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三十二話 伯爵と決闘

「あの、悠馬さん。ありがとうございます」


 深々と頭を下げたアイラちゃんは丁寧に感謝を述べる。


「いや、いいんだ。俺がカッとなって手を出した訳だし」


 クロードを馬鹿にされたのは事実。

 友を馬鹿にされるのは流石に気分が悪いし、黙って見過ごせる程俺は落ちぶれちゃいない。


「にしても、お主……ちとやり過ぎじゃな」


 セルフィは苦笑交じりに凹んだ壁を眺める。

 殴られた相手は気を失い、もう一人の従者が抱えて外へと連れていった。いくら相手が強靭な肉体を持っていそうとは言えど、この世界の人間より強い力を持つ俺のパンチはかなり強力なものだ。

 あの従者、当分の間は飲み食いに支障が出るだろうな。


「反省はするよ。感情に流されたのは」

「にしても、悠馬さん凄いっすね。魔法無しであんな力を出せるなんて、速すぎて相手が気付いてませんでしたよ!」


 ケンイが目を輝かせて言うと、フィオも三回ほど首を縦に振る。

 ケンイはあの襲撃の日以来、何処と無くあの触れ難い態度では無くなり、凄く親しみやすくはなった。

 たまに態度が大きくなる変な癖があり、そこをセルフィに矯正させられてはいるものの、以前の様な思春期の少年に見られる尖った感じは少し消えている。



「悠馬さんなら、あの伯爵なんかに負けませんよ」

「問題はそこなんだ」

「え?」

「あの人は以前、俺には勝てないと自分から言った。なのに、勝負を挑んで来た」

「奴を見る限り、ただの阿呆ではなさそうじゃ」

「そう。そこなんだ問題は」


 相手の目的と底が読めそうで読めない。

 この人間はこうであると、ある程度人間は認識する。

 そうすれば人を理解できるし、その人に対する距離感も測れる。

 だが、あの伯爵はどうにも底が読めない。


「ただの馬鹿なら良いが。経験上、ああいった奴ほど裏がある」

「だよなぁ」

「本当に面倒な奴に目を付けられたのぅ、お主」

「全くだよ。ああいうタイプは一人で充分だ」

「残念じゃが、お主の周りには複数いる」

「勘弁してくれ」


 そう話しながらも、戦闘用の礼装に着替える。

 以前来ていた聖剣用の礼装はジュウドさんに預けている為、今着ているのは先日、押し売りに来た商人から買ったばかりの礼装。

 障壁魔法が随時発動するように魔力を込めて織られている。

 身を護る為の鎧としてなら機能は問題ない。

 俺は屋敷の外にある広場へと向かう。

 そこには直剣よりは少し短い紫の曲剣(シミター)を手にした伯爵が待っていた。

 あの剣……何か妙な魔力を感じるな。


(あれは魔剣だ)


 頭の中に声が聞こえる。

 こうして聞くのは二度目だろうか。

 俺の所持する魔剣デュランダル、その力の源である精霊の声。

 あれから話し掛けても何の返答も無いため、精霊のいる精神世界のみで対話しか許されないのかと思いきや、実際はそうではなかった。

 単にこの精霊の気が乗らないか乗るかの話。


(魔剣の力は不明だけど、注意しておいた方がいい)


 了解だ。

 俺は剣幕な表情でダレンさんと相対する。


「さぁ、お前の魔剣を抜けよ。友の形見か知らんがな」


 そう言われ、俺は魔剣を抜いて刀身を見せる。


「ほう。良い剣だ、相手の生を貪り尽くさんとするオーラが感じる」


 剣を見ただけで性質まで見抜いた。別段驚くことではない。

 お互いに同じ力を宿す者同士。知られて当然。


「そろそろ始めようか。ギャラリーも集まってきたしな」

 

 周囲を見渡すとそこにはセルフィやアイラを始めとした屋敷の使用人ら、そして本当なら今日商談を受け持つ予定だったこちらに詰めかけて来た商人達の団体。その彼らは少し離れた位置からこの一戦を固唾を飲んで注目する。


「決闘の形式を決めてなかったな………お、ちょうどいい」


 ダレンはセルフィを見るとニヤリと表情を変えて叫ぶ。


「賢者様、俺達二人に障壁(シールド)を張ってくれよ。どちらかが先に割った方が負けってゲームにしたいんでな」


 なるほど、その提案には俺も賛同する。

 怪我のない決闘なら俺も思う存分にやれる。

 セルフィに顔を向け、頼むと頷いて合図を送ると「分かった」と言わんばかりの顔で魔法を行使する。

 お互いに薄い障壁(シールド)が身体に張り付く。


「これで良いか?」

「あぁ、感謝するぜ」


 お互いに改めて向き直るとセルフィが間を取り持つ為に近くに転移する。


「言い忘れておったが障壁(シールド)の強度は少し高めにしておる。お互い、決め手となる一撃が決まれば勝ちだ」

「気が利くじゃねーか。賢者様」

「礼は要らん。それではこのまま決闘を始めるが、お互い準備は良いか?」

「構わん」

「こっちも」

「ふむ。それでは始め!」


 セルフィは合図と共に転移すると元いた場所へと戻る。

 姿が消えたと同時にお互い、前へと出る。

 ここは様子見といくか。

 魔剣の力が何であるか見極めない限り、迂闊に攻めに入るのは危険だ。

 相手の動きに合わせ、スピードを調整。

 斬り込みに来るタイミングに合わせて、俺も剣を振るい刀身を合わせる。先ずは様子見。

 相手の出方を探るのが目的だが、生憎と俺は向こうの魔剣に関しては一切の情報がない。

 暫くはその真価を発揮させるために打ち合う。


「はっ!」


 甲高い音を響かせながら三度、叩き合う。

 意外にも軽い攻撃だ。

 刀身はそこまで長くはないし、重そうでもない。

 打ち合いなら、こちらの方が上。

 もう少し、前に!

 右側面へと回って側面から肩を狙って斬りつけるも魔剣で華麗に受け流される。


「くっ」


 体勢を少し崩された俺は追撃が来る寸前に重心を下げ、後ろに一回転して躱す。そのまま、数歩後ろに下がって呼吸を整える。


「やはり速いな。単純な身体能力でその速度とは、やはり手強いじゃねーか」


 確かに俺の速さに一瞬、付いて来れなかったかもしれないが剣の腕は一級品だ。

 タイミング良く綺麗に力を流された。


「まだこんなもんじゃねーだろ?勇者の力は」

「本気を見せろと?」

「そうだ」

「じゃあ、そっちも見せてくれませんかね。魔剣の力」

「あー、もう見せてるぞ」


 その言葉と同時に俺は背中に悪寒が走る。

 振り向くと既に背後へと詰め寄ったもう一人のダレンが魔剣を振り下ろそうとしていた。


「なっ?」


 少し慌てるも、剣を振り払って対応する。

 くそ、いつの間に………。

 ダレンさんは確かに俺の前にいた。

 そして、魔力の質からしてまだそこにいる。

 という事はここに居るのはおそらく……。


(分身(シャドウ)だよ。それも実体のある)


 それが魔剣の力なのか?


(それは一部。本当の力はもっと別にある)


 知っているならもっと情報をくれと叫びたくなるもそんな余裕はない。

 更に現れたもう一体の分身(シャドウ)が容赦無く斬り込みに来る。反応速度で対応していても多対一の 不利な状況。

 しかし、この世界における人間からすればチートとも言える馬鹿げた身体能力を発揮して、剣を弾いて後ろへと仰け反らさせる。

 力では負けない。

 体勢を崩すと同時に足を踏み込んで豪快に蹴りを放つと後方に吹っ飛んでいく。

 芝生の地面を少し削りながら、飛んでいくと止まった瞬間に分身(シャドウ)は霧散する。


「俺がまるで相手にはならんか」


 自身の分身に戦いを任せ、高見の見物をしていた本体は自身の分身の敗北をしっかりと受け止める。

 意外にも冷静な戦い方をする。

 自身の技量と相手の技量の差を見極めて戦術を立てようとする所、やはり二人は親子なのだと思わされる。


「力と速さは貴様の方が上。加えて、一撃が重いときた。これは多少分が悪いな」

「降参しますか?」


 俺の問いに対して軽く笑う。


「安心しろ。そのつもりは無い、勝てないなどと思っては………いないからな」


 俺は魔力を周辺から感じる。

 分身(シャドウ)が魔力で出来ているからその力を感じてさえいれば、先程の様な奇襲の対処は容易。

 しかし、それが一点だけなら。

 足元の影が突然形を成して実体になると手で足を掴まれる。


「しまった。こいつらは影から………」

「遅い」


 手の辺りが赤く光ると小さな爆発が起きる。

 煙から出てきた俺の足は少し障壁(シールド)が剥がれ落ちている。


「ゼロ距離からの攻撃か、厄介だな」


 少し距離を置いて本体を探すも、陰のある箇所から数十体の分身(シャドウ)が生まれる。

 そのいずれも同じ様な魔力の質を持っている為、完全にどれが本体であるか見失っている。


「貴様とて、この数を一度に相手にするのはきつかろう」

「聖剣がなく、白兵戦のみしか特化してない貴様にとって、この戦況は不利と言えよう」

「さぁ、どれが本物か。当ててみろ」


 同じ顔の人間がこうも目の前で増えるととても気分を害されるのは初めてかもしれない。

 しかし、今はそう思っている余裕はない。

 ここに居る、全員を倒すかしない限り勝利はない。

 まとめて薙ぎ払いたいが……俺とこの魔剣の力の状態ではかなりの列戦を強いられる。

 不味いな。

 背後だけは取られまいと動いていたが、影から現れる以上それは不可能に近い。

 これ以上、分身シャドウが生まれる前に対処するのが先決。

 こう言った状況、大抵本物は分身よりも少し後ろの位置にいたりする。

 そうなると、右側に少し固まっているあの五体のうちのどれかである可能性が高い。

 一点突破を狙う以外ない。

 俺は狙いを五人に定めると真っ直ぐ敵に向かう。

 こちらに反応した二人が左右から来るも、一振りで胴体を切裂き、分身を消す。

 障壁シールドは再現されていない。となると、相手は斬った感触で本物を認識できる。


「あと三人」


 目の前にいる三人に目掛けて駆けるも、直ぐに周りの分身シャドウが詰めて近寄る。


「させん」


 立ち止まって剣を受け流すと背を貫く。


「やれ!」


 剣を貫かれた個体が消えずに魔剣を押さえると更に前後左右から四人が襲いかかる。

 止む無く魔剣を手放すと、一番最初に来た敵を背負い投げで後方にいる分身シャドウに当てる。左右の敵には障壁シールドを張って止める。


「なっ?」

 

 剣を弾かれた分身シャドウは反動で後ろに若干仰け反る。

 それを見逃さなかった俺は貫いた分身シャドウが消えるのを確認し、目にも止まらぬ速さで左右の敵を消す。残った二人も同じくして影の塵へと霧散させる。

 完全に足を止められた俺は再度三体に睨みを利かせる。


「流石勇者だ。私がまるで相手にならん」

「やはり貴様は相手に回す上では脅威だ」

「だが、私も負ける気は無い」

『是が非でも、貴様を配下に加えよう』


 本物がバレないように別々で話掛けてくる意図は伝わった。

 だが、三人で同時に声を掛けてくると大分気が滅入る。


「面倒な能力だな」

 屋敷の大きな玄関の前。

 そこに用意された椅子とテーブルに座ってセルフィは観戦していた。

 アイラが持ってきた紅茶で涼んでいる。


分身(シャドウ)か、面白い固有魔法を使うのぉ」

「あの魔剣の力ですか?」


 傍に控えるアイラの問いにセルフィは肯定する。


「そうじゃ。見た事のない魔剣じゃがな」

分身(シャドウ)が多くても、魔力の質の差は本体と若干な誤差はある。悠馬さんなら直ぐに見破れるのでは?」

「ケンイ。良い指摘じゃが、答えはノーじゃな。悠馬は同質の魔力を感じ取るのは苦手としている。故に本物がどれか見極めるのは不可能じゃな」

「意外だ」

「お主は分かるか?」

「一応は」

「それで良い。この期間でそれだけの感知能力が身に付いているのなら上々と言えよう」


 ケンイはこの数日間に地獄の様な特訓に付き合った記憶が無駄では無いと嬉しく思う反面、


「これで次の段階へと行けるな」


 更なる地獄を見る事に心を弱らせられる。


「あー、嬉しいなぁ」


 無表情で涙を浮かべると感情なく言う。

 それを見兼ねたフィオは同情して、背中を擦る。

 戦況を見据えているアイラは固い表情で伺う。


「セルフィ様、悠馬さんはこれをどう対処するつもりなのでしょう?」

「簡単な話よ。見ての通り、力で捩じ伏せるしかなかろう」

「この数をですか?」


 見た感じ、ざっと三十人近く増えている。

 分身シャドウの上限としてどのくらいまで出せるのか分からないが、これから更に増える事も有り得る。

 そうなると流石の悠馬も数の差で押し負けるのでは無いかと、懸念が過ぎる。


「安心せい。彼奴は数の差なぞ、承知の上で常に戦っておる」

「ですが、それは聖剣を所持している時の話では?」

「そうじゃな。だが、奴なら勝つじゃろう。何せ、お主の兄が持っていた魔剣はまだ力を出してすらおらぬしな」



 数の有利に劣勢を強いられていた俺は少しずつ障壁シールドを削られていた。大きな一撃は食らっていないものの、これ以上攻撃をもらうのは危険である所まで追い詰められていた。

 分身シャドウの数も四十体を切った辺りで出現は遅くなってきた。

 現在、数はざっと二十後半と言ったところか。

 未だに本物を見極めれていないのは少々厳しい。

 どうするべきか……。


(答えは一つ。僕の力を使いなよ)


 やけに積極的だな。

 それ程、クロードを侮辱されたのが気に食わないみたいだ。

 それで答えっていうのは【自壊】を使えと?


(そうだよ)


だが、それでは殺してしまう


(発想が足りないよ。僕の能力は斬った相手の魔力を如何なる距離であろうと食らい尽くし、相手を消滅させる。それ君らの言う【自壊】になるだけ)


 それをどう使えと……


(まぁ、今回は特別に見てもらった方が早いね)


 精霊の声が消えると魔剣が赤く輝く。


(君の身体、少し借りるよ)


 意識はある。だが、身体が自分とは意図しない形で動かされる不思議な感覚に落ちる。

 魔剣を地面に力強く差し込む。


「なにを?」


 不審に感じた伯爵は分身シャドウに指示を出して止めようと試みるが異変を感じた数体が凍りつく様に止まる。


「【広域(エリア)自壊セルフ・デストラクション】」


 足元に白い魔法陣が大きく浮かび上がる。

 すると俺を囲んで機を伺っていた分身シャドウが胸の辺りを強く掴み、悶える様に苦しむ。

 何を?


(言ったよ、僕は如何なる距離であろうと魔力を食らう、と)


 俺は攻撃していないが


(いや、この攻撃に関して言えば既に条件は揃っているよ。僕の【自壊】は一度、食らった者の魔力を覚える)


 分身シャドウは一定の魔力で出来た塊の様なもの。なら、自壊の対象になると?


(付け加えれば、同質、同量の魔力を持つ者に限られる。故に君が分身シャドウの一体を魔剣で貫いた時点で分身シャドウの意味はないね)


 次々とシャドウは影の塵へと霧散させられていく。

 その中にこの現象に関して不可解な顔で伺っていた人物を見付ける。


「あれか」


(あとは任せるよ。僕はお腹いっぱいで眠い)


 自由な性格してる。

 魔力を食らう為に俺に力の使い方を教えてきた様なものだ。

 それに十中八九相手が分身シャドウを出し終わるのを見計らって待っていたのだろう。


「おいおい、あっさりとやってくれたなぁ」

「自分でも驚いてますよ」

「それが貴様の魔剣の力か。相性が悪そうだ」


 おかしい。


「まぁ、まだ戦いは終わってはいねぇんだ。ここからが勝負だよな」


 何故。

 何故、そこまで余力がある?

 大半の魔力を消費して造り出した、全ての分身(シャドウ)を消され、かなり限界を迎えていてもおかしくは無い筈。

 なのに、どうして余裕な顔で……。


「さて、こっちの番か」


 消え……いや、横か。

 慌てて剣を身体の間に入れ、重い一撃を受け止める。

 衝撃で数センチ後ろへとズラされる。


「何処にこんな力が……」

「驚いたか?無理もねぇよな!」


 更に二撃。

 素早い剣戟に少し遅れて対処するも致命的な攻撃には至らなかった。


「ちっ、この速さに対応するか」


 三撃目が入る途中、俺は体勢を整えるために反撃して距離を置く。


「くそ。優位に立ったつもりが、防戦一方にされた」


 急激な速度と力の上昇。

 分身(シャドウ)が消えた同時に何か付与(エンチャント)系の魔法を使ったのか?

 その線は高いだろうが、そこまで大きくは変化しない。コレは明らかに違う力が働いている。

 だとすれば、魔剣の方か。

 ………………。

 くそっ、何でこんな時に寝てるかな!

 一番頼りになる者の返事がない事に憤慨したくなるも、ここは抑えて冷静に状況を見極める。

 一先ず、やる事は一つだな。

 あの人の速い動きに対応する。


強化(ブースト)


 身体に淡い線が伸びる。

 足から手にかけて、身体の内側から力が冴え渡る。


「ほうその程度の魔法で俺と渡り合う気か」

「馬鹿にしてもらっては困りますよ」


 お互い、自身のタイミングで前へと詰めると激しい打ち合いを開始する。

 一心一刀の攻防に観る者の心を射抜く。

 瞼すら閉じる事を許されないこの速い駆け引きと剣技にセルフィを除いた全員が釘付けにされる。


「なんて速さだよ」

「あれは魔法の力なのですか?」


 二人の動きを正確に捉える事が出来る者は少ない。

 アイラもケンイ同様に目では完全に追えていない。


「ケンイよ、お主は辛うじてだが見えるのではないか?」


 その問いに対する答えとして首を横に振る。

 しかし、見る為の手段は分かっていた。


「悠馬さんは魔力の流れを先読みしている。違いますか?」

「いや、正解じゃ。流石の悠馬でもあの速さを捌くには目だけでは追えんようじゃな」

「魔力の流れ、それだけで防げるんですか?」

「場合によるかの。魔剣から発せられる魔力の方向で剣の振り下ろされる位置を把握し、極限に研ぎ澄ました身体能力と動体視力、その五感全てを使って防いでいるのだろう」


 セルフィの指摘した行為は悠馬の持つ凄まじい集中力と鍛錬、積み重ねてきた実践によるものだと一同は思い知らされる。

 私は本当に悠馬さんの隣に立てるのか。

 こうして間近で戦っている姿を見ると余計にそう感じさせられざるを得ない。

 あそこまで至るには一体どれだけの力と技を身に付ければいいか、そう思うだけでもキリがなく感じられる。

 一同が暫く黙って観戦を続けるとある攻撃を境に動きが止まる。

 お互いにボロボロになった姿で土煙の中から現れる。


「流石と言おうか、制限された力でよく耐え忍ぶ」


 胴体を避けた手足の障壁シールドはほぼ割れ尽くされ、その隙間から赤い鮮血が悠馬から流れていた。

 息も大きく上がり、肩で呼吸しているのが見て取れる。


「そろそろ終わりといこうか、勇者」

「そうさせてもらいます」


 お互いに最後の一撃を放つべく、剣を構え技を放とうしたその時……


「そこまでです」


 突如、魔法で間へと割って入った桃色髪の少女はドレスを地面に着かない様に軽やかな足捌きで悠馬の前に立つと双方に杖を向けて無理矢理やめさせる。

 いつもとは変わった厳しい表情で伯爵候に目を合わせる。


「怖い顔だ、第三王女様」


 その挑発に乗らないユリナは表情は変えずにそのまま挨拶を交わす。


「お久しぶりですダレン・ラフォント伯爵候。御父上の葬儀以来でしょうか」

「そうだな。俺は貴様らの婚約茶番劇以来だがな」


 その言葉に眉をピクリとだけ動かす。


「失礼。改めて、婚約おめでとう、と言っておこうか」


 心にもない事を…。

 そう内心で呟くも周りの状況を省みて素早く収束させることにする。


「決闘を行ったのですか?国法規定に子爵以上の爵位の決闘は国王の許可を必要としますが」

「そこの勇者はまだ正式的には子爵ではない。いくら女王の宣言と言えども受勲式を執り行っていない以上、仮の肩書が付く。そうすれば、私闘な決闘と抗弁できるが?」


 理屈を重ねた理屈。

 合理的とも取れるが根本的な事を詰めれば終わる事のない討論。

 それに付き合う義理を持たないユリナは話を進める。


「その件には不問と致します。私はいまここでこの決闘を続けさせる気はありませんがどう致しますか?」

「いや、止めでいい。俺の目的はある程度達したからな」


 ラフォント伯爵は後ろで控えていた従者二人に馬を連れて来る様に指示を出す。


「おい、勇者。貴様、名を何と言ったか」


 俺は魔剣を鞘にしまい、ユリナの横に並ぶ。


「瀬戸悠馬」

「覚えおこうハルマ。次会う時までに聖剣を取り戻しておけよ」


 そう別れを告げると乗ってきた馬に跨って森の小道に姿を消す。

 その後ろ姿を目で追い切れなくなった所で敷地に向けて歩もうとすると肩をがっしりと手で捕まれる。


「何処に行くおつもりですか」


 気のせいだろうか、若干声のトーンが落ちていて圧迫感がある。

 加えて、ユリナから漏れ出る魔力の気配に肌が凄くピリ付く。

 それを察知したセルフィらは観戦していた場所から既に撤収しており、周りにいた商人ら屋敷に招いて、俺達の周りから人が消えていた。

 ヤバい。

 違う意味で本当にヤバい。

 つい最近も体感した嫌な雰囲気に汗が身体から吹き出ると心臓がバクバクと脈打つ。


「悠馬様、決闘に至った経緯を詳しくお聞かせもらえますか」

「はい……」

「今日という今日は本気でお説教させてもらいます!」

「はい……」


 返事をするしかない機械に成り果てた俺は三時間以上もその場に正座させられ、お叱り受ける嵌めとなった。

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