会いたい
川はやるせなく流れている。滔々と流れている。
僕は一人で釣りをする。けれどもアタリは来ない。永遠に来ない。なぜか、そもそも僕は釣りたいわけではない。アタリを楽しみたいわけではない。
きっと彼女は来ない。来るはずがない。そう思っている·····
理由は明快。僕は彼女に嫌われている。僕は彼女にひどいことをした。
彼女は僕になびいていた。僕も彼女が好きだった。けれども二人は別れてしまった。
僕はもともとひどい男で、浮気はするし、金も使う。そのことで彼女と喧嘩になった。
そうして二人は破局した。けれども僕は未練たらたらだった。だから恋しかった。だから愛しかった。
N,君ともう一度会いたかった。けれども拒絶は激しかった。もう二度と会えないと言われた。
でも僕は諦めが悪い男で、こだわるとなかなか人を斬れない。
でも今回は無駄だろう。
このことをとある人に打ち明けた。その人は言った。
「悲しみが二人を強くすることもある。裏切りが別れになることもある。きっと君には幸福がやって来るよ。大丈夫、だから泣かないで·····」
そう言ってくれた。
だから賭けをした。もう一度彼女に会えるように。
彼は微笑して賭けを受け、負けた方が恥ずかしい話をすることになった。
そうして彼女に来てほしい旨をLINEで送り、釣りをしていた。
彼女は返事を返さなかった。
でも僕は賭けていた。
釣りをする。時間だけが過ぎる。彼女は来ない。どうあがいても来ない。
僕はとうとう諦め、帰ろうとした。
「釣れてる?」そう声がした。僕は振り返らない。
「どう?」そう言う。
僕は振り返ると、キャップを被りどこまでも夜のように深い目をした彼女がいた。
そうして····
「来てくれたんだ·····」
「······」
「ごめんね」
「······」
「じゃあ、これで····」
「いいのよ」
「うん」
「······」
「僕は······」
「······」
「分かった、僕の負けだよ、N」
「そう」
「また会いたい···」
「うん·····」
「ダメ?」
「うん?」
「変わるから」
「······」
「本当に、真心から言う、ありがとう······」
「うん」
これから先、僕はどうなるだろう。何が僕やNを待っているか。そんなこと僕にもNにも分からない。けれども一つの約束がある。きっと大切にする。それだけはしなくちゃ····