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四十話

「よーし、この辺りだ。船を停めてくれ」


 港から船を出して三十分程の沖合。

 水深はそこまで深くなく、慣れたダイバーなら素潜りで底まで行けるほどの深さらしい。


「ここが、例の海底遺跡の辺りなのか?」

「そうだ。ここから約北西の位置にある」


 海底遺跡の真上ではないようだ。


「遺跡の影響で海の魔獣が活発化してるからなぁ。俺達の漁師でも容易に近づけないんだ、すまんな」

「理解はしてるさ。でも、どう行くか…………」


 海底遺跡の探索方法は全てセルフィに一任してある。

 海に潜っても活動出来る魔法を知っている彼女に作戦を立ててもらった方が良い。


「ふむ、確かに『(リング)』はそこにあるのぉ」


 セルフィの見詰める先に海底遺跡はあるのだろう。

 それよりも少し気になっている事がある。


「何で水着なんだ?」


 セルフィは年齢相応の白のワンピース型の水着を纏ってそこに立っていた。


「海に入るにあたって水着は必須じゃろうが」

「そんなド正論を言われてもなぁ」


 魔法の世界なんだから、水着がないままでも自由に海の中を闊歩してみたかった。

 まぁ、水着は悪くないので良しとするが。


「それで、どう行くつもりだ?」

「潜るしかなかろう」

「素潜りで?」

「そんな鬼畜な事は要求せん。ほれ」


 突如顔の前に水の様なものが纏わり付く。


「こ、これは?」


 シャボン玉の様なもので顔を覆われる。


「その中に空気を閉じ込めてある。潜っている間はそれで息が続くじゃろう」


 まるで絵本の中の世界みたいだ。

 まさかこういう形で海の中を潜れるとは。


「なんて魔法なんだ?」

「ん?シャボン玉、じゃが」

「まんまじゃねーか!」


 そうこうやり取りをしていると後から三人が来る。

 フリルの付いた白いビキニを纏うフィオと青いビキニを着たアイラちゃんに、俺と同じトランクスを着たケンイは俺の顔を見るなりポカンと口を開ける。


「悠馬さん、なんですかそれ?」

「見ての通り、シャボン玉」

「それは分かりますけど、それで海の中に潜るんですか?」

「うん」


 すると、ケンイとアイラちゃんは珍しく目を輝かせる。


「凄いです。私、一度だけそういうの憧れてたんです」

「なんか知らないけど、俺も!」


 興奮する二人に対してフィオだけ、少し気乗りしてなさそうな顔だった。


「フィオは嫌かな?」

「いえ、そうではなくて……私、泳げないんです」


 失念していた。

 今回の探索にあたって泳ぐという行為は大前提だった。その行為の可否を問うのは当然だった。

 本音を言えば、魔法で自動的に連れて行ってもらえるものだとばかり思っていたせいでその事を忘れていた。


「安心せい」


 セルフィは魔法で少し大きなシャボン玉を作るとその中にフィオを包む。


「え、ええっ?ふぇぇぇぇ!」


 丸い球体の中に収まった彼女は揺れながら海面に着水するとそのまま沈んでいく。


「お、おおい」

「このシャボン玉はちょっとやそっとじゃ壊れん」


 指をクイと上に向けると再び浮上し、海面に浮かぶ。


「準備は完了じゃ。フィオは私が念動力(テレキネシス)で連れて行く。お主らは泳ぐよいか?」


 そう言って自身に同じ魔法を付与すると二人は海の中へと颯爽と潜って行く。


「俺達も行くか」


 いつの間にか魔法を付与された二人は頷くと船から飛び込んで潜って行く。


「それじゃあ、行ってくるわ」

「頼んだ。俺達は三時間程ここに待機しているからその間に戻って来てくれ」

「分かった。じゃあ、また」


 そう言って飛び込もうとした時……俺はとんでもない事実に気付いた。

 あの同じ魔法を掛ける事が出来るケンイはアイラちゃんともう既に海へと潜っていってしまった。


「やべ、取り残された……」

「安心しろ」


 そう言ってポケットから小さな細長いハーモニカのようなものと水中ゴーグルを手渡される。


「これは?」

「『エア』って言ってな、俺達漁師が海中で泳ぐための空気を補充する魔法道具だ。中央の部分を口で咥えれば海でも呼吸が可能になる」

「なるほど、ハーモニカみたいなもんか」

「ハーモニカ?ってのは分からないが、使い方はそんな感じだ。それとそのゴーグルにはライトアップも付いている。この辺りの海域はやたらと暗いからな、困ったら使ってくれ」

「分かった」


 言われた通り、口に咥えると俺は甲板から助走をつける。


「おい、その魔法具には制限時間が……って、聞こえてないか」


 声を掛ける間もなく思い切り海に飛び込みまれる。


「ったく、人の話くらい最後まで聞けってんだ」


 相変わらずのせっかちさに呆れた顔で見送る。


「ですが、いいのですか?いくら勇者様と言えど……」

「まぁあいつの身体能力なら気付けば直ぐに浮上出来るだろ……多分」



 海でも視界が良好にさせるゴーグルを付けた俺は壮大な光景を目の当たりにする。

 青く広がる水の中の世界。

 自身の周りには多くの魚が生息し、周辺を自由に泳ぎ回っている。

 意識を海から取り返すと言われた通り、ちゃんと海の中で呼吸が出来るか確かめる。

 スゥーと息を吸い込むと上手く呼吸出来ているのが分かる。

 よし、これならいける。

 既に先へと進んだ二人の姿がかなり遠方の辺りに見える。

 この世界に来て海で泳ぐのは初めてだが、一蹴りしただけで凄い勢いで前身する感覚を覚える。

 水圧による抵抗をまるで感じない魚の様にヌルヌルと泳げるという神秘的な体験に心が躍る。

 やばい楽し過ぎる。

 自身の全力の速さで水を蹴ると周囲にいる魚よりも速く動く。

 次第に前の二人と距離を縮めていくと猛スピードで間を通り過ぎる。


「え、悠馬さん?」

「速い」


 セルフィの後に続いて泳いでいる二人は悠馬の尋常ではない海の中での動きに唖然とする。

 縦に横にと自由に視界の中で動き回る人間に途轍もない違和感を感じ得ずにはいられなかった。

 しかし、下に潜るに連れてある異変を感じる。

 クソ、頭が痛い。

 締め付けられるこの感じ、おそらく水圧か。

 流石に水圧にはこの身体でも耐えきれない。

 そう感じとるとギリギリの深さで真っ直ぐに泳ぐ。

 次第に魚の数が減り海の明るさも準じて暗くなる。水温もうだんだん下がっている気がしてならない。

 ゴーグルを通して見えるクリアな海の世界も徐々に見えずらさが増す。

 スピードを緩め泳いでいると目の前に大きな壁岩が現れ、進路を断たれる。

 やたらと暗いせいか、全く下側が見えない。

 ここはカイに言われた通りライトを使うか。

 目の辺りにそっと手を触れて魔力を流すと視界が一気に明るくなる。

 見える!

 改めてクリアになった水の世界を見渡すと少し下側に小さい壁穴を見つける。

 海底トンネルか、あれを抜ければいけるか。

 その望みにかけて穴へと近づくと案の定、小さなトンネルとなっていた。

 十メートル程の長さのあるトンネルを潜ると更に暗い雰囲気に包まれる。

 暗闇の海を切り拓く一直線の光が前に止まる虹色の輝きを照らす。

 あれはセルフィか。

 先に向かったセルフィの姿を見つけると俺は彼女らの隣まで泳ぎ、そこで止まる。

 セルフィは俺を一瞥すると怪訝な表情をシャボン玉越しから伺わせる。

 その更に横でゲッソリとした顔でシャボン玉に包まれたフィオは俺を見るなり、ぎょっとした顔で二度見した。


「お主……まぁ良いか。そのままで良いから聞けい」


 声がちゃんと聞こえたのでうんうんと頷く。


「この先に遺跡が有る。私らは向かうのでお前はアレを止めてから来るのじゃ」


 アレ?とは?


「では、任せたぞ」


 一方的に言伝を残していくとかなりの速さで先に進む。

 その後を見つめていると俺は妙な気配を水中で感じ取る。

 暗くて分かりにくいが何かがこの辺りを泳いでいる。

 どこだ、どこに………ん?

 気配を頼りに周囲を見渡していると何処からか、水の塊が放たれる。

 事前に魔力を流れを感じ取ると上へと泳いで緊急回避するも、途轍もない水圧に身体の自由を奪われる。

 しまったエアが………

 衝撃に驚くあまりエアを口から外してしまうが直ぐに手で回収し、収まるまで耐える。

 危ないとこだった。

 再度口に咥えて呼吸を確保する。

 身体の自由が戻ると見えない敵の姿を気配を頼りに探すも濃い黒いモヤのせいで視認が難しい。

 上にいけば行くほど視界が悪くなる。

 多少水圧を気にしてでも今は下で様子を見る他ない。

 真下へと泳いで抜けると視界がクリアな位置に出る。

 おそらくこの辺りか。

 大きな気配を頼りに俺は水の中に自身の魔力を通す。両手で水の塊を掴んで円形を描くように捻り、そして真上へ直進させる。

 くらえ渦潮!

 初めて使う鮮明にイメージした水魔法は立ち昇るが如く、強い渦となって敵を襲う。

 周りの黒いモヤ毎、上へと追いやり霧散させる。

 すると酷い断末魔を想起させる雄叫びが水の中を反響させ、檻と化した渦潮から蒼い鱗を帯びた海獣が這い出でる。

 嫌な予感が的中したか。

 獲物を捉える鋭い眼光、凶悪な真っ白の尖い牙、遥かに大きな巨躯の身体を持つ海の魔獣。

 海王獣……通称、リヴァイアサン。

 この世界の文献のみでしか聞いたことがなかった。

 その文献には『奴と海の中で遭遇し、生き延びた者はいない』と程言われる存在と記されていた。

 ここで死んでたまるか。

 魔法を本気で行使し、渦潮の中に捕らえさせようとするも容易に破られる。

 効かないか。

 大きなギョロっとした目が俺を捉えると巨躯な身体とは思えない速さでこちらに牙を向ける。

 速度で負けず劣らずの俺は海の中の立体的な空間を上手く利用して避ける。

 セルフィのやつ居ると知っていて任せたな。

 一先ず、こいつの注意を引き付けておけばいいか。

 セルフィらが向かった遺跡の方角とは正反対に向かって泳ぐ。

 後ろに注意を払いながら、巨躯な身体の海獣の周りを背鰭等の部位を使って切り返す。

 尾びれに叩かれないよう気を付けながらナイフで鱗を切り裂く。

 硬い!

 随分前に作ってもらった業物のナイフを鱗に差し込むも肉質が硬いせいか全く刃が通らない。

 綺麗とも言える蒼穹の鱗をただ傷つけるだけ。

 だが、相手の気を引くには充分か。

 先程、ケンイとアイラちゃんが遺跡の方に向かっていったのは魔力を通じて確認済み。

 そろそろ俺も退きたいところだが……ん、なんだ息が……。

 急にエアからの酸素補給が途絶える。

 これ、使用時間に限度があるのか。

 カイのやつ伝えそびれたな。

 不味い、一旦浮上するしかない。

 しかし、簡単にはいかなかった。リヴァイアサンは長い巨躯を三百六十度回転させ、こちらに顔を向け ると大きく口を開け、水を収束させ水弾へと化す。

 やばい、回避が………

 敵に注意を削いだ一瞬、それが命のやり取りになるという教えを今更思い出す。

 防御に意識を変えると目の前に光の障壁を作り構える。

 圧縮された水弾が放たれる瞬間、俺は腹部に妙な違和感を覚える。

 何かに身体が強く引っ張られるとその力に身を委ねる。

 なんだか、デジャヴ感が凄い。

 つい三週間程前にも魚が一本釣りされる気持ちを味わった記憶と重なる。

 それと息も………

 息を止めるのにも限界を迎えた瞬間、水の重力から身体が解放されると地面に背中を叩きつけられる。


「かはっ!」


 衝撃で身体の中の空気が外に吐き出されると反動で息を吸う。


「はぁはぁはぁはー………空気?」


 何処とない違和感に目を開けると頭上には海の中の世界が広がっていた。

 しかし、それも少し距離がある。


「ここはどこだ?」

「遺跡、門『リング』の外じゃ」


 こちらを覗き見る小さなエルフが腰に手を当てて応える。

 落ち着いて辺りを見渡すと周囲に空気で覆われた結界が海底にて張られているのが分かる。

 びしょ濡れな身体のせいで砂が泥のように張り付く。


「ちょっと洗って来ていいか」


 直ぐそこに海あるし。

 ちょっと身体を出すくらいなら洗えるだろう。という浅はかな考えが浮かぶ。


「阿呆か、水圧で身体を痛めるぞ」

「じゃあ、魔法で頼む」

「面倒じゃ、中に入れば水で洗えるから待てい」

「中?……あぁ、精霊殿だったか?」

「うむ、今からアレの探索に向かう」

「分かったよ。どの道、引き返すのは難しそうだしな」


 少し離れた位置で三人は頭上を眺める。

 そこには怒り狂ったリヴァイアサンが結界の周囲をぐるぐると高速で泳ぎ回る。


「あれ、竜?魚?」

「分かんないよ。アイラお姉さんは?」

「多分、リヴァイアサンだよ」

「リヴァイアサン?」

「伝説上の魔獣と言われる海の怪物。辺りの魔獣を殲滅して海の支配権を勝ち取ったと言われたことから『蒼穹の覇者(リヴァイアサン)』って名前が付けられたの」


 アイラちゃんの解説には俺も関心する。


「悠馬さん、よく生きてましたね」

「死ぬかと思ったよ」

「確かに、あれはギリギリじゃったな」

「ホントだ。何てものを押し付けてやがる」

「仕方なかろう。私とて、海中で奴と戦うのは避けたいのが本音じゃ」


 それ以上の追及はしない。

 セルフィが認める以上、リヴァイアサンという生物は相当厄介なものであると確信した。

 二度と目の前に現れて欲しくないと思う反面、あまりにも希少な体験なので水族館気分でもう一度観察する。


「ほれ、行くぞ。奴は空気のある場でもある程度活動は出来る」

『え?』


 セルフィの突拍子なトンデモ発言に一同度肝を抜かれ、もう一度頭上を眺めると結界に思い切り突進し、中へと突き破って顔を出すとキシャアァァァという叫びをあげて威嚇する。


『いぎゃあぁぁぁぁぁ!』


 予想外の展開に心臓が鷲掴みにされる様な驚きに駆られるも、本能が逃げろと通告する。


「やべっ、急いで逃げろ!」


危険を察知したケンイとアイラは直ぐにセルフィが向かった門『リング』へと走るが、腰を抜かしたフィオは尻餅を着く。


「う……そ……」


 俺は直ぐにフィオの身体を拾うと全速力で走る。


「ちくしょう、トラウマレベルのモンスターじゃねーか!」


我ながら珍しく泣き言を言う。


「門『リング』を起動させる、間に合うか?」

「問題ない!やってくれ」


 頭上からリヴァイアサンが降ってくる三秒前。

 セルフィは門『リング』にある石碑に自身の魔力を充て、転送魔法陣を起動させる。


「三、二、一………」


カウントダウンが始まる一秒前、俺は魔法陣の中に足を踏み入れる。


「転送!」


 五人の身体は淡い粒子となって消失すると、地面に激突したリヴァイアサンにより結界の中は大きな衝撃波で砂が飛ぶ。


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