プロローグ〜無意味な人生〜
結局なんにもならなかった。思い通りにいかなかった。せっかく手を出してやったのに、なんにも成せず終わってしまった。これなら他の物を使えばよかった。無駄な努力、意味無い労働、終わらぬ苦労。きっと君もそう思うだろ? 嫌がらせをしたかったのに、作戦が全て台無しだ。こんなもの、ゴミ以下だ。イライラする感情のままソレの頭に足をかけた。
町と町の間を埋めるようにある森の中、山道から外れた奥の人目につかない木の傍に、物言わぬ骸が寄りかかるようにひとつ、あった。どこの誰とも知れないそれは、見れば口角が僅かに上がっている様で。
生命が抜け時間が経った肉の臭いに、釣られた獣が一匹、二匹。骸の傍へ、涎を垂らしながらも足音を立てぬように近寄った。獣は鼻を何度もひくつかせ、頭を低くしたままのっそりと足を進めて近付くと、一抱えはある肉塊から地面へ伸びたソレへ─先が五本に分かれたそれは細枝とも見えた─口を大きく開けて頬張った。
柔らかいご馳走の付いた硬い枝を咀嚼する音が響き、裂けた外側に包まれていた中身から飛び散る鮮明な赤が周囲を汚す。埋葬もされず祈りも捧げられないそれが、尊厳を持っていたことなど獣は知るよしも無い。
人が居れば、むせ返るほどのその臭いに顔を歪ませ、周囲へと響きわたる音に耳を塞ぎ、無残なその様子に目を塞ぎ、涙を浮かべたのだろう。しかし、その音と臭いは誰の元へも届きはしない。誰もそれを知りはしない。
獣はギラついた欲望を剥き出しにして、邪魔な衣を引き裂き、より柔らかく、より多く腹を満たせるだろう場所へ口付ける。枯れ始めた草へ液体は周囲を汚し、ひとつであっ た塊は、無惨にもバラリバラリと散らかした。飢えきった腹を、僅かな温もり─獣たちからしたら本当に僅かなものだった─を持ったそれが占領していく事に、数日ぶりかの安堵を得た。
腹が満ちた獣たちは、汚れた口周りや互いの顔の毛繕いを行い人心地つくと、元いた住処へ帰っていく。後には荒らされきった骸が一つ、残っていた。肉は骨の回りに幾分か残り、周りの草へ着く液体は滴り、一本の木は惨状の場となり果てている。
獣が立ち去りどれほど経ったか、時間が刻々と過ぎ去る毎に大小様々な獣たちが集まり思い思いに腹を満たしてはそれぞれの住処へと戻っていく。幾度か日が昇り落ちるを繰り返した後のそれは、もはや人であった形など持ち合わせていない。
彼女か彼か、引き裂かれてしまった衣服からは最早判断はつかないだろう。獣たちが口をつけた所から滲み出た液体が、元々あった色を塗りつぶす。身につけていた首飾りは紐が切れ、地面へと落ちた。
その首飾りには、葉の模様の描かれた石と鳥の羽の形に彫られた金属の飾りが着いている。が、今では石は欠け金属の飾りも錆びついた赤茶色に染まっている。何度も獣に踏まれたのだろう、地面へめり込んだそれはまた新たに訪れた獣の脚に当たって─まだ少し肉の残った、小さな白い棒のようなものの近くへ─飛ばされた。
それはただの塊として、─いや、塊にすらならないだろう─木の傍にいた。ただ、ひたすらそこに在った。恨みはみえず、悲しみはなく、過去など知らぬとばかりにそこにあった。誰にも弔われないとしても、獣たちに食い荒らされたその姿は、─尊厳など欠片も見当たらない骸と成り果て、見る者は皆目を背けただろう姿であっても─ただただ静かに佇むばかりだった。
人が恐れる森の中、物言わぬ骸は静かに一人、そこにいた。
初めまして!七野小生です。一応考えているストーリー自体はあるのでゆっくりこれから書いて行ければなと思います。暇つぶしにでもしてください




