くのいち動く!
1週間後・・・
城に出向く予定が明日なので、本日夜、リン達は村を出ることになっていた。
旅の準備を整え、村の真ん中にある広場へと集まる。
そこには村に住む他のクノイチが、リンと四天王たちを囲むように陣取り
リンの前には白菊が厳しい表情で佇んでいた。
「お前達に言うことはもう何もない・・」
「各々の責務全うして来るが良い・」
長い話を抜きにして、短く白菊が語った。
それはリンや四天王たちへ、絶大な信を置いている証拠でもある。
話しが終わると、周りを囲んでいたクノイチ達が移動し始め、人間の道を作るべく
出口へ続く道の両側に隙間無く立ち並んでいく。
その間を颯爽と忍者特有の素早く音を立てない走り方で、リンを先頭にクノイチ代表は
駆け抜けていく。出口を潜ると、一瞬のうちにその姿を森の中へ溶け込ませ消えていった。
視界の悪い夜の森を、木の枝を伝い倒木を飛び越え、木々を素早く避けながらも
吹き抜ける一塵の風のような速さで、移動するクノイチ一向。
彼女達はそんな壮絶な体捌きを、無意識に繰り出せるほどレベルの高いクノイチ達だ。
「しかし、真っ暗やなぁ・・」
栞は着物から繋がる長い帯を、木に巻きつかせながら移動していた。
その間、周りの仲間へ絶え間なく言葉を投げ続けている。
「リンさん、ちょっと早すぎやで・・」
リンは比較的オーソドックスな動きで、地を離れることなく
素早い動きで木々を避け走り続けていた。四天王の一部はそのリンについていくのが
やっとのようだ。
「ふん、じゃペース落とすか?」
後を付いてくる四天王たちの方を振り向き、リンは語りかける。
「その必要はないですよ」
リンのすぐ後ろを、ぴったり付いて走る早乙女が、袴を風に靡かせながら
凛々しい表情を浮かべ静かに言葉を発した。
「全然・・平気・・・」
躯は両手両足で地を蹴り、犬のように森の暗い道なき道を奔る。
その姿は一向の中でも、郡を抜いた異様さを醸し出していた。
「な・に・が・平気やねん!!!」
「あんた等にあわせとったら、体もたんわ!」
幻の息は既に荒く搾り出すように、息を吸う合間に早口で語る。
「じゃ、休もうか」
リンはそう言うと、突然足を止めた。
その止まった場所に生えている木々や雑草が微かに揺れる。
周りのある倒木や、雑草が茂る地面に静かに腰を落とす四天王たち。
その静寂の中、幻の息を切る音だけが辺りを包む。
「ねぇねぇ、リンさん」
「これみてよ!」
幻が息を整えると、リンに這い寄り人なつっこい口調で語りかけてきた。
「ほら」
懐から何か金属のような物を取り出して、手のひらにそれを載せるとリンに見せる。
「これ綺麗でしょ・・」
銀色の月のような形をした物に金属の鎖が繋がれている。
どうやら、首から提げるペンダントのようだ。
「綺麗ね・・それどうしたの?」
リンの素朴な質問に、栞は微笑みを浮かべながら少し間を置くものの
すぐに衝動を押さえ切れないかんじで、口を開いた。
「殿様から頂いたんだ・・へへ」
「ふーん・・」
そう照れ臭そうに言うと、顔を赤らめながら黒いローブの中に
顔を潜める幻。
「それね〜、幻の宝物なんだよ!」
その様子を見ながら、快活な表情で言葉を付け加える栞。
「うん・・」
「私が持っている物でも、一番大切なものだよ」
ペンダントを静かに見つめながら、幻は何か物思いに耽っている。
「殿様格好いいもんね!」
「・・・・・・」
栞のその言葉に、無言で頷く幻。
実は城に住む殿様は、この辺り一体で噂されるほどの美男子であった。
「でも格好いいだけじゃないんだよ」
「優しくて強く・・男気があって・・」
殿様の話しになると、思いが言葉を透して川のように流れ出てくる。
「男なんか何がいいのかね・・ふん・・」
その様子をずっと横目でみていた早乙女が一言発した。
リンはそのやり取りをみているうちに、家に残してきた勇者Aを思い出していた。
(…今頃勇者Aどうしてるかしら・・急いでたから禄に連絡もできずに飛び出してきてしまって…慌ててるだろうな〜…任務早く終わらせて帰らないと・・)
リンは四天王たちに曖昧に視線を流していくと、なぜか一人いない事に気づく。
その事実に我に帰ると、すこし慌てた素振りで、大きな声をあげた。
「躯はどこいった!」
一際大きな声に、リンの方に一斉に視線を送る四天王たち。
「あぁ、あいつ・・また・・」
「ん・・何か心当たりあるのか?」
幻が思い当たって発した言葉に問いかける。
「躯って・・ちょっと変わっていましてね・・」
「なんていうか・・獣というか・・」
「野獣なんですよあいつ・」
「だから今頃・・」
「でもすぐ戻ってきますよ・」
幻が静かにペンダントを眺めながら、慣れた様子で言葉を連ねた。
その頃躯は・・・
「丸焼き〜丸焼き〜!」
「うまいーー!」
山で見つけて狩った猪を、足と手をしばり木に吊るして、炎であぶった後
肉を短剣で切り取り、美味しそうに食していた。