セラフィ流処世術
・・・・やれやれ・・また仕方ないとは言え、殺生をはたらいてしまった・・
チビデビル達はセルフィ達の激しい戦いの間に、怖くなり、木の後ろで打ち震えていた。
その姿をセルフィは見つけると、剣を鞘にしまい、静かに声をかける。
「もう、大丈夫だよ」
「彼等は死んだ」
「お前達に危害を加えるものは、誰もいない」
「出ておいで、お前達の両親を弔ってあげなさい」
透き通るような、落ち着いたその声にチビデビル達は、警戒した心が
緩みはじめると、押し込めてた感情をさらけ出し、両親の躯に涙を流しながら
走り寄る。
「母上〜・・父上〜・・・」
「ウワ〜〜ン・・・」
「なんで・・こんなことに・・」
「なんとか言ってよ」
「返事してよ〜・・」
幼いチビデビル達には過酷すぎる突然の母と父の死。
セルフィはその姿を直視することが出来なかった。
・・・こんなに幼い子供達を残して・・
・・・さぞや両親も無念だろう・・・
「糞〜・・あいつ等が・・」
「俺達がもっと強ければ・・」
「うう・・・」
三人は両親の変わり果てた姿をみて、憤りと後悔、そして自らの非力さが
心に交互に去来し、その度に口を通して悲痛な心の痛みを吐露している。
・・かわいそうに・・彼等はこれから、この過酷な大地で
幼い三人で生きていかなければならない・・
・・果たしていつまで生き残れるのか・・?
・・俺に何かしてやれる事は無いものだろうか・・
・・・・・・
泣きじゃくる末弟テル、妹ピムと違い、長兄のリャンは涙を流していなかった。
というよりは、泣けなかった。
長兄として、この二人の前で涙を見せる事は出来ない。
そんな強い意思でリャンは自分の悲しみを押し殺し、二人に強い口調で語りかけた。
「ピム、テル!いつまでも泣いてるんじゃない!」
「父や母が死んだからって、いつまでもめそめそ泣くな」
「俺達は母さんが最後に言ったように、これから三人で協力して生きていかないと」
「死んだ母さん、父さんが心配するだろ」
「さぁ、起き上がるんだ」
「うう、そうだね・・」
「やだやだやだ〜・・」
父の遺体から、中々離れようとしないピム
テルは泣きじゃくりながらも、体を起こし立ち上がる。
リャンはセラフィの方を向くと、軽く会釈をすると口を開いた。
「さっきは、僕たちを助けてくれて有難うございます」
「その上、父と母の仇まで打って貰えて・・」
「いや・・いいんだ、それにお前達の仇を討つつもりでやったわけではないよ」
「すみません、あなたを私達のいざこざに巻き込んでしまって・・」
「気にするな・・」
「じゃ、僕たちは失礼します」
セラフィに深々とお辞儀すると、リャンは兄弟達に語りかけ、三人で
両親の墓穴を掘り始めた。
墓に両親を埋めると、三人は平らな石を6つ拾ってきて、墓ごとに3つずつ
重ねていく。そして手を合わせた。
まだピムはその墓を見ながら、嗚咽をもらして泣いている。
テルは黙って、その墓を眺めていた。
しばらくすると、リャンが口を開いた。
「これから、大変なこともあるだろうけど」
「俺達兄妹力をあわせて生きていこうな・・」
「うん・・・・」
「さてと・・・家に戻るか・・」
「ピム・・帰るぞ・・」
「うう・・・うん・」
兄弟達が帰ろうとしたその時、セルフィが声を掛けた。
「君達、待ちたまえ」
三人はその声を聞いて立ち止まると、ゆっくり振り返る。
「お前達これから、どうするんだ?」
「えーっと・・」
その質問に言葉を窮するリャン。
「実はな〜、俺もお前達と同じような境遇でな」
「こちらへ来たものの、行く当ても目的もないんだが」
「お互い、一からやり直しっていう点で、共通してると思わないか?」
「さぁ・・」
少しその内容が難しくて、空返事をするリャン。
「お前達、俺と一緒に旅をしないか?」
突然の、セルフィの言葉に兄弟達はぼーっとして押し黙っている。
「旅?僕たちと?」
「そうだ・・」
「青空に浮かぶ雲のように、流れるままに身を任せ」
「世界を点々と一緒に流れてみないか?」
リャンは両親の墓の方を一瞥すると、またセルフィの方へ視線を送る。
「いいかもですね・・」
そしてリャンは息を呑むと、突然真面目な顔でセラフィに話しかける。
「あの〜・・旅もいいですが・・」
「さっきの、貴方の戦いを見て、僕感動しました」
「あなたの圧倒的な強さ・・はっきりいって羨ましいです」
「僕もあなたみたいに強くなりたい・・]
セラフィはリャンを静かに見つめると、少し考え込んで黙っていたが
やがて、抑え気味に言葉を口にした。
「君は強くなってどうするつもりだい?」
「それは、もちろん強くなって、兄弟を守りたい」
「そして、人間達に思い知らせてやりたい・」
その答えを聞くなり、ふーっと息をつくと、夕暮れの太陽の方を見ると
言葉を重ねた。
「強くなって、暴力で相手を倒したとしても」
「何れ、それはわが身に帰ってくるものだよ」
「痛みを受けた者は、その痛みを与えた者に憎悪をもって返すだけなんだよ」
「それでは、何の解決にはならないのさ」
「しかし、俺は人に痛みを与えるなとは、言わないけどね」
「できれば、お前達には痛みを与えることがあっても」
「その与え方を俺との旅で学んでほしい」
その言葉の意味を良く理解できないリャンが言葉を返した。
「どういうことですか?」
「痛みを与えることによって、相手が報復にでることが一番問題なのさ」
「それが、事態を長引かせ、泥沼へと足を引きずる原因になる」
「だから、相手に痛みだと思わせないように・・姑息に・・・与えるやり方」
「そして・・いざとなれば・・報復が報復を呼ばないように」
「立つ鳥は後を汚さずという、ことわざもあるように」
「完全ににげきるか・・・」
「もしくは、痛みを与えた者が報復に来た場合」
「一片の証拠も残さないように、報復の相手を完全に消し去るか・・」
「要は、ばれなきゃいいのさ・・」
「報復相手が何の形跡も無く消滅すれば、そこで報復は終りという事・・」
セラフィの眼に黒い影がさすと、少し不気味な笑みを浮かべている。
「まぁ、最後の話は悪魔で最終手段だよ」
「暴力は最初から使ってはいけない、最後の最後まで使わない」
「今言ったようなのは、私独自の理論だけどね」
「そんな私と旅をするのは、君達にとって未知数なわけだが」
「どうする?」
リャンは兄弟達の方を見ると、二人は少し怯えていたが
やがて何かを決したように頷く。
「俺達ついていきます!」
「貴方の全てを教えてください!」
「・・・・分かった・・」
「なら付いてくるといい・・」
「有難うございます・・!」