蕾が聞く足音
最近太ってきました。いえ、いいんです。私にとって太ることは次に進むための大切な行為なのですから。
何回目かの卒業式が終わり、校舎は閑散としてどこかもの寂しい。私はどちらかと言えば賑わうような暖かい方が好きだ。
今日はホワイトデーか。これも卒業式と同じ数だけ見てきたことになるんだな、と考えると何だか暗い気持ちになるが……違う、本当は楽しみで仕方ない。
どんなに虚しい気持ちになったと思うからと思っても、この日とバレンタインは特に生徒達が盛り上がって明るい雰囲気を醸してくれる。私はそれだけで虚しさを打ち消し咲いて春を知らせたいと思わせるのだ。
眺める先、蛍光灯が薄暗く照らす廊下を一人の男子生徒が誰かを探すように歩いていた。名前は知らないが、目指すところがあるようで動きに乱れがない。
そんな男子が向かう先、印刷室と書かれた標識がたてかけられた部屋からまた一人の女子生徒が後ろ向き印刷物を大量に抱えて出てきた。
男子が声をかけるとびっくりしたように女子がわなわなとしている。あれはなかなか初々しいな、と私は思った。そして暖かくなってきた風に揺らされた。
印刷物の三分の二を男子は返事を待たずに持ち廊下を進む、女子は顔を紅潮させながら男子の後ろにぴたりとついた。
久し振りに見る恋模様に思わず咲きそうになるのをグッと堪えて、甘いスイーツな匂いを漂わせる。
階段にさしかかり、女子が見えない壁があるかのように、それ以上先に行くのを拒んだ。
きっと不安なのだろう、私は何度もその景色を見たことがある。けれど、私が見る中で破局したものは少ない。分からないからこそ、不安に思い、大切にするのだから。
男子が持っていた紙を全て女子に戻し、二言三言交わしながら神の上に青いリボンが結びつけられた白い箱を置き、そのまま進んでいく。
女子が慌てたように後を追う。自分で作った見えない壁を知らないうちに踏み越えて、二人で並ぶあの場所に。
思わず私は咲いてしまった。まだまだ蕾は膨らみかけのものが多いのだが、私だけは一つだけ先に咲いた。
まだまだ春が訪れるには早い時期だけど、私だけは春が訪れてもいいだろう。
ほんの僅かな私の匂い、感じて次に進んでくれよ。