魔界の貴族セラフィ!
空中に浮いてる何者かは、チビデビル達のいる屋根の上へ、ふわっと舞い降りた。
羽付き帽子に、白のストライプが入ったライトブルーのジャケット、レースの胸ひだ飾りに、ピンクベースのベスト、ピンク色のショートパンツに長靴下、革靴といった容貌は
一見貴族を彷彿とさせる。ただ顔は目の鋭い狐ということもあって魔物であることは
間違いないようだ。腰には細身のレイピアと呼ばれる剣をぶら下げている。
「困りますね〜…あれほど、言いましたでしょ?」
「暴力に訴えてはいけないと…」
「お師匠様…すみません、ですが…」
「ノン!良い訳は聞きませんよ」
「ですが・・・」
「・・・・ノン」
・・・ ・・・・・・
「プル(なんだこいつら、俺完全に無視して‥)」
チビデビル達と話しているその者は、周りを気にせず、只管説教をしている。
その様子をみて、勇者Aがしびれをきらして、イライラした口調で言葉を投げかけた。
「こら〜、突然出てきて、何無視してるんだよ」
「お前は何者だ・・?」
その勇者Aの言葉にその魔物は、目を細くして、こちらを一瞥すると、
屋根の瓦を軽く片足で蹴り、勇者A達のいる場所へと飛び降りた。
その狐貴族は、右手を胸に軽く当て、羽根突き帽子を左手でとると、勇者Aたちに
会釈をして言葉を口にした。
「申し遅れました、私の名はセラフィ=アンドリュッセ」
「魔界に住む、まぁ…貴族とでも言えばいいでしょうかね?こちらじゃ」
「魔界?貴族〜〜?」
勇者Aは突然飛び込んできた、目新しい言葉に動揺している。
・・・魔界だと・・?
タケシはその言葉に敏感に反応し、セラフィの言動に注目している。
「まぁまぁ、その事は別に構わないんですが…」
「すみませんね、うちの子達が…」
「坊や、怪我は無かったですか?」
プルの方に顔を向けて、少し申し訳なさそうに言葉を静かに掛けた。
「プルプウ(大丈夫だよ!)」
「それは良かった」
セラフィはその言葉を聞き、にっこり笑ったかと思うと、チビデビルの方を見て
手招きをした。
その呼びかけに三匹は、反応しセラフィの元へ順々に降りてきて、後ろに並ぶ。
「実は、この子たちに、盗みをさせたのは私なんですが…」
「暴力は振るわないようにと申し付けたのに」
「こんな結果に・・」
「ええ・・あんたが盗人一味のボス?」
シルディが声を張り上げて、セラフィに指差し問いかけた。
「そういうことになりますかね?」
「なんだって〜、お前、盗人の親分のくせに」
「何でチビデビルたちに説教してるんだ?」
「ふーなんと申したらいいでしょうかね・・」
その勇者Aの質問に、顎に手をやり、頭を前に曲げると、何か考えている様子で
無言で立ち尽くしている。
数分、辺りを静寂が包んだ後、セラフィがまた口を開いた。
「私は魔物ですが、それなりに貴族としての誇りというか」
「やり方にもポリシーがありましてね…」
「血なまぐさいことや争いは嫌いなんですよ…」
「ですが、私と言えども、こちらで生きていくには」
「それなりに食べて行かないと、死ぬしかないわけでして‥」
「村人には悪いですが、この子達を使って、泥棒をさせて頂いています」
「ですが、さっきも申したように争いは嫌いですので」
「穏便に、穏便に、ちょっとずつ・・・」
勇者Aは初めのうちは静かに聞いていたが、だんだん、そのセラフィの
言葉に矛盾をかんじ、大きな声で言葉を放った。
「おめーな〜穏便だろうが、ちょっとずつだろうが」
「泥棒には変わりねーだろ?」
「この盗人が!しかも、弟子にやらせて己は高みの見物かい」
「挙句の果てに、泥棒弟子に説教までするって」
「どれだけお高く止まっているんだよ」
「お前も同じ穴の狢じゃねーか!!」
「プルププ(その通り!)」
「確かにそうよね・・」
勇者Aの畳み掛けるような正論に、セラフィは後頭部をポンとはたくと、独り言のように
ぶつぶつ呟き始めた。
「そういえば、そうですね」
「ふむ・・なるほど・・・」
「確かにそうだ・・・」
「これは参りましたね・・」
セラフィはチビデビル達に駆け寄ると、円陣を組みヒソヒソ話し始めている。
その間、勇者A達にチラチラ目線を飛ばしてくる。
「ごほん・・」
セラフィはゆっくり立ち上がり、背をまっすぐ伸ばし、勇者A達の方へ体を向けると
また話し始めた。
「えーっと・・今回の件は貴方達が正しいようですね」
「ですが・・私もこちらへ来て間もないわけでして・・」
「ここを去れば、食物の供給がストップしてしまいますから」
「どうしましょう?」
「はぁ〜〜〜?」
「どうしましょうって言われてもね・・」
シルディが少し呆れ気味に一言口にした。
「とりあえず、お前は泥棒なんだから、村人に謝って来い!」
「その後警察に突き出す!」
「魔物だからってなんでもやっていいわけがない!」
「それは・・・」
セラフィは勇者Aの言葉にたじろぎ、困惑した表情を浮かべている。