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二十六話 旧友

 数百メートルに至った巨大な木々が数百キロにも渡って大陸の二割を占める大森林。

 位置的には大陸の最西端。詳しく言えば、最南端にある人間(ヒューマン)が栄えるラフォルト王国の領内、そして大陸の中心に位置し、樹海の隠れ里と言われるエルフの里の領内、その更に北の山脈の鉱山内に地下都市、『リンドルフ』を築くドワーフの王国であるサドバルドの領内、その三つの国に面する形で囲まれている。

 大森林内は豊富な魔力が大地から湧き出るため、周囲の木々が大きく影響を受け、規格外の大きさへと成長する為、基本的に太陽が出ていようとも森林内は密集した木の陰で薄暗い。故にそういった環境下で育つ光るコケ、通称『ヒカリゴケ』によって淡い光が昼夜問わず照らされている。

 しかし、そんな中に唯一、太陽の光が差し込む場所がある。

 大地と森を割き、川を引いて作られた人口的な木々の滝。滝によって流れた水が池を作り、その中で多くの魚が太陽を浴びながら泳ぐ。

 その一帯だけは光が当たり、森の草食的な野生動物が多く日に当たり、安らいでいた。動物達の向く先に池の直ぐ近くに建てられた小屋がある。小屋の窓に角の生えた大柄な男性が木製の椅子に腰掛けて古びた書籍を読んでいるのが分かる。


『見つけた』


 突然空から青い光の雫が降ってくるとそれは人の形へと姿を変える。

 見た目は若々しく、ショートな白髪でスリムな身体をした少女。

 身体のラインが浮き出るぴっちりとした服装から控え目な胸元の間を覗かせ、煌びやかなスカートを身に付ける。

 周囲を見渡すと、近くで眠る鹿の元に行き、優しく頭を撫でる。

 その更に横で可愛らしく眠る小さな少女を見ると手を伸ばして顔を触ろうとする。


「待て」


 背後から声を掛けられると咄嗟に手を止める。

 声の主が分かったのかニヤリと笑むと少女はくるりと顔を向き直す。

 少女の目に映るその者は自分よりも遥かに背が高く、ボサボサした髪に小汚い髭。

 紺の甚平を纏ってラフな格好で出迎える中年の黒い牛のような禍々しい角のある男性。

 少女はその者を見ると懐かしくも、憎らしい表情を浮かべて言う。


「やっぱり、生きていた。魔王」


 少女の言葉に男は眉一つ動かさず反応する。


「何の用だ、精霊王リスフェルト……いや、今は聖剣だったか?」

「今はどちらも肩書きに元が付くね」

「まさか、そんな事を言いに来たのか?」

「否定はしない。ただ、君の存在を確認しに来ただけだよ」

「ほう。俺をまた瀬戸悠馬に殺させるか?」

「君が暴走すればそうする。けど、結果今までの中で一番良い結果にはなったんじゃないのかな?」

「どうだかな」


 魔王と呼ばれ意味恐れられた様にも思えない程、無害そうな男は背後にいる小さな自身の形見を優しく抱き抱えると近くの椅子に寝かせる。


「その様子だと、君はもう世界の脅威とは思えない」


 その光景は平和な父と娘の生活風景。

 そこにかつて、世界を三度陥れようとした暴虐の魔王たる面影は微塵も見えない。


「魔王としての力はもう殆ど残っていない。『怠惰』の戒言を有しているせいで、何もやる気が起きんがな」

「君らしいじゃないか。あれ程怠惰であった君が」

「数百年も昔の話だ」

「でもね、私は忘れないよ。君が力を手にして暴走し、魔王となったあの日。どれだけの同胞を殺したか」


 言葉には殺意が込められる。

 しかし、魔王は全く気にする素振りすら見せない。


「俺はこの世界での憎しみの象徴であり、全ての悪の根源だ。そんな事を言われようとも、今更痛める心など無い」

「それもそうだね。君が生きていると分かれば私の(マスター)は血眼で探すよ」

「その(マスター)はどうした?」

「今は別々で行動中。私と彼はお互いに頼り過ぎていたから、少し成長を自主的に促そうとね」

「その見栄っ張りも変わらんな。大方、俺との戦いで力を使い切り、側にいても役に立たないから敢えて離したのだろう」

「皆まで言わないでよ」


 顔をぷっくら膨らませる。


「それでどうするんだい?君は今後、何もせずにこのままこの大森林でひっそりと暮らすのかい?」

「さぁな。俺はもう魔王として、君臨する事はもう無いと思っている………が、運命がそうさせない。いや、もはやコレは呪いだ」

「君はどうあっても世界を害する存在なのか」


 否定したくても、否定出来ず。

 その顔で答えは出ていた。


「そうだ。例え、俺が望んでいなくても、世界のシステムがそうさせようとする。俺に世界を破壊する、何らかの理由を与えてな」


 目先に眠る小さな娘の頭を優しく撫でる。

 そして、再度向かい側の木の椅子に座る少女へと向き直り、問う。


「その前に、俺を確実に殺すべきだ。違うか?」


 その質問に少女は呆れた顔を示す。


「私に言われても困るよ。君を本当の意味で殺せるのは私を剣として扱える悠馬(マスター)のみ。死にたければ、(マスター)に言って」

「そうさせてもらう。だが、それは俺が運命に抗えなくなった時だ。それまではアレイスであった頃の名前を使わさせてもらう」

「懐かしい響だね」


 二人に柔らかな表情が戻ると傍で眠っていた少女が目を覚まして身体を起こす。


「パパ、お腹空いた」

「昼食は出来ている。中に入ろう」

「うん………その人は?」


 見慣れない人物の顔を見ると不安気な表情を浮かべる。

 珍しく困った顔をした魔王は少し笑って答える。


「パパの古い友人だ」


 その言葉に両者共に意外な顔をする。


「パパ、友達いたんだ」

「まぁ……な。取り敢えず、お昼にしよう。せっかく作ったのに冷めてしまうよ」

「うん!」


 無邪気な表情で笑みを見せると急ぎ足で中へと戻る。


「リスフェルト、お前もどうだ?」

「頂くとするよ。パパ」

「やめてくれ、揶揄うのは」


 バツの悪そうな顔で懐かしい旧友を招き入れ、三人で思いもしなかった昼食を愉しむ。

 世界の転換に区切りを付け、今ここに新たな平和は実現された。


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