な話。極大魔法を使うのに大量の魔力は必須だ。違うか?」


 術者一人の魔力では困難な場合、多数の人数を合わせて同時に魔法を行使することで可能とする魔法。理 論的には可能ではあるが、それは同じ魔力の質を持ち、同系統の魔法士でなければならない。故に実践では不可能とされている。


「極大魔法は実践では不可能な力です。それをどう……まさか……」


 ユリナはある点に気づく。


反転(フォールアウト)の経験がない貴様ら人間には分からんだろう。我々の持つ反転した魔力の性質には相違は無い。貴様らが悪魔全体を個として称するようにな」

「だから、魔力の高いケンイさんを狙って……」

「そうだ。あの小僧の憎しみを煽り立て、戒言を与え促そうとしたが………奴はどうやら中身がまだ半端のようだからな。失敗した」


 つらつらと語られて出てくるあらゆる単語に疑念を抱き切れない。

 悠馬様やフィオさんが知らない事をこの男は知っていると思われる。

 直接この場で問いただしたい所ではあるが、事が上手く運ぶ相手では無いのは重々承知。

 自身の中に秘めている魔力を久方振りに外へと流す。

 可視化される程の溢れ出た魔力の渦が風となってユリナを包み込むと魔力に充てられて髪が強く靡く。


「やる気だな」

「はい。私はこの国を守る守護者として、この場であなたを倒します」

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