♡-2:夜明けのコーヒーと秘密の告白
夜明け前の静寂。焚き火の残り火がパチパチと音を立て、白い煙が夜空にゆっくりと溶けていく。
東の空は、夜明けを告げる淡いブルーに染まり始め、星々が少しずつその輝きを失っていく。
ユイは、テントから出てきた。
寝起きのせいか、少し足元がおぼつかない。
昨夜、彼女が流した涙のせいで、少し目が腫れぼったい。
髪は寝癖でボサボサになっているが、それがかえって彼女のかわいらしさを引き立てていた。
「おはよう、ユイさん。よく眠れた?」
俺は、焚き火のそばに腰掛け、温め直したコーヒーをユイに差し出した。
コーヒーの香ばしい香りが、朝の冷たい空気に溶け込んでいく。
「おはよう。うん、なんとか…」
ユイは、少し恥ずかしそうに答えた。
彼女は、焚き火の近くに置かれた丸太の椅子に腰掛け、両手でマグカップを包み込むようにして温めた。
「コーヒー、美味しい。ありがとう」
ユイは、コーヒーを一口飲み、安堵の表情を浮かべた。
温かいコーヒーが、冷え切った彼女の体を内側から温めていくようだった。
焚き火の炎を見つめながら、ユイはゆっくりと口を開いた。
「あの…昨日は、色々話してくれてありがとう」
ユイは、少し俯きながら、絞り出すように言った。
「気にしないで。ユイさんの話を聞いて、僕も色々考えさせられたよ」
俺は、ユイの隣に座り、静かに海の方を見つめた。
水平線から昇り始めた太陽が、海面をオレンジ色に染め上げ、夜明け前の静寂を破るかのように、波の音が大きく聞こえ始めた。
「実はね、私、婚約破棄されたばかりなの」
ユイの声は、震えていた。
彼女は、マグカップを両手で包み込み、視線を落としながら言葉を続けた。
「彼は、私の高校時代からの恋人だったの。優しい人で、いつも私のことを支えてくれていた。だから、彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった」
ユイは、少しだけ口角を上げて、幸せだった日々を思い出すように微笑んだ。
しかし、その笑顔はすぐに消え、悲しげな表情へと変わった。
「でも、彼は、私を裏切った。他の女性と…」
ユイの声は、再び震え始めた。
彼女は、堪えきれずに涙を流した。
「結婚式まで、あと一ヶ月だったのに…」
ユイの言葉は、絞り出すような声だった。
彼女は、顔を両手で覆い、嗚咽を漏らした。
俺は、何も言えず、ただ彼女の背中を優しくさすった。
ユイの肩は、小さく震えていた。
「私は、彼を信じていたのに…」
ユイは、顔を上げ、俺の目を見つめた。
彼女の瞳には、悲しみと怒りが入り混じっていた。
「どうして、彼がそんなことをしたのか、わからない。私は、彼に何もしてあげられなかったのかな…」
ユイは、自責の念に駆られ、再び涙を流した。
「ユイさん、あなたは悪くないよ。彼が悪いんだ」
「でも、私は、彼を愛していたから…」
ユイは、弱々しい声で呟いた。
「ユイさん、あなたは、とても素敵な女性だよ。きっと、あなたを大切にしてくれる人が現れるよ」
「ありがとう、ユウタさん。あなたのおかげで、少し気持ちが楽になりました」
ユイの笑顔は、まだ少しぎこちなかったが、それでも、彼女が前を向こうとしていることがわかった。
「ユイさん、無理しないでね。もし辛いことがあったら、いつでも私に話してください」
「ありがとう」
ユイは、顔を上げ、俺の目を見つめた。
「私、ここで少しの間、心を休ませようと思うんだ。そして、また新しい一歩を踏み出したい」
ユイは、決意を込めた声で言った。
「応援するよ。ユイさんなら、きっとできる」
俺は、ユイの手を握りしめ、力強く言った。
夜が明け、太陽が完全に昇りきった。
二人の間には、静かで温かい時間が流れていた。
「ねぇ、あの流れ星、もう一度見たいと思わない?」
ユイが、いたずらっぽい笑みを浮かべて、俺に言った。
「そうだね。また一緒に、流れ星を見よう」
俺は、ユイの手を握り返し、微笑み返した。
このキャンプ場で、ユイと過ごした時間は、俺にとってかけがえのないものとなった。
彼女の笑顔、彼女の言葉、彼女の涙。
全てが、俺の心に深く刻まれた。
ユイは、傷ついた心を抱えながらも、前向きに生きようとする強い女性だった。
俺は、そんな彼女を心から尊敬し、そして、愛していた。
ユイとの再会を誓い、俺はキャンプ場を後にした。
「また会えるよね」
俺は、心の中で呟きながら、次の目的地へと車を走らせた。
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