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第四章『遺跡研究者認定試験』Ⅱ

 皆様読みに来てくださり、ありがとうございます! 

【(後半)シエル視点】となります。


「――ごめんなさいッ!!」

「――申し訳ございませんッ!!」


 静まり返った祭壇広場に、白の双子の声がきれいに重なる。

 周囲にはもうリィン達以外の姿は誰一人として見当たらず、先程までの喧騒が嘘のような静寂。

 そんな、森閑とした広場に響いた双子の声に、感情が抜け落ちたかのようなその綺麗な(かんばせ)を双子へと向け、ソールは静かに二人を見遣っていた。


「……」


 暫しの沈黙がリィン達の間に降り積もる。

 微動だにしない、透き通った青い瞳。

 どれくらいの時間の中、その沈黙に耐えていただろう。耐え切れず、そっと彼の様子を窺ったリィンはぱちりと青の瞳とぶつかり、おずおずと口を開いて彼の名を小さく口にした。


「……ルウ?」


 そんなリィンの言葉にネーヴェもまた顔を上げ、ソールのことをそっと見詰める。


 やはり、騒動を起こし試験開始直前に注目を集めたことを彼は、怒っているのだろうか――


「……何故、俺に謝罪などなされるのでしょうか?」


 返ってきたのはそんな、リィン達が思ってもみなかった彼の言葉。

 彼は双子の放った言葉の意味が心底分からないといった様相にて言葉を零し、問い掛けてきた。


「先程の件で謝罪なされているのでしたら、非は自分にあるかと存じます。貴方様方が謝罪なされる様な事は一切御座いません。それなのに一体何故、俺に謝罪などなされるのでしょう?」

「「……」」


 尚もそう言葉を紡ぐと双子を見詰め、静かに返答を待つソール。

 そんな彼に、合わせ鏡のようなその顔を揃って見合わせ、リィンとネーヴェは酷く戸惑った。


 何故――って。


 それは彼に今後、先程の騒動に対して謂れのない迷惑が掛かるやも知れないからそれで……。


 いや、そもそも一体どうして彼は、あの様な事を言われて何とも思っていないのだろう――


「……申し訳ございません。お気を煩わせてしまったようですね。どうぞお聞き流し下さい――」


 言葉を口にしない双子の様子にソールは、謝罪の言の葉を口にし(こうべ)を垂れる。


 そして――


「それよりもオルクス様。試験は既に始まっておりますが、今後どのように行動なされますか?」


 双子達に試験の行動方針をそう、彼は訊ねてきた――。











◆◇◆◇◆◇◆◇◆











 黄昏色に染まる森の中。小川のせせらぎや小鳥の囀りが心地良く響く、どこか、長閑な空間広がる場所にて。カリカリ、カリカリと、音を鳴らせては止まりを繰り返す、なんとも歪な不協和音の如しペンの走る音が聞こえる。


「あッ! ネーヴェもエルも。あんまり離れちゃダメだよッ――!」


 石に刻まれた文字を書き写すその手を止めリィンは、自生植物を採取する二人へと言葉を投げ焦る。


「大丈夫です、リィン! 遠くへは行きません! あッ! あそこにも、ネーヴェさんが描いてくださった絵と、同じ植物らしきものがッ――!!」

「って、ちょッ! エルッ!? 近くに居なきゃダメだってッ! エルッ――!!」


 ハンクによる試験説明が全て終った(のち)。受験者全員に《原初の神焔(ウェスタ)》の種火が配付され、試験が始まった。

 初めこそは皆広場に留まり、リィン達のことを遠巻きに見遣っていたり、行動方針を話し合っていた受験者達だっただが一組――また一組と、次第にその姿を森へと消していった受験者達。

 リィン達はその後も暫らく広場に留まり、試験説明時の一件にて言葉を交わし合っていたりしたものの、ソールの言葉に試験が始まっていた事を思い出すとどこか、釈然としないまま行動を開始。

 今現在、森の中にて課題の一部をこなしているリィンなのだが、シエルの行動に頭を悩ませては声を上げ、彼女へと言葉を放っていた。


(ああ、もうっ! 近くにいてって約束したのにッ――!!)


 胸中にてそう、激しく愚痴をこぼしては焦るリィン。

 だが、無理もないことである。

 あっちへそっちへ忙しなく、動き回っては徐々に徐々に自身から離れて行くシエルと、そんな彼女を追うネーヴェの姿に、焦らずにはいられない。

 何故ならば試験に当たる際彼女等とは、“自分やソールの側を絶対に離れない”――と約束事を一つ、交わしていたのだから……。

 だが、いざ試験が開始するやシエルは、何かに追われる、何かに追い詰められているかのように動き回り、元気をよそおっては助手としての手伝いをこなすため動き回っている。


(ノルトさんのことが心配なのは解るよ。解るけど、彼女は命を狙われている身なんだ。エルと初めて会ったあの森に此処はよく似ているし、気が気じゃないよ――)


 シエルへと視線を向け、元気をよそおい採取して回る彼女の様子に、不安を感じるリィン。

 試験開始から既に約二時間以上経過するが、先程からずっと彼女はあの調子である。

 きっと、何か自分に出来る事はないのかと色々気を揉んでいた彼女のことだから、自分に出来る事があり張り切っているというのもあるのだろうが……。


(啖呵を切ったことに後悔はない。二人に後押しされたこともすごく嬉しかった。でも――、二人のことが心配なものは心配なんだ。確かに試験に合格したいし、三日後の正午まで試験をこなしつつノルトさんの痕跡が何処かにないか探しもしたいさ。だけど、最優先にしないといけないのは彼女等の安全。そして、皆で無事、帰ることだ……)


 一体、どうすれば良いのだろう――。またもやぐるぐるする思考の渦に、リィンは陥っていた。


「――さま。リィン・オルクス様」

「!」


 名を呼ばれ、リィンの体が小さく跳ねる。


 しまった。


 また少し、思考の渦に呑み込まれていた――。


 声のした方角にゆっくりと顔を向け、青の瞳を見詰める。


「……オルクス様。発言すること、お許し下さい――」


 黄昏色の森と同化するかのような色彩の魔獣達を屠り終え、ソールがリィンの側へとゆっくり近付づくと片膝を地に付け、静かに語り掛けてくる。


「確かに、調査に赴くにあたり警戒を(おこた)ることをしてはなりません。しかし、その様に今から肩肘を張って行動されておりますと、試験終了時まで身が持たれません――」


 どこか、諭すような静かな彼の言の葉。

 そんな彼の言の葉から、青の瞳からリィンは視線を逸らし、でも――と言葉を零す。


「皆様のことは、どの様な事がございましても自分が必ずお守り致します。ご存分に俺をお使い下さって結構です。ですからどうか、彼女等を、貴方様ご自身のことを束縛されず、ご自由に行動なさって下さい――」


 続く彼のその言葉に、心配を掛けてしまったと強く、歯噛みするリィン。

 確かに彼が強いことを自分は知っている。分かって、いる。だが、彼に負担を掛けたくも、ましてや自分のせいで傷付いて欲しくもない。

 護衛騎士にと頼んでおいて何を――と思われるかもしれない。


 けれども――


「……ルウが、強いのは初めて会った時から分かってる。でも、ルウにもオレのせいで怪我とかして欲しくないし、負担も掛けたくない。認定試験の実地調査試験、死傷者が殆どだって記録があったし、オレ達の事情も、ある――」


 彼の気遣いに、思っていること、自分達の事情を吐露するリィン。

 試験開始前にもネーヴェ達と似たような会話をしていたが、彼とこの話についてちゃんと話した覚えはなかったから。それに、彼は常に多忙の身だ。この一週間、こうして彼と会話をしたことなど、実際の所ほんの数回――。試験に当たるに際し提出する書類の最終確認と、ノエマの身分証の受け取りといったごく僅かな時間などでしか会っていない。そんな彼に負担を強いるなど、あってはならない事なのだ。


「……オルクス様、お調べになられた試験は何時のもので?」


 静かにリィンの話を聞いていたソールがふと、そんな事を尋ねてくる。


「? 五年くらい前――かな? どうして?」

「五年前……。そうですね。確かにその頃の試験でしたら、数多くの死傷者が出ていたことに間違いはございません。ですが、今は昔とは違います――」


 彼のその言葉に「えっ――」と、リィンの口から言葉が零れ出る。

 それは一体、どういう事なのどろう――。そう思うリィンに続けて、ソールはその話についての話を語ってくれた。


「当時の余りにも多い死傷者に対して見直しが入り、規則が変更されたのです。一つが、実地調査試験よりも先に筆記試験を実施すること。二つ目が、随行する護衛の見直し――。以前までの試験では護衛騎士だけではなく、教会騎士の者達でも随行が許されておりました。ですが当時の試験、受験者も騎士も遺跡調査に赴くだけの能力はなく、数多くの方々がその事によりお亡くなりになられました。そこで受験者に随行し彼等を守る騎士を、一級から五級存在する護衛騎士の中でも最低三級以上の護衛騎士しか随行出来ないよう、規則の変更がなされたのです」


(そんな事が……、ってアレ? 確か、ダードって人は四級護衛騎士じゃ?)


 ソールが語った話にてダードのことを思い出し、こてんと首を傾げ思案するリィン。

 そんなリィンの様子にまるで、ソールが心を読んだかのように話を続ける。


「そして今回の試験ですが、受験者を募るという名目もあり更に四級護衛騎士の方々も随行可能となっております。ですので、ダード様が今回の試験にご参加なされていてもおかしくはございません。三級以上の護衛騎士ともなると《伯爵(アールカウント)》以上の位を賜われている遺跡研究者様方の専属護衛に大体の方々がなられており、容易に試験の参加が出来かねますゆえ――」


 なるほど。


 地位が高い遺跡研究者には比例して、高い能力を持つ護衛騎士が付いている――と。

 まあ、当たり前といえば当たり前――か。地位が高いということは遺跡研究者としての知識が深いこと。それこそ危険な、魔獣などが蔓延る今では誰も足を踏み入れない地へと彼等は赴く。それ相応の能力を持つ者が側に付くのは当たり前のことだろう。


「ありがと、ルウ――。オレのこと心配して、色々教えてくれて。でも、体は大丈夫?」


 彼に感謝の意を伝え、制約に抵触していないか眉尻を下げ、彼の身を心配するリィン。

 そんなリィンの言葉に、少しの間を開けソールが口を開く。


「……はい。今回の試験課題に直接、関係のある助言ではございませんので……」

「良かった――。……ところで、ルウ。“ルウ”って呼ばれるの、嫌だったり、する?」


 少しの間を開け、どこか戸惑ったように口を開くソールの様子に、彼が愛称にて呼ばれたことを気にしているのではと思ったリィンは眉尻を下げたまま、率直にその是非を訊ねた。


(咄嗟にとはいえ勝手に愛称で呼んだ挙げ句、気付いたらそのまま彼のこと“ルウ”――って呼んでたからな、オレ――)


 ちゃんとした自己紹介をする機会(タイミング)を逃していた為かずっと、彼のことをおニイさんと呼んでいたリィン。しかし、先刻の一件以来からリィンは、彼のことをルウと呼びつづけている。もともと、気に入った人物のことを直ぐ愛称にて呼ぶ癖があるリィン。だが、彼は自身の名を愛称で呼ばれること、いや、名を呼ばれることにどうも、慣れていないように見受けられて……。


(ネーヴェはネーヴェで珍しく、ベル様がルウのこと“ソール”って呼んでたからそのまま彼のこと名前で呼んでたし……。それにあの時だってルウは……)


 シエルの側で共に、少し離れた場所にて採取に励むネーヴェをチラと見遣り、続けて彼を再び見詰めたリィンは、先程のことを思い出し胸中にて呟く。

 実はリィンのように愛称で呼んではいないものの自己紹介をせず、耳にした彼の名を勝手に呼んでしまっていたネーヴェ。だからなのか、リィンが愛称で彼のことを呼んだ姿を見た時、ネーヴェは酷く狼狽――。その後、直ちにソールへと謝罪の言の葉を紡いだ彼女は、改めて全員で自己紹介をしないかと提案。全員で自己紹介するにやっと至った訳なのだが、その時ソールは今のように表情を変えることはないもののどこか、その様子に、反応に当惑しているようにリィンには感じ取れた。


「…………いえ、そういう訳では――」


 長い沈黙の末、ソールが静かに言の葉を紡ぐ。

 愛称で呼ばれるのを嫌がっている訳ではなさそうなのだがやはり、どこか当惑しているように感じ取れる。


 だから――


「もし、嫌だったらいつでも言ってね。ルウが呼ばれたい呼び方、するから――」


 出来ればルウ――って呼びたいけどね――とはにかみつつ、リィンは彼にそう思いを伝え課題の続きに着手した。










◆◇◆◇◆◇◆◇◆











「あッ! ネーヴェもエルも、あんまり離れちゃダメだよッ――!」


 背後から白の少年――リィンの声が聞こえてくる。


 分かって、いる――。


 私のことを心より心配して発してくれている言葉だということくらい、分かっているのだ。


 でも……


「大丈夫です、リィン! 遠くへは行きません! あッ! あそこにも、ネーヴェさんが描いてくださった絵と同じ植物がッ――!!」

「って、ちょッ! エルッ!? 近くに居なきゃダメだってッ――!!」


 彼のその言葉を無視して、彼の側から駆けて離れる。

 私だって役に立てるのだと、そんな風に心配しなくても大丈夫なのだと、彼に分かってもらう為に。


 それに――


ロフスト遺跡(ここ)は、兄さんが失踪する少し前に来た手紙に書かれていた例の場所――。何か、兄さんの手掛かりになりそうなモノが残っているかもしれない――)


 そんな、少しの焦燥――


 彼等が私と出会ってから常に、自分と兄のことを心より心配してくれているのは知っている。


 彼等に迷惑を、負担を、かけていることだって……。

 

 教会での一件以来、特にリィンは私の周囲の警戒を色濃くしている。あの日、私の命を狙っていたあの得体の知れないモノがまた、私のことを狙ったことによって――。


 怖かった。


 リィン(かれ)からその話を聞いた時、自分のせいでリィンが、ネーヴェさんが、そしてあの場にいた人達が死んでしまっていたかも知れない現実を思い浮かべ、酷く恐怖した。

 初めは彼も、自分にその話をしようか迷ったそうだ。しかし、私が今後一人で行動しないように、いつまた危険が襲って来るともしれないから意識するようにと、そのことを教えてくれた。

 彼等だって私と共にいて危険な身のはずなのに、ただただ私のことを心配してくれる。親身に、なってくれる。二人に感謝してもしたりない。


 でも。


 私だって二人のことが心配なのだ。

 故郷を《霧》に呑まれ、安寧の地を求めセーレム(この地)へとやって来ただろう二人を、自分の問題に巻き込んだ。

 自分よりも幼い二人を――だ。

 もしかすると、違うかたちで彼は遺跡研究者認定試験を受けていたかもしれない。

 あの日、あの様なことさえなければ今頃、二人は落ち着いた生活を送っていたかもしれない。

 だから、どんな事でも良い――。

 彼等の、リィンの役に、少しでも立ちたいのだ。


「――さん。シエルさん――」

「!」


 少女の、ネーヴェの声が直ぐ側にて聞こえる。

 植物の根の部分を掘り出すその手を止め、声のした方角へ顔を向け彼女を見遣る。

 優しい眼差しと視線がぶつかる。

 それだけで、彼女に今の自分が抱いている想いを見透かされている事をさとる。


「……ネーヴェ、さん」


 言葉が零れる。

 今、自分は笑顔で彼女のことを見れているだろうか。


「シエルさん。リィンが驚くくらいいっぱい試験の課題、こなしちゃいましょう――!」

「!」


 その言葉に虚を衝かれ、呆然とする。


「手始めに、指定植物の採取からです!」


 よく似た種類の植物もあるので、気を付けて下さいね――とそう言葉を付け足し、眼前に色とりどりと咲き乱れる野花の前にしゃがみ込んでは植物を選別していくネーヴェ。


「……一人で頑張り過ぎるの良くないですよ、シエルさん。今のリィンみたくなっちゃいます」

「え?」


 優しく花に触れ、傷めないよう丁寧に採取するネーヴェが、酷く優しい声音で語り掛けてくる。

 そんな彼女の言葉に声を零し、首を傾げる。


「リィンてば今、ずいぶんと空回ってるんですよ? 自分のせいで、自分が招いた行動のせいで危険な場所に連れて来たから私達を守らないと――って。私達に迷惑掛けちゃダメだ――って」

「ッ! それは元はと言えば私のせいでッ――!!」


 次に彼女が口にした言葉に、反射的に全力で声を上げる。

 自分が巻き込んだのに、自分のせいでこの心優しい双子達を危険に晒しているのにと、悲痛な叫びにてシエルは声を上げる。

 

「違いますよ、シエルさん。あの日も言いましたよね? 私達がしたいからしていると、私達が貴女といる事を勝手に決めたのだと――」

「っ!」


 優しく語りつつも自分を窘めるその言葉に、視線に、体が硬直する。


「だからあの日、貴女に“自分のせいで”だなんて思わないで下さいと私は言いました。誰と共にいるかを決めるのは、その者の自由だからと。共にいて起こる出来事は迷惑ではなく、私達“全員”で考え、当たらなければならない問題なのだ――と……」


 憶えて、いる――。


 初めて彼等に出会ったあの日の《霧刻(むこく)》、やはり寝付けなかった私に、穏やかな眼差しにて優しく語り掛けてくれた彼女の言葉。


『誰かに迷惑を掛けることはやはり、気が引けてしまいますよね――。問題の大きさが大きければ大きい程、なおさら……。ですが、一人で出来る事って、限りがあると私は思うんです。心のゆとりだってなくなるし、良い案だって浮かばなくなる……。そんな時、誰かが側にいればきっと、良い方向へ進むことが出来ると私は思うんです。違う視点から問題を見ることだって出来るし、なにより、安心出来ます。ああ、自分は一人じゃないんだっ――て……』


 ちゃんと憶えている。

 どうすれば良いのか分からず、ぐるぐるする思考の渦の中にいた私に掛けてくれた、あの優しい言葉を――。

 だから彼女が言ってくれたように自分も、今、リィンの役に立ちたい――。


「……ネーヴェさん。私――」

「分かっています、シエルさん。シエルさんも私達と共にいてくださることを選んでくださったから、リィンが抱えている問題のお手伝いをしたいと思ってくださったんですよね? でも、リィンと同じで今のシエルさんはまた、自分のせいでリィンが啖呵を切ったとどこかで思ってます。確かに、私もあの人に思うところがあります。けれど、啖呵を切ったのはリィンの向こう見ずからきた、謂わば身から出た錆――。まあ、リィンらしいと言えばリィンらしいですけどね。ですからシエルさんのせいでは決してありません」


 あの時と変わらぬ穏やかな眼差しを自分へと向け、可愛らしく微笑む彼女に、熱が込み上がる感覚がする。表情が、強張る――。


「……それに、お兄様のこともあるんですよね? ずっと何も手掛かりが得られず、手紙に書かれていた立入禁止区域にいま、訪れることが出来ている……。焦られるのも当然です」


 土で汚れた手を綺麗にしてネーヴェが、そっと頬に触れてくる。


 温かい――。


「リィンも、お兄様のことを決して忘れた訳ではございません。もちろん、私も……。だから一人で思い詰めず、皆で一歩ずつ前へと進みましょうシエルさん。ね――?」


 大丈夫ですから――。そう、より一層優しい微笑みと言葉を紡ぎ、こちらを見詰める目の前の彼女にとうとう、堪えていた熱が溢れ出る。


 今度こそ、もう――。


 自分のせいでと思い詰めたりなど、しない。


 そんなことを考えている暇があるのなら彼等と対話し、どうすれば最善か共に考えてもらい、少しでも良い方向へ進めるよう協力してもらおう――。

 そうすれば思考の渦に呑み込まれても、彼等に心配を掛けることもきっと少なくなる筈だ。

 それに元々考え込むのは自分の性に合っていない。

 今は頼もしい味方だっているのだ。

 一人空回った行動をせず、彼等に想いの丈をぶつけ、時に受け止め、少しでも前へ歩んでいこう。


 だから……




 バチンッ!!




「ッ?!」


 ネーヴェがシエルの頬から手を離した直後、勢い良く両手で自身の頬を打つシエル。そんなシエルの行動に、ネーヴェの体がビクリと揺れる。


「……ありがとう、ごさいます、ネーヴェ。――さあッ! たくさん採取して、リィンをあっと驚かせましょうッ――!!」


 碧の瞳をぱちくりとさせた後。気持ちのリセットと活を入れ朗らかに笑むシエルを見詰め、花がほころぶよう微笑むネーヴェ。

 そして、くすくすと少女達は笑い合う。


 大丈夫。


 きっと、彼等となら兄さんを見つけ出す手掛かりが見つかる。


 兄さん自身だって、きっと……――




「ネーヴェ! エルッ――!」




 リィンの声がシエル達の耳に入る。

 駆け寄る少年の姿をその金色の瞳に映し、言葉を放つ。


「――リィン! 見て下さい!! これだけの種類の植物を、採取しましたよ――!!」


 さあ、自分に出来ることを一歩ずつ、前へ進めていこう――。


 輝かんばかりの笑顔をリィンへと向け、シエルはそう、彼に報告した。





 お読みいただきありがとうございました! 

 

 ……と、ここでたいへん申し訳ないのですが一旦、『初稿版・霧カル』中断となります。理由は色々ございますがまず単純に、私の能力不足です。はい……(汗)書かないといけなかった箇所が書けてなかったり、書かなくてもいい箇所があったりと色々な理由(汗)

 あと、『初稿版・霧カル』一旦中断しますが、後日、初稿版を元にした『霧カル』リメイク版? 新しく投稿する予定となっていますのでもしよろしければ、リメイク版『霧カル』読んでやってくださいです(*´ω`*)

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