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馬と電話

まだ連載中の作品があるのに違う作品を出してしまいました。


相変わらず至らない点が多数あると思いますが、読んでいただけたら幸いです。


感想などいただけたら嬉しいです。


よろしくお願いします。

眠い。

とりあえず眠い。

他に言うことがないくらい眠い。

寝ている環境がマッチしすぎてる。

心地良すぎる。

寝ているのに眠い。

べちゃっ……

あぁ……何かヌメヌメする…

顔がヌメヌメする……

気持ちが悪い……




「ん……んぅ…」

目が覚めると、俺は見知らぬ森の中にいた。

小鳥のさえずりが聞こえてくる。木々の隙間からくる木漏れ日がちょくちょく目にかぶるのが眩しい。

日差しも眩しくも暖かい。

んで、目の前に馬がいた。

「うわぁ!?」

顔を近づけてきて俺の顔を舐めた。

べちゃっ………

あぁ…これか。ヌメヌメするのはこれが原因だったのか……。

「……やめろ!」

馬の顔を両手で押し退ける。

言っている事がわかったのか馬は素直に顔を引いてくれた。

「さて……と」

ここはどこだ?

気に寄りかかるような形で寝ていたようだ。長い間押し付けていたのか、背中がジワジワと痛い。

思い切って立ち上がり体を伸ばす。

随分長い間寝ていたのだろうか、関節が動かすたびにパキパキと音をたてている。

ふと、自分の格好を見てみる。

ボロボロの雑巾のような汚い服に同じくボロボロのブラウンのズボンを履いている。

「うわ!?汚な!」

何でこんな服着てるんだ!?

っていうか髪もボサボサだし…浮浪者かよ…。

土みたいなほこりもいっぱい付いてるし……。

隣でハァハァと呼吸している馬を見つめてみる。

ツヤのいい茶色い毛が風に当たって揺れている。

少なくとも今の僕には遠く関係ないような高貴な馬に見える。

というか何でこんな馬がここにいるんだ?

飼い主はどこだ?

辺りを見回してみる。

木、木、木、木……。

木しかない。

とても僕以外の人影はうかがえない。

あれ?……でもこの馬…人が乗る鞍が付いてない。

ってことは誰かの馬じゃないのか?

「まぁいいや…」

とりあえずと歩き始める。

俺が歩く2メートルぐらい後ろを馬がついてきた。

「いや、なんでついてくるんだよ」

馬を睨み付ける。

が、馬はその足を止める事なく俺のすぐ後ろをついてくる。

「……勝手にしろ」

この様子だと危害は加えないだろう。

取って喰われるわけでもない。

放っておけばすぐにいなくなる。

そう考えた俺は前を向いて歩き出した。

今気づいたが、俺は靴を履いていなかった。

あまりにも暖かく、地面も人並みに暖かかったため気づかなかった。

「痛いな……微妙に…」

小石や草が足の平や甲に当たるとチクチクとして、少なからず気持ちがいい感触はしなかった。

かといって靴の代わりになる物もない。

服を脱いで靴にするのもいいが、そこまでして欲しいとは思わない。

でもこのままというのも……。

キョロキョロと代わりになる物を探していると、不意に後ろに付いてきた馬が目に入った。

「あ……いけるかな?」

馬に近寄ってみる。

鞍はないが乗れないことはなさそうだ。

でも、馬って変に乗ったりすると暴れたりするんだよな…。

でも付いてきてるってことは乗っても怒られないんじゃないのか?

少なからず少しは心を開いているってことだし…。

「よし」

俺は思い切って馬の背中に手をかけた。

そして、飛び乗るように馬の背中に飛び乗った。

が、想像していたのとは違い、馬は暴れる様子もなく、さも当たり前のような風貌でいた。

「おぉ…乗れた乗れた」

視界も高くなって遠くまで見渡せる。

これで歩く必要はなくなったが…。

「どうやって動かせばいいんだ?」

紐も付いてないし……蹴ればいいのかな?

またいでいる足を両方使って押し込むように馬の胴体を蹴った。

「ヒーン!」

気合いを入れるかの如く叫んだあと、馬は急に走り出した。

「ちょ、ちょっと待っ――」

目の前に伸びた枝が出てきた。

「わぁ!?」

それをギリギリで避ける。

「あ、危な――」

それに続くかのように次々と枝が迫ってきた。

「わあぁぁ!!ストップ、ストップ!!」

どう止めればいいかもわからぬまま仕切りなしに迫ってくる枝を避け続けある意味での生死の境をさまよった。

そして、前方30メートル先ぐらいが明るくなり、森の出口が見えた。

森を出た瞬間、馬は急ブレーキをかけ、俺は振り飛ばされた。

そして顔から地面に落ちた。

「痛ぇ!」

顔は地面にめり込んだ。

というよりは吸い込まれたといった方が適切か。

「イテテ……これは……砂?」

俺が突っ込んだ地面は土ではなくサラサラとした砂でできた地面だった。

顔を上げ、辺りを見回した時、俺は絶句した。

「………これは……」

そこには一面に広がる砂漠地帯があった。

空と遠くに見える赤い土でできた山以外は何もない。

さっきまでいた森とは比べ物にならない。

顔に付いた砂を払い、次に体に付いた砂を払った。

少し赤みをおびた砂は払うと消えるように見えなくなった。

馬のいる方を見る。

馬は心配そうな顔つきでこちらを見つめていた。

「お前な……心配するぐらいなら急に止まるな」

馬に近づいて言った。

「というか……本当にここどこなんだよ…」

またさっきと同じように馬にまたがった。

今度はゆっくりと蹴った。

すると、それに合わせるようにゆっくりと歩き始めた。

すると、砂漠の真ん中に黒い点のようなものがみえはじめた。

「なんだあれ……」

近づくにつれその姿がはっきりとしてくる。

ポールのような物の先にプラスチックの箱がついている。

中身は影になっていてよく見えないが、人工物であることだけは確認できた。

「何だこれ………電話?」

どこか記憶にある公衆電話のようなものだった。

灰色の公衆電話は周りの景色とはかけ離れたものだった。

というか、基本的に砂漠のど真ん中に公衆電話があるのはどう考えてもおかしいものだ。

当然ながら砂ぼこりが細かい隙間に入り込んだりしていて、ところどころに大小の汚れも目立つ。

まぁ…きれいな方が怪しいか…。

大体…こんな所に設置したとして、誰が使うというのだろう…。

というかなんで公衆電話?

もっと他に設置すべき物があるだろうに。

そんなことを考え、その場を去ろうとした時、何故か公衆電話が鳴った。

「はぁ?」

見つめるがいまだに電話は鈴を鳴らすような音を出し続けている。

馬から降りて電話まで近づき恐る恐る受話器を手に取った。

お金入れてないけど大丈夫かな……。

通話口を口の前まで持ってきた。

「も…もしもし」

「………エルド?」

聞こえてきたのはどこか聞き覚えのある男の声だった。

「あ、あの〜……」

「あれ?エルドじゃないの?」

「いや、あの……あははは……まぁ…」

「じゃあお前は誰?」

「お、俺は………わからない」

「はぁ?」

「記憶が無いんだ……自分が誰なのかわからない…気づいたら森にいて…歩いていたらここに着いたんだ」

「ふ〜ん……じゃあお前は間違いなくエルドだな」

「な、何でだよ」

「だってエルドは記憶を無くした。それが望んだことでも望まなかったことでも、記憶を無くした今のエルドにとってはどうでもいいことだ」

「記憶を……無くした?」

「あぁ…だって今のお前は記憶が無いんだろ?場所も状況もエルドと一致している。だからお前はエルドである可能性が高い」

「ま、待て………あんたは俺の事をしってるのか?―――それに俺はあんたの事を知ってる気がするんだ…」

「…気がする?」

「うん。今あんたの声を聞いたときどこかで聞いたことある声だと思ったんだ」

「あぁ…そういうことか。―――そうだな。俺はお前の事を知ってるし、お前は俺の事を知っている」

「じゃあ教えてくれ。俺は誰なんだ?」

何で自分のことは覚えてないのにこいつのことは覚えてるんだ?

「だから言ったろうが。お前はエルドであってエルド以外の誰でもない。俺が知ってるのはそれだけ。――――そして、俺はアドバルト。アドバルト・ウェイカー」

アドバルト………聞いたことある名前だ……。だが、どんな人間かは思い出せない。

「お前の名前は、エルドリアス。本名じゃないらしいが、俺は本名は知らない」

「……結局偽名かよ……」

「何か訳があって使っていたらしいがな。俺にはさっぱりだ」

アドバルトはためていた息を吐き出すように言った。

「俺とあんたはどういう関係だったんだ?」

「アドバルト」

「は?」

「俺の名前は“あんた”じゃない。アドバルトだ」

威厳が籠っているような口調だった。

「あぁ…ごめん。じゃあ……俺とアドバルトはどういう関係だったんだ?」

「恋愛関係だ」

「ぶぅ!?」

さすがに驚いた!

というか俺はそっち系の人だったのか!?

「ま、まじでか!?」

「嘘だ。鵜呑みにするな。そんなことでは敵に裏をかかれるぞ」

「あぁ…そうですか…」

敵って誰だよ……。

「俺とお前は簡単に言えばチームだ」

アドバルトは急に改めるような言い方で言った。

「チーム?どういうことだ…」

「言わば、指令する人間と行動する人間ってやつだ。俺が指令を出して、お前が動く。簡単なことだろ?」

「いや…意味わかんないし…」

俺がこいつのパシリってことか?

「まぁまぁ……悪いようには受けとるな。俺には俺にしかできない仕事がある。もちろんお前にはお前にしかできない仕事がある……そういうことだ」

「わかったよ…。つまり、俺はあんたの指示に従って何かをしていたってことだろ?」

「飲み込みが早いのは相変わらずのようだな」

これは…ほめてるつもりなのか?

「で?俺達は一体何をしていたんだ?」

「請負人だよ」

「請負人?……具体的には?」

「具体的にも何も、つまり何でも屋だよ。依頼を達成して報酬をもらう。それが俺達の仕事さ」

請負人……か。なんか実感がわかないな…。だってまだ自分の事だってよくわかってないのに…。

「俺が主に依頼の請負や情報収集、あとはお前への指示を担当する。そんで、お前は俺の指示に従って依頼を達成するために動くだけさ」

やっぱパシリじゃん……。

「どうだ?大体わかったか?」

「まぁ……大体なら……」

他に訊ける人間もいないのだ、この男の言うことを信じる他ないだろう。

「でさ……さっきから俺の近くにずっと馬がいるんだけど……こいつのこと何か知らない?」

「はぁ?馬?……お前の近くにいる馬なんてウルブしかいないだろうが」

「ウルブ?それがこいつの名前か…」

やっぱり俺の馬だったのか…。

「ってことで、さっそく頼みたい仕事があるんだが」

「あのな……俺自分が誰なのかすらよくわかってないんだが」

「さっきわかったって言ってただろ」

「流れだよ流れ。確かに表面上はわかったが、俺自身の立場がわかっただけで、どんな奴だったかは知らないんだ」

「まぁ…その…あれだ、きっと仕事をしてればその内思い出せるさ」

「無茶苦茶な理由だな…」

「それが俺達だろ」

いや…知らねぇよ…。

「とりあえず、何でもいいから依頼人のいる所まで行ってくれないか?」

「でも……どうやって……大体どこに?」

「場所はそこから南に少し行った所にある小さな村だ。名前はクリル村。そこに着いた頃ににまた連絡する。移動方法はウルブがあるだろ?」

「おい待て…またこの馬に乗って走れっていうのかよ」

「なんだ?嫌なのか?」

「だってこいつ動きが激しすぎるだろ!振り落とされて死ぬかと思ったんだぞ!」

さっきの顔の痛みが微かに戻ってきた。

「だって激しいほうがいいって理由でそいつを選んだのはお前自身だろ?………あ、覚えてないのか……すまんすまん…」

うっかりついでのように言うアドバルト。

「えぇ…悪ぅごさんしたね…覚えていなくて…」

こいつ絶対にわざと言いやがった。

「そういじけるなって。とりあえず、体を動かして記憶を取り戻せ。それが今できることの中で一番最善の策だと思うぞ」

「はたしてどうだかね…」

「場所はそこから見て山のふもとの方だ。ご託はいいからさっさと行け」

「なっ…!」

そこで電話は切れた。

ツーツー…と通話停止音を発している受話器をのぞきこむように見た。

「……なんだあいつ……」

まぁいい……とりあえずあいつが言っていた村に向かうことにしよう。

ウルブ…にまたがり、少し強めの力で蹴った。

ウルブもそれに合わせるように少し早めに走り出した。

「よし……何が待ってる…」

俺は山のふもとを目指してウルブに乗って駆け出した。




自分を見つける旅の始まりが世界を見つける旅の始まりにならんことを……




大きな大きな世界の話し。

空に“龍の巣”と呼ばれる黒い風穴が空いている世界。

人は栄え、魔物は拒まれ、龍は居場所を無くした世界。




これは、龍と語り合えた人間達の話。


これは、一人の男の話。



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