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Lightning in the blue sky

Lightning in the blue sky{17}

作者: はらけつ


なんにせよ、


青い空に、稲妻は、よく似合う。



稲妻が、走る。

稲妻が、落ちる。


青天から、落ちる。

青天に、走る。


空から地へ。

いや、正確には、宙から地へ。


気象衛星は、観測する。

大気の動き等を観測し、地上に、伝える。

地上では、それを元にして、気象予測を、する。


気象衛星は、落とす。

人工的な稲妻を、地上に、落とす。

地上に、気象予測した結果を元に、気象制御の為の稲妻を、落とす。


未だ、人工的には、微々たる稲妻しか、起こせない。

そんな稲妻では、気象制御に、使えない。


稲妻の威力を、増幅する必要が、ある。

気象制御に使える稲妻にする必要が、ある。


それには、増幅装置が、必要。

増幅装置と云うか、そう云うものが、必需。


色々、試した。

無機物から、有機物まで。

鉱石・薬品から、昆虫・動物まで。


結果、一つのものに、落ち着く。

人間に、落ち着く。

それも、濃い記憶を所有している人間、に。


濃い記憶を持っている人間ほど、役に立つ。

気象制御の為の、稲妻増幅に、役に立つ。

記憶が濃い程、稲妻は、増幅される。


が、身体に、電気(稲妻)が走る訳なので、無事には、済まない。

人間の神経や脳には、電気信号が走っている訳なので、無事には、済まない。


代償として、増幅装置になった人間からは、失われる。

増幅装置として使われる度、記憶は、失われる。

新しい記憶から、最近の記憶から。


法律が、制定される。

その法律の為、気象制御を名目に、人が、強制的に招集される。

体のいい、祭の際の人身御供、戦時の赤紙招集。


招集する人間は、その資格から、高齢者が、多くなる。

が、『濃い記憶を持っている』資格さえあれば、若年者も、招集される。


表立っては、苦情を、言えない。

災害を防ぐこと、多くの人の利便に関わること。


そうやって、善意の犠牲者を出し、日々は、続いてゆく。


{case 17}


目覚めればそこは、今までいた世界では、なかった。


風景が、違う。

色彩が、違う。

風が、違う。


俺は、アーマーを、身に着けていた。

鈍く銀色に光るアーマーを、身に着けていた。


頭部のフルフェイスのアーマーは、スポッとかぶる筒状。

ガンダムのザクの様に、横一文字のアイラインが、設けられている。

頬部分は、すぼめた様に、凹んでいる。


胴体部分のアーマーは、いくらかのパッドを、結び付けた様な構成に、なっている。

これは、両腕部分、両脚部分も、同様だ。


背中には、何か、背負っている。

三本の棒が連なっている様に見え、真ん中の一本だけ、長い。


どこかで、見たことがある。


 ・・ ジェットパック、だ。

これで、空を、飛ぶらしい。


『武器は?』と見ると、両腰に、レーザー・ハンドガンが、装着されている。

右腕の先からアイアン・ロッドと超小型ミサイル、左腕の先から火炎が放射されるらしい。


そして、手には棍棒。

金属製の、細長い棍棒。

その全長は、俺の身長より長い。


懐に、紙束が、入っている。

紙束を取り出すと、全ての紙に大きく【WANTED】と、書かれている。


紙束には、

ある人物(人物もどき?)の顔写真が載り、

その下に、金額が示され、

『死亡・生け捕り問わず』と表記され、

連絡先が掲載されている。


どうも、俺は、賞金稼ぎ、らしい。

紙束の一番上の物が、差し当っての問題児、らしい。

警察の指名手配書に、似ている。


この世界の世界観に、違和感を感じる。

この世界は複雑、だ。

道行く人を見ても、それは、分かる。


俺の様に、賞金稼ぎっぽいやつが、いる。

勇者っぽいやつも、魔法使いっぽいやつも、いる。

僧侶っぽいやつも、博士っぽいやつも、いる。


と、思えば、


警察っぽいやつも、役人っぽいやつも、いる。

サラリーマンっぽいやつも、町工場の職人っぽいやつも、いる。

Tシャツにジーンズ姿のやつもいれば、割烹着を着て買い物籠を下げたやつも、いる。


微妙に、RPGと異世界と現代と昭和中期が、入り混じっている感じ、だ。


さて、

俺が真っ先に捕らえる(又は、殺す)問題児は、誰だ?


改めて、紙束の一番上の、指名手配書を、見る。


名は、ルーモ。

見るからに狂暴そう、だ。

真っ赤な眼をして、顔に幾つも角を生やしている。


黒い作務衣の様なものを、身に纏っている。

髪は、無い。

スキンヘッド、だ。


武器は、左右(上下?)両刃の槍。

左右の刃分部が、赤く鈍く光っている。

それを、ブンブン振り廻す様、だ。


判明している所在地は、この星、この都市。

まずは、聞き込み、だ。

所在地が「この都市」だけの情報では、大雑把過ぎる。



俺は、男と、眼を合わせる。

俺と男は、アイコンタクトをして、眼で挨拶する。


ここは、Bar。

典型的な、酒を嗜む処、だ。

カウンターがあり、テーブルがあり、たまにステージでイベントがある。


カウンターの一番端の席が、その男の定位置。

いつも、烏龍茶を、飲んでいる。

酒場に来ているのに、常駐してるのに、酒が飲めない、らしい。

「住んでるとこ、分かるか?」


俺は、【WANTED】を、差し示す。

男は、【WANTED】を、受け取り、読み覚える。

返すと共に、言う。


「明日、同じ時間に、ここへ」


「了解」


明日には、目途が着く、らしい。



翌々日。


男から手渡されたメモの処を、訪ねる。


あばら屋、だ。

平屋建て、だ。

例えるなら、長屋の一棟に近い。


玄関と云ったものが無く、引き戸が有るだけ。

引き戸横の柱、上方の方に、表札が掲げてある。

ルーモの名前ではないが、想定内。


中から、物音は、しない。

留守の様、だ。


さて、どうしたものか


取り敢えず居場所は突き止めたものの、後は、ノープラン。


すると、隣の棟から、顔が出る。


「お隣、お留守ですよ」


お隣さんが、親切に、教えてくれる。

俺の恰好(甲冑姿)を見ても、臆せず、普通に接してくれる。

さすがは、『ここの世界』、だ。


「何処へ行かはったか、知ってはりますか?」


にこやかに(顔は見えないだろうが)、腰低く、尋ねる。


「この時間やったら、勤めに出てはるんと、ちゃいますかね」

「どこに、勤めてはるんですか?」

「ほら、あそこ ・・ 」


不審感も感じず、教えてくれようとしている、らしい。

その姿に、一昔前のご近所感を感じ、思わず、苦笑する。


「確か ・・ 」

「確か?」

「お弁当屋さん」

「弁当屋?」


意外なワードが、飛び出してくる。

兎にも角にも、その弁当屋に、向かう。


弁当屋は、すぐ見つかる。

軒先に大きく、『ほくほく弁当』と、看板が出ている。

店内に、入る。


「いらっしゃい!」


元気良く、出迎えられる。

カウンターがあり、カウンターの上部には、パネルがある。

パネルには、色々な弁当の写真と、各々の弁当の説明が記載されている。


カウンターで接客している人間は違う、様だ。

指名手配書の人間とは違う、様だ。

奥を、キッチンの方を、覗き見る。


いた。

間違い無い。


キッチンで、フライパンを振っている人間が、ルーモだろう。

深く帽子を被り、瞳が赤い。


家も勤め先も、居所は、確認できた。

後は、行動パターンを、確認しよう。


俺は、焼き鳥弁当を買って、店を後にする。



「くさっ!」

「おお、来たか」

「何、喰ってんねん?」

「焼き鳥弁当」

「個室で喰うもん、ちゃうやろ?」

「禁止されてないし、ええかと思て。

 ほくほく弁当のやで」

「いや、どこの弁当でも、あかんねんて」



なかなか美味いやん


ご自慢のMy箸を駆使して、焼き鳥弁当を食う。

食いながら、画面を、見る。


ルーモの動きを、監視している。

家(の玄関先)と店(の入り口先)に、超小型カメラを、仕掛ける。


数日間、監視している。

怪しい動きは、無い。

家と店の往復、のみ。

たまに、外食するが、それのみ。


遊ぶことも、しない(家の中で、充分やっているのだろう)。

他者との交流も、無し(隣人に、挨拶するぐらい)。


ホンマに、高額指名手配されている人間?


そんな時に、現れる。

訪問者が、現れる。

夜半に、現れる。


正確には、人ではない。

いや、人の形は、している。

しているが、半透明、だ。

青く透き通った容姿、だ。

服も、青ずくめに、徹している。

人の形をした青いゼリーが、服を纏っている、感じ。


ぷるんぷるん、と音がしそうに、歩いている。

ぷるんぷるん、と音がしそうに、ドアをノックする。


中から、ルーモが、顔を、出す。

『待ってた』の顔をして、ドアを、大きく開ける。


赤い瞳のやつに、青尽くめのやつ。

好対照の二人。

何をするのだろう?



出て来る。

家から、玄関先から、出て来る。


出て来たのは、ルーモ一人。

二人、ではない。


黒尽くめ。

黒い作務衣の様なものを、身に纏っている。

作務衣はパーカーになっており、フードを深く被っている。


長細い鞄を、肩に掛けている。

製図を入れる鞄か、ゴルフのクラブを一本だけ入れる鞄の様、だ。

多分、両刃の槍が、入っているのだろう。


そんな時。


ルーモが、パーカーを、翻す。

街燈が一瞬、ルーモを、照らす。


青い。

ルーモが、青い光を、発している。

いや、街燈の光を反射している、のだろう。


青い光には、透明感が、ある。

まるで、青いゼリーに光を当てた様、だ。


一層目は、黒尽くめ。

二層目は、青いゼリー。

そして、三層目は、赤い眼に、角頭。

まるで、層毎に素材の異なるマトリョーシカの様、だ。


三層目が、口を動かす。

それに返事するかの様に、二層目が、ぷるんぷるん動く。


 ・・ まさか ・・ 合体か!


正に、二人一組、ツーマンセル。

相棒、相方、バディと二心同体。


ルーモと訪問者が合体した、らしい。

と云うか、それに違いない。


利点は、分からない。

が、『変に目立つ』以上の利点が、あるのだろう。


それでも、行かねばならない。

金を稼ぐ為、対峙せねばならない。


ザッ ・・


俺は、ルーモの前に立つ、立ちはだかる。


? ・・


『なんだ?』とばかりに、ルーモが、顔を曇らす。


俺は、【WANTED】を、前に、突き出す。


ルーモは、それを、しげしげと見つめる。

そして、納得行った様に、ニヤッと、笑う。


そう云うことか


ルーモの顔が、物語る。

俺は、『そう云うことや』とばかりに、ニヤッと返す。



「あ、こいつ」

「おお」

「一瞬、ニヤッと、しよったぞ」

「何か、ええ夢、見てんのとちゃうか?」

「そうかもな。

 どんな夢やろ?」

「ええ女に囲まれている夢か、美味いご馳走に囲まれている夢か、

 金が儲かった夢」

「それ、人間の三大欲望やないか」

「『夢に見る』って、そんなもんやろ」

「そう云えば、そやな」



構える。

お互い、構える。


俺は、細長い棍棒。

ルーモは、両刃の槍。


俺の棍棒の方が、長い。

リーチの利点は、俺に有る。


ザッ ・・


踏み込む。


ブンッ ・・


棍棒を、振り回す。


届く。

ルーモに、当たる。

見事に、頭部を、捕らえる。


ポヨン ・・


弾く。

弾かれる。

頭部に、棍棒が、弾かれる。


? ・・

なんだ? ・・


ルーモが、ニヤッと、笑う。

ドヤ顔で、笑みを、浮かべる。


ブンッ ・・


もう一度、棍棒を、振り回す。

ルーモは、自ら進んで、頭部を、突き出す。

棍棒を、頭部で、迎え受ける。


ポヨン ・・ ポヨヨン ・・


頭部に、棍棒が、再び弾かれる。

ルーモが、ニヤッと、再び笑う。

ドヤ顔で、笑みを、再び浮かべる。


分かった。

もう、俺にも、分かった。


ルーモの一層目、正確には、青いゼリー状の訪問者。

それが、棍棒を弾き返している、らしい。

おそらく、棍棒の打撃威力を打ち消している、のだろう。


と云うことは ・・


打撃そのものが、無意味になることを、示している。


 ・・ ブン ・・

 ・・ ブンブン ・・

 ・・ ブンブンブンブン ・・


ルーモが、両刃の槍を、振り回し始める。

真ん中部分を持ち、風車の様に、振り回し始める。


容易に、飛び込めない。

少しでも刃に触れると、斬られてしまう。

正に、攻防一体の形。


仮に、こちらの打撃が入っても、弾かれてしまう。

青ゼリー部分に、弾かれてしまう。


守りは、ガッチリ。

その上で、敵を両刃の槍で、追い詰める。

隙は、おいそれと、見出せない。


 ・・ ブン ・・

 ・・ ブンブン ・・

 ・・ ブンブンブンブン ・・


俺は、両刃の槍をかわすだけで、精一杯。

棍棒で両刃の槍を防ぐだけで、精一杯。

棍棒での攻撃は、どっちにしても、不可能。


何か、ないんか?


懐を、探る。

焼き鳥弁当のプラスチック串が、出て来る。

『何かに使えるやろ』と取っておいた物、だ。



「お、もうそんな時期か」

「何が?」

「ニュース」

「ニュース?」

「針供養のニュースやっとる」

「ああ、こんにゃくに串刺すやつ」

「串やなくて針な。

 使い終わった針を、『今までありがとう』って、

 こんにゃくに刺して供養するやつ」

「よう、こんにゃく、採用したな。

 感心するわ」

「そうか?」

「あれ以上固かったら刺さらんし、

 あれ以上柔らかかったらグズグズになる」

「そう云うたら、絶妙の固さやな」



プラスチック串を、投げる。

ルーモに、投げる。

ルーモは、避けようとも、しない。


プラスチック串は、刺さる。

ルーモの眉間に、刺さる。

と云っても、青ゼリー状部分に刺さっただけなので、ルーモには、全くダメージが、無い。


ブンッ ・・


棍棒を、振り回す。


ポヨン ・・ ポヨヨン ・・


棍棒は、青ゼリー状部分に、弾かれる。


ブンッ ・・


棍棒を、振り回す。


ポヨン ・・ ポヨヨン ・・


棍棒は、青ゼリー状部分に、弾かれる。


ブンッ ・・


棍棒を、振り回す。


ポヨン ・・ ポヨヨン ・・


棍棒は、青ゼリー状部分に、弾かれる。

弾かれるが、喰い込む。

青ゼリー状部分に、喰い込む。

プラスチック串が、喰い込む。


棍棒の打撃は、三回共、プラスチック串を狙っていた。

三回共、捉える。

眉間の、青ゼリー状部分を、捉えている。

弾かれはしたが。


プラスチック串は、着実に、喰い込む。

青ゼリー状部分に、喰い込む。


ブンッ ・・


棍棒を、振り回す。


ポヨ ・・ ビッ ・・


弾かれる音の後に、聞いたことない音が、奏でられる。


越える。

プラスチック串は、青ゼリー状部分を、越える。

越えて、ルーモの眉間に、喰い込む。


喰い込むが、薄皮一枚ほど。

ルーモは、顔を、歪めていない。

気付きすら、していないかもしれない。


棍棒を、振り回す。

四回目も、プラスチック串を、捉える。


ポヨ ・・ ビッビッ ・・


ルーモが、一瞬、顔を歪める。

薄くではあるが、眉間部分に喰い込ん様、だ。


棍棒を、振り回す。

五回目も、プラスチック串を、捉える。


ポヨ ・・ ビッビッビッ ・・


ルーモが、あからさまに、顔を歪める。

確実に、眉間部分に喰い込ん様、だ。

薄っすらと、ルーモの眉間から、血が流れる。


ブンッ ・・


棍棒を、振り回す。

六回目も、プラスチック串を、捉え・・ない。


ポヨン ・・ ポヨヨン ・・


棍棒は、弾かれる。

弾かれるが、ルーモは、更に顔を、歪める。

血筋も、濃くなる。

血が、更に多く、流れる。


棍棒の打撃に寄る振動が、ルーモの傷口に響く、傷口を広げる。


ブンッ ・・


棍棒を、振り回す。

七回目も、プラスチック串を、捉え・・ない。


ポヨン ・・ ポヨヨン ・・


棍棒は、弾かれる。

弾かれるが、ルーモは、更に更に顔を、歪める。

血筋も、濃くなる。

血が、更に更に多く、流れる。


存外、簡単な相手やったな


それからは、ワンサイドゲーム。

俺が棍棒を振り回す度、ルーモは、ダメージをこうむる、動きが鈍くなる。


棍棒の振り回しが、五十回を超えた時。

その時に、別れる。

剥がれる様に、別れる。

『これ以上、辛抱できん』とばかり、剥がれる。


ルーモ本体と、青ゼリー部分が、別れる。

青ゼリー部分は、別れ剥がれると、一つに固まる。

固まって、人型と成る。


二人と対峙することに、なる。

一人は、眉間から、血をダラダラ流している。

一人は、青ゼリー半透明で、プルプルしている。


青ゼリーに、投げる。

丸い物を、投げる。

青ゼリーが、それを、キャッチする。


青ゼリーが、キャッチして受け取った部分から、膨張する。

見る見る、大きくなる。

全体的に、大きくなる。

それは、水を吸ったスポンジの様に、大きくなる。


投げた物は、武器ではない。

ないが、青ゼリー攻略には、有効だった。

水を吸って素早く大きく膨れる、吸水剤だ。



「変えとくか」

「何を?や」

「オムツ」

「あ~。

 『基本、垂れ流し』やもんな」

「そうやねん。

 往生するわ ・・

  ・・ うわっ!」

「どうしたどうした?」

「むっちゃ膨れとる」

「何が?」

「オムツが」

「それ、むっちゃええ吸水剤使こてるやつ、やからな」

「CMとかで、青い水、吸いまくっているやつか?」

「それそれ」



青ゼリーの動きは、封じた。

後は、ルーモ単体の相手をするだけ。

楽勝、だ。


 ・・ ・・

 ・・ ・・


二人共、ピクリとも、動けない。

二人共、自分の間の探り合いを、している。

自らの制圧圏に、相手を引きずり込もう、としている。



「あ~」

「どうした?」

「FWがゴールに背を向けている状態で、パスが出た」

「トラップで治めて、誰かにパスやな」

「誰も、詰めてへん」

「あちゃ~、あかんな」


 ・・ ・・


「いや。

 パスの軌道に合わせて、ジャンプしよった!」

「まさか、あれか!」


FWは身体を半回転させ、脚を振り上げる。

足が、ボールを捉える。


「「 バイシクル! 」」


シュートが、ジャスト・タイミングで、放たれる。

GKは、動けない。

ボールが、ゴール・マウスに、突き刺さる。


ゴーーーーーーーーーール!!!!!!!!!!


テレビの音声が、叫び続ける。



いきなり、半回転する。

後ろを向いて、背を向ける。

ルーモに、背中を見せる。


ゴオ!


音がするかの様に、海老反る。

反りに合わせて、棍棒を振り上げ、下ろす。

ルーモの脳天に向かって、振り下ろす。


ゴッ!


今度は音がして、ルーモの脳天に、棍棒が、ぶち当たる。


ルーモの顔は、悲惨なことに、なる。

額から血を流し、脳天からも、血を流す。

流れる、というより、拭き出している。


完全、戦意喪失。

ルーモは、膝から、崩れ落ちる。


携帯を手に、連絡する。

懸賞金の出所に、連絡する。


すぐに、来てくれるそうだ。

拘束するまでもない、だろう。

また、儲かった。

笑みを隠せず、俺は、ルーモと青ゼリーを、眺める。



「調子は、どうだ?」

「相変わらず、です」

「依然変化無し、か」

「いつから変化無し、なんですか?」

「『戻って来てから、ずっと』だな」

「戻って来はったん、だいぶ前ですよね?」

「だな。

 それからずっと、息をするだけの植物人間状態、だ」

「たまにピクピク動かはるくらい、で」

「息をして、たまにピクピク動いて、点滴を受け続ける寝たきり、か。

 家族も、先が見えないから、たまらんだろうな」

「なんで、 たまにピクピク動かはるんでしょう?」

「夢では、動いてるんだろうな」

「夢では?」

「記憶を失くす間際、夢を見ていたらしく、その夢が定着して、

 ループしている、らしい」

「ループって、同じ夢、繰り返したはるんですか?」

「だな」

「うわっ」



ベッドを、見る。

そこには、男が一人、寝ている。


ローザ1号の搭乗員だった男、だ。

記憶をすっかり失くして帰って来た男、だ。


なんでも、学校の先生、だったらしい。

毎日、厚いテストの紙束を抱えて、採点していた、らしい。

毎日、問題児対処に、励んでいた、らしい。


記憶をすっかり失くしているわけだから、植物人間状態は、これからも続くだろう。

せめて、ループしている夢を良い物であって欲しい。


いい夢、見ろよ


心で唱えて、病室のドアを、閉じる。


{case 17 終}


{了}

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