第3話:番号、夢、移動
地下鉄の駅のホームの端まで行ってみることにした。
地下鉄だろう……
私は歩く。前へ、前へ。列車が到着する。何もないはずの「口」から、舌が空間を突き刺す。舌?列車はどこから来るのだろう?確かにこのトンネルの向こうには何もないはずだ……それなら、何もない闇から列車はどうやってこの人工の空間へ入ってくるのだ?私は列車に乗ったら、どこへ行くのだろう?次の駅はない。それなら、どこへ行くのだ?
きっと闇の中へ行けば、私は死んで、別の側から出てしまうだろう。
列車が到着する。人々が列車から出て、列車へ入る。列車の扉が閉まる。人々が列車から離れる。列車が動く。戻ってこない。人々が階段を使って上の階へ動く。戻ってこない。
きっと、列車が通り過ぎた後、この駅は死んで、また生き返ることを反復している。
私は本格的に歩き始める。列車が出てきた場所へ歩きながら、上のホームのプラットフォーム番号を数える。5-4、5-3、5-2、5-1、4-4、4-3、4-2、4-1、3-4、3-3、3-2。終わりを見たい子どものユーフォリアが胃液のように分泌される。人々は何とも思わないだろう。見えないから…… 3-1、2-4、2-3、2-2、2-1。
1-4。私は慣れない場所を歩いている。毎日、仕事……仕事?生活?から退勤しながら行っていそうな場所なのに、なぜかずっと7-5番で4号線の地下鉄に乗っていた記憶がある。毎日同じ黄色の足場を踏み、同じ場所に座った。車両がいっぱいになれば隣の車両へ移動した。どれほど寂しかったのだろう……
1-3、1-2。ここが地下鉄の正確な中間だ。では7-1はどこにある?立入禁止の扉はそこにあるのに……
あれ?どういうわけか番号の札が間違っている。今まで気づかなかったが、地下鉄のような公共区域もミスをするらしい。1-3、1-2、そしてまた1-1。もしかすると私たちは日常の回し車にあまりに慣らされて、些細なものに気づく力を失ってしまったのではないか?
いや、私のほうが問題なんだ。足音が大きすぎて集中が乱れる。だから目の前の数字が勝手に変わるのだ……
あ、見つけた。もちろんここにあった。毎日あった場所に、正確な位置に。
入ろうか?
私の背後のエレベーターのボタンを押し、降りる。
無数のタンクが私を見て、十五個の青い目を瞬かせる。パイプが毒蛇のようにうねり、燃えながら踊り、古代の偶像を崇拝する。歩調を合わせて、いち、に、いち、に。私を飲み込む準備ができている。
少女がいない。
ここは現実ではない。
私の言葉を理解して、ジェネレーターの毒蛇たちは一斉に象牙のような構造を作り、私を完全に取り囲む。ああ、私は供物だ。床が壁と空気とに滑らかにCADフィレット融合され、私の蛹を形成する。繭のようにパイプに囲まれる、ねじられる、食われる、空気に、電気に食われて死ぬ。あ、少し怖いみたいだ……
私は解体される。
腕と脚が切られ、床からせり上がる。空気は静かで、絹のように柔らかく、スポンジのように重く、呼吸を沈める。こうなったら……私は……やがて……
「こんにちは?」
少女はじっと私を見つめる。
え?
「やっと目が覚めたみたいだね。今日も来てくれたんだ。私……君が来るのを待ってた。」
私は周りを見回す。洗練された照明が天井に氷柱のように吊られている場所。きらめく破片が店を、ふわふわした橙、緑、黄、ピンクに染める。人々が――夕焼け色の制服が混ざる学生カップルたち、会社員、特に服をおしゃれにスタイリッシュに着た若い女のグループたち――騒いで笑い、皿を取る。デザートカフェ。光と混ざった、温かくてトレンドの刃が立った笑い声と身振り。並べられた多種多様のケーキ:ジンジャー、クリーム、ブレンド、チョコ、イチゴ、シロップ。
私と少女はテーブルで向かい合って座っている。少女は制服を着ている。前には二つのバニラケーキと短いフォーク。
少し眠っていたようだ……夢を少し見た気がするが……
「意識が戻ったみたいだね。よかった。ここでは君が温かい家みたいに感じてほしい。学校はどうだった?」
学校は……少し大変だった気がする。今日、化学の時間に先生が何か大事なことを説明してくれたのに、うっかり白昼夢を見て……忘れちゃった。まあ、そういう日もあるよね!
「え~ だから頭が悪いんだよ!授業では集中しなきゃ!まあそれはいいとして、このケーキ食べてみて。ふふ……味は保証するよ。」
そう?食べてみる。私はフォークを掴み、ケーキの白いふわふわの身体の中へ入った。欠片をえぐり取り、口へ運んだ。うん……おいしい!確かにおいしい!
「はは、よかった。ここのカフェ、ほんと店主が運営うまいんだって?雰囲気もいいし……最近寒いけど中は暖かいし……」
少女は少し長い髪を耳の後ろへ払った。顔色は変わらぬ白さ。
言われた通り、デザートカフェは雰囲気が良かった。洗練された感じもするし……きっとどこかのネームドブランドだ。「暖かい」という感覚は人工的なほどに、まるで誰かが私の脳にその思考を濃度高く注射で注入したみたいに確実で明白だった。こんなに暖かい場所で可愛い少女と一緒にいるんだ……
次はどこへ行こう?
「どこって……当たり前じゃない?どこへ行きたい?」
ふと他の人たちの視線が全部私へ集中した。フォークが微細に揺れ始める。食べられたケーキが私をまっすぐ見る。照明が私を照らし、私は橙、緑、黄、ピンク……壁が揺れる、揺れる、震える、寒いから?
「怖がらないで。私はここにいる。君と話してる。」
皿がもっと激しくチャン、チャン、迷子の泣き声と大災厄の四肢切断、崩壊、人々の視線が線に、鎖に変わって私をぎゅうぎゅうに縛る。フォークが壁へ飛び、ケーキが沈み、壁と天井と床の境界がどろどろになって円になって……少女は微動も失わず私を見る。私をずっと見て……私をずっと見て……
私は少女だけを見る。
「またここへ来させちゃったね。ごめん……私の身体がもたないみたい。ほんと弱いよね……人の身体って。」
白い部屋。侘しい窓のカーテンが薄暮のため息を淡く遮る。点滴スタンド、ポンプ、心拍数モニターグラフの極端な光。微細にファイン・チューンドされた部品が蜘蛛の巣のように絡み合い絡み合って、ベッドを完全に取り囲む。傍らには新品みたいに本がほとんどないヴィンテージ本棚、誰かの写真立て、茶を沸かすボイラーと、開けたばかりの緑茶の箱。
少女は白いベッドに横たわっている。布団は菓子袋みたいにくしゃくしゃになり、少女の身体を胸まで覆う。両腕と身体に無数のIV管――孵化中の突然変異、花の繁殖。
来たよ。ここにいる。君と一緒にいる。安心していい。寂しかっただろう……可哀想で、切ない……
「大丈夫大丈夫!私、もともとちょっと病弱で……病院みたいなところによく入院してたの。だから病院のごはんとか、先生たちとか、針を刺されるのとか、完全に慣れてる。変に心配しなくていいよ。」
私は慎重に椅子を引き、少女に近づけて配置する。カーペットの上では音がしなかった。少女は目をそっと開けたまま、私を直視して笑みを作る。疲れていてもおかしくないのに……目をこんなにまっすぐ……
私を見られて、嬉しいのだろうか?
「それでも君が来てくれて嬉しい。私に会いに来てくれる人、あんまりいないからね。危うくちょっと寂しくなるところだった。」
あ、そうだ。渡すものがあった。分厚いダッフルバッグから半分ほど顔を出した花束を取り出した。もう、気づいていたかな?砂嵐でもぱきっと割れてしまうガラスのコップみたいに、両手で慎重にビニールを持ち上げて少女に渡す。これ、お見舞いのプレゼント……受け取ってほしい。
「あら……こんなのも持ってきたの?ありがとう、受け取るね。」
予想していたみたいな反応だった。バッグからはみ出して、どうしても入る途中で見えたのだろう。サプライズはやっぱり駄目だ。私の表情を読んだように、少女は震える左腕を上げて花束を受け取った。IV管がずるり、ひやり。目をすうっと閉じて、日差しみたいに頭の横へ花束を置く。横たわって夢を見るみたいに。
そうして私たちは止まる。時間の刃の立った触感を感じ、互いの存在を忘れるほど、ただ時間の流れを皮膚に刻む。ここにいるというのは……どんな感覚だったのかを必死に思い出すために。一定にピピッと鳴るモニターの脈動だけが呼吸して部屋を満たす。そういえば少女の心臓の音は聞こえない。きっとノイズに圧倒されているのだろう……
「ねえ、私、長くはもたないと思う。」
分かっている。それでも骨が筋肉と肉の間へ沈んでいく感じがする。なぜ?何のために少女はここに横たわっている?私はその答えを知っている。だからもう尋ねず、黙って手を握る。こうすれば、私をもっと良い人だと思ってくれるだろうか?
「身体って……もともとこうやって弱いものなんだ。病気になっても使えない……どこか少し壊れても使えない……環境と内部メカニズムに合わせるために休まず勝手に変化してる。他の身体がなければ……生きられない。機械の身体がなければ……生きられない。私は、もう動けない。身体が内側から完全に進化してしまったから。身体は身体の境界を越えて、私まで病ませる。身体になりたくない……いっそ……死にたい。」
少女は私から視線を逸らし、白い光が広がるだけの天井を見る。薄暮の風はもう見えない。頭の横で夢見る花は、ぱらぱらと崩れて灰になり、滅菌された空気に溶け込んでいく。
「私たち、これからどこへ行くんだろう?」
部屋が、薄暮が、切ない心が崩壊し始める。天井が床になり壁と本棚を歪め、点滴スタンドと心拍モニターと無数の管が横たわって宙で絡まり、ぶるるると震え、布団は少女を脚から飲み込み消化する。そう……こうやって行くんだ。私は少女だけを見る。
最後にちゃんと見られなくてごめん。
「君はどうだった?」
天の川が私を覆い、水面が私を支える。水面は鏡;天の川を正確に描き出す。微細な震え、波動が天の川の像を動的化し、生きているようなうねりを与える。それぞれのうねりの中では、時空が少し歪み、星が一つずつ煮え、気泡になって消える。だが天の川の像が水の動きで震えているのではない。天の川そのものが私の上で、さらさらと速くうねっている。水面は完璧な鏡;その震えを一寸の誤差もなく収めるだけだ。むしろ私の上が水面で、下が天の川なのかもしれない。
私と少女の間には白いテーブルがある。少女はそのまま私と向き合う。光と光だけの宇宙のどこにもない闇を、目に宿して。
「君はどうだった?」
少女はもう一度問う。私はその意味を知っている。
私は……さあ……よく分からない。君がいて……良かったと思う。ここまで来ても一緒にいてくれる人がいるって……すごく良かったと思う。
少女は微笑み、また距離が遠ざかる。
「よかった。私の存在が君にとって良かったなんて……本当によかった。ここはね、誰もいない場所なんだ。誰も到達できない場所。でもどうして……会えたね。私も君がここにいて、ほんと……救われた。」
私はどうしてここにいるのだろう?
あの星たちが煮えて煮えて煮えて煮えている間、私はどこへ行っていたのだろう?
人類が世紀を超えて讃えてきた花と風と星、宇宙の子どもみたいな神秘、喜び、美しさ、絶対的な重さと価値の、古代ギリシャ美術館で見られそうな天使の大理石の顔……そういうものを、私も結局、讃えるのだろうか?
それ以外、何も考えられない。
「でもね、肝に銘じておくべきことがある。この空間は、もうすぐ消滅する。デザートカフェと病院と列車が、不解の熱くて粘性の黒い液体の中へ消滅したみたいに、ここも消滅する。感情と美しさの恍惚、苦痛は……ほんの一瞬だから。忘れてしまったものをまた思い出すしかない。もう一度……戻らなきゃいけない。」
そうか……ここは一瞬なんだ。星が煮えるのも、一瞬。輝くのも、一瞬。一瞬でなきゃいけない?私は少女へ、テーブルの上に手を伸ばした。絶望の、恍惚の、熱の。
「ごめんね、別れを言わなきゃ。もう一度会いに来て。お願い……」
ついに、あまりにすぐ、銀河は私と少女とテーブルの上へ溶け落ちる。縁から、私たちを永遠の光で包むように崩れ、水面と水平線とに混ざって、だらだらと流れ落ちる。テーブルは数が掛け算され、一定の間隔で広がっては重なり、元に戻ることを反復する。そのテーブル一つ一つに、私だけが片方の椅子に、虚空を見つめ背を反らしたまま座っている。私は……私の前にいる少女だけを見る。椅子の上でうずくまり膝を腕で抱え……私に向けて……乱れない目で……笑う、言う、
「私をずっと、見ていて。」
「こんにちは?やっと目が覚めたみたいだね。」
見慣れた錆びた闇が私を覆う。機械のウィーン、ウィーンという音が私を麻痺させる。彼女はクレーンゲーム機の中、いつもそうだったように待っている。うん……夢を見たのか、目が覚めた。
「どんな夢だった?」
言葉が詰まる。ディテールは霧みたいに敷かれた「感じ」、つまり印象の下に埋もれてしまう。恍惚も苦痛も激しい悲しみも言葉も、思い出せない。じっと胸を圧迫し、現実の息に埋もれて、ゆっくり気体になる。
君と会う夢を見た。君と長い時間を過ごした。終わりは少し怖くて、悲しかった気がする。
「移動したんだね。」
移動……
「夢を見るっていうのは移動するってこと。私たちはいつも、自分が動いていると思ってる。どこかへ向かって歩くときも、車に乗って新しい場所へ行くときも……でも実際には、私たちは意識を持ったままでは絶対に動かない。感覚の、思考の、思索と感情の一枚の絵に過ぎない。私たちは絵として世界を生き、世界の絵の中で生きるから、私たちの存在も一枚の絵なんだ。どこかへ行くんじゃない。水の上でカヌーの上を歩くみたいに。でもたった一つ、動ける方法がある。この機械に閉じ込められた私でも動ける方法が。夢を見ること。夢を見れば動ける。それが人間に許された唯一の移動手段。それでも私たちはいつも、まるで時計の針みたいに、予定されたみたいに現実世界へ戻ってくる。どれだけ遠く歩いたかは重要じゃない……また同じ場所へ慣性で戻るようにできているから。結局どこにも到達しないまま……
つまり、動かないっていうのは『善』だとも言えるかもしれないね。」
私が移動している間、少女はどこにいたのだろう?
「私は君を見るたびに夢を見る。次も……話しに来て。待ってる。」
君はいまどこにいる?
そんなことを考えるころ、私はエレベーターの中で座り、ただひたすら鉄の破片粉を吸い込んでいた。
ありがとうね




