打ち出の小槌!
二人を乗せた馬車は港町パーニャにやってきた。
大きな白い石が詰まれた真ん中を楕円状に切り裂いたような入口。
そこを抜けると等間隔に整頓された石畳の道が続く。
この街は入口から海へなだらかな傾斜を伴う道が一本伸びており
傾斜の上方から海を見下ろす事ができる。道の両側にはやはり
大きな白い石を積んで建てた石の家がいくつも見える。
「海きれいだな」
「よしどっかで飯にするか」
「カニのマークの看板がありまっせ」
「よしそこに入ろう」
勇者Aは坂道なので馬車の車輪に転がり防止用の石を挟んでいた。
「よし、こんなもんか」
「ジロウ、行くぞ」
「あれ・・どこ行った」
勇者Aが周りを見渡すと、少し遠くにジロウの青い袴が薄っすら見える。
その隣に白いワンピースの女の子が立っている。
「え〜、私用事あるし、困る〜」
「こんな鄙びた港町で一生を終えるのかい・?」
「あなたほどの美人は、あちこち旅をして女を磨くべきだ」
「この街で潮風に晒されながら、干からびていくのは、あまりにもったいない・・」
「さぁ勇気を出して、僕についてきてごらん、大丈夫お金なら沢山あるから」
「で、でも〜・・」
「僕が最初の一歩を君の手を引っ張り導いてあげよう」
「ちょっと、やめてってば」
ドカ!
勇者Aは後ろからジロウの頭を思いっきり小突いた。
「いて〜〜〜!!」
「見あたらねーと思ったら、こんなとこいやがったか」
「じゃ私はこれで」
「あ〜あ・・・まってや〜・・」
女の子は白いワンピースを翻し、小走りで去っていった。
「勇者Aはん、殺生やで〜、もう少しだったのに」
「むさ苦しい男だけのパーティに、花を添えようとしたワテの気持ちわかってーや」
「おまえなー・・ちょっとは自分の容姿考えた方がいいぞ」
「あんな、歯が浮くセリフをそんな子供みたいな格好で言っても効果あるかよ」
「しかも顔が青い子供なんか、気持ち悪いだけだぞ」
「そうかいなーじゃこれでどうかな」
ジロウは良く分からない魔法を唱えると、体が光り輝く。
「なんだ〜眩しい・・」
「これでどーかなー?」
「うは!」
勇者Aが目を開けると、これまで見たことないような、渋い男が立っていた。
褐色の髪の毛をオールバックにし、高級そうなスーツ上下に黒い革靴
鼻の下には横に綺麗に整えられたヒゲが伸びている。
中年で金持ってそうな渋い親父と言った所か。
「お前…誰だよ」
「ジロウですがな」
「化けれるのか?」
「変身は得意技でっせ」
「ほほぉ・・・」
勇者Aはシルディやケルなどの変身を見てきたが
ここまで見事な変身を見たのは初めてだった。
「お前、俺に化けれるか?」
「もちろん!」
「どですか〜?」
「おお、ばっちりじゃねーか、どこの貴族が立ってるのかと思ったぜ」
「… …」
・・・こいつは使える、あんなことやこんなことに…ウフフ
勇者Aは不気味な微笑みを浮かべ、ジロウを見つめていた。
「よし、取り合えず飯でも食うか」
「へい♪」
勇者A達はさっき目をつけた店にやってきた。
石造りの外見と違い、中は木の床に、木板を連ねた壁、木製の丸いテーブルが奥まで
三つほどあり、落ち着いたかんじのレストランだった。
二人は席につくと、メニュー表を開いた。
「うまそうだな〜」
「俺は海の幸コースAにしよう」
「お前は?」
「ワテはステーキで」
「お前ちょっとは遠慮しろよな、そんなに金ねーんだからさ」
勇者Aはお金をあまり持っていなかった。
それを聞いて、ジロウはふと何か思い付くと
少し罰の悪そうな表情を浮かべたが、何か決心したらしく
懐から葉っぱのような物を出し、目を閉じて何かを呟いている。
「ほいきた〜」
そうジロウが言うと、手のひらの葉っぱが札束に変わった。
勇者Aはそれを見て目を大きくして、ジロウに問いかける。
「お前..それ魔法か?」
「しーー!」
二人は顔を寄せぼそぼそ話し始めた。
「勇者Aはん、本等はこれ禁じ手なんやで・・でもワテもええもん食いたいねん」
「おい、大丈夫なんか・・ばれへんやろな・・」
「その辺は大丈夫、ワテの魔法はしょぼい変化魔法とは違い」
「変えた物は全部本物でっせ・・・」
「すげーじゃねーか、何でお前今までそんなん使わなかったんだよ・・」
「あんな当たり屋みたいな真似してまで金取らなくていいじゃねーか・・」
「いや、なんていうか、働きもせず、悪いじゃないでっか・・」
「いや・・当たり屋の方がまずいと思うぞ・・」
ジロウは微妙にずれた正義感みたいなものを持っていた。
勇者Aはもうジロウの虜だ。貧乏に喘いで今まで苦労を重ねてきたが
このジロウを仲間にした事で、全てが変わる。そんな喜びで打ち震えていた。
・・・こいつは、もう離さねぇ・・もう俺の財布、いや、打ち出の小槌だ。
ジロウの背中をバンバン叩きながら、強欲な微笑みを浮かべる勇者A。
「まぁ、そういうことなら、旨いの頼めよ!」
「これから仲よくしような!ジロウ」