♡-7:夕陽に染まる約束
海沿いの国道134号線を北上する。
開け放った窓から流れ込む潮風が、ユイとの別れで湿った頬を優しく乾かしていく。
江ノ島、鎌倉、逗子、葉山。
過ぎ去る景色はどれも美しく、心に染みた。
車を停めたのは、葉山の小さな公園。
夕陽が海を茜色に染め上げ、サーファーたちのシルエットが波間に浮かび上がる。
遠くには、江ノ島がシルエットとなり、空にはオレンジとピンクが混ざり合った幻想的なグラデーションが広がっていた。
潮の香りが鼻腔をくすぐり、波の音は、まるで心を洗うように穏やかに響く。
俺は、ギターケースからアコースティックギターを取り出し、そっと弦を撫でた。
指先が触れたネックレスは、ユイとの思い出の品。
キャンプファイヤーの夜、彼女がくれた小さな貝殻だ。
自然と指が奏でるのは、ユイとの思い出を歌にした曲。
切ないメロディーが、潮風に乗ってどこまでも広がっていく。
それは、ユイへの想いを断ち切れない、俺の心の叫びだった。
曲が終わり、静寂が訪れる。
すると、どこからともなく拍手が聞こえてきた。
振り返ると、白いワンピースを纏った女性が立っていた。
夕陽を背に、長い髪が風にたなびき、その姿は神々しいほどに美しかった。
(なんて綺麗な人だろう。まるで、光を纏っているみたいだ)
アヤは、ユウタの姿に目を奪われた。
夕日に照らされた彼の横顔は、どこか哀愁を漂わせながらも、力強い意志を感じさせた。
そして、彼の奏でるギターの音色と歌声は、アヤの心を深く揺さぶった。
「素敵な曲ですね」
女性は、柔らかな笑みを浮かべながら、俺に近づいてきた。
その瞳は、吸い込まれるような深い青色で、まるで海そのものを映し出しているようだった。
「ありがとうございます。この曲は、大切な人に作った曲なんです」
俺は、少し照れくさそうに答えた。
(大切な人…誰だろう。表情が、少し曇った気がする)
アヤは、ユウタの表情の変化を見逃さなかった。
彼の心の中に、何か辛い過去があるのかもしれないと感じた。
「そうなんですね。きっと、素敵な人なんでしょうね」
女性は、海の彼方を見つめながら、静かに言った。
その横顔は、どこか寂しげで、それでいて、凛とした強さを感じさせた。
「ええ、とても素敵な人です」
俺は、ユイの面影を重ねながら、呟いた。
女性は、俺の隣に腰を下ろし、静かに海を眺めた。
沈黙が心地よく、波の音だけが二人の間に響く。
「私は、アヤと言います」
女性は、自己紹介をした。
アヤという名前は、どこか懐かしく、そして、温かい響きを持っていた。
「僕は、ユウタです。旅の途中なんです」
俺は、アヤに自己紹介をした。
「旅ですか。いいですね。私も、いつか旅に出て、色々な景色を写真に収めたいと思っています」
アヤは、目を輝かせながら、夢を語った。
彼女の瞳には、未来への希望が満ち溢れていた。
私たちは、それからしばらくの間、様々なことを語り合った。
アヤは、東京でカメラマンとして働いているという。
彼女は、明るく話しやすい女性で、すぐに打ち解けることができた。
(ユウタさん、とても優しい人だな。彼の笑顔を見ていると、心が温かくなる。それに、ユウタさんの瞳には、誰かの面影が見えますね。その哀愁漂う表情も、写真に収めたいと思いました)
アヤは、ユウタに惹かれている自分に気づいた。
彼の優しさや誠実さに惹かれるだけでなく、彼の抱える心の傷に共感するような、不思議な感覚を覚えた。
「ユウタさん、もしよかったら、今度一緒に写真を撮らせてくれませんか? 来月の同じ日、ここで。もしユウタさんが、この場所に戻ってきたいと思えたら、の話ですが」
アヤは、少し照れくさそうに言った。
彼女の頬は、夕日に照らされて、ほんのり赤く染まっていた。
「ありがとうございます。ぜひ、お願いします。必ず戻ってきます」
俺は、アヤの申し出を快諾した。
アヤとの出会いは、ユイとの別れで傷ついた俺の心に、新たな光を灯してくれた。
彼女は、まるで太陽のように明るく、俺を元気づけてくれた。
(アヤさんとの出会いは、もしかしたら、ユイさんを忘れるきっかけになるかもしれない)
ユウタは、アヤの笑顔を見つめながら、心の中でそう思った。
アヤとの会話は、ユイへの未練を忘れさせてくれるほど、楽しく、そして刺激的だった。
「ユウタさん、また来月の同じ日に、ここで会いましょう」
アヤは、別れ際、そう言って微笑んだ。
その笑顔は、まるで約束のように、俺の心に刻まれた。
「ええ、また必ず会いましょう」
俺は、アヤの手を握りしめ、力強く言った。
アヤとの出会いは、偶然だったかもしれない。
しかし、それは、運命の出会いだったのかもしれない。
俺は、アヤとの再会を心待ちにしながら、再び旅を続けることを決めた。
心は、まだユイへの想いで揺れていたが、アヤとの出会いが、俺の心に新たな感情を芽生えさせていた。
それは、希望に満ちた未来への期待だった。
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