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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

先生と生徒

作者: 葉留カルハ


朝早くに家を出て、眠い目を擦りながら電車に乗って、学校に行く。


毎日毎日、欠かさずにそれを行えるのは会いたい人が居るからだ。


早朝の学校。新鮮な空気が肺を満たし、1日の始まりを感じ取れる。


「おはようございます。」


「…おはよ。」


挨拶を返した主は、無愛想気味に視線を逸らした。


やはり、私は先生に嫌われているのではないか。


一抹の不安が胸をよぎる。


「やっぱり、先生、私のこと嫌いですよね?」


質問せざるを得なかった。そうしなければ平静を保てなかったのだ。


「別に。」


低く小さな声は生徒の心の燃料となった。


感情の種火は燃えていた。怒りが膨れ上がる。


キッと先生を軽く睨む。


「だだだだだって、先生、私に対していっつも無愛想じゃないですか。」


上手く呂律が回らない。


「無愛想……ですか?……わかりました。以後気をつけます。」


その言葉遣いや口調からは彼女に対する壁があることが感じ取れた。


「仕事が残っているので失礼します。」


学力調査テストの結果がどうなったのかを報告しなくてはならない。


時間が無かった。だから、彼は焦っていたのだ。


いや……彼を焦らせていたのはその出来事だけでは無かったが。


先生は足早に職員室へ向かっていった。


「あっ、ちょ、待って先生!」


追いかけようとして、数歩進む。


「…………。」


彼の邪魔をしては行けない。彼女の理性が彼女自身を止めた。





次の日、一人の生徒が独りきりで教室に居た。


席に座りながら、ボーッとしている。


どうやら考え事をしているようだ。


ガラガラガラガラ


何やら物音がした。扉を開ける音だろうか。


直後、先生が教室へ入ってきた。


そのまま真っ直ぐと進んで、教卓の前に立つ。


辺りを見渡してから口を開いた。


「補習対象者は…貴方だけですか?」


視線の先に映るのは一人の生徒のみである。


「はーい。そーみたいです。」


元気な声で問いに答える。


「先生と二人きりだなんて…幸せ。」


喜ぶ姿を一瞥すると先生は


「あ、今日の補習はもう終わりでいいです。さよなら。」


とぶっきらぼうに返した。


そして、彼は教室のドアに歩を進めようとした。


が、生徒に止められる。


彼女は行かないで欲しいと先生の腕を掴む。


「待って下さい。」


「待ちません。」


相反する言葉。


「職務放棄ですよ。」


途端、先生が振り返る。


「定期テストの順位…前回、学年トップでしたよね?」


「ええ…っ、なんのことかな?」


生徒は話題を逸らすと、目線を外した。


「先生だって人間なんですよ?傷つけないで下さい。」


あんな簡単な基礎力テストで10点以下を取るという行為は、きっと彼女がわざとやったのだろう。


全く、呆れてしまう。


……教師で弄ばないで下さい。


言おうとしたが、言い止まる。


「い、いやだなぁ。今回の範囲が苦手だったんですって!」


「授業中、とても難しい問題を解かれたそうで、職員室で話題になってましたよ。」


間髪入れずに先生が喋った。


数学は積み重ねの教科である。基礎がわからない人間が難問を解ける筈が無い。


「うっ…」


ぐうの音も出ない。


「どうして、テストでわざと低い点数をとったりしたんですか?」


「それは…」


俯く生徒。


「それは…言えません。」


今度はきっぱりと言い放った。


「そうですか、残念です。」


言い残して、先生は教室をあとにした。


「……………。」


ギュッ……。


俯いた顔。生徒は悔しそうに唇を噛んだ。





そうして、半年が過ぎた。


『卒業、おめでとう。』


校舎全体がそんな優しい暖かさで満たされていた。


「御卒業おめでとうございます。ところで話って何ですか?」


人気の無い場所で、彼らの会話は行われていた。


「……………。」


思い沈黙。生徒は言葉を告げようとしない。


「……………。」


「そうやって、黙っているのなら帰りますよ。」


先生が帰ろうとする。


とその時


「好き……。」


それは、か弱い少女のか細い声だった。


「え?」


先生が振り返る。


「好きです。初めて出会ったその日から…。」


「……………。」


再びの沈黙。しかし、口を閉じたのは先生のほうであったが。


「忘れようとしたけれど…出来ませんでした。……ご迷惑ですよね。すみません。」


生徒が頭を下げる。


「迷惑なんかじゃないです。」


「え?」


生徒が顔を上げる。


戸惑った表情。


「むしろ、嬉しいです。好きな人からの告白ですから、尚更…ね。」


先生は照れていた。


「そんな…ずっと嫌われているのかと思って…。」


先生の告白に生徒は驚愕していた。


「叶わない恋だと分かっていたから、あまり関わりたくなかったんです。」


「こちらこそ、お願いいたします。」


そう言って先生は頭を下げた。


「お願い…します。」


生徒の声は喜びで震えている。


ふと、見上げると桜の木


頭上で満開に咲くそれは、優しく二人を見守っているようであった。





〜おわり〜

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