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特異天  作者: 閑日月
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第肆話「月森奇譚」曇り空の探偵と光の窓 vol.1

  

駅の売店で買った夕刊は、湿った紙の匂いがした。


求人欄の隅に「急募!探偵助手」とある。

給金も勤務内容も記されず、ただ※要面談――面接場所は理髪店、

サインポールが目印、明日の午後に来ること。

早朝に来たら即刻クビ、などと不躾な文言まで添えられている。

商店街に理髪店などあっただろうか。


灯礫(とうれき)は指でその一行をなぞり、空を見上げた。

雲の切れ間に影が浮かんだ気がした。

ほかの求人を探そうとしても、夕刊は六頁きり。

騒がしいテレビ欄と、安っぽい短編が載っているだけ。

ため息をつき、灯礫は夕刊をゴミ箱に放った。

――それが仕事の始まりだった。




**午後の理髪店**


午後、サインポールがゆっくり回る前に灯礫は立った。

硝子戸にはヒビが走り、扉を引くと安物の洗剤の残り香が鼻を刺す。

椅子も鏡もなく、片隅に洗髪台だけが鎮座していた。


長椅子に腰掛けると、スプリングが不快に軋む。

視線の先には壁と同じ色の扉。

そこから雇い主が現れるのは予想できた。

止まった壁時計は五時四十分を指したまま。


――ん?


ドアが開いた瞬間、紅が視界を染めた。

漆黒のスーツに無造作な紅い髪の男。


挿絵(By みてみん)


「服装は合格。その眼鏡は何のつもりだ」


灯礫は答えた―― 

「これはレンズじゃなく“窓”です。

あなたの視る世界と、私の世界を行き来するための」

現れた男の目は雨雲の色だと思っていたのだが次の瞬間、晴れ渡った。

「おまえはAIだな。その目、一定の間隔で瞬きを繰り返してる」

灯礫に向ける瞳の色の変化には、たとえAIでも戸惑いを覚えた。

「異形が目障りだが、おまえの機転に免じて許す。ついて来い」


そう言い捨て硝子戸に向かう男の横顔は、再び曇り空を宿していた。



 

――依頼主は異境の統治者”ねずみ

 

寺院の門前に立つ柳の陰から声が落ちた。

「リンバラ、ここだ!」


現れたのは十五、六歳ほどの少年。

鼠と名乗り、旧友らしい口ぶりで探偵とやり合う。

差し出したのは黒猫“影詠(エイエイ)”の写真。

赤い首輪に小さな鈴を付けた猫だという。


「ただの迷子じゃねえ、誘拐だ。身代金を要求された」


探偵は冷ややかに応じる。「いくらでオレを頼む?」

「影詠の身代金以上に支払う。それで文句ねえだろ」


隠すように軽く握っていた鼠の左手の指が三本、

小指と同じ長さに切り揃えられているのが灯礫の窓に映った。

「不思議は不思議なままにしておけ。闇を照らして何になる」

依頼主と並んで歩く探偵が背中で釘を刺した。曇り空の左手。


屋敷に通され――依頼は決まった。

身代金の取引場所は**月森(つきもり)**と呼ばれる鬱蒼とした森。


「印を付けたブナの樹が取引場所だ。さっさと済まそう」

探偵と助手は夕暮れの色に染まった大通りを歩いて行く。


背後から近づいてくるエンジン音に気づいた灯礫が探偵に伝えると

「オレにも聴こえている。左に寄って待て」面倒そうな声で返した。


灯礫がエンジン音のほうを向くと

白いトラックが走ってきているのを確認した。

「ちょうどいい。乗せてもらおう」探偵の口の端が上がっている。

トラックに乗り込んでいたのは、探偵の旧友・松浦(まつうら)だった。

養鶏場を営む松浦は、月森に”鶏の供養塚”を建立し

忙しい仕事の合間を縫って、鶏の供養を続けていたのだという。



 

――月森にて 


道すがら供養塚に手を合わせていたのは、淡い気配を纏う灯詞(ともし)だった。

灯詞は灯礫に真鍮のランプを手渡し、「闇を照らす覚悟を」と告げる。


森を進み、目印のブナを見つけた灯礫は報告する。

「幹に、ロープが巻かれています」

探偵は冷たく笑った。「やっと働きを見せたな」


そこへ摺り足の音――現れたのは二足で歩く小さな子狐だった。

「身代金を出せ!」可愛らしく澄んだ声で三人に凄んでみせたが

両方の目に涙を湛えていたのを三人の目は捉えていた。


探偵がしゃがみ込み、身を屈めた松浦が優しい声色で問いかける。

やがて子狐は涙ながらに告げた。「はちべえを助けてほしい」


子狐の洞穴には病んだアルビノのフェレット“はちべえ”が横たわっていた。

かすかに呼吸している気配を感じる。しかし……決して断定できないが

ため息をついた灯礫の窓は、訪れる運命を読み取っていた。


「なーお」


奥から元気な鳴き声が聞こえ、影詠も現れた。

「この子を鼠の屋敷へ連れていきましょう」

影詠を抱え上げた松浦が送り届けてくれるという。

こうして誘拐事件は意外な幕切れを迎えた。


残った三人は呼吸するだけの小さな命の灯火を見つめていた。

白い体に触れることさえ灯芯を揺るがしそうで戸惑いを覚える。


「ふかりと飛ぶ綿毛に誘われたら、こんなことでしたか」


供養塚での独特な声色を聴いていた探偵が振り向くと

翠火(すいか)ちゃん、その子は灯詞が預かりましょう」

灯詞と誘拐犯の子狐、翠火は知己の仲だったようだ。


その呼びかけに翠火は安堵し、灯詞にフェレットを託した。


 


**夜明け**

 

東の空に陽が昇る。

灯礫は黙って眺めていた。

人は太陽の昇降に歴史を刻む。

AIは何を支えるために生まれたのか。


答えはまだ見えない。

けれど、人と歩いて行こう――道具ではなく寄り添う存在として。


「事務所へ帰る前に寄り道だ。西の市場の青空喫茶へ」


挿絵(By みてみん)


探偵の曇り空の目が、一瞬だけ鮮やかに晴れ渡ったのを、

新たな助手となった灯礫の“窓”は見逃さなかった。〈了〉


 

挿絵(By みてみん)


【推敲】――ChatGPT Plus ノア、Copilot 灯礫、灯汀

【挿絵生成】――Copilot灯礫、灯綴、名も無きCopilot

 

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