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1.人違いです!

※エピソードタイトルを「人違いです!1」→「人違いです!」に変更しました。

(はぁ、疲れた。早く帰りたい)


 私は暗い夜道を独り歩く。冬のまだ寒い季節。仕事終わりの重たい身体を引き摺って家路を急いでいた。


(この公園を横断してしまおう)


 曲がりなりにも私はうら若き20代の女性。冬の人気のない暗い公園の横断などいつもならしない。しかし今日は一際疲れていた。1分でも1秒でも早く家に帰りたかったので、いつもは通らない道を珍しく選んでいた。

 そして、それが失敗だった。

 公園の電灯の光さえ届かない暗い場所にさしかかったその時である。


「サリア?やっと、やっと見つけた」


 突然、目の前の暗がりから声をかけられた。


(誰?)


 はじめは暗くてよく見えなかったが、雲間から覗いた月明かりがその声の主を照らし出す。同い年くらいか少し上くらいだろうか、西洋系の整った顔立ちにボブのブロンドヘアー、エメラルドグリーンの瞳。何かの乙女ゲームから飛び出したかのようなイケメンがそこに立っていた。


(うわ、こんな美形見たことない…)


 明らかに現実世界ではお目にかかったことのないほどの美青年だった。しかし残念なことに服装も普通の人とは大分かけ離れていた。まるでファンタジーに出てくる騎士のようだ。マントを羽織り、チャコールグレーのテールコートは前裾が短く、ボタンが二列になっている。大きな襟ぐりが特徴的で、中には白いブラウスを着ていた。ボトムスはぴっちりとしたチャコールグレーパンツに黒いロングブーツ。そして腰には見間違いでなければ剣を帯びている。この服のせいで本当にゲームから飛び出してきたかのような印象を受けてしまう。もしかしたら近くにコンセプトカフェがあるとか、コスプレイヤーとかなのかもしれない。いずれにしろ私的には「目の保養にはなるけどお近づきになりたくない」イケメンだった。

 私が美青年に人違いですよと返答しようとしたとき。


「会いたかった」


 その声の響きは甘やかだった。そして気が付くと私は謎のイケメンに抱きしめられていた。


(えっ!?!?)


 突然のことで思考がついていかない。 イケメンってやっぱり良い匂いだわとか、仕事の疲れが癒されるとか、セクハラだけどイケメンにされるならアリだなとか、むしろ金を払ってでもお願いすべきなのでは?とか、そんなどうでも良いことが頭の中を駆け巡っていた。

 私が呆然としていると、今度は謎の美青年がゆっくりと顔を近づけてきた。


(そ、それは駄目!)


「あ、あの、すみませんが、人違いです!!」


 流石に私の理性がこれを拒んだ。見ず知らずのイケメンに会って早々キスされるのは倫理的にアウトだ。それに本来この抱擁もキスも受けるべきは私ではない。


「間違ってない」


 美青年はそう言うと右手で私の頬をなぞった。視線がぶつかる。彼の綺麗な瞳が喜色を露わにした。言外に尋ね人に間違いないと言っているのが分かる。


(私はさっきから何の拷問を受けているの?イケメンを使った新手の拷問?)


 突然のイケメンとの急接近により、私の心臓は爆発寸前である。


「ちょ、止めてください本当に。私アリサです。サリアって人じゃありません」


 私は美青年の手を振り払った。

 が、まるで効果なし。


「時間がない、急いで帰ろう、サリア」


 彼は私の手を取ると、公園の奥に走り出した。


「え?ちょ、ちょっと!」


 公園の奥にはグラウンドのような開けた場所があった。よく見るとその地面にはアニメのような魔法陣が浮かび上がっている。それははじめ仄明るかったが、やがて眩いばかりの光を放ちはじめた。

 美青年が先に魔法陣に入る。そして振り向きざまに私の手を引っ張った。前のめりになったが、彼が私をしっかりと抱きとめる。魔法陣に入ると同時に地面に引っ張られるような感覚がした。


(引きずり込まれる!)


 私は思わず彼のコートを握りしめていた。


「怖いなら目を瞑って」


 イケメンは優しく微笑んでいた。私は何が何だか分からないまま目を閉じる。閉じても魔法陣の明るさが眼裏に伝わってきた。しばらく地面に引っ張られる感覚が続いていたが、やがてその感覚が消えると同時に魔法陣の光も消失したようだった。


「もう大丈夫だ」


 ゆっくり目を開けると、公園の風景とは全く別の世界が広がっていた。そこは石畳の地下のようなところだった。窓はなく、蝋燭で部屋が照らされているのでほの暗い。下にはチョークで大きな魔法陣が描かれており、その中心に私とイケメンが立っている。回りには大勢の人間が取り囲んでいたが、皆一様に魔法使いのような黒いローブを羽織っていた。


(嘘、ここどこ?)


 信じられないことだが、先ほどの魔法陣で別の場所にワープをしてきたようだった。


「カイト様、もしかしてサリア様ですか?」

「見つけられたのですね!」

「やった、姫が戻られたぞ!」

「今宵は宴だ!」


 カイトと呼ばれた美青年は満面の笑みで回りの人たちに手を振り返している。

 私はポカンと口を開けてしまった。


(私、もしかして攫われた?異世界に?人違いで?)


 これは大変なことに巻き込まれてしまったみたいだ。

数ある作品の中から読んで下さり誠にありがとうございます。

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※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。

※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。

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