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二十九話

 太陽に照らされた熱い砂上に座禅を組んで瞑想にふける少年。視点を変えて目を凝らして見ると数センチ砂の上で浮いている。

 ここは日中を通して太陽に熱された砂浜で尻と足を鉄板焼きの上で座禅するのは熱くて敵わない。かと言って浮いていても、下から上からとじりじりと焼き付けられる熱気に集中力をそがれる。その代表行為としてケンイは熱さと暑さから逃れようとして気づかれないように少しずつ上昇していく。


「このままキープじゃ」


 少し後ろに生える大きな木の下に簡易式のハンモックを用意して寝ながら指導するエルフの少女。目を瞑っていなくとも、魔力の流れだけで不正に気づく。

 その更に下で魔法でひたすら少年の周りに青白いベールを包んで体力の回復に専念する銀髪の少女。セルフィ同様にピンク色のワンピースの水着を着ていた。


「やってるな。セルフィのキツイ修行」


 見ていた感じ一番辛いのはケンイだな。

 風属性の魔法を使った長時間に渡る集中力の持続、それらを阻害する環境に耐えながらの精神面の強化、様々な鍛える要素を一度に凝縮して行っている。

 魔力の多い者にとって魔力のコントロールは絶対に通らなければならない。

 ユリナも以前、エルフの里近辺の森で昼夜修行をさせられたと言っていた。後半はセルフィのキツイ修行と嫌がらせ行為に似たイジリに耐えかね、魔法を使った実践で森が半分来えたとかなんとか。

 それはさておき。俺達はユリナの祖父が使っていたこの屋敷に住んでから一週間、各々のやるべき事をしていた。


「はー、貴族なんてなるもんじゃないな」


 窓から離れ、執務室の来客用ソファーに寝転ぶ。


「悠馬さん、書類は片付けたのですか?」


 トレーの上にあるポットとティーセットを用意した全身スーツ姿のアイラが入る。

 お茶を用意して、机に置く。


「ありがとう、アイラちゃん」


 渇いたの喉に一気に流すと、肩の荷がおりた気分になる。

 ここ最近、机にしか向かっていないせいで体力が落ちた気がする。


「悠馬さん、その……私の事をちゃん付するのはお止め下さい。私は悠馬さんの派閥の一員で部下です。本来なら私も悠馬様とお呼びするべきで………」

「んー、様付けされるのは好きじゃないんだけどな。ユリナにも言っているけど聞かないし」

「ですが、私の事は……」

「いやぁ、アイラちゃんの事を呼び捨てで呼んだらクロードに怒られそうでね」


 怒られるも何も、以前そう呼んだらキレられたことがある。

 『てめぇ、何うちの妹を気軽に呼んでんだ?』と。


「大丈夫です。兄さんなら許してくれます」

「心配しかないよ」

「それよりです。書類の確認は済んだのですか?今日も午後から多くの商談が入ってます」

「あー、正直こんな責務投げ出したいな」

「面会を許可したのは悠馬さんです」

「そうだけど………話を聞かずに帰す訳にはいかないし。何せ王都から離れたこんな僻地に来てくれてるから」


 現在、俺達のいる場所は王都から三時間ほと馬車で南に進んだ海付近にある俺の新たな領地。会議が終わり、国王に言われて用意された新たな居住地はこの海に面した大きな屋敷だった。

 ユリナの祖父はここに子爵家の領地としてもらったが、平民の出身もあり随分と不遇な僻地を与えられたと思われる。今現在、国王からしてみればここはリゾートの別荘みたいなものだろう。

 屋敷の近くに数軒家が立っているも、彼らは屋敷で働くメイドや執事の家兼寮であるため、実質的な領民は居ない。

 だが、それもこの数日で大きく変化しようとしていた。

 勇者が子爵の地位を与えられ、更にこの地の領地まで受け、ある一定の勢力圏を有したと聞いた商人や王国の民が挙ってここにやって来ては商談、領民になりたいという話を持ち掛けられる。

 大抵その多くの人が求めるものは勇者としての俺の庇護。商人の場合、勇者専属となってプロパガンダとして顔を立たせ、商品を売る。要はCMのオファーだ。

 元の世界で人気者になる人の気持ちは絶対に分からないだろうと思っていたが、まさか異世界に来て強く実感させられるとは思いもしなかった。


「本当、面倒なポストだよ」

「ですが、子爵にならなければユリナ様との婚姻を成されなかったのでは?」

「いや、そうだけど。あの件があったせいで強制的に貴族になった訳で、俺は別になりたい訳では………」

「今更、何を言うておる。あのような熱烈なアプローチをしておろうに」


 瞬間移動ワープでこちらに跳んで来たセルフィは向かい側のソファーにすとんと落ちる。


「誰のせいだ。誰の」

「私は手を貸したに過ぎん。お主も姫の赤く慌てふためいた顔を見て鼻の下を伸ばしていたじゃろ」

「……否定はしない」

「ふん。それより、勇者よ。ある客がこちらに来ておるぞ」

「いつもの商人じゃなくてか?」

「そうじゃ。お主が返事を保留にしていた風来坊がの」

「あー。わすれていた」


 と同時に嫌な記憶が甦る。


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