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二十八話 長い会議と婚約宣言

「早く短い旅だった」

「収穫はあったじゃろう?」


 セルフィの問いに対して俺は曖昧に答えた。


「どうだろ……」


 目立った収穫物はないし、そもそもの計画もご破算になったわけだし、良いことはなかった。

 強いて言えば、ユリナから離れるには予想以上に厳しいのと彼女を怒らせる要因になってしまう。今後、下手に隠し事しながら行動すれば自由が奪われる可能性もあると身をもって学んだ。


「嫁に束縛されるのってどんな気分じゃ?」

「本人の目の前で答えろと?」


 向かい側に座ってニコニコと笑みを見せるユリナが居るにも関わらず、このエルフの幼女は「空気?なにそれおいしいの?」と言わんばかりの表情でこちらを伺う。この狸婆が。


「誰が狸婆じゃ」

「心を勝手に読むな。俺にプライバシーはないのか?」

「監視です。噓つきの悠馬様に人権はありません」


 言い切っちゃったよ。まぁ、噓をついていた事実に変わりはない。

 暫くの間は無心を心掛ける。


「無理じゃな」

「無理ですね」

「……無理だ」


 改めて隠し事が出来ない理不尽な状況を省みると馬車がゆっくりと止まる。窓の外を覗くといつの間にか俺達は王都へと入っていた。ドアが開かれ、俺は先に降りると小さなエルフの幼女を抱き上げ優しく地面に着地させる。


「子供扱いするでない」

「乗せる時にそう要求したのはどこの誰さんだっけ?」


 公の場にて、子供扱いされた事に不満を抱くも若干頬を赤く染める。

 あまり見せないその初々しさにニヤリとした俺は小さな少女をエスコートするみたく優しく手を繋ぐ。

 すると、それを不快に思ったのかユリナがこちらに冷たい眼差しを送る。直ぐにサッと手を離して、『事情は後で説明します。ごめんなさい』と念じる様に頭で考える。

 その意図が伝わったのか、「遊ばないで下さい」と一言注意を受ける。

 王宮に続く階段を登っていると二列に並んで控える、多くの従者達によって丁寧に出迎えられた。王族を迎えるためのトランペットの公奏曲ではなく、魔法を駆使した芸術の披露宴だった。


「これは、俺やユリナではなく……」

「私に向けてだろうな」


 隣にいるセルフィはその歓迎を受け、堂々と一人その間に出来た道を歩く。

 それに連れて俺とユリナも同じく向かう。

 ここに来る途中、違う馬車のケンイとフィオはアイラちゃんと共に宿舎として用意された場所の方に向かったらしく、この場には居ない。

 俺、ユリナ、セルフィの三名とユリナの従者二人は王宮へと呼ばれている為、こちらへとやって来た。

中に入ると入口付近に黒い礼装を纏った執事の翁が出迎える。


「ようこそお越しくださいました。セルフィード・フォレスト様」

「確か、貴公は国王の専属執事だったな。名はヴァスターであったか?」

「光栄でございます。かの偉大な賢者に名前を覚えて頂かれるとは」

「謙遜はいらん。お主のような剣客を知らぬ方がおかしい」

「有難きお言葉でございます」


 ヴァスターと呼ばれた執事の翁は一礼すると目を俺へと向ける。


「悠馬様。今回の魔晄四獣(グレムリン)の撃退し、村を救って頂いた功績、流石は悠馬様でございます。あの村は私の孫が住んでおります故、私的に感謝を述べさせてください」


 そういうことなら素直に受け取っておこう。

 改めて、ヴァスターさんはユリナへと向き直ると半歩下がって道を開ける。


「それでは、ユリナ様。女王様が会議室にてお待ちです」

「はい」


 そう言うとユリナは正装では無いものの、綺麗でしっかりとした軽装のバトルドレスを見に纏ったまま階段を登って、広い王宮の廊下を真っ直ぐ行った先の大広間へと向かう。

 その後を俺とセルフィはついていく。

 大広間に出ると既にそこにはこの国の公爵、伯爵、子爵の地位を持つ名だたる名家の貴族長達が威風堂々たる振る舞いで腰掛けていた。

 ユリナの履くヒールが大理石の床を叩く音が大広間へ響く。自然と目が音の鳴る方向に向けられると、第三王女の帰還に気付き、一斉に立ち上がって礼をする。


「戻りましたか、ユリナ」


 大きな円卓状の机。

 ちょうど、俺、ユリナ、セルフィが座る為に用意された椅子と真反対の位置にこの国の最高権力者であるユリナの母親、アリセント・L・ラフォルト女王がいる。

 威圧感のある声に俺は少しばかり肩を萎縮したくなるも、堂々と気品に立ち振る舞うユリナを見習って肩肘を張る。


「はい。『賢者』セルフィード・フォレスト様及び勇者様を連れて只今戻りました」

「ご苦労様です」


 労いを一言掛け、女王はゆっくりと俺の横に立つエルフの少女を拝顔すると、腰を上げて一礼する。


「此度は王国との提携に応じて頂き有難く思います」

「うむ、堅いのは無しじゃ。こちらとしては貴公らの国に迷惑を掛けることになるかもしれんからのぉ」

「いえ、事態が事態なので構いません。我が国も含め、多くの国が先の大戦にて疲弊しています。こうしてお互いに手を取り合うことこそ、平和に突き進む一歩であると私は考えております」


 そう述べた女王の視線は次に二人の間に並ぶ俺へと向けられる。


「そして、悠馬様」

「は、はい!」


 高貴な場に慣れていないせいか、緊張と突然名を呼ばれたことで裏返った声で返事をしてしまった。

 それを見兼ね、気を楽にして構わないという配慮なのか、柔和な顔で俺にも労いを掛けると感謝を述べる。


「再びこの国を守る決断して頂き、ありがとうございます。今回の件も悠馬様が居てからこその勝利です」


 無論、そんなことはない。

 あの場にユリナが居ればザビーダみたいな魔晄四獣(グレムリン)クラスの悪魔であっても制圧は可能。むしろ、あの場で奴を仕留め損ねるなんてミスは犯さない。

 しかし、ここは素直に賛辞を受け取る事が美とされる。先のヴァスターさんを見習って一礼を返す。


「悠馬様には後ほど、此度の功績を含めた数々の業績を基に褒賞と勲章を与えねばなりませんね」

「え、褒賞と勲章ですか?」

「はい。当然のことかと」

「俺の立ち位置は勇者です。元よりその立場は変わらないので今までと同じで構いません」


 このことを正確に説明すれば、俺はラフォルト王国の勇者ではなく、この世界の勇者である。どこの国にも属さず、万人に等しく救済を与える者として中立に徹する。仮に俺がラフォント王国に属するとしたら、他国間におけるパワーバランスに偏りが生じ、各国との間に亀裂を生み出し兼ねない可能性も示唆されるだろう。しかし、他国からすれば俺がこの国に拠点を置いているのは事実で、ラフォント王国とはかなり懇意にしているのは既に承知である。それでも尚、他国から不満の声が挙がらないのは現ラフォント  王国が善良な国王の下で統治される民主的王権体制であるからだ。

 故に俺はあくまでも客人としてこの国に身を寄せている。

 その立場である以上、ただ働きさせられていたがな。

 だが、そこに不満はない。

 何せ休みの期間は三食昼寝付きの好待遇であるからだ。

 戦う以外の働きを必要としない生活に慣れてしまったので、もう変えなくて結構です。と俺は口が裂けても言えない内容を遠回しに伝える。


「いいえ。魔王討伐後、本来は元の世界に戻るという約束でしたのに、こうして残って頂けるとは感謝し切れません。ですので、王家は今後、悠馬様のこの世界における暮らしを全面的にバックアップさせてい頂く所存です」


 うっ…そこまで言われてしまったら受け入れる他ない。


「あ……有り難き幸せを……」


 俺はきごちない半笑いを見せながら返答する。

 こういう場合、毎度毎度返事の仕方に困る。

 場に慣れていないせいで変な謙遜の返し方しか出来ない。それを見たセルフィは隣で薄笑いを浮かべる。


「それでは皆様、ご着席下さい」


 女王の号令により会議に参加したこの国の貴族達が一斉に座っていくと俺達も目の前に用意された席に座る。


「悠馬様」


 隣に座るユリナが膝を二回人差し指で軽く触ると俺の方に肩を近付けて小声で話す。


「悠馬様は不用意な発言はお控えください」

「仕方ないだろ。こういった場には慣れていないんだ」


 こういった円卓会議に参加した事は一度たりともない。参加する機会はあったが、向いていないから何度も断り続け、その度に終わるまで王宮の中庭でクロードと剣の稽古をしていたのが懐かしく思える。しかし、今はそんな現実逃避をしてる余裕はない。


「質疑応答に関しては私がフォローしますでのご安心を」

「ごめん、頼む」


 この国の名だたる権力者達とこうして同じ椅子に座って会議に出ること事態、名誉であるとこの国で生まれた平民は考えるだろうが俺の場合、余計な事を言って反感を買うという事だけは避けたいため、無礼がないようにここはユリナに全てを任せよう。

 ちなみに、もう反対にいるセルフィは椅子に座るや否や足と腕を組んで興味なさそうに早速、眠り掛けている。

 おいおい、マジですか。まだ何も始まっていないのに寝てんの?

精神年齢が高くて生真面目な筈なのにこういう所は見た目年齢相応の態度で来るんですか?マジですか?

 まぁ、放っておくとしよう。

 俺は改めて前を意識して向くと女王の隣に居る何処かユリナと顔が似ていて、更に大人っぽくした顔の金髪美少女が目に入る。

 第一王女のサレン・L・ラフォルト。

 身体が弱い為、色白美肌な彼女は妹の二人と比べると剣や魔法の才能は無い。しかし、それを埋めるほどの圧倒的な政治的な感覚や交渉力を備えた外交手腕の持ち主、時期ラフォルト王国女王の第一候補と言われるに相応しい才覚を秘めているとセルフィは評価していた。

 俺からすればそれ以上に目を引くのはサレンさんの持つ美貌と言うべき、大人の魅力だろうか。

 あんなお姉ちゃんがいたら泣いて喜び、裏では存分に甘えるだろう。

 そう無意識に鼻の下を伸ばしていると気づいたユリナが小突く。


「悠馬様、お姉様がお美しいのは分かりますが……私は認めませんよ」


 バレてる。

 ユリナは絶対に笑顔を崩さないし、口調も変えない。だけど、何故か凄い圧を感じさせられ


「すみません」


 と、自然に謝罪をした。


「もう……」


 会議が始まろうとする最中、女王の隣に座る席が一つ空いていることに気づく。そしてそこに座るであろう人物の顔が未だに見えない。


「あれ、王様は?」

「お父様でしたら……」


 ユリナがそう言いかけると奥のドアが勢いよく開かれ、遅れて登場したにもかかわらずゆっくりとした高貴な立ち振る舞いを見せて席に着く。

 その人物に俺は疑問を抱いた。


「………誰?」

「誰と言われましても……お父様ですよ?」

「え?」


 俺の知る国王はもっとこう、頭に髪の毛があって髭がもじゃもじゃで小汚いイメージがあったのだが、今対極に座る国王は完全にスキンヘッドで顔の周りの髭も綺麗に剃られ、楕円形のラグビーボールの様な顔をしている。

 それに気づいて目を覚ましたセルフィは腹を抱えて笑っている。


「あれ、イメチェンでもしたの?」

「分かりませんが、自分に対する戒めみたいなものでしょう。反省してくださいとは言いましたが」

「戒め……ね」


 理由は分からんが王なりになにかケジメを付けることがあったのだろう。

 それにしてもあの髪と顔、違和感がなさ過ぎて逆に笑える。回りの参加者も笑わない様、必死に堪えているがそろそろ我慢の限界だ。


「それでは皆様、御出席なられたという事でそろそろ会議を始めさせていただきます」


 女王の号令と共に他の貴族は素の顔に戻る。

 張りつめた空気感の中、あと何時間も過ごさなければいけないかと思うと余計に嫌気が指す。柔らかい椅子ならまだしも、少し綿を敷き詰めた固い椅子に意識がいってしまう。


「それでは初めに、急を要する知らせです。昨日未明、何者かによりオーガの里が襲撃され、全滅したとのことです」


 女王から発せられた言葉に一同、驚嘆の声を漏らし騒めく。

 当然、俺もその事実にはにわかに信じられずにいた。しかし、ケンイの村を襲った悪魔がやったというのなら……有り得ない話ではない。


「セルフィは知っているのか?」

「いや、知らんな。じゃが、ジュウドの奴は知っていたのだろうが、敢えて私に伏せおったな」


 それと言った素振りは見せていなかったから何も感じなかった。


「オーガの里が滅んだとすれば敵はおそらく……」

「新たな魔王………なのか?」

「わからぬ」


 議長である女王が木槌のガベルを叩き、響き渡らせると一斉に静まり返る。


「この件は娘のサラとエルフの里の大使であるジュウド・フォレンス様が共同で調査を進めています。詳しいことは今しばらくお待ちください」


 この言葉はセルフィにも向けられている。


「そして、今回の会議はこの件に関わるであろう新たな敵に対する対策内容を協議します」


 女王の言葉が終わると同時に隣にいるサレン王女は青い真四角の物体を机に取り出すとプロジェクションマッピングの如く各々の手元に立体魔法映像が映し出される。

 そこに映っているのは大きくぽっかりと穴の空いた跡。

 俺はこのこの光景を始めて見るが、既視感じみたものを覚える。


「これは……」

「先日話した、ケンイさん、フィオさんの村があった場所です」


 大きく円形に抉り取られた地面。映像は少し遠くから撮影されたものであるから少し小さく感じるが途轍もない惨劇が起こったのは見ての通り。

 これにより王国の地図から一部領土が消えた。


「セルフィード様、この様な大規模な魔法にご存知でしょうか?」


 女王からの問いにセルフィは答えを確信した様子を見せると呟く。


戦略級破壊魔法デストロイアの一つ。『怨恨之炎スルト』じゃな」


 再び会議室内が騒めく。


「スルト?」


 俺は怨恨之炎スルトという聞き慣れない単語の説明をユリナに頼む。

 それに応じたユリナは魔法モニターの画面を少々いじって文献を見せる。


「百年前に、四種族戦争が起きていた際です。当時、ドワーフによる魔法兵器でエルフの里を含めた森の半分が消失。ただ一人生き残ったエルフが反転(フォールアウト)した結果、この魔法を放ち、ドワーフ軍を全滅させ、返り討ちにしたという話です」


 文献の概要と魔法の説明を大雑把に纏めるとそんな所だろう。

 『怨恨之炎スルト』というのがどんなものかはよく分かった。


「そして、先生はそれを一度目撃したという話を聞いたことがあります」


 ユリナの指摘にこくりと小さな顎を動かす。


「左様、あの忌まわしき魔法を使ったのは私の兄だった者じゃからな」

「ってことは、まだ今も……?」

「いや、兄は死んでおる。私がこの手でな」


 セルフィは顔色一つ変えずに淡々と語る。おそらく、自身にとっても嫌な記憶な筈なのに。


「しかし、変ではあるな」

「先生もお気づきですか」

「うむ、『怨恨のスルト』は術者の怒りを食らい発動する魔法。そのトリガーにはあらゆる負の怨念に変わるリソースを必要とする」

「あの悪魔にはこの魔法を行使する、何かしらの因縁があの土地にあった?いえ、ケンイさんを反転(フォールアウト)させることが狙いであるのだとしたら辻妻が…………」


 この大陸屈指の魔法士二人が知恵を絞っても出てこないとなるとかなり厳しい状況下にある。

 二人が考え始めたのを見兼ねた女王と俺は目があってしまう。

 やべ。

 そう警戒したのも束の間、女王は両脇のガードが空いた事に気づく。


「悠馬様は魔晄四獣グレムリンと戦い、敵について何か感じた事はありますか?」


 その問いに他の貴族からも視線を注がれる。

 ユリナにはフォローすると言われているのだが、集中して考え込んでいる為、気づいてはくれない。

仕方なく、俺は声を張って答える。


「これといった変化は無かったかと……」


 あのくそ悪魔…ザビーダと戦っていた際に感じたことと言えば不死近い存在になったいうくらい。後は……


「以前より、大人しい感じでしたね」


 ふいに思いついた感想を言葉にする。


「大人しいですか」

「はい。奴の使う魔法『傀儡マリオネット』を広域に使って村人を人質に取られれば、あの一帯は大惨事になっていました」


 いや、大惨事になっていてもおかしくなかった。

 俺達に接敵する前に奴の言う『仕込み』をする時間は充分にあった。

 村全体を操り人形に変え、襲わせるのも容易だった。

 危うくまた、俺は奴の思惑にハマる所だった。

 その点、逆に今回はあまりにも大人しかった事には不幸中の幸いと言うべきかもしれない。 


「人間を陥れて楽しむ道化がここぞとばかりに力を発揮しなかったことを疑問に思います」


 女王陛下はザビーダという悪魔を詳しくは知らない。

 一部のものからの報告でしか知り得ていないだろう。

 それは女王陛下に限った話ではなく、この場で傍聴している貴族らも同じ。

 対悪魔におけるエキスパートと言うのも何だが、この場において魔晄四獣(グレムリン)に関する情報を多く知っているのは俺とユリナ、セルフィの三名くらいだ。


「そうですか………やはり悪魔と対峙していく上では勇者の存在は欠かせません。軍を再編成して、至急王国領内に潜む悪魔の掃討を優先すべきでしょうか」

「その意見に関しては私も賛同するが、一部反対だ」


 俺を擁護するように立ち上がったのはスキンヘッドにした国王。


「これは我々の世界での問題だ。これ以上、悠馬君を我々の軍事力に添えるのは気が引ける」

「ですが、早急に対処せねばならぬ問題です。敵の存在が明確でない以上、我が国の少ない軍事力では対処の仕様がありません」


 女王は事実を叩きつけるように述べる。

 魔王の軍勢により多くの兵士や未来有望な若者が死に、ラフォルト王国の軍事力面はかなり危うい状況下である。魔王との戦争により兵力は戦前の五分の一まで縮小してしまった。

 この世界において、軍事力とは数と個の力量が合わせて測られる。

 王国最強と謳われるユリナや武王として名を馳せる国王の持つ『個の力』が如何に強大であろうとも、大陸最大規模の領土を有する王国の国防範囲は王都を中心に限られる。

 昨今の村で起きた出来事が物語っているように、この国の領土や資源、民を守護する力はかなりギリギリだ。一部では守りが固く、一部では守りが脆い、というのが女王の抱える悩みの種である。

 しかし、それが分からない国王ではない。国王自身も同じ考えではあるものの、これ以上勇者に頼るのは甘えであり、王族としての威厳に関わると述べている。

 要は意地を捨て民の命を優先するべきという意見と後始末は自らで付けるべきという意見の対立。

 周りの貴族達は二人の言い争いを止める事が出来ずただ見ているだけだった。それに痺れを切らしたある人物が間に入って止める。


「お父様、お母様。どうかその辺で」


 第一王女のサレンの言葉に二人は気づいて口を閉ざす。


「済まない。ついいつもの癖で」

「私もお詫び申し上げます」


 どちらも謝罪をして会議の流れを元に戻す。すると、ある人物が手を挙げて発言を請う。


「サフィン伯爵、何か」


 長い金髪を持ち、やけに背が高くやせ細っている中年の男性が立ち上がる。

 その人物を俺は知っていた。名前は確か、スーリャ・サフィン伯爵。ネーナ・サフィンの父親にしてこの国の司法を統括する国の最高裁判事。日本国憲法ではないがそれに準ずる王権法なるものは存在する。  その法に基づいてこの国では罪人を裁く。

 話を戻そう。ダレン伯爵は発言の許可を得る、正面に向き直って発言する。


「私は女王陛下の意見に賛同します。聖剣の担い手して、再びこの世界の危機を救って頂く。現に彼は今もこうして戦い続けている。我々に出来ない事を彼は成せる」

「サフィン卿、それでは王国の権威が……」

「今更、権威を持ち出されても困ります。我が国は此度の魔王討伐にあたりどの国よりも一番被害を受けたのは事実。残った戦力や戦で疲弊し切った民のことを考えても、我々だけでは対処に当たるのは不可能と存じます」


 彼は俺の方を一瞥すると冷め切った表情で睨む。


「それに勇者殿は元の世界に帰還出来なくなったと聞きました。であれば、勇者殿を国民とし、王国を守護する最強の騎士として迎い入れれば我が国は安心して再建に努められるというものです。勇者様国民であれば、全身全霊を尽くして国に身を捧げることも厭わないでしょう」


 おいおい、それってつまるところ俺にもっと働けって言っているのに等しいぞ。

 人々を守るという点では俺も協力は惜しまないつもりだが、今の言い方には些か嫌味が含まれている気がしてならない。少し気に障るような言い方ではあったがここは落ち着いて対処を……

 

「貴様」


 突然、魔力を込めた圧の掛かった声が全体に響き渡り、恐怖を感じた伯爵は声を発した者に恐る恐る目を向ける。

 

「ふざけた事を抜かすな。貴様、それでも司法を牛耳る長か?」

「……っ」

「こ奴は此度の戦における一番の功労者で、世界の守護を担う英雄じゃ。それを国民に迎い入れ、駒の様に都合よく扱うだと?大概にせい」


 隣で鬼気迫る殺気を醸し出したエルフの少女は滅多に見せない荒々しい睨みを利かせる。

 小さな身体から途轍もないプレッシャーを真横から感じさせられるせいで、血の気が引く思いで聞かされる。


「おっと、済まぬな。どうにも精神的退化の反動で慣れぬ故、他の者には迷惑をかけた」

「い、いえ。こちらこそ……勇者殿、失礼を申し上げたことお詫び申し上げます」


 サフィン伯爵は一礼して謝罪をすると、片目で俺を見据えながら座る。

 その言葉を良いい気持ちで素直には受け入れ無かった。むしろ、心に小さな棘を投げつけられた気分だ。だが、そう言われても仕方ない。あの人にとって俺は娘の仇みたいなものだから。

 そして、これ以後。

 会議の流れはいつも通り、緩やかな流れで進行した。

 新たな敵の正体を仮の新たな魔王とし、ここ一ヶ月の間は魔王の狙いである高い魔力を持つ者の堕天化。その対策として、ユリナ、セルフィ、ケンイを王国で保護という名目上で集めて、万が一襲撃して来た際に最高戦力を用いて王国決戦を刊行し、来なければ二か国連合調査隊の報告を待って備える。その際、新米兵士の育成をメインに行うことが決定された。

 全ての議論が終わり、ようやく解放されるかと思いきや、まだデザートに類するものが議題として残っていた。


「最後に悠馬様の今後について。私個人から提案があります」


 俺は心の中で変に生活が縛られない様に祈る。


「悠馬様を国民として迎い入れ、我が国を支える新たな貴族として子爵の地位を与えようと思います」


 そうだ。ついに来たかこの話。

 一応、俺は貴族として子爵の地位を得ていると聞かされていたのだが、今ここで正式に尋ねるという事は国王の個人的な発言だったのと推測される。

 別に嫌ではないが……反対して対立する貴族が出ないか不安になる。

 その懸念を念頭に様子を伺うも、誰も反論を述べない。

 ただ一人を除いて。


「女王よ。それは勇者の所有権を主張しておるのか?」

「否定は致しません。悠馬様は種族で言えば人間ヒューマンです。協定及び種族の関係上、そうするのが正しいかと」


 女王の強い主張に隣にいるユリナは強く頷く。そして向かいにいる国王も。


「勇者は我々にとって不可侵な存在と兼ねてより協定で決めておった。それ以前にこやつの判断を尊重すべきでは?その辺、お主から何か言ってはどうじゃ?」


 顔を向けると強く同意を迫る。

 双方から何か言うように求められると意を決して答える。


「俺は………」

「代わりに私が!」


 突然、立ち上がったユリナは魔法を介してある自分の記憶にある映像を再生する。

 そこに映っているのはユリナの前に立って別れを告げている俺のシーン。




「だから、最後に一つ伝えさせてくれ」


 俺はユリナの肩を掴み胸から離すと、酷く赤く腫れた泣き顔を見てクスリと笑む。


 初めて見た彼女のこんな表情に半ば面白さを感じながらも嬉しさが勝っていた。


 そして、俺はずっと抱いていた想いを伝えた。


「好きだった」


「…………」


「初めて会った時から、ずっと好きだった」


 俺はユリナを強く抱きしめて、呟く。


「結婚してくれ」




 さながら映画のワンシーンかの如く、抜き取られ、一部改竄された記憶の再現が放映される。

 俺は氷ついた顔と目でこの映像を眺め、セルフィはニタニタと表情を浮かべ、国王は感激して涙を流し、ユリナの姉のサレンは「あらあら」と口に手を当てて微笑ましく見守る。

 あまりの雑な展開と出来事に見させられた会場の一同は凍り付く様にユリナの次の行動に注視する。


「こ、このようにして悠馬様は私に、プ、プロポーズをしてくださいました!」

 

 顔全体を真っ赤にして赤裸々に告白し、強気に出る。

 初めてみる彼女の大胆過ぎる行動にかなり驚愕するも、普段見せない可愛い一面にデレデレしてしまう。


「これを見てください」


 手の甲から桃色の紋章が半分浮かぶと俺の手にも共鳴して浮かぶ。

 なんだこれ。

 見るからに嫌な予感しかしない。


「まさか……」


 俺はある事を思い出す。

 この世界において、婚約の儀を交わす際に嵌める指輪。結婚指輪なるものはない。

 お互いの仲を永久のものとするため、指輪ではなく魔法を用いた婚約の儀があるという。

 一つの紋章を半分に刻み、分かち合う事で愛を保ち効果を流す魔法。

 その紋章は二つ合わせる事で出来る絵があることから婚約紋章エンゲージリングと呼ばれる。

 これにより、この国において離婚という概念は無いに等しい。

 ある特定の条件を除けば。


「これで私は悠馬様と婚約の契りを果たしました。王権法に則り、私は悠馬様が貴族として認められないのなら、王女の座を退くつもりです」


 ユリナの頑固たる意志に女王は何処か落ち着いた面を見せる。

 その台詞に場が静まり返ると姉のサレンが発言する。


「ユリナのその紋章エンゲージリングは本物なのですか?」


 サレンさんの質問の意図はこうだ。

 婚約紋章エンゲージリングが発動させるには恋人が、二人で近い距離で寝ながら魔力の同調をする必要がある。決して簡単なことではない。普通の人なら何日もお互いに夜を共にし、徐々に同調しなければならない。そして、サレンさんはユリナと俺が普段から一緒のベッドを共にしていないのを知っている。おそらく、ユリナが偽装した紋章エンゲージリングを見せているのではないか、そう思っているのだろ。


「姉様も知っての通りですが、この紋章は偽装出来ません。ですが、私なら一晩で………」

「一晩で?なんじゃ?」

「い、いえ。なんでもありません」


 ユリナはバツの悪そうに言葉を止めるとニヤニヤしながらセルフィは追求するも無視して座る。

 俺はセルフィの方に身体を寄せて尋ねる。


「なんで顔赤いんだ?」

「決まっておろう。紋章エンゲージリングを浮かび上がらせるために昨晩は奮闘したのじゃろうな」


 そのニュアンスだと卑猥に聞こえるが実際のとこ、ユリナが夜中に魔力を無理矢理同調させて発動させたに違いない。今朝、起きるのが遅かった理由も納得がいく。


「だからって、顔を赤くすることか?」


 別に性行為をした訳でも、された訳でもないが。

 その言葉にやれやれと首を振るう。


「お主はもっとユリナを……魔法を知る必要がありそうじゃな」

「………そうかもな」


 ひそひそと話しているうちに話は終わり、最終採決に移行した。


「セルフィード様、悠馬様の意志はここで示されたのも同義、よろしいでしょうか?」

「野暮な質問よ」


 何が野暮な質問だ、だ。

 あの流れを意図的に作らせたのはセルフィ本人。

 予め、ユリナがこう出るの伺い、誘導したに過ぎない。

 そして、ユリナ本人も分かっていながら敢えて乗った。

 最初に言ったあの台詞『悠馬様は特に何も言わないでください。私がフォローしますので』。

 これに頼った時点でこの流れは確定した。


「どうじゃ、気分は?」

「ありがとうございます。とでも言えと?」

「素直にならんか」

「ならその緩んだ口をどうにかしてくれ」


 仕方ない。この場はこの流れのまま通すしかない。


「それでは、第六代ラフォルト王国女王の名の下に、瀬戸悠馬を子爵の地位を任命。正式な授与式は後日改めて執り行うとします」


 女王の高々な宣言の下、俺は多くの他貴族から盛大な拍手で受け入れられた。


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