三十四話 幕間 誰かの記憶
俺、いや僕は最近変な夢を見る。
僕も知らない物語。
おそらく誰かの物語なのだろう。
僕はその物語をいつも主人公の後ろ姿を眺めながら見ていた。
どんなに歩いてもその定位置からは動く事が出来ない。
主人公の顔を覗こうとしても同じこと。
顔も分からない、名前も分からない主人公を僕は観察する他なかった。
その物語は小さな部屋から始まった。
日中だと言うのに、カーテンで閉じられた薄暗い部屋。
何かの機器や本が床に散乱している。
主人公はその部屋の片隅に置いてあるベッドでうずくまっている。
何に怯えているのかは分からない。
しかし、時計の針が刻々と進むのをただひたすらに待ち続ける。
「・・・・!ねぇ、いるんでしょ。返事して!」
突然、ドアが強く叩かれると外から少女も呼ぶ声が聞こえる。
それに渋々、応答した主人公はベッドから起き上がり、ドアを開く。
「やっぱり起きてるじゃない。朝ご飯、食べて頂戴」
「姉さん、今日学校は?」
「無いわ。今日は創立記念日だし」
「そう…なんだ」
「そうなの、だから早く食べて」
「うん」
主人公は覇気が無い返事で姉の後に続いてリビングに向かう。
連れて来た張本人である姉はソファに転がる。
そして、何も会話のない静かな空間が訪れると冷蔵庫からオレンジジュースを取り出し、コップ一杯に入れてあっという間に飲み干す。
食卓に用意された朝ご飯を無言で食べ終わると食器を片して、早々に部屋に戻ろうとする。
「ねぇ、ちょっと待って」
ソファに座ってテレビを観ていた姉は何かに気付いて呼び止める。
主人公の方に歩み寄ると寝間着の袖を掴む。
「いたっ」
「………見して」
隠し切れないと判断したのか、すんなりと腕をまくって見せる。
「これ……痣になってるじゃない」
主人公の腕に青い痛々しい内出血の痕が見られる。
もしかしたら、腕の骨にヒビか何か入っていそうな程の酷い痕。
慌てて湿布を取り出すと痣の位置に優しく貼り、その上を軽く包帯で巻いてあげる。
「何処で打ったの?」
その質問に主人公は少しの間をおいて答える。
「体育の時間にね。朝起きたら、こんなになっていたから少し起きるのが辛くて……」
「そう……気を付けてね」
「うん、包帯巻いてくれてありがとう。姉さん」
「いいわ、これくらい安いもの。それより、今日はゲームなんてしないで寝てなさい。明日は学校あるんだから」
「そうするよ」
そう言って立ち上がると主人公は部屋に戻っていく。
姉はその後ろ姿をただ黙って見る他なかった。
そして、僕には分かった。
彼が噓をついている、と。
何でかは分からない。
けれど、これだけは言える。
この主人公は近いうちに死ぬ。




