#01
「お台場で自爆テロだってよ」
昼休み。ヒロユキが食べかけの焼きそばパンを片手に、ケータイをいじりながら僕に言った。屋上の特等席。僕は銀色の鉄柵に身体を預けグラウンドを見下ろしていた。紙パックのジュースに刺さったストローを吸いながら「自爆テロかぁ、リアルじゃねぇなぁ」と呟いた。
紙パックから抜いたストローを口に咥えたまま薄い雲のたなびく空に向けて、ぷっと吹く。一瞬だけ真っ直ぐ飛ぶと、その後風に流され校庭に落ちていった。
「リアルねぇ。この前、振られた事はリアルじゃなくなったのかな?」
突然、リアル過ぎる話を持ち出された僕は、ヒロユキを睨みながら大きく首を振った。
「あんなの、最初っから本気じゃなかったんだ」
「その割には、だいぶ落ち込んでたみたいだったけど、ユミヤくん」
ニヤけた顔に腹が立つが、そこに悪意は感じられない。
「まぁ、あっちだって別のやつの事を片思いなわけだろ?だったら、まだ可能性はあるんじゃねぇの」
「もう関係ねぇよ」
「またまた、強がっちゃって」
片思いだった隣のクラスの女の子に、意を決して告白したのが、つい一週間前だった。僕なりにシチュエーションを設定して、誰もいなくなった放課後の教室で告白したのだが、結果はこの通り。相手の方もかなわぬ片思い中との事で、あえなく玉砕、となった訳だ。人生とはなかなか上手くいかないものだ。
「あぁ、何か面白ぇことねぇかな」
「面白いこと、ねぇ」
僕は目を閉じた。昼休みの校舎、階下の教室で交わされている様々な会話。それらが入り混じって耳に流れ込んでくる。高い声と低い声。男と女。生徒と教師。風の音。遠くで工事をしている金属のぶつかる様な音。それらはやがて、違う星の違う生き物が話す言葉の様に聞こえた。
頭が異様にでかい。耳は先端が尖がっていて、目が三つある。口は、ひとつだ。長い手と長い足。うねうねと動き回るその身体には粘着質の液体がまとわりついている。いわゆる宇宙人だ。その気持ちの悪い宇宙人の前に、サングラスをかけた黒いスーツの二人組の男が現れる。そして男の一人が宇宙人に向かってこう言う。
「おい、お前、この星から何を持ち出す気だ?」
そう言われた宇宙人はこう言う。
「この星から?何を持ち出す?こんな星に持ち出すような価値のある様なものがあるとでも思っているのか?」
宇宙人はそう言いながら三つの目それぞれの間にある二つの眉間を寄せる。男の一人が宇宙人に向かって銃を構える。ピカピカ光るメタリックの、相当でかい銃だ。
「それじゃひとつ聞くが、お前のその腹の袋の中に入ってるもの、それは何だ?」
宇宙人は一瞬たじろいだ表情を浮かべてから「一体、何の事だ?」と言った。
男たちは目配せをして合図をすると、全く躊躇なくその引き金を引いた。その瞬間、爆発が起きて、気味の悪い生物はおろか、銃をぶっ放した男の二人組も吹き飛んだ。
ふぅ、と息を小さく吐き出してから僕は目を開けた。ちょっとばかり銃を撃つのが早すぎる。状況を確認もしないでぶっ放すから、こんな取り返しのつかない事になる。
脳裏に焼き付いたままの爆発の閃光と衝撃。リアルな爆発ってどんな感じなんだろう。僕はそんな事をぼんやりと考えていた。
「例えば今この瞬間、学校が爆発して吹っ飛ぶ、とか」
ぽつり、と呟いた僕の一言を、きょとんとした表情で聞いたヒロユキは、しばらく考えてからこう言った。
「俺たちも吹っ飛ぶなぁ」