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♡-12:交差する想い

 湘南の海風が心地よいある日、ユイは、以前ユウタから聞いたカフェ「Cafe Soleil」を訪れていた。


 ユウタとの別れから数ヶ月、ユイは自分の気持ちと向き合い、彼への想いを断ち切ろうと努力していた。


 しかし、心の奥底には、ユウタへの未練が残っていた。


 自宅を出る前、ユイは手に取った小さな貝殻をじっと見つめていた。


 茅ヶ崎のキャンプ場でユウタにもらったものだ。


 楽しかったあの夜、焚き火の炎が二人の顔を照らし、波の音が二人の会話を優しく包み込んでいた。


 ユウタの優しい笑顔、語り合った夢、そして、あの切ない別れ…。


「もう、前に進まなきゃ」


 ユイは、貝殻をそっとポーチにしまい、カフェへと向かった。


「いらっしゃいませ」


 明るい声がユイを迎えた。


 声の主は、エプロン姿のミサキだった。


 ユイは、ミサキの笑顔を見て、ハッとした。


 ユウタが話していたカフェのオーナーは、こんなにも素敵な女性だったのか。


「お好きな席へどうぞ」


 ミサキに促され、ユイは窓際の席に座った。


 目の前に広がる青い海は、ユウタと過ごした日々を思い出させた。


 ユイは、メニューを開き、ユウタも好きだと言っていたレモンタルトを注文した。


「レモンタルトですね。かしこまりました」


 ミサキは、笑顔で厨房へと向かった。


 ユイは、カフェのインテリアに目をやった。


 壁には、海の写真や絵画が飾られ、棚には、様々な種類の本が並んでいる。


 そして、窓際には、笑顔の男女が寄り添う写真が飾られた小さな写真立てがあった。


 ミサキは、ユイの視線が写真立てに注がれていることに気づいた。


 そして、彼女の瞳に宿る寂しさと未練を感じ取った。


「お待たせしました。レモンタルトとコーヒーです」


 ミサキが、丁寧に淹れたコーヒーとレモンタルトを運んできた。


「ユウタさんも、このレモンタルトが大好きだったんですよ。初めてここに来た時、メニューを見て、迷わずこれを選んでいました。彼曰く、甘酸っぱいレモンの風味が、湘南の海とよく合うんだそうです」


 ミサキは、微笑みながらレモンタルトの由来を語った。


「ありがとうございます」


 ユイは、コーヒーを一口飲み、レモンタルトを味わった。


 ユウタとの思い出が、鮮明に蘇ってきた。


「あの…ユウタさんから、このカフェのことを聞いたんです」


 ユイは、意を決してミサキに話しかけた。


「ユウタさんですか…」


 ミサキは、少し驚いた様子を見せたが、すぐに優しい笑みを浮かべた。


「ええ、彼から、ミサキさんの素敵なカフェだって聞きました」


 ユイは、ミサキの反応を見て、少し安心した。


「ユウタさんは、素敵な方ですね」


 ミサキは、コーヒーを淹れながら、静かに言った。


 ユイは、ミサキの言葉に、胸が締め付けられる思いがした。


 ユウタは、ミサキにも、自分の優しさを分け与えていたのだ。


「ユウタさん、最近はどうされているんですか?」


 ユイは、恐る恐る尋ねた。


 ミサキは、カウンターの上に置かれた一枚のカードに目をやった。


 それは、ユウタとアヤの結婚式の招待状だった。


「彼は、アヤさんという素敵な女性と結婚することになったんです」


 ミサキの言葉は、ユイの心を深く傷つけた。


 ユイは、涙をこらえきれず、俯いてしまった。


 ミサキは、そんなユイを見て、そっと彼女の肩に手を置いた。


「ユイさん、大丈夫ですか?」


 ミサキの優しい声に、ユイは顔を上げた。


「ごめんなさい…私、まだユウタさんのことが忘れられないんです」


 ユイは、ミサキに自分の気持ちを打ち明けた。


 ミサキは、ユイの言葉を静かに聞き、優しく微笑んだ。


「ユイさん、この写真に写っているのは、私の最愛のパートナーだった人です。彼との思い出が、このカフェを始めるきっかけになりました。彼もきっと、ユウタさんとアヤさんのように、誰かを心から愛せることを喜んでくれていると思います。そして、私を愛してくれた彼のように、ユイさんを心から愛してくれる人が、きっと現れますよ」


 ミサキの言葉は、ユイの心に温かい光を灯した。


 ユイは、ミサキの言葉に励まされ、前を向く勇気をもらった。


「ミサキさん、ありがとうございます」


 ユイは、涙を拭い、ミサキに感謝の気持ちを伝えた。


「ユイさん、もしよかったら、またこのカフェにいらしてください。いつでも、あなたを歓迎します」


 ミサキは、ユイに温かい笑顔を向けた。


 ユイは、ミサキの優しさに包まれ、カフェを後にした。


 カフェを出たユイは、海辺を歩きながら、ユウタとの思い出を振り返った。


 楽しかった日々、そして、別れの悲しみ。


 しかし、ユイは、もう過去に囚われることはなかった。


 彼女は、ミサキとの出会いを通して、新たな一歩を踏み出す決意をした。


 その時、ユイは、見覚えのある後ろ姿に目を奪われた。


「ユイさん!」


 聞き覚えのある声が、ユイを呼び止めた。


 振り返ると、そこにはユウタが立っていた。


 ユウタは、少し緊張した面持ちでユイを見つめていた。


「ユウタさん…」


 ユイは、驚きと戸惑いで、言葉が出なかった。


「実は、どうしてもユイさんに伝えたいことがあって…」


 ユウタは、深呼吸をしてから、ゆっくりと話し始めた。


「アヤさんと結婚することになったけど、やっぱりユイさんのことが忘れられなくて…」


 ユウタの言葉に、ユイは涙が溢れそうになった。


 ユウタは、ユイの手をそっと握りしめ、まっすぐな瞳で彼女を見つめた。


「ユイさん、僕は、あなたを愛しています。もう一度、やり直させてください」


 ユイの心は激しく揺れ動いた。


 ユウタへの愛は、まだ消えていなかった。


 しかし、アヤさんの存在、そして、ユウタの決断を考えると、簡単に「はい」とは言えなかった。


「ユウタさん、私も…」


 ユイは、言葉を詰まらせた。


 二人の間には、沈黙が流れた。


 波の音だけが、二人の鼓動を優しく包み込んでいた。

最後まで読んでいただきましてありがとうございます!


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