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三十一話

「お主も変人に好かれるのぉ~」

「やめてくれ、それは言わない約束だ」


 多少なりとも自覚はある。

 クソ悪魔こと、ザビーダを始め数多くの敵に目を付けられては命を狙われ、魔法オタクのロリババ……じゃなかった幼女エルフ。


「もう遅い。私を変人の分類に入れている時点でアウトじゃ」


 やはり心を読んでいた。

 今度は水をかけられなかっただけ、マシとしよう。


「私を変人とするなら、お主の婚約者はもっと変人じゃろう」

「そんなこと………」


 なくはないかもしれない。

 ここ最近のユリナの行動に関して、以前と違った狂気じみたものも少なくはない。

 新しい記憶では、帰れなくさせられたり、軟禁させられたり、麻痺毒にして無理矢理連れ帰られそうになったり、一定の距離以上離れると死ぬ魔法を掛けられたり、事前に相談なしで婚約を進められたりとするくらい普通ではない扱いを受けていた。これを深く何とも思っていない自分が怖い。


「取り敢えず、来客を迎い入れる準備をしないとな。相手は一応、伯爵候だし」

「私も同席しよう。少し気になる点があるしのぉ」


 駄目だ。とは言わない。

 むしろ、セルフィが横に居てくれる方が萎縮して意識が横に逸れるかもしれないしな。


「面倒事は避けてくれよ」

「安心せい。余計な口は挟まん主義じゃ」

「ダウトだ。ダ・ウ・ト」

「ふむ。しかし、上手くいくじゃろうか」

「いかないだろうな。あの人、気が強そうだし」


 セルフィの同席を許可した俺は屋敷の使用人達に指示を出して、簡易的な準備を進める。

 伯爵候を来客用の部屋に通し、暫くそこで話し合うとしよう。丁重に。


「にしても、まさか当然来られても困る」

「偶然ではあるまい。旧王国の者であればな」

「……かもな」


 貴族社会において他貴族の領地に赴く際に、何かしらの連絡(アポ)を取るのが礼儀である。貴族社会云々言っていた伯爵候とあろう方が事前通告も無しにやってくるのは失礼極まりない行為ではある。色々と文句を言ってやりたい気持ちにもなるが、言うだけ無駄だと俺は悟った。

 相手が高圧的で、俺様気質のプライド高そうな貴族様だからではなく、俺がまだ正式的に貴族となっていないからである。(爵位授与式は明後日)故にその主張は通じない。

 加えて、このタイミングでここにやって来たという事は恐らくここ数日間、自分の部下をこの辺りに派遣させて監視していたに違いない。

 ちなみに監視の対象は俺ではない。

 昨日の晩にやって来て、今朝方、王宮へと戻った王女様がいなくなったのを見計らってのことだろう。

 それか、俺が返事を無視し続けたから我慢の限界を迎えたかだろうか。

 とにかく!今回の件は、ユリナに後ほど穏便に済んだと報告する結果を出せればいい。

 上手くいけばの話だが。

 俺は来客用の部屋へと向かい、急いで子爵位の礼服に身を包む。

 アイラちゃんとセルフィは先程と変わらない服装を纏い、俺の従者(表向き)として屋敷に住んでいるケンイとフィオも一応同席してもらい、新たに新設された瀬戸子爵家の全員が各所に配置させて迎い入れる。

 これも一応、礼儀の一つだとセルフィからのアドバイスでもある。


「旦那様。ラフォント伯爵をお通しします」


 頷いて促す。

 すると、ドアを豪快に開くと先日とは少し違ったラフな服装でいた。

 左右に二人の屈強なお供を連れて、如何にも威圧的な態度を取る。


「ほう、意外とちゃんとしているではないか」

「いえ。伯爵候をお招きするので、これくらいは……」

「よせ、これは私的な用件で来た。難い態度はよせ、あと伯爵もな。ダレンでいい」


 そう言われ、俺は肩の力を抜く。


「前から思っていたんだが、貴様、元の世界では本当に平民か?」

「どういう意味でしょう」

「簡単な話。平民の割には教養がある、ということだ」

「元居た世界とこの世界は大きく違います。魔法もなければ、身分制の社会もない。国家間の争いがない平和な社会です。その社会で、俺は子供のうちに多くの事を学ばされました」

 

 その言葉にこの場にいた誰もが興味を抱いて聴いていた。あの伯爵候以外は。


「実につまらんな。著しい変化のない日常には耐えられんな」

「それが平和です」

「言うではないか、勇者よ。しかし、飽きもする。そんな底たらくな日常、進歩がないではないか」

「進歩はあります。この世界にはない技術で世界は日々変わりつつある」

「ほう。争いのない世界でか」

「はい」


 ダレンさんは手前の椅子に腰を降ろすと俺にも座る様に指示する。

 既に着席して話を聴いていたセルフィはフィオに紅茶を用意させて、菓子を食べている。


「だがな、勇者よ。お前はひとつ勘違いしている」


 来たか。決して相容れない持論が。


「いいか、人と人との間に争いがない事はない。それは平和になってもな、違うか賢者様?」


 セルフィは無礼な態度を無視して、菓子を食べ止める。


「小童の言っていることは事実じゃ。人の本能において他者との競争は必ずしも争いを生じさせないとは言えん。お主の言う世界がどんなに平和であろうとも、他者との競争は常に争いの火種となる。違うか?」


 正論とも言えるその台詞に俺は否定しない。

 むしろ、肯定する。


「人は無意識で競争し合う。争いの定義がどれ程広いものか、私には分からん。故に平和であったとしても、それは真なる平和ではなく、基準に沿った平和なのじゃろう」


 セルフィの言葉に俺は何も言えなくなる。

 平和の基準。そんなこと考えたことがなかった。

 人同士が争って血を流さないのが平和。

 そう学校で教えられたことはないが、いつの間にか平和がそういうものだと認識させられていた。

 これが平和であると。

 この基準が平和なのだと。


「分かったか?平和なんてものはありはしない。あるのは破壊と殺戮」


 それは極論過ぎだ。


「物騒な事を言う小童じゃ」

「おいおい、あんたが言うなよ賢者様。あんたが使うその魔法でどんだけの奴らを殺した?自衛とは言えど、数え切れない程の奴らを殺ってきたんだろ」

「否定はせん」

「なら口を挟む資格はねぇよな」


 一理あると認めたセルフィは珍しくすんなりと下がる。


「それじゃあ、もう一度聞く。俺と手を組め勇者」

「何度言われても答えは変わりません」

「ちっ、意思の硬い奴だ」

「俺はダレンさんの思想と相容れない。俺は人が死ぬような争いは求めないし、したくない」

「いい加減、考えを改めろ。悪魔の連中も人間ヒューマン、エルフらも変わらない。生物の本能として根底にある闘争心はな。それに新たな国を立ち上げて、俺の理想とする平和を実現させるんだ、悪い話ではないだろう」

「断る。あんたの言う平和が人の流れた血で成り立つっていうなら今ある平和で俺は充分だ」


 本当に筋を曲げない意地の揺るぎない面倒な男。

 これ以上の対話は無意味としか思えない。

 それにこの人は平和を求めているんじゃない。

 自分が……いや、ラフォント家が王の玉座に返り咲きたいだけだ。


「ダレン様、これ以上の対話は無意味でしょう」

「その通りです。勇者と賢者以外の者達を見ればお分かりなはずです。彼らは皆、我々と違い意識が低い、脆弱な目をしている。それに女、子供ばかり…どう見ても滑稽な連中ばかりでしょう」


 その言葉にケンイは怒りを露わにして殴りかかろうとするもフィオが耳朶を掴んで制する。

 伯爵候の従者がアイラの方に目を向けると薄気味悪い笑みを浮かべて言う。


「例えば、魔剣を託されたにもかかわらず、戦死した兄を持つ妹とか……な」

「違いない」


 その言葉に唇を強く嚙み締めて愛する兄の侮辱を堪えるも、追い打ちとなる笑い声に心が響く。

 従者として、耐えることしか出来ないアイラは顔を少し沈めて涙を流す。

 すると、笑い声が急に止む。鈍い音が耳に届くと顔を上げて事実を確認する。


「……悠馬さん」


 振り切った腕の先には、ラフォント伯爵の従者の一人が壁に打ち付けられて気を失っている。

 それも当然。殺さない程度に、多少顔面が歪む勢いで殴ったのだから。


「貴様、伯爵の従者である我々に手を出すとはどういう了見だ!」

「黙れ」


 怒りが収まらない。

 感情制御をする魔剣が機能していない、というよりかは魔剣から流れる感情により更にブーストされている感じがする。

 今ここで、手を出せば殺してしまうかもしれない程。


「ひっ、ひぃぃぃぃ」


 殺気を感じ取った従者はみっともない声を出しながら数歩後退る。


「ほう、それが貴様の本性か」


なるほど、嵌められたか。

 

「正義感に溢れた奴かと思いきや、そうでは無い様だな。貴様から滲み出た殺気に違うものを感じた」

「……だからと言って俺はあなた方に手を貸す気は無い。敵対したいと言うのなら俺は護りたい者の為に容赦無く手を下します」

「いい判断だ。だがな、貴様が子爵位の貴族であり、俺が伯爵位の貴族なら、この結果は遺憾だな」

「手を出した事には謝罪します。ですが、中傷されたのはそちらです」

「一理ある。では、こう手を打つとしようか」


 ダレンは右手の手袋を外し、俺に向けて投げる。

 その行為は古い貴族社会の風習に伝わる決闘の合図。

 これを取る事に決闘は成立する。

 そして、タチの悪い事に俺は取らざるを得ない。


「俺が勝てば貴様は俺の配下。貴様が勝てば俺は今後、貴様らに関わらないと誓おう」

「一方的な内容では?」

「自信がないとは言わんだろうが、爵位の差によるモノと言おうか」

「分かりました」


 俺の承諾に傍観していた三人は驚きの声を発する。

 セルフィはこの結果にニヤリと笑みを見せる。

 まるでこうなる事を予想していたかのように。

 その顔に俺は内心、「ああ、やってしまった」と少し後悔するも、勝てば今後関わらないという条件があるためモチベーションを少し上げようと思った。


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