♡-9:決意の夜明け~そして再燃する想い
夜明け前の薄明かりが、車内をぼんやりと照らす。
俺は、ハンドルを握りながら、昨夜書いたユイへの手紙を何度も読み返していた。
「ユイさん、僕は、あなたと出会えて本当に幸せでした。しかし、僕は、あなたを幸せにすることはできません。どうか、幸せになってください」
言葉の一つ一つが、胸に突き刺さる。
ユイへの想いを断ち切ろうとするたびに、彼女の笑顔や涙が脳裏に浮かび、心が締め付けられる。
俺は、車を海岸沿いの駐車場に停め、夜明け前の海を見つめた。
東の空がゆっくりと白み始め、星々が少しずつその輝きを失っていく。
夜明け前の静寂は、まるで俺の心の内を映し出す鏡のようだった。
「ユイさん、さようなら」
俺は、心の中で呟き、ユイへの手紙を握りしめた手に力を込めた。
そして、決意を固めるように、深呼吸をしてから、手紙をポストに投函した。
その瞬間、心の奥底で何かが切れたような気がした。
ユイへの想いは、まだ消えない。
しかし、それはもう、過去のものだ。
俺は、アヤとの未来に向かって歩み出すことを決意した。
しかし、その夜、ユイからの手紙が届いた。
「ユウタさんへ。お手紙、ありがとうございました。ユウタさんの気持ち、嬉しかったです。私も、ユウタさんのことが好きです。でも、私はまだ、自分の気持ちに整理がついていません。もう少しだけ、時間をください」
ユイからの手紙は、俺の決意を揺るがすには十分だった。
ユイへの想いが、再び燃え上がるのを感じた。
俺は、いてもたってもいられず、旅の途中でミサキのカフェ「Cafe Soleil」に立ち寄ることにした。
ミサキになら、この複雑な気持ちを打ち明けられる気がした。
「ユウタさん、どうしたんですか? こんな時間に」
ミサキは、驚いた様子で俺を迎えてくれた。
「実は…」
俺は、ミサキにユイからの手紙を見せ、自分の気持ちを打ち明けた。
ミサキは、静かに俺の話を聞いてくれた後、優しく微笑んで言った。
「ユウタさん、ユイさんは、まだユウタさんのことを想っていると思いますよ。でも、彼女には、まだ整理しなければならないことがあるのでしょう」
「そうでしょうか…」
俺は、ミサキの言葉に、少しだけ希望を感じた。
「ユウタさん、自分の気持ちに正直になってください。そして、後悔のない選択をしてください」
ミサキの言葉は、俺の心に深く響いた。
俺は、ミサキに別れを告げ、再びアヤとの約束の場所、鎌倉の由比ヶ浜に向かった。
複雑な想いを抱えながらも、アヤとの約束は守らなければならないと思った。
約束の時間に少し遅れて到着すると、アヤはすでに浜辺で待っていた。
白いワンピースに身を包んだ彼女は、朝日を浴びて、まるで女神のように輝いていた。
「ユウタさん、お待たせしました」
アヤは、満面の笑みで俺を迎えてくれた。
その笑顔を見て、俺は、自分の決意が正しかったのかどうか、わからなくなっていた。
アヤの笑顔は、太陽のように明るく、俺の心を温かく照らしてくれた。
しかし、ユイへの想いが、その光を遮っていた。
「アヤさん、待っていてくれてありがとう」
俺は、アヤの隣に座り、海を見つめた。
波の音、潮の香り、そして、アヤの温かい存在。
それら全てが、俺の心を穏やかに満たしてくれた。
しかし、心の奥底では、ユイへの想いが渦巻いていた。
「ユウタさん、旅はどうでしたか?」
アヤが、優しく尋ねてきた。
「色々な場所に行って、色々な人に出会いました。そして、自分自身と向き合うことができました」
俺は、アヤに旅の話をしながら、ユイとの再会と別れ、そして、ユイからの手紙について話した。
アヤは、静かに俺の話を聞き、時折、頷きながら相槌を打った。
「ユウタさん、あなたの決断は、きっと正しいと思います。ユイさんの幸せを願う気持ち、そして、私との約束を守る気持ち。どちらも、ユウタさんの誠実さの表れだと思います」
アヤの言葉は、まるで俺の心を透かして見ているようだった。
彼女の言葉に、俺は深く感動し、涙がこみ上げてきた。
「アヤさん、ありがとう。あなたに会えて、本当に良かった」
俺は、アヤの手を握りしめ、心からの感謝を伝えた。
「ユウタさん、私も、あなたに会えてよかった」
アヤは、俺の目を見つめながら、優しく微笑んだ。
私たちは、海辺で語り合った。
将来の夢、お互いの家族のこと、そして、二人の未来について。
アヤは、俺の話を真剣に聞き、時には、自分の意見を率直に伝えてくれた。
彼女の言葉は、いつも的を射ていて、俺の心を深く打った。
アヤは、自身がカメラマンを志した理由を語り始めた。
それは、幼い頃に見た一枚の写真がきっかけだった。
その写真には、内戦で傷ついた子供たちの姿が写っていた。
アヤは、その写真を見て、世界で起きている悲惨な現実を知り、写真を通してそれを伝えたいと思ったのだ。
「ユウタさんの音楽も、きっと同じだと思います。誰かの心を動かし、世界を少しでも良くしたいという気持ち。それは、とても素晴らしいことだと思います」
アヤの言葉は、俺の心に響いた。
俺は、音楽を通して何を伝えたいのか、自分の夢を改めて見つめ直した。
そして、旅の途中で出会った人々との触れ合い、美しい景色、そして、アヤとの会話を通して、俺は、自分の音楽で何を表現したいのかを明確にすることができた。
それは、愛、希望、そして、平和への願いだった。
俺は、ギターを取り出し、アヤのために歌を歌った。
それは、彼女への感謝と愛を込めた歌だった。
アヤは、涙を流しながら、俺の歌に聞き入った。
満月が夜空を照らし、波の音が静かに響く中、アヤは、俺の胸に顔をうずめ、震える声で言った。
「ユウタさん、私、あなたが好きです。ずっと前から…」
アヤの告白に、俺は驚きながらも、心から嬉しかった。
俺は、アヤを抱きしめ、愛の言葉を囁いた。
「アヤさん、僕も、あなたが好きです」
二人の心は、星空の下で一つになった。
それは、新たな愛の始まりであり、未来への希望に満ちた瞬間だった。
しかし、ユイからの手紙と、彼女への想いは、まだ俺の心の中に残り続けていた。
「ユイさんを忘れなければいけない。アヤさんを幸せにしなければいけない」
俺は、心の中で何度も自分に言い聞かせた。
しかし、ユイとの思い出が蘇るたびに、心が揺れ動くのを感じた。
そんな葛藤の中で、俺は、ユイからもらった貝殻を手に取った。
それは、二人の思い出を繋ぐ、大切な絆の証だった。
「ユイさん、ごめんね。でも、僕は、アヤさんとの未来を選びます」
俺は、貝殻に向かって呟いた。
それは、ユイへの別れの言葉であり、そして、アヤとの未来への決意表明でもあった。
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