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【完結済】人違いで異世界に攫われました  作者: あいうちあい
第6章 束の間の憩い、そして最終決戦
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160.至上の幸福

最終話です。やや長めです。

 パーティーの一次会が終了し、二次会のパーティーに移行する。一次会が畏まった宴会ならこれ以降は無礼講で、音楽隊の演奏を聞いたり談笑したりダンスを踊ったり、皆思い思いの時間を過ごしてもらう。夜まで続くので立食形式で簡単な食事も用意しているし、お酒も沢山振る舞われ、まさにお祭り騒ぎである。会場は庭園近くの室内で、外と行き来できるようになっている。ちなみにここは夏のパーティーで立食会が行なわれるお馴染みの場所だ。


 本当なら二次会のはじめに新郎新婦のダンスを披露するのが習わしなのだが、先にお色直しをさせてもらうことにした。これもこの世界にはないらしく、花嫁はウェディングドレスでダンスを踊るのが慣例らしい。ただ今のドレスは動きにくいことこの上ないし、絶対にお色直しをしたい理由があったので取り入れてもらった。その間参列者の方々はダンス以外のことに興じてもらう。


「リリアンさん、よろしくお願いします」

「お任せください」


 控え室に戻って私は急いでウェディングドレスを脱ぎ、別のドレスに着替えた。これは結婚式の準備の際、リリアンさんから持ち込まれたスケッチを元にして作られている。


「アリサ様、もしドレスにお悩みであれば…」


 そう言ってリリアンさんに見せられたドレスのスケッチはなんとサリア様が自ら考えていたウェディングドレスのデザインスケッチだった。


「どうしてリリアンさんがこれを?」

「実は私、以前はサリア様にお仕えしていたのです」

「そうだったんですか!」


 ここに来ての衝撃の事実である。しかしリリアンさんとカイトの報連相の連携が見事なのは随分と昔からの仲だったからかと今更得心した。


「差し出がましいかもしれませんが、もし当日着るドレスにお悩みであればこれを少しアレンジするのはいかがでしょうか?」


 そう打診されて私は少し困ってしまった。確かにあれこれ悩んでいたが純白のウェディングドレスを着るというのは私としては既に決定事項だったからだ。


(でもサリア様も式に出たいよね)


 今頃はもうサリア様と比較されることも無くなり、劣等感を抱くことも無くなった。何よりカイトは今の私を見てくれていることが分かっているので嫉妬もない。似ていると言われても動じなくなっていたし、間違いなく生まれ変わりだと知った以上、他人のようにするつもりもなかった。

 故にこのドレスについてはかなり悩んだ。着てあげたい気持ちは勿論ある。しかし自分の着たいウェディングドレスを諦めてサリア様のドレスを着るのは私の結婚式と言えるのだろうか?


『幸福を誰かに譲ったり諦めたりしたら駄目だ』


 カイトにそう言われたことを思い出した。それで決心がついた。着たいドレスは2着ある。ならこの世界の慣習にはないかもしれないがお色直しをしようと思ったのだ。


「こちらのドレスも素敵です」


 リリアンさんが満足気に頷く。ふんわりスカートが苦手なサリア様はタイトな白い総レースのマーメイドドレス、そしてその上から緑のシースルー生地をスレンダーラインで纏い、1着で2つのシルエットを楽しめる斬新かつ素敵なドレスを考想していた。これは完全なオフショルダーだが、二の腕部分にはデタッチドスリーブでパフスリーブ型の緑のシースルー生地を着用している。これがまた何ともお洒落である。ベールとショートグローブは外していた。


 準備が整ったところでカイトが入って来る。せっかくなのでカイトもグレーのスリーピース揃えにお色直ししてもらっている。ブーケとブートニアは二次会では取ることにした。ちなみにブーケトスは争いになるから不採用だ。


「サリア…」


 カイトが囁いてハッとした顔をした。


「すまない」

「良いよ、サリア様のドレスなんだから。似ている?」

「不謹慎だが似ている。黙っていたら本当にどちらか分からない」

「ふふっ」


 彼でもこうなら国王陛下と妃殿下は相当吃驚するに違いない。

 そう思っていたらカイトが私の格好を見ながらこんなことを言ってきた。


「サリアは緑が好きだったよ。中性的な色だから着やすいと言っていたな」

「……」


 私はこのデザインを見た時、全く違う感想を抱いていた。


(まぁ着やすい色っていうのも間違いじゃないと思うけど…)


 多分カイトはサリア様に騙されている。


「カイト、私はこのドレスを見た時、サリア様がどれほどあなたを愛していたのか分かったわ」

「え?」

「私もこの色好き。だってあなたの瞳の色でしょ?」


 カイトは大きく目を見張った。私は続ける。


「それにこのドレス、下は純白で上の生地が緑なの。きっとあなたの色に染まりますっていうサリア様からあなたへの無言のメッセージだと思う」


 彼は絶句し、手で口元を覆った。そしてそっと私を抱き締めた。


「ごめん、気が付かなかった」


 私は無言でカイトを抱き締める。その言葉はきっと私宛ではないからだ。


「アリサ、教えてくれてありがとう」

「どういたしまして。ねぇ、カイト」

「ん?」

「実は私、サリア様の生まれ変わりなんだって」


 そう言ったら彼はフフッと笑った。


「だろうな。でないとこんなに似ているはずがない」

「人格は私だから残念ながら記憶は全くないんだけど、でも魂にはサリア様が息づいているって、あちらの女神様に言われたわ」

「うん」

「だから、私自身と私の魂も愛して」


 カイトは私の顔を真っ直ぐ見つめた。


「サリアのことがあってもなくても、俺は既に君の全てを愛している。それこそ魂まで」

「…そっか」


 それならきっとサリア様も幸せだろう。


「ありがとう。アリサを愛していればサリアも愛していることになると教えてくれたんだろ?」

「うん、サリア様にも幸せになってほしいから」

「君は本当に優しいよ」

「別にそういうわけじゃ」

「じゃなければわざわざこのドレスを着たりしない」

「そうかな」

「ああ、サリアもきっと喜んでいる」

「そうだと良い」


 引け目のような後ろ向きの感情ではない。私は蘇りを決めた日、サリア様と一緒に幸せになろうと決めていたのだ。


「行こう」

「ええ」


 パーティー会場に戻るとやはり皆に大層驚かれた。皆、私がドレスを着替えることは分かっていたが、どういうドレスに着替えるかまでは知らなかったからだ。その驚きの視線を一身に浴びながら私たちはダンスを踊る。


「サプライズ成功?」

「そんな感じ」


 カイトと2人で悪戯っぽく笑い合った。

 私たちが踊り終えると陛下と妃殿下がいの一番にいらっしゃった。目には涙を浮かべている。


「アリサ、あの子も参加させてくれてありがとう」

「あなたは優しい子ね」


 2人は口々に私に感謝を述べ、私を抱き締めた。

 その後はカイトと一緒に参列者全員へ挨拶に回った。結婚式も一次会のパーティーもなかなか皆と談笑する機会がないので、この二次会パーティーは参列者の方々とゆっくりお話をする良い時間である。


「良いお式ですね」

「ありがとうございます」


 そう言ってくれたのはエリスさんだ。勿論他の皆も全員参加している。


「アリサさん、そのドレス本当にサリア様みたい」

「サリア様がデザインしたウェディングドレスだからね。カイトも黙っていたら分からないって」


 このドレス姿をまじまじと見てそう感想を述べたのはレオンさんだった。


「黙っていてもダンスしたらアリサだって分かったけどな」

「サリア様どれだけダンス苦手だったの?」


 私とカイトのやり取りに皆苦笑していた。サリア様のダンス嫌いは折り紙付きらしい。


「長丁場ですが頑張ってください」

「どうか、お幸せに」

「ありがとうございます。皆さんも最後までぜひ楽しんで行ってください」


 ギルバートさんに労われ、オークリーさんは言祝ぎを紡いでくれた。



 夕方頃になってようやく一段落がつき、私とカイトは2人で庭園に出ていた。


「大分疲れただろう」

「そうね、流石にちょっと疲れたかも」

「この後はもう皆とゆっくりするだけだから」

「うん」


 近くの空いていたベンチに腰掛けた。風が心地良い。日暮れの春の庭園は黄金色に輝いていて美しかった。


「何を見ている?」

「この綺麗な眺めを」

「もうフェアリーは見えないんだよな?」

「ええ、もう見えないわ」

「そうか」


 カイトは前を見ながら満足そうにしている。


「どうかしたの?」

「…君にフェアリーが見えている時、実は少し寂しい気持ちだったんだ」

「寂しい?」

「ああ、どんなに美しい光景でも、君と俺の見ている眺めが違うのだと思うと少し寂しかった。それに君がふとした時にフェアリーを目で追っているのを見かけると堪らない気持ちになった。その視線の先のものを俺は共有できないから」

「そうだったんだ…」


 彼がそんなことを思っていたなんて全然知らなかった。 


「でも今は違う。見ている世界が同じになって、視線の先のものを共有することができる。俺はそれが嬉しいんだ」

「そっか」


 私は反対に見えていたものが見えなくなったから少し寂しい気持ちがしていた。けれどカイトのその言葉を聞いたら見えなくなって良かったのだと思えた。


「今日この日のことはきっと忘れない。幸福を形にしたような素晴らしい日だった」

「本当に。でもまだまだ夜まで続くわよ?」

「そうだな、ずっと幸福の中だ。そしてこれから先も。君といる限り、この幸せが途切れることはない」

「私もあなたといる限り、ずっと幸せ」


 異世界に来てから本当に色々あった。私は何度死にかけたか分からないし、何なら1回死んだ。カイトだって死にかけているし、実際1回死んでいる。そうやって私たちは苦難を乗り越え、この日、私はクロダアリサからアリサ・カーライルになった。これから先もきっと彼と一緒に幸福な人生を築いていくのだろう。今日はその記念すべき第一歩だ。


 お互い顔を見合わせる。自然と笑みが零れた。


「好きだアリサ。これ以上ないほど君を愛している」

「カイト、私もあなたのことが好き。こんなにも愛して止まないの」


 私たちは幸せな口づけを交わした。

完結しました。ここまでご覧いただきありがとうございました(*'ω'*)

自分の書きたかったものが書ききれたので万感の思いです。

最後にブクマ登録・評価、感想やレビュー等ぜひお願いします♪

またシリーズとして後日談「カイトとの甘い結婚生活-私の気ままな異世界暮らし-」も執筆中です。

初回は7月31日の12時台に投稿予定です。ぜひ併せてご覧ください(*^^*)

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※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。

※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。


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