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三十五話

「海底遺跡、ですか……」


 屋敷に戻って早々、俺が出掛けている間に戻ってきたユリナに捕まった。投げ出した自分の仕事を半強制的にやらされ、その全てが終わったのを境にユリナ、セルフィを部屋に呼び出し、カイルに言われた海底遺跡に関して話した。


「その一帯はスタットフェルト辺境伯の領地ですので、あちら側が依頼する以上、探索する事は可能です」


 ユリナの回答に俺は少し安堵する。


「良かった、じゃあ早速……」

「待ってください。決めるのがあまりにも早過ぎます。それに海底遺跡となるとそれなりの魔法士の同行は必須となるでしょう」

「その件は問題あるまい。私が同行するのでな」

「先生がですか?」

「問題あるか?」

「いえ、正直に言いますと私は同行出来ないので……その……」

「なんじゃ、旦那の傍にいないと不満になる病気か?」

「そうではありません。悠馬様の近くに私がいないと………何をするか分かりませんから」


 視線をこちらに移すと目を細めて訴える。


「だ、大丈夫だって、今回は探索だしさ。セルフィもいるし」

「いえ、先生は火に油を注ぐ方なので信用出来ません」


 とてもド正論なとこを突く。

 セルフィもうんうんと肯定する。


「いや、そこは否定しろよ」

「私も同意します」

「ふむ、ところでお主が同行出来ん理由は?」


 露骨に話を逸らした。

 これ以上の追求を諦めたユリナは表情を戻して言う。


「お忘れですか、今は非常事態下だと」


 ユリナの言う非常事態とは、簡単に言えば敵の襲撃を二十四時間態勢で備える必要があること。

 かの悪魔の襲撃に備え、王都近辺を厳重に警戒している。

 セルフィ曰く、悪魔が襲ってくるとすれば俺たちがいるこの一帯らしいが、もう二週間近く過ぎるあまり非常事態下であるという意識も薄れつつある。

 ユリナは二人の曖昧な反応を見て理解する。


「ですので、私はここに残らせてもらいます」

「まぁ、近海にある海底遺跡の探索だし。そう遠くまでは行かないから安心してくれ」

「安心は出来ませんが、私の代わりをアイラさんに頼みますので」


 彼女の中での俺の信頼がいつの間にか消えていた。


「それと、先生。一つ尋ねてもいいですか?」

「私が同行したい理由か?」

「はい。先生はその海底遺跡について何かご存知なのでは?そして、何かを調べようとしている」


 ユリナの読みは全て正しい。

 俺はセルフィが同行したがっている理由を少なからず知っている。

 机に置かれた紅茶に手をかけ、口元に近付けると離してそっと置く。


「懸念に過ぎれば良いのじゃが、先程聞いた悠馬の話で少し確信に近づいた」

「海底遺跡の正体か?」

「そうじゃ、あれはおそらく精霊殿の入り口となる『(リング)』であろう」

「……精霊殿」


 聞き馴染みのない単語だ。


「精霊殿は精霊が居ると言われる場所です」

「お主も精霊の存在は知っておるだろう」

「少しは」


 知っているも何も、この魔剣の中にその当本人がいる。だが、詳しい実態は知らない。


「精霊とは精霊界と呼ばれる空間で暮らす種族らじゃ。数も少なく、物珍しさのために捕まる事も多々あった」

「そこで先生のお母様、先代エルフ女王が精霊殿を作り、こちら側の人々が容易に精霊界に入れないようにしたのです」


 ユリナの補足説明に俺は理解を示す。


「要は繋ぎの場ってことか」

「そのイメージで良い」


 端的に言えば、精霊殿は精霊界とこちら側の世界を隔てる壁であり、行き来するための門でもある。


「セルフィの話からすると、以前までは精霊界に容易に入れたと?」

「うむ、精霊界はこの世界の何処にでもあるものだった。それ故に空間魔法を使える者なら誰でも入れたのじゃ」

「空間魔法で精霊界との門を開け続ければ誰でもその門を通じて出入りは可能だということです」


 精霊界のアクセス権を持つのはユリナの様な魔法士に限るという訳か。


「それで、何でそんなものが海底に?」


 この辺りの地理については全く詳しくはないが、海底遺跡があるということは遺跡周辺は陸地だったことが伺える。

 俺の問いにセルフィは口を閉じたまま首を振るう。


「分からぬ」

「だから、調査に乗り気なのですね」

「知りたがりの子供と一緒にするではない。あの場所に私も『リング』があるとは思わんのだ」

「別にそこまでの他意はありませんが……理解は出来ました」


 ユリナの言葉の意図がどうであれ、探索に同行出来る者が優れた魔法士なら心強い。


「なら、早速……」

「気が早いです。先ずはスタットフェルト辺境伯との調査準備を……」

「その辺はお主らに任せる。私は少し失礼させてもらおう」

「ん、分かった」


 椅子から立ち上がり、ドアの付近まで歩くと近くの机に置いてある桃色の布に包まれた中身に興味を示すと瓶二つを取り出す。


「果実の飲み物か?悠馬よ、これ二つもらってゆくぞ」


 カイルの奥さんから頂いたお土産を掻っ攫う様に手に取ると廊下に出ていく。

 残った俺はお手製の魔法式冷凍庫から冷やし置いたオレンジジュースの瓶を取り出すと二本のグラスに注ぐ。


「持っていくなら、こっちを渡したのに」


 キンキンに冷えたジュースを勢いよく飲み干す。


「これはオレンジジュースですか?」

「正解、ユリナも飲んでみなよ。美味しいから」

「知ってますとも、悠馬様こそ、それの製造者が誰かお忘れですか?」


 その指摘にハッと昼間の話を思い返す。


「お爺さんだったか」

「そうです。私も幼少期はお父様とよく一緒に飲んでました」


 その懐かしさを嚙み締めながら美味しそうに飲む。


「これが悠馬様の世界の飲み物なんですね」

「そうだけど、多分作り方さえ分かれば何処の世界にもあると思うけどな」

「そうですね……」


 ユリナは何処か悲しそうな顔持ちでこちらを見詰める。

 彼女がこういった顔を見せる事は滅多にない。

 他人の前では強く気高くを重んじるせいか、絶対に弱さを見せない。

 けど、俺が相手なら隠している心の隙間をさらけ出してくれる。

 そういう場合、決まって俺に対して何か後ろめたい事がある。


「帰りたい」


 その反応を見て確信を突く。


「今は思ってないよ」

「噓です。私には分かります」

紋章エンゲージリングの前では噓はつけない、と?」

「はい。これはお互いの想いを半ば共有する効果も持ちますから」

「その割には俺は何も感じないだけど」

「おそらくは魔剣による効果でしょう。悠馬様の精神状態を気遣って」

「一方的な愛みたいでやだな」

「仕方ありません。私も理解はしています」


 少しいじらしい表情でモジモジしながら言う。


「それで、俺は心の底では帰りたいと願っている、と?」

「その質問は送り返します。私の口からお答えし兼ねます」


 自分の事は自分で話せ。

 言い方は荒っぽいが要はこういうことだ。


「前も言ったと思うけど、この世界に残りたい気持ちは大きい。けど、向こうの世界に残してきた物や人の事を考えれば……心残りもあるかな」


 この世界に来て間もない頃、頻繫に考えていた事がある。

 元の世界で俺はどういった扱いになっているのだろう。

 突然消えた俺に父さんや母さん、数少ない俺の友人達は心配しているのだろうか。

 果たして俺はもう一度、彼らに会えるのだろうか。

 そう何度も考えては止めを繰り返すうちに考えなくなった。

 そして、その答えを出す手段はもう無いに等しい。

 そのせいか、余計に想いが強くなってしまったのかもしれない。

 それが無自覚にユリナには伝わっていた。


「その責任をユリナは感じている」

「否定はしません。私は私の為だけにこの結果を求めました、悠馬様の世界に私が行けるなら一緒に……」

「けど、無理だった」

「………」

「世界を渡るのは簡単そうで簡単ではない。その事は俺がよく分かっている」


 簡単ではない理由。

 その答えは失うものの大きさ。

 一方通行の穴に通れる事が可能な俺はよく身に染みた。

 いっそのこと、失うものがないならいいのに。

 そんな残酷な考えが思い付く。

 この世界で大切なものを作ってしまった、守ってしまった以上、忘れる事がない限りは一生心に残り続ける。


「御免、ユリナが俺の想いを汲み取るならこれからも悲しくさせるかもしれない。けど、俺がユリナを好きでいて、愛しているという事実は本当だから。その………少しは安心して欲しい、かな」


 自分で言っていると少し恥ずかしくなる台詞だ。

 そんな頬を少し赤くして照れる俺に対してユリナはクスッと微笑むとそっと肩を寄せて抱きつく。


「言われなくても、分かってますよ」

「そうだったな」


 とても甘くて良い匂いが髪から漂う。

 カップルとしての雰囲気は全く悪くは無い、むしろこういうシチュエーションは望んでいたものでもある。

 こういう場合、次の展開としては少し身体を離してキスをする。というのがセオリーなのだろう が………意識し始めると躊躇いが大きくなる。

 行けよ。

 ここで行くべきだろ。

 自分自身に言い聞かせる。


「ユリナ………」


 少し身体を離してお互い正面に顔を向け合う。


「…………」


 彼女の顔を真っ直ぐ見据えると耳から頬にかけて真っ赤に染め上がってるのが分かる。

 そんな顔に愛らしさを感じると同時に嬉しくもなった。

 そして、顔を近づけるな否や


「すまんが悠馬君はいるかな?」


 部屋の扉が開かれると同時に気配で気づいた俺達はその寸前に少し距離を置く。


「ん、どうやらお取り込み中だったようだね」


 スキンヘッドの国王がニヤニヤとした笑みを浮かべると顎を指でさする。


「いえ、そんな事は…………」

「は、はい。それより、お父様は一体どうしていきなりここへ?」


 用件を思い出した国王は中に入ると客用の椅子に腰掛け、持ってきた資料を机の上に置く。


「二人とも座ってコレを見て欲しい」


 応じた俺達は座って、持ってきた資料、もとい映像記録用の魔水晶を覗く。

 そこに映し出されたのは激しい戦闘の映像。

 多くの角を生やした亜人がたった一人の敵に次々と無惨に殺されていく。


「これは(オーガ)の里の映像ですか?」

「そう。これは(オーガ)の里で発見された魔水晶でね。撮影をしていた者がいたらしく、それが残っていたモノを我々が回収したのさ」

「それでは、ここに映っている敵が里を壊滅させた者だと?」


 ユリナの指摘に肯定の意を示す。

 映像の中心に映る人物。

 力と知性を兼ね備える(オーガ)は人より遥かに高い身体能力で敵を制圧する。

 そんな彼らの攻撃を生身の身体で受けても動じず。それよりも遥かに強い力で跳ね除けている。


「純粋な身体能力で(オーガ)が負けている?」


 事実としてあまりにも受け止め難いが、この映像に偽りがないのは分かる。

 そして、最後。

 殺し尽くし 焼けた肌に隆起した筋肉。

 焼けた肌に隆起した筋肉。一瞬鬼(オーガ)かと思わせられるが、よく見ると違う。オーガ特有の角は無く、むしろ土人(ドワーフ)特有の体型に酷似している様に思われる。


人間(ヒューマン)土人(ドワーフ)のハーフですか」

「その通り、この悪魔はハーフドワーフ」

「悪魔?判明しているんですか?」

「いや、仮定のうちさ。そこで悠馬君とユリナに確認しに来たという訳さ」

魔晄四獣(グレムリン)の生き残りかと、考えているんですね」

「うむ。二人なら見覚えのあるかと思ったのだが………その反応を見る限り分からなそうだな」


 国王の指摘通り。

 俺達はハーフドワーフを見た事はない。


土人(ドワーフ)側には聞いていないんですか?」

「聞いたさ。しかし、ハーフドワーフはかなりイレギュラーな存在らしくてね。過去に居たという経歴は

消されているみたいなんだ」

「ドワーフは純血を尊ぶ一族ですから、当然と言えば当然の措置かもしれませんね」


 端的に言えば、異端者、扱いか。


「故に我々もこの悪魔の手掛かりは掴めていないのだ」

「ですが、こうして顔だけでも分かるなら幸いでしょう」

「そうかもしれないけど、(オーガ)が力で劣る相手にどうやって戦えと?」


 あまり弱音を吐く気はないが、(オーガ)には『闘気』と呼ばれる第二の力を使う事が出来る。

 その状態であれば俺でさえ、力とスピードには敵わない。例え、聖剣を有していても容易に勝つことは無理だ。


「この敵の対策は後々していきます。おそらく近距離戦闘を得意とするタイプでしょう」

「ユリナは勝てる自信あるの?」

「勿論です」


 凄い自信だ。

 しかし、ユリナの自信は過信ではない。

 おそらく客観的な事実から言っている。


「もしもこの方と相対するなら、私がその時は相手をします」

「頼もしい限りだ」

「悠馬様も早く私なんかよりも強い状態を取り戻して下さい」

「あはは、それは難しい話だ」


 苦笑いで長さそうとするも『笑えない話ですよ』と目で訴えかけられる。


「兎に角だ。この人物の事を頭に入れて置いて欲しい」


 国王は用件を終えると魔水晶を回収し、立ち上がる。


「それでは、そろそろ失礼するよ」

「もう行かれるのですか?」

「まぁね。色々とやる事もあるから、二人は気兼ねなく続きをしてくたまえ」

「続きも何も……」


 国王は扉を開いて廊下へと歩み出そうとするとくるりと身体を向けて言う。


「それと……子が出来たら早めに教えて欲しい、ながぁ!」


 魔力弾を顔面に撃ち込まれると変な声を漏らして倒れる。


「冗談はその頭だけにして下さい」


 魔力弾を撃った本人がかなり圧のかかった声で告げる。


「済まない、ちょっとした冗談さ。けど、半分以上は本音…………」

「もう一発…………」

「あぁ、済まない、済まない!今日はここで引くとするよ、あと!賢者様によろしくと伝えてくれ!じゃ」


 慌てて立ち上がると早足で部屋から去っていく。

 暫くした後に俺達はお互いに気まづい雰囲気で過ごす。


「ユリナは今日、部屋?」


 その質問に対していじらしい表情を向けられる。


「藪から棒な質問しないでください。私達、これでも…………婚約者、なんですから」

「そ、そうだよな」


 別段、二人で寝るのは初めてではないのにも関わらず何故か気持ちが動転してしまう程、焦っている。


「じゃあ、俺は風呂とかに入ってくるからユリナは先に………」


 曖昧に誤魔化しながら、風呂に入ったりなどして寝る前の準備を済ませると部屋は薄暗くなっていた。

 俺は隣の部屋に用意された大きなベットに横たわる。

 すると既に中で眠りに入っていたユリナの寝顔が大きく目に映る。


「もう寝ちゃったか……」


 流石にベットの上で三十分以上も待たせれば、寝てしまうのも無理はない。

 こんな気持ちの良いベッドの上に横たわれば疲れている者を一瞬にして眠りへと誘う。


「まぁ、まだ早いってことだな」


 遠からず焦らずもいずれ、その時は来る。

 いずれ………


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