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6.救出

※悪漢が登場します。不快な描写、また、怪我・血の描写がありますので苦手な方はご注意ください。

※エピソードタイトルを「またしても人攫いに遭いました2」→「救出」に変更しました。

「うるせぇなぁ、ジューク、猿轡でも嚙ませとけ」

「はいよ」


 ジュークは手近にあった小汚い布を捩り私の口を塞ごうとした。


「嫌!汚い!触らないで!」


 首を振って必死に抵抗するも、シモンに頭を押さえつけられ、身動きの取れないまま口元をきつく布で縛られる。


「んー!!んー!!」


 私は椅子を引き摺ってでも逃げるつもりで必死に立ち上がろうとした。反動で椅子がドタバタと派手な音を立てる。


「活きが良いねぇ、嬢ちゃん。ジューク、椅子を押さえつけろ」

「分かってますよ」


 背もたれを押さえつけられ、私は本当に身動きが取れなくなってしまった。


「大丈夫、気持ち良くしてやるから」


 バックラーの汚い手が伸びてくる。


「んー!!んー!!んー!!!」


 私は縄が引きちぎれんばかりに暴れたが解けなかった。


(嫌だ、触られる!)


 胸元に手が触れようとした時だった。

 バタンと玄関扉が開いたかと思うと、バックラーは壁に叩きつけられていた。


(な、なに?)


 最初に部屋に入ってきたのはカイトだった。

 その後に同じ制服を来た数人がシモンとジュークを拘束する。吃驚するほどあっという間にこの場を制圧してしまった。

 カイトは私を見つけると安堵の表情を浮かべた。


(あ、助かったんだ)


 カイトの顔を見て、私もほっとした。極度の緊張状態で強張っていた身体が弛緩していく。カイトはすぐに猿轡と縄を解いてくれた。縄が全て解けたのを確認すると、はじめに会った時と同じように私を抱きしめてくれた。


「無事で、良かった」

(ああ、こんなん駄目だ)


 助けられて気が緩んでいたせいで、私はボロボロと泣いてしまった。


「ご、ごめんなさい。勝手に城を抜け出して、迷惑かけて」


 怖かった。本当に犯されるかと思った。見知らぬ土地でこんな目に遭うなんて惨めにも程があると思った。誰か助けてと叫んでいたが、本当に誰かが助けに来てくれるなんて思わなかった。感情がとめどなく溢れて、涙が止まらない。


「助けてくれて、ありがとう」

「こちらこそ、遅くなって済まない」


 そっと離れたカイトは、私が泣いているのを確認すると、ポケットから白いハンカチを取り出して私に渡してきた。紳士だなぁ思いながら、有難く使わせてもらう。


「手、怪我しているのか?」


 カイトが慌てて私の手を取った。先ほどガラス片で切ったものだ。ずっと握りしめていたから大分血が凝固している。


「さっき投げ飛ばされた時にガラス片で切っちゃって」

「そうか」


 カイトは忌々しそうに切り傷を見つめていた。何だかそういう反応はこそばゆい。


「滲みるけど、少し我慢してくれ」


 そう言うとカイトが傷に手をかざして、魔法を唱えた。


「ラディステネロー―水をかけろ―」


 部屋の中に漂っていた水色のケセランパサランがカイトのかざした手に近づいてきた。何をするのかと思ったらそのケセランパサランが水をちょろちょろと出し始めたのである。


(ケセランパサランを媒介して魔法を使うんだ!)


「痛くないか?」

「うん、大丈夫」


 魔法を観察することの方に興味が向いていて、痛みなど感じていなかった。

 カイトは魔法の水で傷口を綺麗に流してから、腰のホルスターに入っていた小型の救急セットを取り出し、ガーゼと包帯を使って傷口を覆ってくれた。


「応急処置だ。後は帰ってから医者に見せよう。他にはどこか痛いところはないか?」


 縄で縛られていた手首と足首を気にしているようだったが、幸い衣服の上から縛られていたので擦れたりはしていなかった。


「大丈夫、ありがとう。魔法って便利ね」


 心配されることに慣れていない私は思わず話題を逸らしていた。


「異世界人は本当に魔法を使わないんだな。不便じゃないか?」


 異世界人が魔法を使わないというのは過去の異世界人から収集した情報だろう。短命であるということも知っているようだったし。


「代わりに科学っていう学問が発達したの。だから便利なこともたくさんある」

「カイト、処置は終わったか?」


 カイト以外の近衛兵は犯人3人を既に捕縛し、外で待機していたのだが、私たちが遅いのに業を煮やして声をかけに来たようだ。


「ああ、今終わった。さぁ帰ろう」

「うん。あ、そうだ。私町中歩いたら目立つみたい」


 そう言ったらカイトが笑った。


「知っている。馬車を止めてあるからそれに乗って帰ろう」


 何とも用意周到なことである。

 馬車にはカイトと私が乗り込み、他の近衛兵の人たちは馬に乗って馬車の周りを護衛していた。

 会話は特になかった。何で城を抜け出したのかとか、どうしてああなったのかとか、もっとあれこれ聞かれるかと思ったがそんなことは一切なく、それが疲れている私にとってはただただ有難かった。

 その後は何事もなく無事にお城に帰ることができた。


「ゆっくり休むと良い」

「うん、本当にありがとう」


 医務室に付き添ってくれた後、部屋の前まで送ってくれたカイトと挨拶を交わして、私の長い1日がようやく終わりを迎えた。

 私は気怠い身体をまたベッドに投げ出し、意識を暗闇へ沈めていった。

※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。

※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。


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