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地球戦艦ガイア~Battleship of The Earth Gaia~

作者: 娑婆聖堂

 2020年7月7日、グリニッジ標準時11時24分52秒。その瞬間、全人類の魂は震撼した。

 突如出現した惑星(ちきゅう)を超える超巨大宇宙船団によって!

 未曽有の事態に呆けた顔を空に向けるしかない人類の脳に、託宣が下った。


 "地球人類の諸君……。我々は、宇宙人である!"


 言われるまでもない!星を圧する船を駆り、悠久の宇宙を自在に旅する(まさ)しく宇宙人、(ただ)しく宇宙人である。

 では、その絶大なる科学技術を誇る超越種族は、何故太陽系に来訪したのであろうか?

 人類を家畜とし、支配者として君臨するためか?あるいは巨大宇宙船の資材として星をねこそぎ掘り尽くすのか?

 答えはすぐに、あまりに理不尽にもたらされた。


 "諸君らの生息する星系は実に素晴らしい……。大きすぎない恒星の周りに岩石惑星とガス惑星が混在し、そのどれもが個性的だ。その上諸君らの住む地球以外には、余計な知的生命体もいない。我々はこの星々が、我らの宮殿を飾る星のシャンデリアに相応しいと確信した。”

 

 ”よって……、我々は、ただ今より太陽系を接収する!"


 太陽系接収。その意味を完全に理解出来たのは70億人中何人だっただろう。

 だが昼半球に立っていた者達は、否応なく現実を直視した。

 黒い穴に呑まれ消える太陽を!


 この緊急時でさえ心を1つに出来ないのは人の業か。泣き叫ぶ者、吼え猛る者、神に祈る者、ただただ驚愕する者。

 共通するのは誰もが、声よ枯れろと、天に届けと、全身全霊で絶叫したこと。

 しかしその声も、大気圏を突き抜けた高みに座する支配者の船には寸毫たりとも届きはしない。

 精神に直接響く宣告は、次の言葉で締めくくられた。


 "無論諸君らには恒星もなしに生存可能な技術力は有るまい。我々の持つ最新鋭の戦艦を残しておこう。これは諸君らの星系の美しさを賞しての破格の対価である"





 5分に満たない一方的な宣言が終わり、そして夜が訪れた。地球史50億年で最も暗い夜が。月さえ輝きを失う夜が。


 そして、その夜が明けることはなかった。


 獣という獣は恐慌をきたして跳ね回り、地を覆う植物は枝を伸ばすべき中天を見失い、ねじくれ曲がった。

 人類もその多くが混乱し、絶望し、発狂する者さえ現れたが、未だ空を見上げる勇者も少なくはなかった。

 その道で頂きを争う天文学者から、埃をかぶった望遠鏡を10年ぶりに物置から出した会社員まで、目を皿にして夜空を観察した。


 結論は出た。水星はなかった。金星もなかった。火星も、木星も、土星も、天王星も、海王星も、冥王星も、その他の準惑星も、そして太陽も、影も形もなかった。


 地球は生まれて初めて孤独だった。


 人はまた見上げた。


 地平線を結ぶ橋のような、10数万kmの宇宙船を。





 2070年、いや、この呼称すら今は虚しい。かつて今日を告げ、時間の概念を人に教えた、あの太陽と呼ばれる恒星はもうないのだから。

 かつて1つの恒星と8つの惑星、数限りない小惑星が身を寄せ合った空間には、ひとりぼっちの星が浮いている……。


 否、あれは星なのか?鏃のごとき舳先はなんだ。銀に煌めく装甲は、船尾より伸びる次元歪曲エンジンは。

 

 何より……地球はあんなに大きかったか?


 全長約15万kmに及ぶ船体からすると、豆粒にも例えられよう船橋都市ブリッジに置いて、艦長にして地球連合元首アハド・G(ゲー)・カルヴァンは、出航を全艦に宣言すべく艦長室に報道陣を集めた。

 出航の時刻は秒単位で決まっているが、人類の総意が意志を表さねば、地上最大の旅立ちも興ざめというものだろう。

 いつもは雀のように小うるさいマスコミも、今日ばかりは大人しい。

 たっぷり息を吸い込んで、艦長は野太い声を張り上げた。





 「船員諸君、今日はいつもと変わらぬ良い日和である。船内環境は最適に保たれ、治安も良好。病という言葉は過去のものとなり、機械化された体は身体能力にも平等をもたらした。これが人類の力のみで達成されたと私は思わない」


 集まった記者達や艦政府の報道官に動揺が走る。その周知の事実をここでこの男が発すると誰が思おうか。


 半世紀前の太陽系簒奪は、性急かつ不可逆の変化をもたらした。

 別次元の科学に触れた衝撃は、人類から差別と闘争本能を忘れさせるほどのものだった。

 コンテナ一杯の機材で環境問題を悉く解決し、種を僅かにも損なうことなく、産業革命以上の発展を遂げた。

 人智の限りを尽くし、50年の歳月を費やして漸く船を動かせるようになった。

 人々の中にはあの宇宙人を神のごとく崇める者さえいることは、ある意味で当然だと受け入れられている。

 

 だがこの航海は、艦長の意志は、その神に牙を剥く行為なのだ。


 「彼らは、太陽系を持ち去ったあの支配者は、傲慢ではあれど野蛮ではなかった。彼らなくば今私が全人類に向けて野望を語れるはずもない……。だが、しかし!それでも、なお!」


 艦長の生体金属で強化された青色のボディが感極まって震える。

 それは傲慢な神に逆らう人類の我が儘の代弁だった。


 「私は太陽を取り戻したい!地球と共に在った惑星達を奪い返したい!」

 「我らは今より、最初で最後の旅に出る!神を討ち、太陽系を、失われた(とき)を取り戻す冒険へ!」


 「地球戦艦バトルシップオブジアースガイアと共に!」


 2070年7月7日、ガイア標準時11時24分52秒。星が唸り、法則のままに銀河を流れていた一隻の船が道を指し示した。






 50年の時を経て改造を施され、尖頭形の舳先に似合わない丸い船体に生まれ変わった地球が、地球戦艦ガイアが、今、太陽系を取り戻す戦いに身を投げ出したのだ!

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