村の魔物
気絶した勇者Aを村長は、自分の家の一室にあるベッドに寝かせた。
魔物たちも、勇者Aと同じ部屋に招き入れられた。
「うう・・・」
勇者Aが目覚めた。囲むように魔物たちがその動向を見つめている。
「プル(大丈夫か?)」
「あんたたちやりすぎなのよ」
「いやしかし・・あの場面は仕方ない・」
シルディのいちゃもんに、タケシは自分のやった事の正当性を主張する。
「済まなかったな・・勇者Aさん」
「私はこの村の村長だ」
勇者Aは起き上がると、村長の襟首を捕まえ振り回した。
「村長!?なんでいきなり俺襲うんだよ!」
「まぁまぁ落ち着いて・・」
勇者Aの肩に手をおいて宥めるシルディ。
「ほんとにすまない・」
「だがわし達の我慢も限界だったんじゃよ」
「実力行使に打って出ようと、待ち伏せしてたら・・」
「君が偶然きてな、姿確認せず、攻撃してしまったんじゃ」
「確認しろよな・・!」
説明を聞いて、村長がわざとじゃないのが分かると
最後の言葉に残った怒りを込めると、勇者Aは落ち着きを取り戻した。
「まぁ、俺達もあんたとケンカしにきたんじゃないんだ」
「話し聞こうか、村長さん」
「ありがと〜・・」
村長はお辞儀すると、椅子を勇者のベッドの横に引っ張り、静かに腰を下ろすと
最近村で起こっている事件を語り始めた。
「ワシらの村は、畑で農産物を自給自足で賄い」
「それで生活しとるんじゃ」
「だが、最近、どこからとも無く現れた魔物たちが」
「村の家々や、倉庫に貯められた食物を、少しづつだが」
「しばしば奪っていくようになっての」
「困っておる・・」
村長は眉毛を八の字にすると、顔を曇らせる。そしてまた話しを続けた。
「あいつらは、なぜかワシ達の隙をついて、こっそり家や倉庫に忍び込み」
「盗んでいく」
「強盗のように危害を加える事はないのじゃ」
「だから、ワシらも、中々奴等を捕らえることはできなくて」
「今日から、作戦を変えて、待ち伏せしとったんじゃ」
「ふ〜ん、そいつら弱虫なの?」
勇者Aは頭で村長の話しをまとめると、思ったことを素直に口に出した。
「いや・・そうでもないようだぞ」
「あいつらはチビデビルと言ってな」
「比較的魔法に長けた魔物たちじゃ」
「あの盗む手口からしても、統率がとれてて、頭も良さそうだし」
「ワシ達を襲って、全部巻き上げることも可能なのに」
「少しずつ、物を掠め取っていくのじゃ」
「それって・・ある意味賢くない?」
シルディが話しを聞いて、感じ取ったことを口にした。
「村長さんたち、怪我させたら、食物も作られないし」
「村人が襲われたら、警戒網も厚くするし」
「ちょっとずつ、長い時間かけて、掠め取るって賢いやり方だと思うわよ」
「じゃの〜・」
「しかし、どうもそれが・・気になるんじゃ・・」
「果たして魔物たちが、そこまで計算だった動きができるものかと・・」
勇者Aが冗談まじりに言葉を発した。
「そりゃ〜〜、シルディやタケシみたいな、頭の良い魔物が統率組んだら」
「できるんじゃないか?」
「プルとか、頭わりーから、無理だろうけど!」
「プルププ(頭悪くて悪かったな!)」
「何よ〜、私達なら泥棒はたらくっていうの!?」
「いや、例えさ・怒るなよ・」
シルディが眉根の間を縮めて、両手を腰にやり、詰め寄ってきたので
両手のひらをシルディに向けて、諭すように言葉を返した。
「ご飯、ただで盗んでいくんだから、おいらなら許せないな。」
ケルが無垢な表情の中に正義感みたいなものを、にじませて言った。
「村長〜!」
「ガタ」
「ん?どうした?」
近くに住む村人が息をきりながら、慌てた素振りで村長の家に駆け込んできた。
「あいつらがまた倉庫に潜入しています」
「なに!?」
「む・・・みんな行くぞ!!」
「おう!」
「おっちゃん、案内してくれ!」
「あ、ああ」
勇者Aは村人に案内を頼むと、村長の家を走り出て行った。