二話 プロフィール/序章
ここで少し話を振り返るとしよう。
俺のプロフィール。
名前は瀬戸悠馬。
神奈川県に住む瀬戸家の次男で、十八歳の大学一年生に本当ならなっている筈だった。
身長は173cmとあまり大きくはない。
テニスを小中高と合わせて六年やっていたからそこそこ運動神経はいい方だ。
高校進学後はテニスをそのまま続けるのではなく、勉強とバイトの日々に明け暮れていた。
そんな高校生活が始まって三ヶ月が経つある日の夜、歩いて帰路についている途中、突如足元に浮かび上がった魔法陣に導かれ、別の世界。リスフェルトに転移した。リスフェルトととは、この世界にある唯一の大陸名でもあり、世界の名も冠している。
この世界には人間、エルフ、獣人、ドワーフ、悪魔等の多種多様な人型の種族が暮らし、その他にもドラゴンみたいな架空の生物やスフィンクスやサラマンダーといった伝説上の魔獣も多く生息する。
そんな世界を破滅に導かんとする勢力が魔王と悪魔である。特に魔王と呼ばれる存在が有するその力は強大で、対抗出来る者はほんの一握りと限られていた。
その一人が勇者と呼ばれる、魔王を倒すことの出来る唯一無二の兵器を有する存在。
即ち、聖剣の担い手。
それがこの世界に呼ばれた俺だった。
ユリナ・L・ラフォルト。ラフォルト王国の第三王女である彼女によって召喚された俺は聖剣を授かり、かつてこの王国を救った転生者である英雄血を引く彼女と、各種族の勇敢なる強き仲間と共に、三年の歳月を経てようやく魔王を討伐するに至った。
ここまでの内容を振り返ると自分が如何に異世界転生した勇者としての王道ストーリーに沿って過ごして来たがよく分かる。まぁ、転生じゃなくて転移だけど。
しかし、問題はその後だ。
後日、王都に戻った俺達に向けて盛大な祝賀会を開き、皆が飲んで騒いでを行う最中、俺は他の皆には内緒でユリナに帰還の事を打ち明けて、こっそりと帰るつもりでいた。それを聞いたユリナは難しい顔で二度、帰還に関して考え直すように言ってきたが、帰還の二日前に俺は揺るがない意志を示し、ユリナもそれに納得してくれたようだった。いや、勝手にそう思っていただけなのかもしれない。
あの日、ユリナの笑顔に隠された想いに気付けなかったから。
▲
王宮のとある一室。
大きな高級の羽毛を使ったベッドが一つと、その周りには此度の戦いで得た勲章を飾るための棚が置いてある、寂しい部屋。
無駄に空間が広く家具がないため無駄にスペースがあるせいでそう感じるのは必然だが、改めて見るとやはり寂しげな感じがする。
元々、俺が生活する上で与えられた部屋なのだが、ちょっと前まではほぼ寝る為だけに使っていた。
家具はその二つで、横の部屋に自分のバスルームとレストルームが完備されている無駄に高機能な部屋。
俺は広々としたベッドの上で仰向けになっていると、ただ何も考えずにボーッとしていた。
先刻の出来事があまりにも衝撃的過ぎて。
「ホント、意味が分からん」
魔法陣を破壊され、帰る手段を失った俺はショックのあまり気絶してしまったようだ。
衛兵達にこの部屋に運び込まれた俺はこのベッドに寝かしつけられると外から鍵を掛けられ、半ば軟禁されている状態である。
ちなみに部屋から出ようと思えば簡単に出られた筈なのだが、何やら閉じたのは鍵だけではなく、この空間そのものを箱のような物に入れ、閉じ込めたようだ。
一見窓から見える王国の景色は変わらないが、その窓すら開くことは無い。無理矢理開けて出ても、必ず出る事は叶わない。
それを理解した俺はこの部屋で目を開けてから約三十分間こうして軟禁されているという訳だ。魔法って怖いね。
暇潰しに天井のシミを数えようと見詰めるも真っ白過ぎてシミひとつすら見当たらない。
「やる事ないな」
ふと、ドアが開く音がし身体を起こして入って来た人物に目を向けるとそこには俺を閉じ込めた張本人がいた。
「お目覚めですか?」
何食わぬ顔でしれっと部屋に入り、近くの椅子に座って笑顔をふりまくユリナを細目で見詰める。
「ユリナ、説明をもらえるか?」
この暴挙に至った理由。
彼女が俺に帰って欲しくないことは分かった。にしても、何の理由も無しで突然、元の世界へ帰還する唯一無二の方法であった魔法陣を破壊し、俺をこの部屋に軟禁した理由までは分からない。
その辺り、納得のいく説明はするべきだと俺は主張した。
説明を求められたユリナは真剣な顔でトーンで言い訳を開始する。
「いいですか。悠馬様は夢を見ていたのです」
「ん……夢?」
「はい。魔王はまだ未だ健在しているにも関わらず、悠馬様は元の世界に帰ろうと試みたが失敗してしまったという夢です。まだ、何も始まっていませんよ」
「……?」
首を傾げるしかない。
訳が分からん。
夢?
何のことだ?
彼女の話の要点が全く掴めない。それどころか、何を説明しているのかすら把握しかねる。
取り敢えず、少し話を合わせてみるが
「要するに魔王はまだ討伐されてない。と?」
「はい」
「俺はまだこの世界に呼ばれて間もない。と」
「はい」
「……んんんん?」
おかしいな。
俺の記憶と彼女の言葉が何一つとして辻褄が合わない。てか合ってたまるか。こんな明らかな噓をどうやって信じろと。
「理解してもらえましたか?」
「いや、理解も何も嘘を理解してもな………」
噓を付けないが故の性格か、下手過ぎる言い訳に呆れた俺は困って頬を掻く。
それを暴かれると溜め息をついて項垂れる。
「やはり、駄目ですか」
「無理があるだろ、その嘘は…」
「仕方ありません。ですが!もう元の世界に帰る手段は有りません!」
開き直ると、腰に手を当てて高らかとそう宣言する。
「は?!魔法陣は?」
「儀式場は丸ごと破壊しました。機能を完全に停止させ、その後二度使えないよう念入りに結界を張った上で、土を被せて隠蔽しました」
そうニッコリとしながらとんでもない発言をする。
「……マジか」
「マジです」
「いやいや、契約は?そういう約束だった筈じゃ?」
「破棄します。それに以前、悠馬様は元の世界に帰ってもやる事はない、って言っていたじゃないですか」
「え、あぁ……うん。多分言った」
否定しようと思ったが、身に覚えがあるので肯定する。
「ですので、帰らないらずにこの世界に残りましょう!」
いやいや、残りましょう!じゃないよ。自分がした事の重大さを理解していないのか?
さっきから反省の色が一切見えない。
「理由になってねーよ!第一、今後俺はどうするつもりだよ?勇者としての責務は果たしたんだからもう居る理由は……」
そこで俺はとんでもない過ち、とはあまり言いたくはないがこの場面では過ちとも言える言動を思い返す。
別れ際、泣きじゃくる彼女の前で言った台詞。
「愛している。なら、私と婚約を果たして幸せな家庭を一緒に築きましょう!」
胸に手を当て、顔を近付けたユリナは半ば顔を赤く染めつつも己の意志をしっかりと伝えた。
かなり強引とも言える手口で、彼女らしくないプロポーズの仕方だが……正直に言おう、悪くは無い。こうまで積極的且つ大胆なアプローチにはドキッとしてしまう。
ちなみに伝えておく、俺は決してMではない。
これは俺が望む展開の一つであり、これくらい強引なのは嫌いではないことに加え、そもそも断る理由がない。
何せ俺はユリナに対して告白をした。
その言葉を嘘にはさせない。という意味合いを込めての返事に拒否なんて出来ない。
「分かった」
俺がそう一言呟くと彼女はとても嬉しそうな表情で俺の胸に飛び込む。
「ありがとうございます。本当に、本当に嬉しいです」
もう一度、彼女は涙を見せた。
これは悲しい涙なんかではなく、嬉しい方の涙だ。
おそらくユリナは自分の感情をずっと押し殺してきたのだろう。
祝賀会の夜に俺が帰ると告げたあの日から、迷って迷って、そしてあの別れ際の時まで、ちゃんと迷った末に出した答えがこれだった。
自分が有益に………いや幸せだと思う未来を掴み取るために強引に俺を留まらさせた。
想い残す事がないように言ったあの台詞がこんな未来を導くことになるとは思いもよらなかった。
「ユリナ、そろそろいいか?」
彼女の泣き声に駆けつけた城のメイドや騎士達が慌てて俺の部屋に入るとこの光景を見て、少し安心して遠くで控えている。
一国の王女として見させる姿ではない。そう思った俺は彼女を胸から引き剥がす。
「申し訳ありません。二度もお見苦しい様子を……」
「いいよ。俺の知らない一面を見してくれるのは嬉しい」
ポケットからハンカチを取り出した彼女は涙を拭ってそのままベッドから出ると立ち上がってドアの方まで行く。
「すみません、私は自室に戻ります。悠馬様は王宮内で暫く自由にお過ごし下さい。では」
いつもの旅の時の服装とマントを身に付けた彼女はスカートの裾を掴み、足を交差してお辞儀をするとそのまま部屋から退出した。
結界も解除してくれたので、これで俺は晴れて半ば自由の身となった。
「さて、どうするか」
改めて今後の方針を考える必要がある。
元の世界に帰らない以上。
俺はユリナと共にこの国の王となり……いや、止めておこう。
彼女の涙で二度も濡らされた俺の服はよく見るとかなりシワが寄っていたのでとにかく着替えることにる。
「まぁ、結果オーライかな」
考える事を放棄し、とにかく時間の流れに身を任せる事にする。
この世界の新たな平和は始まったばかりだしな。
ここで自分の自己紹介も少し。興味なければ無視して構いません。
小原航と言います。趣味はアニメ、漫画、Jリーグや海外サッカー(主にプレミアム)鑑賞、観戦をメインに日々の生活を自堕落に過ごす学生です。
下手な文章で読みづらい方も多いでしょう←特にタイトルを考えるが苦手。少しでも面白いと思って作品をこれからも追って頂けると幸いです。
一話にも記載しましたが、ブクマ、レビュー、感想、評価をお待ちしております。