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3.お城からの逃亡

「俺の勘違いで、済まない。謝って済む問題ではないが」


 部屋を出た後、カイトが真っ先に謝ってきた。


「……」


 私は何も言えなかった。本当に謝って済む問題ではない。ただ、カイトも国王も間違えるほど、肖像画の女性は私にそっくりだった。2人にとって大切な人だったのだろうから少し同情心がないわけでもない。


「サリア様ってどんな方だったんですか?」


 代わりにサリアという人について訊ねてみた。カイトは少し躊躇っていたが、やがて話し始めた。


「サリア・フォーサイスは国王ヴィクトルと王妃メアリーの一人娘で、俺の幼馴染だった」


 何でもカイトは現近衛兵団団長の息子で、お姫様とは年も近く、小さい頃から懇意にすることが多かったという。ちなみに現在カイトも近衛兵団に所属しており、サリア様がいた時には専属護衛を務めていたそうだ。


(恋人だったのかなぁ)


 会って早々キスをしようとするということはやはり懇ろな中だったのだろうかなんて邪推をして見るが、それを聞く勇気は全くない。


「サリアはこの国一番の魔法使いだった。今から98年前、大規模な魔物の襲来を受けた時にもサリアは最後まで戦って、そして、敗れた」


 カイトの眉間に皺が寄った。悔恨と憎しみの宿った目をしていた。


「この世界は大きく二分できる。この国の中か外かだ。外には魔物が多く潜み、またこの世のありとあらゆる禍や災厄の元凶と言われる混沌というおぞましい存在がいる」


 今から98年前に国外から混沌率いる魔物の集団がこの国を襲ったらしい。懸命に戦ったものの戦況は芳しくなく、国は滅亡するかに思われた。その時、人語を解する混沌からこう提案を受けたらしい。


『王女を生贄にしたら我々はまた100年ほど眠りにつこう』


 当然国王は反対した。愛娘を人柱にするなどあり得ないことだった。しかしそれでは国が滅亡すると悟ったサリア様は混沌の要求を呑み、自ら犠牲になった。


「サリア含め俺たちは混沌について1つの仮説を立てていた。混沌の腹の中は異世界に繋がっているのではないかと」


 もしかしたら混沌に吞み込まれた後、サリア様は異世界へ向かうかもしれないと考えていたようだ。


「俺たちはサリアが混沌に呑み込まれてから、異世界への転移魔法を研究し続けた。もしかしたらサリアが異世界で俺たちの助けを待っているかもしれないと思ってな。そしてついこの間ようやくその転移魔法が完成した。それで俺が探しに行くことになったんだ。…結果はこの通り」


 サリア様ではなく、私を連れて帰って来たというわけだ。


「俺は本当にサリアが異世界で生き残っていて、俺たちのことを待っていてくれたんだと思った」


 それで私を見た時、カイトも国王もあんなに嬉しそうだったのかと合点がいった。


「辛いことを話してくださってありがとうございます。探し人じゃなくてすみません」


 切望されていたサリアというお姫様とは容姿が同じだけの全くの別人である自分。私に非があるわけではないが、ぬか喜びさせてしまったことは少し申し訳なく思った。


「アリサは悪くないんだ。そう思わせてしまって申し訳ない」


 カイトはきっと良い人なんだと思う。そして多分国王も。


(サリア様がちょっとだけ羨ましい)


 私にはきっとここまで帰りを待ってくれている人はあの世界にはいない。


 部屋を案内されて、カイトとはそこで別れた。部屋は一通りの家具が取り揃えられており、シンプルだが上品だった。私は部屋に入るなりどっと疲れてそのままベッドに突っ伏した。色んなことが頭を駆け巡り、必死に考えたが、何も解決できそうになかった。

 その状態でいつの間にか寝ていたようだ。途中侍女らしき人が入ってきて夕食を置いていったが、億劫でそのまま二度寝を決め込んだ。


 起きたのは夜になってからだった。体感で22時くらいだろうか。アナログ時計と思しきものがはあるが読み方が分からなかった。私は冷めた夕飯を流し込み、腹が膨れたところで、考えていたことを決行した。


 城からの逃亡である。


(考えていても仕方ないし。ここにいたら食客で悠々自適の生活かもしれないけど、転移魔法は100年後、何より英雄のお姫様と同一視されるのは辛い。それなら良い旅人の仲間を見つけて旅をしながら帰る方法を探す方が得策じゃない?ノープランだけど何とかなるでしょ)


 幸いここは1階なので窓からの脱出は簡単だった。

 私は城の見張りに気を付けて暗がりの中を進んだ。途中までは問題なかったが、最後に大きな難関が待ち構えていた。石造りの堅牢な城壁がお城をぐるっと取り囲んでいたのだ。これは登るにしても骨が折れそうである。


(どうしようかな…)


 挫折しかけた時、件のケセランパサランがふと目についた。実はこのケセランパサランたちは常に私の視界に入ってきている。この世界にデフォルトでいるお馴染みの存在なのだろう、誰も気に留めていない。そんな空気みたいな存在だが、全くの無機物のようでもなく、意志を持っているかのように人について行ったり、どこかに移動しているように見えるのだ。


 私は1匹のケセランパサランがフワフワと中途半端なところを漂っているのが気になった。ついてこいと言われているようだ。後をついて行くと、そのケセランパサランは深い茂みの中に入っていった。私もその茂みを掻き分ける。奥に進むと城壁にぶつかった。


(行き止まり?)


 追っていたケセランパサランは城壁の前で右往左往している。この子も外に出たいのだろうか?


(この子飛んでいるんだから城壁の高さくらい乗り越えて行けば良いのに)


 私は不思議に思いながらも、真剣に壁登りを検討していた。ここはちょうど茂みで隠れているので、城壁を登っていても見張りにバレなさそうだ。早速城壁を触って登れそうか確認する。


(あれ?なんかここ、おかしい)


 触った感触が何か違った。少し出っ張っていたので押してみると、がこんと手応えがあり。更によく調べると、押したブロックのすぐ近くの城壁が小さな回転扉になっていた。


(隠し扉?緊急の脱出通路とかかな?)


 私はドキドキしながらその回転扉を通る。扉の向こうは水堀だったなんてオチはなく、外に抜け出すことに成功した。道案内してくれたケセランパサランも私についてちゃっかり外に出てきている。


「あなたのおかげで外に出れたわ、ありがとう」


 私はケセランパサランをそっと指でつついてみた。もっとフワフワしているのかと思ったが、ほとんど何も感覚がなかった。強いて言えばたんぽぽの綿毛にそっと触ったような感覚だろうか。


 ケセランパサランはそのままどこか離れて行ってしまったので、私も城下町に向かって歩き出した。

※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。

※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。


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