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三十六話 夢

『●●さん、●●さん!』


 誰だ。


『起きてください。もう朝ですよ』


 朝?

 徐々にはっきりしてくる意識を保ちながら、身体を引っ張られながら強引に起こされる。

 満面の笑みを見せる黒髪から耳が伸びている少女の顔に微かなノイズがかかる。

 この少女は誰だ。と、今すぐにでも聞いてもおかしくはない筈なのだが、どうもその気になれない。

 むしろ、知らないのに知っている。という感覚に陥る。


『あ、●●君。起きたんだね、今すぐにご飯の用意しますから』


 空いたドアからサファイアの様に美しい髪の少女がいつものお淑やかで柔和な笑みをこちらに見せると早足で通り過ぎる。その顔をよく凝らして見ようとするもノイズが邪魔をする。


『待って、私も!』


 その後を追っかけていく様にして黒髪の少女は腰から生える黒い尻尾を左右に揺らしながら行ってしまう。

 一人取り残されると視界に入る太陽の光が身体全体を包む。

 暖かくて、温かい心地。

 忘れかけていた何かを不意に彷彿とさせる。

 自分の足で廊下を抜け、少し広い部屋に出ると先程の彼女らを含め、もう一人、エメラルドの髪の碧眼をしたエルフが椅子に座って朝食を取っていた。この少女の顔もまた同じ。


『あら、早起きね。朝弱いくせに』

『私が無理やり起こしたのだ!』

『道理で眠そうな顔をしてる訳ね』

『●●さんはいつもこんな感じ』

『まぁ、そうね』


 朝から騒がしいくらい和気藹々と会話をしていると横から朝食を出される。


『お待たせ』


 用意された少し豪華な朝食を三人分置くと自身も隣に座って食事を取る。

 図らずもこの和やかで落ち着いた懐かし雰囲気。

 初めて見る筈なのに、何故か懐かしいと感じてしまう。

 こんな平和がずっと続いていけばいい。

 そう心から願ってしまう。


【それは夢】


【過去の記憶】


【取り戻すことは出来ない】


【過去の遺産】


 禍々しい謎の声と共に視界が揺らぐ。

 そして、次に目を開けるとそこは……地獄だった。

 多くのエルフ、獣人が血を流して死んでいる。

 無惨に斬り殺され、魔獣に食い殺された者達の死体が散乱し、その中に見知った顔がいた。華奢な身体の胸辺りから黒い槍が獣人の少女の身体を貫いている。

 赤い鮮血の海が地面を真っ赤に染めあげる。


『ごめ……んね、負けちゃっ……た』


 勝負に敗北し、命の灯が消える間際、最後に振り絞った声で少女は静かに息を引き取った。

 跪いて亡骸を抱いた俺は涙を流していた。

 どうしようもなく悲しい。

 そして視点は変わる。

 薄暗い森林の奥に降り注ぐ酷い雨のなか、俺は少女の手を取りながら駆けていた。

 しかし、直ぐに追手に追いつかれると一瞬にして包囲される。


『さぁ、ショーはお終いだ。あんたには死んでもらう』


 追手の一人が前に立つと睨みを利かせた口調でこちらに剣を向ける。


『何故、同じ種族の私達が争わないといけないのです!』

『邪魔だからだよ。この世界を真の平和に導くにはあんたは邪魔だ!』

『間違っているのはあなたです!●●君は私達にはない気付きをこの世界の多くの方々に……』

『いずれ分かるよ、姉さん。他種族が争いの火種だって!』


 狂っている。

 冷静にこの人物を分析をするとそう思ってしまう。


『いい加減、そこを退いてくれ。そいつは新たな世界に不要な人間だ』


 大きな魔力。 

 それを感じ取り、空を見上げると大きな魔法陣が展開されていた。

 数十人の魔法士によって放たれる大規模殲滅魔法ヘカトンケイル

 これを防ぐ手段は俺にはない。

 この物語の終着点はここなのだと、はっきりと理解できた。

 しかし……


『ごめんね、君は生きて』


 最後の最後にノイズが晴れると俺は彼女の顔を鮮明に焼き付けた。

 その瞬間、視界が真っ白へと転じ、再び暗闇の世界へと引きずり込まれる。


「おやおやぁ、お目覚めですかぁ?」


 僕は寝ている彼にいたずらを仕掛けようとしていた所、首が少し動いたのを確認して手を引く。

 いつもの彼が気に食わない表情で話掛けるも直ぐに返事は来ない。


「貴様には任務を与えていたが」


 獣人ビーストの国を裏から洗脳し、支配する。そう彼には言われていた。


「あらかた終わったかなぁ。少しミスって反乱軍レジスタンスなんてもの生み出しちゃったけど~」


 わざとらしく語尾を伸ばす。


「好きにしろ」

「え、本当に?従順過ぎるとつまんないから王族の娘と息子はわざと取り逃がしたけど……」


 あまりの冷めた反応に僕は予想外な反応を示す。

 てっきり、仕事をしろ。という意味を踏まえた攻撃が来るとばかり……。

 どうやら少し気分が良いのかもしれない。


「なんか良い夢でも見てた?」

「黙れ」


 ん、当たりかな。


「見てたんだ。教えてよぉ」


 鬱陶しい過ぎたあまり右手を伸ばし顔に近づけられ、魔法で顔面を吹き飛ばそうとされるも寸での所で躱す。


「あっぶなあーい!顔は駄目だよ~、死ぬってば」


 いや、マジで。

 本当に死ぬから。


「殺す気だった」

「僕が死んだら計画が台無しだよ」

「その時はその時だ」

「強がりだなぁ」


 これ以上の不毛な話はしたくない。と言わんばかりに急に黙ってしまう。

 彼は立ち上がると玉座を背にして歩く。


「何処に行くんだい?僕も連れってよ」

「駄目だ」

「じゃあ、何処に行くのかくらい教えて欲しいな」


 足を止め、少し間が空く。

 仮面の下で何を考えているか、少しくらいなら予想が付く。

 まぁ、仮面の下の素顔は見たことないけど。


「人間の国へ行く」


 鳩が豆鉄砲を食ったような顔で三秒程立ち止まる。

 その数秒で彼は移動魔法で消える。


「なるほど~、彼は元人間かぁ」

「今更だろう?兄上」


 久し振りに馴染み深い声を聞くと黒いフワフワのドレスを纏った僕の親愛なる妹が居た。


「今更って、僕は彼の正体に関しては分からないよぉ」

「ふふっ、兄上は確認はしていないだけで、凡その予想は付いている。違うか?」


 相変わらず鋭い読みをしている。


「流石、僕の妹だね」

「それで、お聞かせもらえるかな。かの新魔王が誰か」


 僕は諦めて口を割るとする。


「ザラちゃんもよく知っている人。そうそう丁度、二百年前の戦いで……」


 あの記憶は二百年経った今も鮮明に覚えている。

 息絶えた小さな骸を抱いて彼は強く泣いていた。

 その光景を僕は満身創痍になりながらも心の底から愉悦に浸って眺めていた。


「僕らが殺した黒髪の獣人ビーストと一緒にいた勇者なんだから」

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