打ち合わせ!
シギトたちは、今日の依頼案件のミーティングを会議室で始めている。
12畳ほどのその部屋は、周りを防音効果のある壁で固めていて
長いテーブルに丸椅子が沿うように置かれ、白いボード
天井には長い蛍光灯が設置されている。会議に必要な物しか置かれていないようだ。
メンバーの中にはソリアの姿が見える。昨日の夜、シギトの頼まれごとを終え帰り
今日から仕事に参加している。
「さてと・・・」
「今日の案件の話をするぞ」
「今から話すのは、A班が行く案件の話だ」
「A班は勇者A、プル、タケシ、シルディだ」
シギトは鉄の指示棒を、A班に入る者に順番に向けていく。
「A班のリーダーはもちろん勇者Aだ」
「え・・?あ・・そうか」
その言葉に勇者Aは一瞬戸惑うが、メンバーの顔ぶれをみて
人間が自分一人だということに気づいた。
・・・・だよな・・シギト覗いたら、俺一人だけが人間だしな・
・・・俺に全責任が掛かっている・・気合いれないと!
いつものメンバーにシルディが増えただけだが、シギトの会社で
初めてリーダーとして仕事を請け負う勇者A、プレッシャーが肩に掛からないわけが無い。
「オルカ村から、西の20kmの地点にあるゼル川に近くにあるコルク村・」
「そこに、最近魔物たちの集団が現れ、村の食べ物や金品を奪っていくそうだ」
「村の人々に危害は加えないらしいが、こう毎回、物を奪われてはな」
「そこでお前達に奴等の排除を頼みたい」
「なるほど・・」
「地味な仕事ね〜・」
シルディはテーブルに頬杖をつきながら、今までの案件に比べて
見劣りする今回の仕事の内容を聞いて、落胆を表情に現している。
「ま、A班の話はそれだけだ」
「街の大体の見取り図渡すから、確認してくれ」
「A班は出て行っていいぞ」
「あいよ〜」
A班のメンバーは部屋を出た。
押し黙る勇者A達。
何から始めようか困惑気味の勇者Aを見て
シルディが最初に口を開いた。
「ねぇ、魔物ルームで話ししよっか」
「え?・・そ・・・そうだな」
「じゃ行こうか」
「ウス」
「プルププ(行くべ!)」
魔物ルーム入ると、この間、拾ってきたケルベロスが鼾を掻いて寝ているのが見える。
この部屋はモンスター用に大きく敷地をとって作られてる。
この前まで、くすんだ青の壁に、テーブルと椅子しか置かれていなかったこの部屋は
見違えるように変わっている。
壁には白の正方形のタイルが、隙間無く張られていて
奥の片隅に大きな冷蔵庫、物を入れるロッカー、窓には金色を縁取ったベージュのカーテン。
ガスコンロに水面台、壁には大きな地図、衣装箱を伴う大きな鏡、アンティーク風の長いテーブル、木の根っこのような椅子が見える。
「なんか、すげ〜よな、この部屋」
「人間の部屋と変わらないじゃん」
昨日、勇者Aはタケシを運んだ時この部屋へやってきたが、あまり周りを見ていなかった。
よくよく見ると、部屋の中が充実している事に気づく。
・・・・俺達の家より、よっぽど立派・・
・・・・こんな部屋に住みたいなぁ・・
勇者Aはそんな事を考えながら、ふーっと息をついた。
「プルププ(これ全部シルディがやったんだよ)」
「そうなのよ!私がコーディネイトしたんだから!」
「ほぉ・・」
「結構苦労したんだから・・」
「あちこち雑誌みて、良い家具はないかとか探し回って」
「・・・・それで・・〜」
「ストップ〜!!!」
「仕事の話しおうか・」
女がデザイン系統の話しをしだすと、長くなるのはリンで体験済みなので
最初のうちに釘をさして、話を切り替える勇者A。
難しい話は苦手なので、勇者Aとシルディに全部任せて
窓から部屋の外をぼーっと見つめるタケシ。
外に植えられた綺麗な花に、止まる蝶々の動きを目で追っている。
プルは冷蔵庫を空けて、何か無いか物色していた。
そのたるんだ人任せの二人をみて勇者Aが激怒した。
「てめーら・・・・・」
「集まれよ・・・・・」
「全部・・・俺任せに・・してんじゃねぇ・・」
勇者Aの体にとてつもなく、ドス黒いオーラが集まり始める。
「う・・・」
「プルププ(はいはい!)」
異様な殺気を感じ取った二人が、急いでテーブルにつく。
・・・・相変わらず迫力あるなぁ・・勇者A
しばらく勇者Aから離れていたタケシは、久しぶりに見るその迫力に
懐かしさすら感じていた。
・・・俺のマスターはこうでなくっちゃな・
「じゃ、地図渡すぞ」
「でな・・あーでーこーで」
・・・・・・・・・・・・
村の場所や周辺の状況、中の見取り図などを、適当に説明する勇者A
タケシは相槌を打ちながら真面目に聞いているが、プルは途中から眠たくなって欠伸をしている。
シルディは勇者Aが仕事の話を、淡々と順序良く話す姿に、少し感心しながら見つめている。
・・・・勇者Aってボケってしてるようで・・
・・・・リーダー向きな気がする・・よく見たら顔もかわいいし・
勇者Aの顔をまじまじ見つめながら、今までの印象を少し上方に修正するシルディ。
「ま、大体こんなもんだ」
「じゃ、今日の昼飯くったら、コルク村に出発だ」
ケルベロスが、部屋の騒がしさに気づき、目を覚ますと
シルディ達の近くまで歩いてくる。
大きな巨体のケルベロスにはこの部屋は少し狭そうだ。
「みんな〜なんの話してるの?」
「ん・・?」
「プルププ(おはよ!)」
「仕事の話よ、ケルちゃん」
「ケルちゃん?」
「ケルベロスだからケルちゃんよ」
単純なシルディの命名に少し苦笑を浮かべる勇者A
「明日、みんなで出かけるからお留守番しててね!」
「ええ・・寂しいよ〜・おいらもついていく!」
「ええ・・?」
「だめよ、危険よ」
「行く〜絶対いく〜!」
体を右に左に揺らし駄々をこねるケルベロスに
困りが顔のシルディ。
「どうする・・?勇者A」
「うーん、仕方ないな・・」
「でも、お前馬車に入んないから」
「歩いてこいよ!」
「うん、分かった!」
・・・・はぁ・・こいつ役にたつんかなぁ・・
・・・・足引張らなければいいけど・・
勇者Aは、無邪気に笑顔を見せるケルベロスを、不安そうに見つめた。