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2.この国のお姫様

※エピソードタイトルを「人違いです!2」→「この国のお姫様」に変更しました。

 薄暗い地下でカイト含め大勢の取り巻きが歓喜する中、私1人だけが呆然としていた。


「あのだから私、サリアじゃなくてアリサ…」

「サリア、転移で疲れているところ悪いが、これからすぐに国王陛下に朗報を届けに行こう。陛下も君の帰還をずっと待ち望んでいたんだ」


 話を全然聞いてもらえなかった。


(え?国王?)


 予想外のことが次から次へと起きていて、私は混乱してしまう。しかもカイトはさも当然のように私の手を握って歩き出した。それはそれでぎょっとしたが、今はそれよりも国王への謁見の方が由々しき事態である。


「あの、私全然ついていけてないんですけど、まずサリアって人じゃないんです。それに国王に謁見と仰いましたけど、マナーとか全然分からないし、不敬罪で打ち首とかは嫌なんですけど」

「さっきからサリアじゃないって言うけど」


 カイトは立ち止まり、私を品定めするように上から下まで見た。


「サリア以外の何者でもないだろ?からかっているのか?」

(いや、1ミリたりともからかっていませんが?)


 どうやらサリアという人と私はよほど似ているらしい。


(王様に人違いだって話そう。そしたら帰してくれるでしょ。マナーはうん、今からじゃ無理。何か非礼があったらすぐに文化の違いと言って詫びを入れよう)


 色々と考えているうちにカイトは私を連れて階段を上がった。階段を登りきったそこは西洋風の石造りのお城だった。元の世界では夜だったが、こちらは昼間のようだ。陽光がガラス窓から差し込み、煌びやかなお城の中を照らしている。こんな状況でもなければ綺麗だと喜べたのに全く残念である。


 私はここが地球上のどこかではないだろうかと淡い期待を胸に抱いていたが、先ほどから不思議なものがずっと視界にちらついていて、ここはきっと違う場所なのだろうとその期待を打ち破っていた。


(なんだろう、あれ?)


 地下でも地上でもあちこちに色とりどりのケセランパサランのようなものがフワフワと漂っていたのだ。何個か身体に当たりそうだったが、ケセランパサランの方がふわりと回避していた。害は無さそうだが、謎である。


 カイトに導かれるまま、白を基調にした豪華なお城の廊下を突き進んでいくと、一層大きく豪奢な扉が見えてきた。まさかこんな謁見の間みたいなところで対面するのか?と身構えたがそこには寄らず、まだ少し先の執務室と思しき部屋の前で止まった。謁見の間という物々しいところでのお目通しでないことにほっと胸を撫で下ろしたものの、別の疑問が浮かび上がる。


(え、私この格好で謁見するの?)


 カイトは随分と立派な制服を着ている。それなりの身分ということなのだろう。それは良いかもしれないが、私は大量生産で安さに特価したセーターとジーパンにコートを着ているだけの格好で、国王の謁見にはまるで相応しくないカジュアルさである。面接にだって着て行かない。


(着替えとかはさせてくれないのね?)


 恥ずかしいことこの上ないが、そんな私の胸中など知らず、カイトはそのまま扉をノックし返事を確認してから中に入った。仕方がないので私もそれに続く。

 中には威厳のある壮年の男性と従者と思しき男性の2人だけだった。この威厳のある風貌の男性が国王だろう。ウェーブのかかったシルバーの髪と髭、ブルーの瞳は威圧感がある。ガタイもよいが色気も兼ね備えたイケオジだった。服は紺色のフロックコートに白いブラウス、首元にはネクタイではなく赤いクラバットを巻いている。従者は黒いモーニングコートに白いブラウスとクラバットで控えめである。


「国王陛下、朗報を携えてカイト・カーライルが只今戻りました」

「なんだと?」


 陛下は何か書類に目を通していたようだったが、カイトが挨拶した途端、顔を上げた。すぐに私と目が合う。その目が見る見るうちに見開かれたかと思うと、陛下は立ち上がり、私の前まで近づいてきた。


(あ、これカイトと同じパターンだ)


 陛下は私の肩にそっと触れたかと思うと、そのまま抱きしめてきた。


「サリア、本当にサリアなのか」

「あの、…大変恐縮ではございますが、人違いです」


 感動の再会のところ水を差すようで申し訳ないが私はサリアではない。


「何?」


 国王は私の発言に驚いてすぐに抱擁を解いた。


「恐れながら申し上げますが、私はサリアではなく、クロダアリサという全くの別人です。このカイトさん?に間違って連れて来られました」


 国王が唖然としている。無理もないだろう。私だって未だに状況が吞み込めていないのだから。


「カイト、これは一体どういうことなんだ?」

「それが、分かりません。先ほどからずっとこのようなことを申しておりまして」

「記憶喪失だろうか?」

「あの、大変申し上げにくいのですが、恐らく他人の空似かと存じます」


 2人がひっかかるほどの他人の空似というのも恐ろしいが、現実問題、私は彼らの探し人ではない。


「他人の空似だと?これほど生き写しなのに?」


 国王が指さした先には1枚の肖像画があった。そこには確かに私の顔に酷似した女性が描かれていた。これには私自身びっくりしたけれど、私のクロダアリサとしての記憶は疑いようもないし、異世界に縁もゆかりもない。何故こんなに似ているのかは分からないが、別人なのだ。


「お前は余の娘のサリアではないのか?」

(待って、国王の娘ってことはこの国のお姫様と間違われているってこと?)


 私は冷や汗が止まらない。そう言えば先ほどの地下で「やった、姫が戻られたぞ!」って言っている人がいた気がする。


「はい、恐れ入りますが、私の父と母は別におります」

「他人でここまで似るか?お前の母や祖母にサリアと名の付く者はいなかったか?」 

「いえ、おりません」

「サリア、お前は昔から冗談が好きだった。あまり余をからかってくれるな」

「大変申し訳ございませんが、からかってなどおりません。私はクロダアリサ。あなた方の探し人とは全くの別人でございます」


 国王が閉口した。カイトも唖然としている。


「陛下、同じ顔は世界に3人いると言われております。ここまで違うと否定されるなら違うのでしょう。そもそもやはりサリア様は98年前に亡くなっていると考える方が自然です」

「黙れ、ヴォイニッチ」


 ヴォイニッチと呼ばれた従者から諌言が入った。私にとっては良い援護射撃である。


(というか90年以上前に亡くなったお姫様を探していたって、この人たち何歳?)


 ここは異世界と考えると私が住んでいる世界の人間よりもずっと長命なのかもしれない。


「お前は本当に…サリアではないのだな?」

「はい、違います」


 国王は1つ溜息を吐くと天を仰いだ。


「もういい、分かった。済まなかった」


 国王の落胆ぶりは可哀想だったが、ようやく別人と認めてもらえたようで私はほっとした。それなら後は帰るだけだ。


「あの、すみません」

「何だ?」

「元の世界に帰りたいのですが、よろしいでしょうか?」

「…転移魔法は100年に1度しか使えない」

「100年!?それじゃ私死んでます!」


 私は自分たちの世界では人間の平均寿命はおよそ85歳前後だと伝えたが、国王陛下に渋い顔をされた。


「異世界人が短命であることは知っている。しかし現在の技術では転移魔法は100年に1度が限界だ。お前は異世界人ということで食客扱いになる。それで許してもらえないだろうか」


(間違って連れて来られた挙句に帰れませんって私いま断られているの?)


「…分かりました、少し考えます」


 何を考えるのか自分でも分からなかったが、ここで駄々を捏ねても何も覆らなさそうだったので、一旦は引くことにする。


「カイト、南にある食客用の部屋に案内してやれ」


 カイトが一礼をするのに倣って私も一礼してから部屋を出た。

 何とも後味の悪い謁見になってしまった。

※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。

※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。


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